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四六判並製192頁

定価:本体1800円+税

発売日 2019年4月8日

ISBN 978-4-7885-1618-2





日本認知科学会 監修
山田 歩 著/内村直之 ファシリテータ/植田一博 アドバイザ

選択と誘導の認知科学
──「認知科学のススメ」シリーズ10



 洗剤選びから政治的立場の決定まで、人の選択には無自覚に方向性を決める「癖」がある。選択結果を誘導する認知的環境や選択肢の設計はいかなるものか。誘導技術は善用できないのか。人の情報処理の仕組みを解明し、さらなる考察へと誘う入門書。


目次

まえがき

ためし読み



◆「認知科学のススメ」シリーズ


選択と誘導の認知科学 目次

まえがき 

1章 物理的環境と選択の関係を考える
――選択に働きかける 1


 街中の看板と貼り紙によるメッセージ
 ファストフード店での滞在時間を決めるもの
 電車のシートへの座り方
 公園のベンチは誰が使うのか
 街中の花壇の役目
 なぜ看板や貼り紙がうまくいかないのか
  Box 心理的リアクタンス
 なぜ物理的環境がうまくいくのか
 看板・貼り紙vs.物理的環境
 まとめ――認知的環境と選択
  Box 対応バイアス


2章 デフォルトの効果――選択に働きかける 2

 「選択」に働きかける
 デフォルト① 「質問」でのの有無は何を生むか
 「オプトイン」と「オプトアウト」
 デフォルト② 受診手続きと受診率
 デフォルト③ 自動車保険を選ぶ
 デフォルト④ エネルギーを選ぶ
 デフォルト⑤ 臓器を提供するかしないか
 デフォルト⑥ お金を運用する
 なぜデフォルトの選択肢は選択されやすいのか
 不幸になりたい人などいない
 「選択アーキテクチャ」という考え方
 原因と対処
 自動システムと熟慮システム
 興味や関心を刺激する働きかけと比較する
 ミシュランのグルメガイドブックの起源は?
 フォルクスワーゲンの「ファン・セオリー」
 興味や関心を刺激する働きかけとの違い
 まとめ


3章 選択肢を分割する効果――選択に働きかける 3
 
 オバマ政権は支持されていたか
 分割の効果① 自動車が動かない原因を考える
 分割の効果② デート相手を選ぶ
 分割の効果③ ホテルを選ぶ
 分割の効果④ ワインを選ぶ
 分割の効果⑤ 防衛政策を判断する
 選択肢の操作で世論は変わるか
 まとめ


4章 よい働きかけとはどういうものか
――選択に働きかける 4


 選択アーキテクチャにはさまざまな問題がある
 「する」と「しない」は同じか
 「する」が満足に与える効果
「する」と「しない」から行為者の意図を読み取る
「する」は心理的な関与を高める
デフォルトは規範を変える
選択と自律
一般人の反応
まとめ


5章 「理由」は選択を正しくあらわしているか
――選択を説明する 1 


 選択とそのための理由 
 経路実験――どうやって「経路」を選ぶか
 ストッキング実験――置く位置か品
 「理由」はあてにならない
 条件づけ――良いものと一緒にされると好きになる 
 単純接触効果――見るほどに好きになる
 サブリミナル効果――見えない刺激の力
 働きかけに抵抗する人もいる
 洗剤実験――選択の根拠は効能か反復か
 まとめ


6章 「差別していない」は本音か言い訳か
――選択を説明する 2


 「オートコンプリートの真実」
 「母親 無職」と「父親 無職」に続くのは?
 性別役割分担意識
 ドクター・スミス課題
 性別役割分担意識とステレオタイプ
 職業と性差別
 客観性の幻想
 差別と曖昧さ
 まとめ


7章 無理に理由を考えるとどうなるか
――選択を説明する 3


 絵画実験――「2つの絵画について答えてください」
 好かれも嫌われもする作品
 好悪の理由を分析するのは難しい
 難しくても,無理に理由を分析すると何が起こるか
 「不自然な理由」が作り出される
 目隠しテストで芸能人を格付けチェック
 テイスティング方法と評価の関係は?
 「ペプシ・パラドクス」現象
 「ペプシ・パラドクス」を考え直す
 ペプシ・コーラとコカ・コーラの味の「違い」とは
 「ペプシ・パラドクス実験」もう一度
 「ペプシ・パラドクス実験」のまとめ
 まとめ――「もっともらしい理由」を作って決める判断とは


あとがき

文献一覧
索引
                          装幀=荒川伸生
                          イラスト=大橋慶子


まえがき

  ファストフード店で30分くらい過ごし,お店を出たとします。特にその後に予定はありません。なぜ15分でもなく,45分でもなく,30分でお店を出たのでしょう。

 日本では,ガンで命を失うのは避けたいと考えつつ,ガン検診に行かない人がたくさんいます。「行く」と「行かない」の選択肢があるなかで,なぜ「行かない」を選ぶのでしょう。

 ある消費者調査では,買い物客にいくつかのストッキングから一番品質が良いと思うものを選んでもらいました。ストッキングを選んだ理由をたずねたところ,「伸縮性がいいから」といった品質に注目した理由が数多くあがりました。しかし,実はこの調査で使用されたストッキングはすべて同じものでした。わざわざ嘘をつくような状況でもありません。なぜ買い物客はストッキングを選んだ理由を正確に説明できなかったのでしょう。

 私たちは常に何かを選びながら生活しています。そして,多くの場合,自分の意思で「選ぶ」という行為をしているように見えます。しかしながら,よくよく振り返ってみると,なぜ自分はそんなことをしたのかと疑問に思ったり,なぜあの人はそうしなかったのかと不思議に思ったり,自分や他者の選択に「なぜ?」となることは少なくないのではないでしょうか。

 本書では,この選択の「なぜ?」に認知科学や認知社会心理学を中心とした情報処理的な観点から迫っていきます。選択は一連の情報処理過程として捉えることができます。情報を受け取り,なんらかの処理がなされ,選択が出力される,と考えるのです。そして,この情報処理過程はある種の「癖」を持っています。この癖が,さまざまな場面で,私たちの選択を方向づけます。ファストフード店を30分で出るのも,がん検診に行かないのも,ストッキングを選んだ理由を正確に説明できなかったのも,この癖が深く関わっていると考えられます。

 情報処理の癖,そして,その結果として行動にあらわれる選択の癖を知ることで,選択の「なぜ?」の正体が見えてくるはずです。選択の背景にあるメカニズムを理解することは,無数の選択から成り立っている毎日の生活を見直すのにきっと役立つでしょう。さらに,こうした癖を利用し,自分の選択,また,他人の選択を誘導することもできるでしょう。

 本書は大きく2つのパートに分かれます。前半(1~4章)では,「選択に働きかける」をテーマに,人びとの選択に対して,生活のなかでどのような働きかけがおこなわれているのか,また,どのような働きかけをおこなったらよいのかという問題について見ていきます。選択を支える情報処理過程の癖が,こうした働きかけの成否にどのように関わっているのかという問題を中心に探っていきます。

 後半(5~7章)では,「選択を説明する」をテーマに,選択をする本人が,自分の選択をどのように認識しているのかという問題を見ていきます。人間の情報処理は必ずしも本人の意識的なコントロールのもとおこなわれるとは限りません。私たちが自分の選択について頭の中で理解していることは現実とギャップを起こす可能性があります。選択をめぐる認識と現実のズレを探っていきます。

 本書をどのように活かすのか,それは皆さんの「選択」です。短い本ですが,どうぞお付き合いください。