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A5変型判並製212頁

定価:本体1600円+税

発売日 2018年11月1日

ISBN 978-4-7885-1600-7





中村桂子 編

和 なごむ やわらぐ あえる のどまる
── 生命誌年刊号 vol.92-95



生きものに寄り添い、語りを聴き、その物語を描く生命誌。

 今号では「和」という言葉を軸として、生命誌の世界観を対話や研究を通して紹介します。

●料理家の土井善晴氏、陶芸家の樂吉左衞門氏らの、食材や土へ向ける深いまなざし、稲葉カヨ氏(免疫学)や江口吾朗氏(発生学)らの、細胞や小さな生物を見つめる研究者としての視線、いのちと和やかに向き合う人たちの言葉が心に響きます。

●研究報告のコーナーでは、細胞社会をテーマに細胞の和を探究。生きものから人を、社会を考える一冊です。


和 なごむ やわらぐ あえる のどまる 目次

和 なごむ やわらぐ あえる のどまる はじめに

生命誌 年刊号バックナンバー


和 目次

Talk 語り合いを通して
 ◎やわらかに和して同ぜず 長谷川櫂×中村桂子
 ◎土と和する芸術と科学 樂吉左衞門×中村桂子
 ◎自然の法則を解く問いを求めて 大栗博司×中村桂子
 ◎自然からいただく清らかなもの 土井善晴×中村桂子

Research 研究を通して
 細胞社会を考える――植物
  ボルボックスの仲間から多細胞化を探る 野崎久義
  植物の世代を切換えるスイッチ遺伝子 榊原恵子

 細胞社会を考える――無脊椎動物
  幼虫が昇る「大人への階段」 大原裕也
  線虫が親から子に伝える「記憶」 宇野雅晴

 細胞社会を考える――脊椎動物
  飢えからからだを守る脳の神経回路 中村佳子
  血管の「かたち」をつくる細胞たち 木戸屋浩康

 細胞社会を考える――単細胞生物
  細菌社会の情報運び役 メンブレンベシクル 豊福雅典
  ひとつの細胞の中のはたらく核と続く核 片岡研介
 ◎生命誌アーカイブから「細胞社会」を考える

Scientist library 人を通して
 ◎対称性を破る動物の形づくり 濱田博司
 ◎生きもののしくみを構造に観る 難波啓一
 ◎イモリのレンズ再生に魅せられて 江口吾朗
 ◎しなやかに、たおやかに、樹状細胞と共に 稲葉カヨ

あとがき

生命誌ジャーナル掲載号一覧


和 はじめに

  ある時、名詞でなく動詞を思い浮べた方が頭が動き始めることに気づき「生命誌」について考える時は「生命」でなくそれを生み出す動詞に注目することにしました。毎年、その年の動詞をきめるようになって十五年、年末は集まって次の言葉を選ぶのが年中行事として定着してきたところでした。

 まず、いのちを感じさせること、今とても大切なことを浮び上らせること・・・そんな気持で選ぶのですが、今年はどうしてもそこに「和」という文字が出てきてしまうのでした。心の奥に平和を考えなければいけないという気持があってのことです。でも生命と同じで、平和も名詞として口にしてもそれでどうなるものでもないという少し空しい気持になる言葉です。実は、和という文字はやまとことばでは、なごむ、やわらぐなど音を聞いただけで優しくなれそうな意味を持っています。

 もっともそれ以上に味わい深いのが「あえる」で、どうしてもこれまでと同じように一つの動詞に絞るのなら「あえる」を選ぶほかないという気持でした。「和える」で思い出されるのはごま和え、白和えなどの和え物でしょう。白和えは、ほうれん草、きのこ、人参などをごまをすりこみ醤油などで調味したお豆腐で和えた一品です。それぞれの素材の味を生かしながら一体感を味わいます。対照としてサラダは、さまざまな野菜をドレッシングでまとめますが、トマトはトマト、レタスはレタスとしていただきます。ここではトマトは嫌いだと思ったらそれだけを除くことができます。サラダボウルに例えられたアメリカは、気に入らない素材を放り出そうとしています。和え物はそれが難しい。そこが大事な点です。

 「和える」へのそんな思いをわかっていただくのは難しいかもしれない。そこで、なごむ、やわらぐ、あえるという動詞を合わせて「和」という文字を選ぶという新しい選択をしました。その後NHKの子ども番組で「和」は「のどまる」とも読むと教えられ、ますます優しい気持を呼び起こされるというおまけもつき、「和」、なごむ、あえる、やわらぐ、のどまるでこの一年を過しました。

 今年も対話(トーク)、研究(リサーチ)、人(サイエンティスト・ライブラリー)という三つの形で、さまざまな方のお話を伺い、考えてきました。今すべてをまとめてみて思うことは、登場してくださった方のどなたもが、体の中、心の中に大事なものを抱えて生きている姿を見せてくださったということです。それはなんと気持のよいことか。そのような方たちに出会えて本当に幸せだったと思います。そこから生命誌として学ぶことをできるだけたくさん引き出しながらまとめた一冊の本です。どこからお読みくださっても結構です。そこここに心に響くものを見出していただけると思います。