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四六判並製296頁

定価:本体2600円+税

発売日 2019年6月5日

ISBN 978-4-7885-1631-1





木村 優・岸野麻衣 編

ワードマップ
授業研究
──実践を変え、理論を革新する



授業の見方、記録の取り方、授業研究の目的、研究会の組織・運営、授業研究会の内容――教師の協働の学びとして営まれている授業研究の歴史的背景から考え方、実施に伴う手法までを、実際のプロセスとサイクルに即して懇切に解説。小中高の事例付き。


目次

まえがき(一部)




ワードマップ 授業研究 目次

まえがき

授業研究─ 目次 まえがき

はじめに 目に見えないたいせつなこと

Ⅰ 授業研究とは何か?
1-1 授業研究の誕生と成長 実践と理論の間
1-2 教師を育てる 専門職として成長するために
1-3 学校を育てる 専門職の学び合うコミュニティとして発展するために
1-4 授業研究のアクチュアリティ 「プロセス」と「サイクル」
1-5 モード・シフト 省察と探究と記録の文化へ
1-6 分野を越える 協働することで高め、深める
1-7 国境を越える レッスンスタディとしての広がり
【コラム】授業研究と教師教育 「行為の中の省察」をめぐって

Ⅱ 授業を見て記録する
2-1 授業の見方 一つの型はない
2-2 視点の自覚 スコープ・フォーカス・レンズ・スタンス
2-3 フィールドノーツ 事実を記すため
2-4 直感 つながりに目を向ける
2-5 見えにくい世界 時間・空間・声
2-6 道 具 見逃さない・聴き逃さない
2-7 ワ ザ 捉えたことを残す
2-8 解 釈 子どもの学びを読み取る
2-9 参観記録の価値 参観者と授業者の協働探究
【コラム】授業の実践と参観を繰り返して生徒の思考を深める授業をつくる

Ⅲ 授業研究会を組織する
3-1 発想と調整 コーディネーターとしての想いと動き
3-2 企 画 「まな板の鯉」からの卒業
3-3 組織マネジメント 学び合うコミュニティを支える
3-4 ねらい 学校の研究・教科の研究・子ども理解
3-5 学びと探究の必然性 授業者は誰で、学校はいかなる発展プロセスにいるのか
3-6 対話と議論 適したカタチで、見取ったことを語り合い、目標に接近する
3-7 省察と再構成 授業研究会の自律進化へ
3-8 書く・書く・書く 私をつなぐ、世代をつなぐ、文化をつなぐ財産へ
3-9 実践記録の価値 新たな実践の第一歩 

Ⅳ 授業研究の実際

【小学校編】「鯖江のめがね産業は、何に力を入れていくと発展していくか」
4-1ふるさとの産業について子どもたちが価値判断する授業のデザイン
鯖江のめがね産業は何に力を入れていくと発展していくか 
4-2 互いの考えを交わしながら生活経験を問い、考えていく子どもたちの姿
子ども同士の相互作用のもつ意味
4-3 個の考えをもち、他者の考えを知る子どもたち 価値の葛藤は?
4-4 授業における子どもの経験世界の彩りとそれを拓く教師と仲間の存在
サバイバルからの脱却を目指して
4-5 対話から新たな視点を獲得する授業実践 学びのストーリーを生み出す協働の学び
  4-6 多様な記録と現象解釈を介した授業研究会の意義
自身の授業の見取りに関する特徴の認識と洗練
4-7 さまざまな視点で授業を省察し、今後の実践の可能性を広げる研究会
【コラム】学級王国から「チーム学校」への転換を図る 「教師の多様性」を生かして

【中学校編】「感じたことを英語で表現しよう─ 写真家・星野道夫の世界より」
4-8 「心の声」を表現する授業実践
感じたことを英語で表現しよう:写真家・星野道夫の世界より
4-9 お互いへの尊敬から紡ぎ出される学びの連続性 ある男子生徒の学びのプロセス
4-10 「私」と「あなた」にとって意味のある言葉を獲得していく生徒
自分の「感じ」を表現する
4-11 教師と生徒が共につくる教育の憲法的価値
授業における自由権としての学習権保障と幸福追求に向けて
4-12 学びの「偶然性」を「必然性」へと転換する教師のダイナミックな実践
4-13 参観したことと授業者の想いが重なり合う授業研究会
4-14「心にひびく」参観記録と「涙あふれる」授業研究会 心が豊かになる「宝の場」
【コラム】誰もが学び育つ中学校の授業研究 「生徒の学び」を探究するコミュニティ

【高校編】「短歌をつくろう─ 明治と平成のティーンエイジャー」
4-15 短歌をつくろう 自己認識を育む 
4-16 やりとりの中で、自分を見つめことばの感覚を高める生徒の姿
ことばを吟味する 
4-17 若い世代の生きることを支えることばの授業
渡邊久暢先生の授業と役割のダイナミズムを跡づける
4-18 「自己」と向き合うことばの協働学習の中で広がり育つ生徒の情動
情動と学びの関係
4-19 多様な参加者に共有できる問題の模索と成立 評価をひらく
4-20 一時間を対象とする授業研究から単元全体を対象とする研究へ
 【コラム】授業研究という大海原へ 高校における取り組み方 

おわりに 集合的な知性の探究
あとがき
解 説 秋田喜代美
付録資料
 授業実践資料〔小学校編〕
 授業実践資料〔中学校編〕
 授業実践資料〔高校編〕
文献リスト 
索引 

装幀=加藤光太郎


まえがき(一部)

 本書は、学校における教師たちの協働の学びとして連綿と営まれている 授業研究について、その背景となる歴史的な展開や目的、実施に伴う手法や考え方を 学校における授業研究の実際のプロセスとサイクル に即して解説したものである。本書が主眼とするのは、授業研究の実際のプロセスの中で私たちが吟味し洗練する必要のある数々のポイントを、子どもたちの学びと育ちを支える 教師の成長と学校の発展に必要な重層的な省察のサイクル に沿って丁寧に象かたどり、読者とともに授業研究の世界を探究することである。したがって本書は、特定の授業研究の手法を紹介するものではないし、授業研究の手法や考え方を百花繚乱にただ並べて示すものでもない。ましてや、授業を対象とした科学的な分析手法を細々と解説するものでもない。

 日本の明治時代初期に産声をあげた授業研究は、授業づくりと授業改善に向けた教師の学びを、しかも学校内での教師たちの協働の学びを支え促す学校文化・教師文化へと成長し、近年では「レッスンスタディ」の名でグローバルな広がりを見せている。しかし、意外なことかもしれないが、日常から授業研究に取り組んでいる教師にとって、さらに、学校の授業研究を支援する教育委員会の指導主事や大学等の教育研究者にとっても、 授業研究は決して自明な実践ではない 。私たちはときに迷いながら、ときに見様見真似で、日々の授業研究に臨んでいる。したがって本書は、以下の問いを抱えながら学校の授業研究にかかわっている世界中のすべての同僚│ 現職の教師、教職を志す学生、指導主事、教育研究者を読者に想定している。

 ・なぜ私たちは授業研究を行うのか?  ・どのように授業を見ればいいのか?  ・授業の記録をどのように採ればいいのか?  ・授業研究会をどのように企画し、運営するのか?  ・授業研究会でいったい何を語ればいいのか?  ・授業研究が一通り終わった後に、私たちは何をすればいいのか?

 

 あなたがこれらの「問い」の一つでも心に抱いているならば、本書でこれから始まる私たちとの授業研究の協働探究をきっと楽しんでくれるにちがいない。

授業研究の世界を探究し、その謎を紐解き、実践の哲学やワザを磨いていくためには、 偉大な先達たちがこれまで切り拓いてくれた地平を省みる ことが大切である。先達たちが授業研究の地平の上に残してくれた数多の見識は、時空を超えて私たちの探究の道のりを照らしてくれる。しかし、その見識がきら星のごとく散りばめられているからこそ、それを 授業研究の実際のプロセスとサクルに即して確認できる「地図」が必要 になる。授業研究は単純ではなく複雑な実践なのだ。もしもあなたが地図を持たずに、誰の助けもなしに授業研究の世界に足を踏み入れてしまうと、その深遠で複雑な世界に迷い、途方に暮れ、実践する価値を見出せず、次第にやる気を失ってしまうかもしれない。授業研究の「ワードマップ」が今まさに求められているのである。

本書は四部構成となっている。第Ⅰ部では、授業研究の歴史、目的、プロセスとサイクルを確認するとともに、 教師の成長と学校の発展に即した授業研究の革新の方向性 について探究する。第Ⅱ部では、授業を参観して記録を採るという一連の行為における必須の考え方、方法、道具やワザ、解釈について探究する。ここで探究する数々の論点が、 あなたが授業を見る際の視点を整理し、見直し、鍛える助けになる ことだろう。第Ⅲ部では、授業研究会を組織し運営するために必要な考え方と、そこで 最も重要な「省察」とそれを支える「書く」という行為 について探究する。明確な企図と組織の支えがなければ、そして実践の省察が深まらなければ、授業研究はたちまち魅力を失ったシャドウ・ワークと化し、一向に自律進化しない無機質なルーティン・ワークと化してしまう。第Ⅳ部では、小中高校の実際の教室から、 私たちが共に授業を見て、記録し、省察することで導き出される発見や知見 の数々を紹介する。ここではすべての学校種と教科の授業を扱えないし、発見や知見も限られているのだが、授業研究に参画するすべての人々がいかに授業という知的で社会的で情動的な営みへの思慮を深め、それぞれの実践の省察を未来へとつなげていくのかを、読者が体感しながら学べるよう構成した。つまり、第Ⅳ部は本書の「地図の使い方」を示している。なお、第Ⅳ部で登場する児童生徒の名前は、すべて仮名で表記している。

本書の各部とコラムでは、編者である私たちに授業と授業研究の奥深さと魅力を教えてくださった学校の先生方、学校の授業研究の支援にあたる指導主事や教育研究者の方々に、各自の経験と特性に応じて筆をとっていただいた。さらに、世界授業研究学会の副会長であり授業研究の第一人者である東京大学大学院教育学研究科の秋田喜代美教授に、本書全体を通しての解説をいただいた。著者のほとんどは「教育におけるアクション・リサーチのための実践コミュニティ」の研究会メンバーであり、共に授業研究の世界を探究し続けている仲間である。本書の第Ⅳ部各編における授業と授業研究会の省察も、本実践コミュニティで開いた研究会が母体になっている。

 分野や専門領域を超えた協働が新たな気づきと発見と創造性を呼び起こす。これは学校の中でも同じであり、そこで生じる驚きや喜びや楽しさが授業研究の自律進化へと結びつく。授業研究の世界を探究する地平へと、共に踏み出そう。

2018年2月8日 ボストンにて 編者・著者を代表して  木村 優