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四六判並製336頁

定価:本体2700円+税

発売日 2019年2月22日

ISBN 978-4-7885-1587-1





日本コミュニティ心理学会研究委員会 編

ワードマップ コミュニティ心理学
──実践研究のための方法論



 アクションリサーチの考え方に沿って、現場で生きる実践研究に焦点を合わせ、初学者にも応用可能な研究例と方法をふんだんに紹介する。コミュニティの心理社会的な課題に取り組もうとする研究者・学生や実践者の道しるべとなる待望の入門書!


ワードマップ コミュニティ心理学 目次

ワードマップ コミュニティ心理学 序文

ためし読み




ワードマップ コミュニティ心理学 目次

序文
  
第Ⅰ部コミュニティ心理学の視座に立つ

 第1章研究と実践
  1-1 コミュニティ心理学の研究と実践の往還
  1-2 コミュニティ心理学研究のあり方
  1-3 コミュニティ心理学の介入・実践研究
  1-4コミュニティ心理学の7つの中核概念
  1-5 コミュニティ心理学的研究における倫理的問題
  
第Ⅱ部   研究事例から学ぶ

 第2章コミュニティ援助
  2-1 子どもの虐待を減らすには――より良いアウトリーチと多機関連携
  2-2 患者をチームで支えるには――医療現場におけるコラボレーション
  2-3 職場環境改善のためのコンサルテーション――事例研究法による効果検証
  2-4 ハラスメントのない環境を作るために
        ――学生相談カウンセラーによるアクション・リサーチ
  2-5 コミュニティにおけるコンサルテーションとは
        ――ブリーフセラピーによるコンサルテーション
  
 第3章エンパワメント
  3-1 DV被害者に対する個人・組織・コミュニティ次元での「エンパワメント」
        ――予防・危機介入・後方的支援という円環的EMPを絡めて
  3-2 津波に遭った中学校の表現活動を励ますには
        ――エンパワメント評価研究を通した間接的心理支援
  3-3 より良い大学生活をサポートするには
        ――コミュニティ・アプローチの視点を導入した学生支援
  
 第4章コミュニティ研究
  4-1 コミュニティに愛着を持つとは
  4-2 子どもの安全をどう守るか――写真投影法による安全・安心マップの作成
  4-3 組織における居場所とは
        ――組織視点の心理測定から、個人視点の心理測定への変遷
  4-4 高齢者にとっての居場所とは――市民・大学・自治体の協働研究
  4-5 インターネットから生まれるコミュニティとは
        ――機能的コミュニティ形成のためのインターネット活用
  4-6 インターネット上にコミュニティはあるか
        ――“地域”にとらわれないコミュニティの可能性
  
 第5章ダイバーシティ
  5-1 異なる文化を持つ人たちと仲良く暮らすには
        ――中国帰国者の適応過程と援助体制
  5-2 カルト問題とコミュニティ――カルト脱会者における家族関係の認知変化
  5-3 性同一性障害当事者の体験を援助に活かすには
        ――修正版GTAを用いたプロセス理論の生成
  
 第6章プログラム開発・評価
  6-1 支援をおこなう前にすることとは
        ――心理援助サービスにおけるニーズアセスメントの視点
  6-2 子どもが育つコミュニティの組織化
        ――子育て支援コーディネーター養成プログラム開発の試み
  6-3 失業者に対する心理的援助プログラムの開発
        ――失業者が自分らしいライフキャリアを歩むために
  6-4 学校現場で求められる心理教育とは――プログラムの開発と評価
  6-5 スポーツハラスメントを予防するには――ハラスメントを防ぐチーム風土づくり
  6-6 プログラムを評価するとは――人生リバイバルプログラムの評価研究
  
第Ⅲ部   研究に取り組む

 第7章研究方法
  7-1 研究を始めるにあたって
  7-2 量的研究からのアプローチ
  7-3 質的研究からのアプローチ
  7-4 論文・報告書をまとめる

おわりに 
索引
  
装幀=加藤光太郎


ワードマップ コミュニティ心理学 序文

 「平成」という時代がもうすぐ終わろうとしている。この約30年を振り返ると、インターネット、iPS細胞、AIなどといった技術革新の時代だったといえよう。確かに何かにつけ、便利になった。いくつかの不治の病も治せるめどがついた。しかし、その一方で、世界各地で内戦やテロが相次ぎ、国内でも東日本大震災をはじめとする自然災害が次々と発生した。人類史上最悪とも言われる東京電力福島第一原子力発電所の爆発事故も起きてしまった。いわゆるバブル経済が破綻するまでは、多くの日本人は日本は「貧困」とは縁のない国だと勘違いしていたが、現在では貧困問題は他人事ではなくなった。子どもの虐待やドメスティック・バイオレンス(DV)、学校でのいじめ、社会的ひきこもり、学校、企業、スポーツ団体におけるハラスメント、少子高齢化に伴う過疎地域の増加、異文化間摩擦など、自治体あるいは国家レベルで取り組まなければならない問題が、科学技術の進歩と反比例するかのように拡大してきた。

 そんな時代の中で、公認心理師法が平成27年9月9日に成立した。今後、様々な領域から心理専門職あるいは心理学自体に対する期待が高まってくることが予想される。これまでの心理専門職の役割といえば、主に心理検査(アセスメント)とカウンセリング・心理療法だったといえる。臨床心理学の発展の歴史を振り返っても、臨床心理士はまず、テスター(心理検査を実施する人)としての地位が確立し、二度の世界大戦とベトナム戦争を経て心理療法士としての役割が期待されるようになってきた。

 しかし、個々人を対象として、心理検査を実施したりカウンセリングをしていても、右記に連ねた諸問題の根絶は不可能であろう。公認心理師法に規定されているように、心理職に求められるのは、心理的な支援を要する個人に対するアプローチにとどまらず、支援を要する個人の関係者への支援(たとえばコンサルテーション)や心の健康教育(予防)であり、他職種との連携が守るべき義務であることが明示されている。今後ますます、心理専門職以外の専門家やボランティア団体などとの協働が重要性を増してくるものと思われる。これらの法的規定や義務は、コミュニティ心理学が長年、主張し続けてきたことに他ならない。

 コミュニティ心理学の誕生は、周知のように、1960年代中頃のアメリカである。それまでの伝統的な個人志向的アプローチに限界を感じた臨床心理士らによって、コミュニティ心理学と呼ばれる新たな領域が誕生した。その特徴は、(1)集団(ポピュレーション)を対象に、(2)治療や行動変容ではなく、疾病や問題行動の予防を重視し、(3)当事者のみならずその関係者への支援にも力を注ぎ、(4)カウンセラーやセラピストに会いに来られない大多数の人々に対して専門職の方から出向いていくというものある。この基本的な考え方や理念が1970年代中ごろにわが国にも紹介され、「コミュニティ心理学シンポジウム」という研究会が立ち上がった。1975年から20年以上も続いたこの研究会によって、徐々にではあるがコミュニティ心理学の存在意義が認知されるようになってきた。そして1998年、学術団体としての日本コミュニティ心理学会が発足した。

 この度、日本コミュニティ心理学会研究委員会の編集によって刊行された本書は、『よくわかるコミュニティ心理学』(初版2006年、ミネルヴァ書房)、『コミュニティ心理学ハンドブック』(初版2007年、東京大学出版会)に続く、学会を挙げて取り組んだ3番目の書籍となる。日本コミュニティ心理学会が旗揚げして20年の節目に当たる時に出版できたことは一つのマイルストーンであり、今後のさらなる発展を期待させるものである。前の2冊はコミュニティ心理学の紹介ないし解説書であったが、本書はそれらとは一線を画している。即ち、かつてクルト・レヴィンが提唱したアクション・リサーチの考え方――研究と実践が常に表裏一体として行われるべきである――を基盤としつつ、実践研究からのアプローチに焦点を絞って執筆されたものである。

 本書が、心理社会的な問題に取り組み、少しでも社会を変革していこうとする研究者やそれを目指す大学院生、さらには実践家にとって何らかの「道しるべ」となればこれに勝る喜びはない。
  
2018年10月
  
日本コミュニティ心理学会会長 久田 満