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B5判並製304頁

定価:本体3300円+税

発売日 2019年3月20日

ISBN 978-4-7885-1617-5





日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第18号
──特集 ゆるやかなネットワークと越境する対話
   遊び、学び、創造



 既存の枠組みを越えゆるやかにつながるネットワーク,異質性や多様性を生かした創造的な活動がさまざまな社会課題や矛盾を乗り越える試みとして注目されている。特集は,質的研究ならではの強みを生かし多様な視点からその可能性を問う8論文を掲載。書評特集のテーマは「当事者研究」。


目次

巻頭言

ためし読み



質的心理学研究シリーズ バックナンバー


質的心理学研究 第18号 目次

巻頭言 永田素彦 多様性をひろげる

 特集:ゆるやかなネットワークと越境する対話──遊び,学び,創造
(責任編集委員:香川秀太・青山征彦)

■ 朴希沙
  「してもの会」におけるRespectful Racial Dialogue の実践
  ── 在日コリアンと日本人の「分断から動き出す交流」
■ 山下愛実
  幼稚園の一斉保育場面で子どもたちが創り出す「あいま」の意味
  ── ウェンガーの「非公式の」実践共同体概念を手がかりとして
■ 小林惠子
  後ろ向きの越境と境界の変容に関する研究
  ── 危機に直面した企業組織でのフィールドワークから見えてきたもの
■ 岡部大介・大谷紀子
  アーティストと人工知能技術の協働作曲にみる創造と省察
■ 橋本栄莉
  難民の実践にみる境界と付き合う方法
  ── ウガンダに暮らす南スーダン難民の相互扶助組織を事例として
■ 最上雄太・阿部廣二
  再帰的リーダーシップ試論
  ── 正統的周辺参加論による関係的アプローチの課題克服可能性とその意義
■ 會津律治
  客と店との偶発的協働による振る舞いの集合的学習過程
  ── 仏レストランのマネジメントから
■ 山口洋典・渥美公秀・関嘉寛
  メタファーを通した災害復興支援における越境的対話の促進
  ── 男女のいずれかというわけではない性自認をもつ人々の語りから

 一般論文

■ 山田苑幹
  X ジェンダーを生きる
  ─フッサール志向性論に基づく主題分析
■ 小泉千尋
  サイエンスカフェにおける話題提供者のフレームシフト
■ 渡辺恒夫
  コミュ障(人づきあいが苦手)の批判的ナラティヴ現象学
  ── インターネット上の相談事例に基づく当事者視点の研究
■ 長友隆志
  日本人高校生の自己効力感とメタ認知に対する英作文の指導とフィードバックの効果
  ── GTAによる分析
■ 石井悠
  小児慢性疾患経験者にみるイルネス・アンサーテンティの発達的影響
  ── 成人期における将来展望との関連に着目して
■ 五十嵐茂
  自己エスノグラフィにおける意味の文脈
  ── ある転職体験
■ 荒川歩・白井美穂・松尾智康・加藤賢大
  インタビュイーの語り手としての特性と質的研究

 BOOK REVIEW

■《書評特集》 当事者研究
当事者研究をローカルな研究実践から,質的研究のモデルへと一般化するために(森 直久)

「自分自身で,共に」が教えてくれること(評:宮本 匠)
  浦河べてるの家(著)『べてるの家の「非」援助論──そのままでいいと思えるための25 章』
じぶんアクションリサーチとしてのからだメタ認知メソッド(評:伊藤 崇)
  諏訪正樹(著)『「こつ」と「スランプ」の研究──身体知の認知科学』
「当事者研究」はポスト心理療法になるのか?(評:村澤和多里)
  浦河べてるの家(著)『べてるの家の「当事者研究」』
  綾屋紗月・熊谷晋一郎(著)『つながりの作法──同じでもなく違うでもなく』
  熊谷晋一郎(編)『みんなの当事者研究』

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表紙デザイン 臼井新太郎


巻頭言

 多様性をひろげる

 『質的心理学研究』第18号を無事みなさまのお手元に届けられることとなった。今回も質が高く読み応えのある論文が,一般論文・特集論文あわせて15本掲載されている。304ページというボリュームは過去最大とのことで,質・量ともに充実した号になった。

 第17号の巻頭言では「スタンダードを超えて」と題して,アメリカ心理学会が質的研究の評価基準(スタンダード)を定めたことを受けて,スタンダードの枠を広げ,超えるような挑戦が重要だと述べた。一般に,保守と創造のジレンマ,あるいは(過剰な)保守化にどう抗うかは,ある程度の期間存続している組織には必然的につきまとう課題である。社会構成主義の旗手であるケネス・ガーゲンによれば,この課題への鍵は,組織内の異質性を賦活し,対話の枠を広げることである。

 その点からすると,質的心理学会は,「質的」という看板のもとに,研究分野(ディシプリン),研究テーマ,研究方法など,多くの面にわたってきわめて多様な研究者が集まっているという強みがある。編集に関しても,査読プロセスが投稿者と査読者の対話の場であることを明記し,対話を通じて論文の質が少しでも高くなることを目指してきた。

 関連して,今年度(2018年度)から査読体制を刷新した。具体的には,編集委員のほかに,投稿論文の査読を担当する「査読委員」を新設し,専門分野がさまざまに異なる30名の方に委嘱した。従来十数名の編集委員ですべての査読を担当していたのと比べると,よりきめ細やかな対話が可能になるだろうと期待しているところだ。

 最後に,これで編集委員長の3年の任期を終えることになる。どうにか無事に編集委員長の職務をまっとうできたのは,編集委員会の先生方,事務局のスタッフ,そして何よりも質の高い論文を投稿くださる会員の皆様のおかげである。心から感謝申し上げたい。

編集委員長  永田素彦