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四六判並製148頁

定価:本体1600円+税

発売日 2018年6月22日

ISBN 978-4-7885-1581-9





日本認知科学会 監修
今井倫太 著・内村直之 ファシリテータ・植田一博 アドバイザ

インタラクションの認知科学
──「認知科学のススメ」シリーズ 8



AIだけではロボットは作れない

 いまや街でロボットに出会うことは珍しくありません。ところが話しかけてもどこかぎこちない……。話題がかみ合わず感情を込めて盛り上がる会話もできません。人を超えるAIが喧伝される一方、人とロボットのインタラクション(相互行為)が円滑ではないのはなぜでしょうか。著者は、人の認知特性に合わせて、注意を使えるロボットや状況を共有するロボットなどを開発することで、人となめらかにやりとりできるロボットの条件を明らかにしていきます。ロボットが人間社会の一員として溶け込んで暮らす未来も垣間見える認知科学研究への招待です。著者は慶應義塾大学教授。


インタラクションの認知科学 目次

インタラクションの認知科学 まえがき

ためし読み




インタラクションの認知科学 目次

 まえがき

1章 ロボットとの会話

  ロボットの進出
   身近になったロボット
   ロボットを作るのに必要なこと
   社会の中のロボット
  いろいろなロボットとのコミュニケーション
   命令で道具として働くロボット
   遠隔地の人同士をつなぐロボット
   人の相手ができるロボット
     Column 続々登場しているコミュニケーション型ロボット
  ロボットとの会話
   情報を伝えるもの
   会話と状況
   状況で決まることばの意味
  ロボットを用いた認知科学研究
     Column 科学実験に使いにくい「人」
   ロボットによるコミュニケーション実験とは……
   実験の設計は難しい
   行動記録やアンケートから結果を分析
  インタラクションとは
   違いは何?
    Column ふつうの用語が難しい
   人と機械のあいだは……
   お互いの状態を知りたいがわからない!
   わかりやすい機械か、人をわかる機械か
   人とロボットのおつきあいは……
   ロボット特有のやりかたもある
   ロボットにお付き合いしてあげると
   ロボットは世界をどう見たらいいのか
  共有、その深淵な課題
   関連性理論から見た影響と情報
   言葉で伝えられないクオリア
   情報の共有で信頼関係に
  本書の構成
       
2章 注意と状況―ロボットに注意を使わせる

  状況を理解するための注意機構
   自明な状況は省略される
   必須な「注意機構」という仕組み
  注意を向けられるロボットを作る
   注意機構を持つロボットとは
   前方に障害があるとき
   ロボットは知識表現を使う
   「ダメ!」に反応するには
  意図的注意・反射的注意を備えたロボット
   注意の結果で変わる返答
   より人に近いロボットLinta-II登場
   なぜ発言が違うのか
   注意機構と機能モジュールはやりとりする
   注意機構を介してモジュール間の影響がある
   注意機構がからむのが大事なわけ
    Column フレーム問題
   意図的注意と反射的注意をどう作る?
   勝ち残った情報へ注意を向ける
   競争による意図的注意の実現
   競争による情報の決定
   競争による意図的注意と反射的注意の両立
   注意対象への興味は時間とともに減衰する
   Linta-IIの注意機構はこう働く
   自発的に注意を向けるロボット

3章 ことばの意味と状況と注意

  状況意味論から考えると……
   意味は状況の中で決まる
   意味と世界
   状況を取得できないとロボットはこまってしまう
   談話状況と記述状況
   2種類の「状況」がぶつかって
   「同じ言葉」でも「違う意味」という場合
   知らないことがあれば……
  状況がわかるロボットを作るには
   式にしないとロボットは理解不能
   Linta-Iと状況理解

4章 共同注意と状況の共有

  共同注意
   同じ状況への注目が不可欠
   お互いの心の窓を通す
   共同注意とは心の状態を読み合うこと
   指示語の意味がわかる
  ロボットが創る共同注意
   ロボットの思いはヒトに通じるか
   視線を動かせば注意を誘導できる
   人のアイコンタクトも引き起こす
   ロボット側の共同注意は難しい
   共同注意の先にあるもの

5章 関係性から心の理論へ

  ロボットとつきあうために「関係性」が必要
   見知らぬロボットと仲良くなる
  「イタコシステム」で関係を付ける
   ロボットとの関係性の有無で人の行動が違う実験
   「おばけ」キャラが「憑依」する
   人はロボットの言うことに耳を傾けるか
   関係性が相手の言葉の理解に影響する
  「人の心を読む」=心の理論の大切さ
   人は無意識のうちに人の心を読んでいる
   心を読めばいろいろなことができる
   ロボットの「心」も読める?

6章 情報共有に基づくインタラクション

  指差し示せば情報共有ができる
   人の指差しの意味をロボットはわかるか
   指差しながらロボットに指示する
   人とロボットは情報共有できるか
  同時性こそ「情報共有」のあかし
   戦国時代の「情報共有戦」は……
   一足先に顔を向けるロボットに人は一安心
  事前に備わっている情報を利用した情報共有
   会話で大事な五感についての話題
   五感共有はロボットと人でも有効か
   暖かい日、冷たいお茶、そしてチョコ
   景色とおみやげに反応するか
   ロボットの文脈に乗って楽しんだ人
   心の理論のスイッチオン!

7章 ロボットの社会性と未来

  達成できたこと,できなかったこと
  社会性を与える/確認させる
  社会の一員となるロボット

 あとがき

 文献一覧
 索引

   装 幀=荒川伸生
   イラスト=大橋慶子


インタラクションの認知科学 まえがき

 人は赤ん坊のときから両親や様々な人とインタラクションすることで成長していきます。生活の中でも友達・先生・同僚・上司と日々インタラクションしながら、学んだり、助け合ったり、ときには喧嘩したりと、人と人がお互いに関わり合いながら社会を構成しています。誰かとインタラクションできる人の知性や能力を知ることも、認知科学という人の知的活動の仕組みを明らかにする学問の重要なテーマです。本書は、人とインタラクションできるロボットを題材として、ロボットに必要な仕組みを考えながら、人が行うインタラクションの仕掛けを紐解いていきます。

 インタラクションの認知科学を考える上で、なぜロボットを引き合いに出すのかをまず説明しましょう。スムーズにインタラクションが行われるためには、インタラクションの参加者がお互いに共通の仕組みや約束事を持っていたり、共通の情報を持っていたりする必要があります。持っていないと大変な思いをすることは、日本語の話せない外国人と会話する場面を想像するとわかりますね。人とスムーズにインタラクションするロボットを作って行く中で、人の持っている仕組み・約束事・知識を、共通に使えるようにロボットにも入れていく必要があります。問題は、何が共通なものとして重要なのか自体がわからないことなのです。人とインタラクションできるロボットを作ることを通して、インタラクションの中で人がどのような仕組みを働かせ、どのような約束事に従い、どのような知識を活用しているのかが明らかになります。これは、人の知的能力を明らかにする認知科学の目的そのものです。ロボットを活用したやり方で可能になる認知科学研究を知ることができるのも本書の特徴です。

 ロボットが人とインタラクションする際に難しいのは、言葉を認識することや、目の前の人を認識することだけではありません。人とロボットが周囲で起きている出来事や周辺にある物を話題として会話することが難しかったりもします。本書は、人とロボットを実際にインタラクションさせた実験をたくさん紹介します。実験を通して、ロボットが人と状況を共有し、自然な形でコミュニケーションする際に必要となる能力がどういうものなのか解説していきます。

 インタラクションの実験、特にロボットを用いた実験は、文章だけからでは実際の雰囲気がわからないことが多々あります。実験で何が起きていたのか、ロボットがどのように動いたのか、よりわかりやすく伝わるようにビデオが閲覧できるホームページを用意しました。下記のURLでアクセスしてみてください。人やロボットの些細な動きがいかに影響力を持つのか、本で読んでもわからなかった部分がきっと理解できると思います。

http://www.ailab.ics.keio.ac.jp/webpage_personal/cognitive_robot_interaction/

 本書は、認知科学の知見を紹介するとともに、人とインタラクションできるロボットの構造の説明にもなっています。人とコミュニケーションできるロボットを設計する上での基礎知識にもなります。インタラクションにおける人の知的な振る舞いを知りたい人から、人とインタラクションできるロボットを将来作ろうと思っている人まで楽しんで読んでいただける内容になっているかと思います。人の知性、ロボットの知能の双方の側から、インタラクションという現象を解き明かしていきますので、どうぞお楽しみください。