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A5判並製264頁

定価:本体2200円+税

発売日 2019年3月15日

ISBN 978-4-7885-1623-6





外山紀子・安藤智子・本山方子 編

生活のなかの発達
──現場主義の発達心理学



 ひとは生活のなかで、一生を通じて発達していく。人生の各時期に焦点をあて、他者や環境とかかわりながら様々な経験を通して発達していく姿を、重要な心理学の知見を紹介しながらわかり易く述べた発達心理学テキスト。公認心理師をめざす方にも好適。


目次

編者まえがき

ためし読み




生活のなかの発達 目次

編者まえがき

Ⅰ 乳児期

1章 身体から始まる世界の探索
 1節 有能な乳児
 2節 食の社会性
 3節 歩行が広げる世界
 4節 話すための準備
 【コラム】 視覚的選好法と馴化法

2章 社会情緒的発達の基盤
 1節 社会性の基盤となる発達
 2節 アタッチメントの形成
 3節 感情制御の発達
 【コラム】 生殖医療と喪失経験

Ⅱ 幼児期

3章 ことばを獲得する道筋
 1節 話しことばの発達
 2節 書きことば獲得への道筋
 3節 ことばを育む環境─絵本とことば
 【コラム】 ことばと思考:外言と内言

4章 遊びが広げる幼児の世界
 1節 幼児にとっての遊び
 2節 園生活における遊び
 3節 幼児と仲間関係
 【コラム】 義務教育のなかの幼児理解

5章 事物と心に関する幼児の理解
 1節 物理的世界への理解
 2節 心的世界への理解
 3節 実行機能との関連
 【コラム】「心の理論」とは何か

Ⅲ 学童期

6章 自律的な学習への転換
 1節 思考を促す学習
 2節 問題解決としての学習
 3節 システムとしての学習
 【コラム】 「子ども」という存在

7章 学級や授業への参加にみる社会的変化
 1節 自覚的な学習者へ
 2節 学級コミュニティで学ぶ
 3節 異質な他者との協働
 4節 子どもの育ちを支える基盤をより豊かに
 【コラム】 発達障害

8章 「私」として生きる
 1節 乳幼児期の自己
 2節 学童期の自己
 3節 青年期の自己
 4節 日本文化と自己
 【コラム】 自我同一性

Ⅳ 青年期

9章 青年と教育環境の適合
 1節 青年期の適応に影響を与える要因
 2節 教師・友だち関係
 3節 学習意欲を高める
 4節 部活動への参加
 5節 フレキシブルな
 【コラム】 過興奮性

10章 性の発達と関係性における暴力
 1節 性の発達と多様性
 2節 思春期の性問題行動
 3節 関係性における暴力
 【コラム】 10代の妊娠

11章 問題行動と向き合う
 1節 問題行動の様相
 2節 青年期の攻撃性
 3節 対人関係と適応
 【コラム】 縦断研究と横断研究

Ⅴ 成人期

12章 働くこと・育てること
 1節 働くこと
 2節 社会情動的スキルの形成
 3節 親になること
 4節 次世代の育成と子育て支援
 【コラム】 不適切なペアレンティング:児童虐待

13章 多様な関係性のなかで役割を果たす
 1節 仕事と家庭のバランス
 2節 家族のライフサイクルという視点
 3節 困難な関係性
 4節 多様な関係性のなかで
 【コラム】 里親制度の現状とその課題

14章 超高齢社会において高齢期を生きる
 1節 高齢期の発達的特徴
 2節 超高齢社会の課題
 3節 高齢期に必要な心理支援
 【コラム】 介護保険

終章 発達科学の未来に向けて 無藤 隆
 1節 人類の進歩のために
 2節 発達心理学の基本枠組み
 3節 心の理論の発達にみる直感的段階と表象的段階
 4節 ことばの発達にみる発達の規定因の多様性
 5節 発達理論の代表としてのダイナミック・スキル理論
 6節 発達科学のさらなる展開

索引


装幀=新曜社デザイン室


編者まえがき

 食べる、寝る、身支度をする、遊ぶ、学ぶ、働く。人間の一生は、こうした営みを繰り返すことにある。昨日と今日とでは、そこにたいした違いはないようにみえる行動も、長いスパンでみれば、行動そのものだけでなく、意味づけにも、事象や環境とのかかわり方にも大きな変化がある。

 「食べる」をみてみよう。歯の生え具合、咀嚼嚥下の力の加減、姿勢の保持、手先の器用さ等が発達すれば、食べられるものの範囲は広がり、子どもはより自立した食べ手になる。青年期になれば、「食べる」ことは相手との関係をつくり深めたり(あるいは拒否したり)、自己を甘やかしたり(あるいは否定したり)といった意味をもつようにもなる。大人になると、その意味はさらに多様化する。面倒くさくてやっかいなこと、取るに足らないこと、楽しみなこと、人間関係を広げ強める手段、自己抑制・自己制御が求められる場など、実に様々だ。他者に支えられて参加していた子どもも、大人になるにつれ、みずからこの営みを設計し、次の世代に伝える役割を引き受けるようになる。「食べる」という営みのありようには、発達そのものが映し出されている。

 日々の営みには制度化されたものもある。学習は人間の大きな特徴だが、学びの場は家庭という私的な空間でも、幼稚園や学校という公的な空間でも展開される。発達は属する社会の制度に組み込まれていくことであり、そこでのしきたりを身につけることでもある。制度化された学びの場は、子どもにとって家庭以外の主要な生活の場となり、そこでの他者とのかかわりを通じて様々な力が獲得されていく。学校を卒業すれば、職場や地域などに移り、新たな人間関係を築き、能力を発揮し、獲得した知恵を伝承する。生涯を通してみれば、生活の場は拡張することも縮小することもあり、そこでの発達は連続することも不連続になることも相乗的に作用することもある。いわば、人間は発達のダイナミクスを生き抜いているのである。

 本書は日々の営みに着目し、一生にわたる生活のなかでの発達を描きだすことをめざしている。生涯を乳児期・幼児期・学童期・青年期・成人期に区分し、各期に特徴的な発達事象に焦点をあて1~14の各章の柱とした。それらは人間が各発達期で真摯に向き合う経験でもある。人生の主体としての自己の発達については、乳幼児期から青年期にかけての著しい変化を捉えやすくするために各期に分割せず8章にまとめた。終章では発達心理学のメタ議論に向けて、発達心理学の学問としての役割と展望を論じた。書名に掲げた「現場主義」は、ひとつには生活の現場における経験を中心において発達を描くことを、もうひとつには研究の姿勢や方法として現場に携わり現場の声や事実に基づいて論述することを表している。

 人間が生活する現場を丹念に観察し、その細部にスポットをあて発達の本質を論じるという研究哲学は、本書の執筆者一同が学生時代に教えを受けた無藤隆先生によっている。終章に原稿を寄せてくださった無藤先生は聖心女子大学を経て1987年にお茶の水女子大学に着任された。その後、2004年に白梅学園大学に着任されるまでの17年間、私たちに発達心理学という学問の面白さ、研究の喜びと厳しさを教えてくださった。本書は、2017年3月に無藤先生が白梅学園大学を定年退職されたことを機に構想されたものである。

 2018年4月には心理職初の国家資格である公認心理師がスタートした。本書には公認心理師の大学カリキュラムの1つである「発達心理学」のテキストとしても使用できる内容を盛り込んだ。公認心理師の受験資格取得をめざす方々に加えて、発達の各時期において困難を抱える人たちを理解し支援しようとする方々、発達の現場で人々の生活に寄り添おうとしている方々など、広く手にとってくだされば幸いである。

 最後に、白梅学園大学の佐久間路子さん(8章担当)、福丸由佳さん(13章担当)、小保方晶子さん(11章担当)には各章の執筆だけでなく、編集作業においても多大なご尽力をいただいた。また、新曜社の塩浦暲さんは、遅れがちな編集作業を見守りつつも確実に前に進め、本書を世に送り出してくださった。編者一同、深く感謝申し上げたい。

外山紀子・安藤智子・本山方子