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A5判並製202頁

定価:本体2500円+税

発売日 2019年4月15日

ISBN 978-4-7885-1621-2





南田勝也・木島由晶 ・永井純一・小川博司 編著
 溝尻真也・小川豊武 著

音楽化社会の現在
──統計データで読むポピュラー音楽



CDの売上げ低迷や音楽雑誌の廃刊などを見れば、だれしも音楽文化は衰退していると思うだろう。しかし統計データによると、「音楽はこんなにも人気があったのか」と驚かされる。若者の音楽文化受容の実相を統計データから「正確に」読み解いた一冊。

*「音楽の終焉」や「若者の音楽離れ」などの論調ばかりが喧伝されるが、その実態は?
*統計的手法の正しい使い方による学問の面白さを、具体的に例示する


目次

はじめに(一部)


音楽化社会の現在 目次

第Ⅰ部 基礎編

第1章 Culture:現代文化のなかの音楽

  1 現代社会と音楽 
2 若者研究と音楽 
3 社会調査と音楽 

第2章 Life:現代人の音楽への接し方

1 何が衰退したのか 
2 音楽離れの真相
3 2012年に音楽を聴くということ
4 フリーミアムと流動性

第3章 Taste:現代人の音楽の好み

1 ジャンルをどう捉えるか
2 音楽の側面から見るジャンルの選好
3 フェイス項目とジャンルの選好
4 「好きな音楽家」から見る傾向

第Ⅱ部 応用編

第4章 Gender:アーティストとファンの男女差

1 音楽とジェンダーの関係 
2 ジェンダー化された「うた」の世界
3 アーティストの性別とファンの性別
4 音楽への接し方の男女差
5 オルタナティヴなファンとしての女性

第5章 Communication:音楽を介した友人関係

1 みんなで聴くかひとりで聴くか
2 増えすぎた友人たち
3 出会いとしての音楽
4 音楽を介したコミュニケーション

第6章 Identity:世代とアイデンティティ

1 世代の支持する音楽ジャンル
2 音楽をもっとも好きだった年代
3 若き日の音楽へのプライド
4 音楽の優越意識を規定するもの

第7章 Media:音質へのこだわりとその行方

1 音質へのこだわりが消費された時代
2 縮小するオーディオ市場と音楽再生環境の変化
3 音質へのこだわりをめぐる分析
4 音質優先層のこれから

第8章 Consumption:音楽聴取の雑食性

1 雑食性の時代
2 雑食性のタイプ
3 雑食性の違い
4 雑食性のゆくえ

第9章 Locality:若者の音楽聴取スタイルの地域差

1 地方の若者の「音楽好き」
2 若者の音楽文化の地域差に着目した研究
3 本章の分析データの概要
4 分析―都市度と音楽聴取スタイル
5 音楽聴取スタイルの地域性と時代性

参考文献
あとがき
人名索引
事項索引


   装幀─虎尾 隆


はじめにより(一部)

 ■音楽のリズム・ノリに惹かれる若者

 1970年代以降、歌詞の意味を伝えることを犠牲にしてでもサウンドを重視する音楽が台頭したことに伴い、音楽のどの要素に惹かれるかについては、歌詞対サウンドという二項対立で語られがちであった。実際、青少年研究会2002年調査(16~29歳)のときには、「音楽を聴く際には、サウンドよりも歌詞に惹かれる」という設問を立てて、歌詞派とサウンド派の割合を調べている。なおその結果は、歌詞派が46.5%でサウンド派が53.5%と、僅差ながらサウンド派の優勢がうかがえるものであった。しかし、一口に音楽のサウンドといっても、メロディ、リズム、音の質など、さまざまな側面がある。そこで2012年の調査では、楽曲のどの要素に惹かれるかについて、「メロディ」「歌詞」「リズムやノリ」「サウンド(音色や音の響き)」の4要素に分けて尋ねている。

 4要素それぞれについて「強く惹かれる」「まあ惹かれる」「あまり惹かれない」「まったく惹かれない」の4択のうち「強く惹かれる」と回答した割合は、2012年調査(16~29歳)データでは、メロディ63.1%、リズムやノリ51.3%、サウンド(音色や音の響き)43.3%、歌詞42.1%の順であった。リズムやノリは、メロディに次いで2番目に重視されていたのである。

 1990年代以降のポピュラー音楽においては、ジャニーズ事務所のアイドル、小室ファミリー、AKB系列グループ、EXILE TRIBE FAMILYなど、人気のあるアーティストがステージ上でダンスを披露するのが通常のこととなった。オーディエンスも、ライブ会場やフェスティバルでは、椅子のない会場で自由に身体を動かして音楽を楽しむ。ロック系のフェスでは、モッシュ、ダイブ、サークルなど、音楽に合わせて身体を動かすさまざまな作法がある。固定された椅子のあるホールにおいても、立ち上がり、手を叩き、身体を動かす。さらにクラブミュージックの隆盛も見逃すことはできない。さまざまな音楽の現場で、音楽はダンスと不可分のものとなっている。オーディエンスのノリへの関心は1980年代あたりから高まっていたが、当時はすべてのライブ会場で立ち上がることが許されていたわけではなかった(小川 2005)。

 そして2010年代。すなわち青少年研究会2012年度調査の時期以降ということになるが、中学校ではダンスが必修化され、教育の場でもダンスへの関心が高まっている(ただし、ダンスは保健体育科目であり、教科としての音楽と一体化しているわけではない)。その後、2017年にはテレビドラマから生まれた「恋ダンス」が人気を集め、動画共有サイトへの「双子ダンス」の投稿ブームが起きるなど、ダンスへの関心はより高くなってきている。

 西洋芸術音楽の影響を受け音楽から情動や身体的な快楽を排除してきた歴史は、ここにきて終止符が打たれようとしている。音楽化社会は、音楽が「苦」でも「学」でもなく「楽」のためにあること、そして諸個人の情動や身体の快楽に深くかかわるものであることを、多くの若者に知らしめているのである。