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A5判上製320頁

定価:本体4600円+税

発売日 2019年4月8日

ISBN 978-4-7885-1629-8





武田俊輔 著

コモンズとしての都市祭礼
──長浜曳山祭の都市社会学



 縮小する地方都市の伝統は現代においていかに継承されるのか。近世以来の祭礼を通じて負担と名誉を分ちあう「町内」社会の変容とダイナミズム、観光や文化財行政を通じて編成される都市のネットワークを、コモンズ論の視点から分析する気鋭の挑戦。


目次

あとがき(一部抜粋)

ためし読み




コモンズとしての都市祭礼 目次

第Ⅰ部 課題の設定と分析視角

第1章 本書の目的と研究の視角
   第1節 課題の設定
   第2節 研究対象と分析の視角
   第3節 本書の構成
   
第2章 都市社会学における「町内」社会研究の不在とその可能性
   第1節 戦後日本の都市社会学における「町内」
   第2節 都市社会学における「家」と「町内」社会
   第3節 都市民俗学と都市人類学における都市研究
   
第3章 本書の分析視角コモンズとしての都市祭礼
   第1節 地域資源の利用と管理を通じた生活共同
   第2節 コモンズ論からの都市祭礼へのアプローチ
   第3節 分析視角都市祭礼の構成資源の調達と用益の創出・配分をめぐる社会関係
   
第Ⅱ部 都市祭礼を構成する諸資源・用益と祭礼の伝承メカニズム

第4章 山組における家と世代祭礼をめぐるコンフリクトとダイナミズム
   第1節 山組内での祭礼の管理におけるコンフリクトの意味
   第2節 祭礼における若衆たちの負担と祭礼の準備A町を事例として
   第3節 祭礼における家・世代間の負担と名誉の配分
   第4節 積極的に楽しまれ創出されるコンフリクト
   第5節 マニュアルなき祭礼の管理と伝統のダイナミズム

第5章 山組間における対抗関係の管理と興趣の生産・配分裸参りを手がかりとして
   第1節 複数の町内間における対抗関係の管理
   第2節 裸参りの持つ意味とその手順
   第3節 裸参りにおけるルールと喧嘩のプロセス
   第4節 見物人の存在と対抗関係への作用
   第5節 対抗関係の管理における暗黙の了解と協力

第6章 シャギリをめぐる山組間の協力と山組組織の再編
   第1節 シャギリの調達を通した山組組織の再編
   第2節 雇いシャギリの確保の困難と囃子保存会結成への動き
   第3節 山組内でのシャギリ方の育成と山組の継承システムへの影響
   第4節 シャギリを通じた祭礼の開放と人的資源の調達の変容

第7章 若衆たちの資金調達と社会的ネットワークの活用
   第1節 祭礼における町内・町内間を越えた社会的ネットワークの活用
   第2節 祭礼をめぐる資金の調達と若衆のネットワーク
   第3節 協賛金獲得へのとりくみと用いられるネットワーク
   第4節 協賛金集めの不合理性が持つ意味
   第5節 社会関係資本の表象としての資金と相互給付関係、社会的ネットワーク

第8章 曳山をめぐる共同性と公共性共有資産としての曳山の管理とその変容
   第1節 曳山の管理と公共的な用益の提供
   第2節 1980年代以前の曳山の管理をめぐる社会関係
   第3節 中心市街地の衰退と曳山博物館構想の曲折
   第4節 文化財という文脈の活用と曳山の管理をめぐる矛盾
   第5節 公(共)的な意味づけを活用した共同的な管理

第Ⅲ部 コモンズとしての都市祭礼/地域社会/公共性

第9章 観光・市民の祭り・文化財公共的用益の活用と祭礼の意味づけの再編成
   第1節 祭礼の公共的用益への提供とその再編成
   第2節 戦前期大衆観光の流行と祭典補助費1924年~1937年
   第3節 観光資源という文脈の活用と市財政への依存1950年~1965年
   第4節 協賛会の設立と財団法人化の挫折1966年~1978年
   第5節 文化財指定と複数の公共的文脈の併存1979年以後
   第6節 公共的な用益を通じた諸資源の獲得と地域社会における関係性の広がり

第10章 本書における知見の整理と結論
   第1節 都市祭礼を通してみる社会関係とネットワークの変容
   第2節 コモンズとしての都市祭礼
   第3節 都市社会学に対する本書の意義
   第4節 本書の課題と展望


近現代長浜曳山祭年表
あとがき
参考文献
索引
  
  
装幀・加藤賢一


あとがき(一部抜粋)

  本書は、2018年3月に東京大学大学院人文社会系研究科より社会学の学位を授与された博士論文「長浜曳山祭の都市社会学―伝統消費型都市の生活共同と社会的ネットワーク」を大幅に改稿したものである。各章のもとになった論文は次の通りであるが、複数の論文の内容をまとめた章もある。
  
第1章〜第3章 書き下ろし。

第4章 「都市祭礼におけるコンフリクトと高揚―長浜曳山祭における山組組織を事例として」(『生活学論叢』28号、日本生活学会、17~30頁、2015年)、「再解釈される『伝統』と都市祭礼のダイナミクス―長浜曳山祭における若衆―中老間のコンフリクトを手がかりとして」(『東海社会学会年報』9号、東海社会学会、81~92頁、2017年)、「若衆―中老間のコンフリクトと祭礼のダイナミズム」市川秀之・武田俊輔編『長浜曳山祭の過去と現在―祭礼と芸能継承のダイナミズム』(おうみ学術出版会、231〜268頁、2017年)の3つの論文を合わせて改稿。

第5章 「都市祭礼における対抗関係と見物人の作用―長浜曳山祭における裸参り行事を手がかりとして」(『社会学評論』67巻2号、265〜282頁、2017年)を改稿。

第6章 「都市祭礼における周縁的な役割の組織化と祭礼集団の再編―長浜曳山祭におけるシャギリ(囃子)の位置づけとその変容を手がかりとして」(『年報社会学論集』29号、関東社会学会、80~91頁、2016年)を改稿。

第7章 「都市祭礼における社会関係資本の活用と顕示―長浜曳山祭における若衆たちの資金調達プロセスを手がかりとして」(『フォーラム現代社会学』15号、関西社会学会、18~31頁、2016年)を改稿。

第8章 「コモンズとしての山・鉾・屋台をめぐる社会関係―長浜曳山祭における曳山の管理とその変容を手がかりとして」『民俗芸能研究』63号、民俗芸能学会、75〜100頁、2017年)を改稿。

第9章 「長浜曳山祭における社会的文脈の流用―観光/市民の祭り/文化財」(長浜曳山文化協会・滋賀県立大学人間文化学部地域文化学科編『長浜曳山子ども歌舞伎および長浜曳山囃子民俗調査報告書―長浜曳山祭の芸能』長浜曳山文化協会、2012年)およびそれをもとにした「都市祭礼の継承戦略に関する歴史社会学的研究―長浜曳山祭における社会的文脈の活用と意味づけの再編成」(野上元・小林多寿子編『歴史と向きあう社会学―資料・表象・経験』ミネルヴァ書房、2015年)を改稿。

第10章 書き下ろし。

    本書のきっかけは、2011年1月より祭礼の保存会に当たる財団法人長浜曳山文化協会から、私の勤務先の滋賀県立大学に対して「長浜曳山子ども歌舞伎および長浜曳山囃子民俗調査記録作成事業」が委託され、同僚の民俗学者である市川秀之先生と私が担当者となって調査を実施したことであった。成果は前掲の『長浜曳山子ども歌舞伎および長浜曳山囃子民俗調査報告書―長浜曳山祭の芸能』として刊行されている。調査を始めるきっかけを作っていただいた財団法人長浜曳山文化協会(特に西川丈雄氏・中島誠一氏・橋本章氏・小池充氏・大塚映明氏)、そして市川先生や調査員をお引き受けいただいた先生方にはたいへんにお世話になった。特に調査員のうち東資子氏・上田喜江氏のご論考は、第6章の執筆において重要な役割を果たしている。さらに調査補助員として熱心に参与観察調査やインタビュー、報告書の編集作業を行なった滋賀県立大学の院生・学生の皆さんに心から感謝申し上げたい。

 委託された事業は2012年3月までであったが、この祭礼の魅力にとりつかれた私はA町の筆頭・副筆頭にお願いして自ら若衆とならせていただき、若衆の会議や日常のシャギリの練習も含めて祭礼に関するすべての行事に参加して調査を進めていった。さらに4月から私のゼミに入る予定の学生は、新学期が始まる前の3月には私の研究室に集まって講義を受け、狂言の稽古に足を運び、祭礼に関する主な行事のほとんどに参加し、参与観察とインタビューを行なうことが恒例となった。

 私が勤務するのは人間文化学部地域文化学科という地域社会でのフィールドワークを重視する学科だが、そうした学科の性格とそこで学ぶ学生たちの積極的なとりくみが調査を支えてくれた。彼(女)らはシャギリを習って祭礼の際には一緒に笛を吹いたり裸参りに参加し、祭礼ボランティアとしても毎年活躍してくれている。市川先生との共編著で、学生たちが執筆した『長浜曳山まつりの舞台裏―大学生が見た伝統行事の現在』(サンライズ出版、2012年)には、そうした調査やボランティアを経た学生たちが見た祭りの姿がいきいきと表現されている。

 また市川先生からは、私自身が若衆として経験したことをアウトプットするように促していただき、それは京都民俗学会の談話会での報告や、滋賀大学・滋賀県立大学・サンライズ出版による「おうみ学術出版会」からの共編著『長浜曳山祭の過去と現在―祭礼と芸能継承のダイナミズム』(2017年)として形にすることができた。後者の刊行準備の際には、滋賀大学の副学長をされていた横山俊夫先生(現在は静岡文化芸術大学学長)からの温かい励ましをいただいた。

 地方の国公立大学、特に文系をとりまく環境は厳しさを増す一方だが、山組のような地域社会の方々の学生に対する温かさと学生たちの意欲、そして学科の同僚たちの真摯で熱心な教育・研究・地域貢献への姿勢には、未来に向けての希望があると思える。そうした希望を持ち続けることができる環境が維持され、発展できることを切に願う。

    さて上記のような経緯で調査を始めたものの、私自身は学部生・院生としてだけでなく就職後も、ほとんど歴史社会学的なナショナリズム論・メディア論の研究しかしたことがなかった。フィールドワーク重視の学科の性格ゆえに2008年頃からそうした調査をするようになってはいたものの、質的調査法のテキストを読みながらの徒手空拳で、果たしてその成果をどう論文にまとめあげていけばいいのやら、皆目見当がつかないというのが正直なところであった。先に述べた委託事業や、他の共同での調査のなかで市川先生の民俗学的なフィールドワークやデータのまとめ方について私が見よう見まねで学ぶ機会をいただき、そこから自分自身のやり方を少しずつ創りあげていくことができたように思う。

 もう一つの問題は、ようやく2015年頃から次々に成果を刊行するようになったものの、・・・