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四六判288頁

定価:本体2600円+税

発売日 2019年6月15日

ISBN 978-4-7885-1638-0





飯長喜一郎・園田雅代 編著

共著者(五十音順):伊藤研一・大澤美枝子・岡村達也・小野京子・小林孝雄・坂中正義・中田行重・堀尾直美・三國牧子・無藤清子・村山正治・本山智敬・吉原啓

私とパーソンセンタード・アプローチ
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パーソンセンタード・アプローチ(PCA)は、対人支援の基本姿勢として今なお在り続ける。編者を含む計15名の著者が、PCAによる心理臨床実践の自らの歩みを振り返りつつ、その苦労や喜び、葛藤、印象深い想い出、現在の心境、展望などを語る。

私とパーソンセンタード・アプローチ 目次

私とパーソンセンタード・アプローチ まえがき


目次

私とパーソンセンタード・アプローチ 目次



まえがき(飯長喜一郎)

飯長喜一郎
クライエント中心療法がわかるまでの私的軌跡

小林孝雄
共感、感情移入、自己投入

坂中正義
かかわる・つなぐ・ゆだねるPCAのなす「対話」

伊藤研一
来談者中心療法から多面的アプローチ、そしてフォーカシングへ

堀尾直美
「パーソン中心」を求めて

大澤美枝子
傾聴(リスニング)について

吉原 啓
私なりのパーソンセンタード・カウンセリングへの道

三國牧子
パーソンセンタード・カウンセリングの可能性

小野京子
パーソンセンタード表現アートセラピーと私

園田雅代
日舞、パーソンセンタード・アプローチ、アサーションとの出会い

無藤清子
セラピストのスタンスの探究からナラティヴ・プラクティスへ

岡村達也
共感的理解によるクライアント中心療法の定式化をめぐって

本山智敬
パーソンセンタード・アプローチとオープンダイアローグ

中田行重
パーソンセンタード・セラピストという自覚

村山正治
私のパーソンセンタード・アプローチの未来像を求めて

あとがき(園田雅代)

執筆者紹介

   ■カバー装画=安田みつえ


私とパーソンセンタード・アプローチ まえがき(一部)


 まえがき

 パーソンセンタード・アプローチ(Person-Centered Approach:以下PCA)は、心理療法やカウンセリングの主要な立場のひとつとして、また、対人援助活動や社会的支援活動の基本的な姿勢として、広く知られ実践されています。

 本書『私とパーソンセンタード・アプローチ』は、PCAおよびその近接領域で実践している一五人の執筆者が、一人ひとりPCAとどのように取り組んできたかを集成したものです。彼ら/彼女らがいかにしてPCAに触れ、その世界に進み、どのように関心をもち試行錯誤や葛藤を経て、現在どのような心境にありまたどのような到達点に至ったか。そういったことを、各執筆者の文体と口調で表現したものです。

 後に私の分担箇所で述べるように、私はPCAの現状と未来に危機感を覚えていました。六〇歳の時に、PCAを再興するひとつの方法として、日本心理臨床学会の年次大会でPCAに関する「自主シンポジウム」を開こうと思うに至りました。幸いに多くの方々のご賛同とご協力を得て、回を重ねてきました。最初は、この時代にPCA関連の企画に対していったいどれほどの人が関心をもってくれるのだろうかと、仲間と心配していました。しかし、いざふたを開けてみると三〇人強の方々が参加してくださいました。その後、年によって企画の趣旨が多少変わり、それに伴って三〇人~一〇〇人という参加者数の変動がありましたが、毎年のごとく仲間やゲストを招いて開催することができ、発題者・指定討論者それぞれに、個人としてPCAについて思うところを語っていただきました。  本書の企画はその延長上にあります。つまり、「私とPCA」について、個人的な思いや軌跡、それぞれにおける心理臨床的発展といった観点から、自由に書いていただこうと思ったわけです。PCAの心髄はその広汎性もさることながら、一方で個人性・個別性にあると思うからです。

 PCAのカヴァーする範囲は広大で、その全体を視野に入れるのは至難の業です。本書では心理療法およびその近縁の活動に限っています。

 執筆者の方々はそれぞれの個人的な思いと軌跡を書いておられます。個人療法、エンカウンター・グループ(以下EG)、フォーカシング、オープンダイアローグ、ナラティヴ・プラクティスなどなど。視座もさまざまです。過去、現在、未来。時間的にも広がっています。これらも執筆者の関心の多様性の表れであろうかと思います。

 PCAは、理念は明確であり大方からは支持されていても、心理臨床領域で実践するとなるとハードルは予想に反して高いものです。認知行動療法はもちろんのこと、精神力動的心理療法にもそれなりのマニュアル(手順)は存在します。むろんマニュアル通りに進めれば心理療法が可能になるわけではなく、クライエント個々人、そしてそのプロセスに応じて幾多の工夫を重ねなければならないでしょう。しかし、曲がりなりにもマニュアルは存在します。

 一方、PCAには、フォーカシングとプリセラピー(Pre-Therapy)を除いて、まずマニュアルは存在しません。大学院や臨床現場で「どうしたら良いのですか?」と問われることが多いのもそのためでしょう。いくら「PCAはハウツーではない、姿勢だ、ありようだ!」と言っても、それだけで訓練生や初心者を納得させることはできません。また「EGが訓練には必須だ」と言っても、ではどれくらいどんなEGを経験すれば何がどう成長するのか、本当に力量のある心理臨床家になれるのか。この問いに答えるのは困難です。PCAでは一人ひとりが、理論的学習に加えて、個人の人生における経験学習や臨床的実践を通じて学んでいくしかないという面をもっています。本書に目を通していただくことによって、PCAに触れた人びとが、人生の中でそれをいかに身につけていったか。あるいはそこから出立して次に進んでいったかということが読み取れることでしょう。

 心理臨床の国家資格を検討しはじめて五〇年の歳月を経て、公認心理師資格が発足しました。もしかすると、日本の心理臨床は従来以上に効率が要求されるかもしれません。極言すれば「人間機械論」的考え方が心理臨床の世界にも入り込むかもしれません。そういう時代にあって、人間を中心に据えたPCAに関心がありながらもなかなか理解が深まらず、自分の立場としての実践に苦労している読者の皆さんを勇気づけることに本書が役立てれば、編者としてこれに勝る喜びはありません。そしてPCAがますます力強く発展し、この国に息づいている人びとの力になるよう願っています。

 最後になりましたが、お忙しいところ喜んで参加してくださった執筆者の皆様に心よりお礼を申し上げます。また、新曜社の森光佑有さんは、PCAに並々ならぬ関心を寄せて企画の段階から一緒に考えてくださり、統一の取れていない原稿群を各著者との共同作業で根気強く校正してくださいました。森光さんを抜きにして本書は到底できあがりませんでした。ありがとうございました。さらには、装画を提供してくださった安田みつえさんにお礼を申し上げて、まえがきとさせていただきます。



  二〇一九年 初夏

飯長喜一郎