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A5判上製464頁

定価:本体4600円+税

発売日 18年3月15日

ISBN 978-4-7885-1570-3




エステー・テーレン & リンダ・スミス 著
小島康次 監訳
高橋義信・丸山 慎・宮内 洋・杉村伸一郎 訳

発達へのダイナミックシステム・アプローチ
──認知と行為の発生プロセスとメカニズム



発達心理学を変える新しいパラダイムを提唱!

 単純な細胞から出発して、どうやって人はこれほど複雑な身体的、心的活動をするようになったのでしょうか。多くの心理学者が今もこの謎の解明に取り組んでいますが、人間は特別と考えやすいのは心理学者も変わりません。しかし本書は、人間が複雑で独特だとしても、そこに到達するまでのプロセスは、単純な生き物の発達や複雑な非生物のシステムを支配するものと共通だという斬新な視点を提唱します。ダイナミックシステムの原理です。まずこの原理について詳しく説明し、この原理が生命体の形態から行動までのすべてのレベルにおける個体発生を統合していることを、データに基づいて説得的に例証してゆきます。発達のプロセスを記述するだけでなく、それがいかなるメカニズムによってもたらされるのかを解明する新しいパラダイムを提示した、画期的な本の待望の完訳です。


発達へのダイナミックシステム・アプローチ 目次

発達へのダイナミックシステム・アプローチ 日本語版出版に寄せて

ためし読み




発達へのダイナミックシステム・アプローチ 目次

日本語版出版に寄せて
謝 辞

序 章
発達はどのようなものか――上からの見方
発達はどのようなものか――下からの見方
発達理論の目標
本書の計画


第Ⅰ部 発達の性質――ダイナミックなアプローチ

第1章 歩行学習からの教訓
  歩行の学習――上からの見方
  単一原因による説明の欠陥
  中枢パターン発生器と移動運動
  歩くことの学習――さらなるデータが示すもの
  発達段階を解体する
  シガエルの移動運動の発達
  ヒヨコの移動運動の発達
  ネコの移動運動の発達

第2章 認知発達の危機
  ピアジェ――上からの見方
  下からの見方――推移律を用いた推論
  コンピテンス 対 パフォーマンス
  生得主義
  連続性とは何か?
  生得的とは何を意味するのか?
  モジュール性
  人間の情報処理
  コネクショニズム
  目的論――発達理論における最終状態を超えて
  まとめ

第3章 ダイナミックシステム――変化のパラダイムを求めて
  ダイナミックシステムの振る舞い――概観
  ダイナミックシステムの原理
  時間スケール関係の重要性
  「ノイズ」についての覚え書き
  安定性についての補足説明
  まとめ

第4章 発達のダイナミック原理――歩行学習再考
  本章の概要
  創発する行動の時間スケールに関する覚え書き
  行為のダイナミックな原理
  ベルンシュタインの貢献
  運動のエネルギー的な側面
  実時間における自己組織化――乳児の自発的な足蹴りについて
  複数の時間スケールを行き来する――行為から発達へ
  生成と消失を繰り返すアトラクターとしての発達
  発達における変動性の新たな役割
  乳児の足蹴り運動における個体発生的な変化
  新生児の足踏み運動の消失
  乳児の足蹴り運動の協調と制御
   ――ダイナミックな変化について
  生来的なダイナミックスを環境に同調させる
   ――トレッドミルから誘発される乳児の足踏み運動
  トレッドミル上での足踏み運動の発達
   ――変化のダイナミックスをマッピングする
  ダイナミックシステム・アプローチにおける個体の果たす役割
  トレッドミル歩行の個体発生を理解するための、ダイナミックシステムの原理の操作化
  歩くことの学習のダイナミックな説明――個体発生の全体像

第Ⅱ部 変化のメカニズムを求めて

第5章 神経組織と発達のダイナミックス
  説明とメカニズム
  脳のダイナミックな組織化
  神経細胞群選択理論
  神経的多様性の解剖学的基礎と機能
  神経胎生学における多様性の創造
  形態発生における細胞表層の役割
  神経発生、マッピング、そして行動の関係――知覚と行為へ

第6章 カテゴリーとダイナミックな知識
  哲学 対 生物学
  自らを教えるカテゴリー――コンピュータ・モデル
  対象の定義の発達
  カテゴリーとは何か
  カテゴリーのダイナミックな選択としての発達

第7章 乳児における選択のダイナミックス
  知覚の統一性
  乳児の感覚モダリティ間統合
  知覚としての運動――発達における運動の決定的な役割
  知覚と認知の発達における運動の中心的役割
  知覚的モダリティの欠如における発達
  ダイナミックな記憶――学習から発達へ
  記憶における発達的変化

第Ⅲ部 知識のダイナミックスと起源

第8章 知識の文脈特異的な起源
  大域的な構造-局所的変動性――時間スケールの統合
  スロープについての学習
  何が可能かを知る
  可能な事象と不可能な事象
  車が箱を通り抜けられないことを知る
  発達する多様なアトラクター
  大域的構造間の飛躍――新奇な言葉の解釈
  文脈とコンピテンス

第9章 行為からの知識――リーチングの学習における探索と選択
  リーチングの学習――課題の性質
  リーチングの学習――ダイナミック・アプローチ
  リーチングへの移行
  マッチングの意図と、内在的ダイナミックス
  創発的カテゴリーとしての行為
  ネイサン――生後1年にわたる探究と選択
  行為からの知識と知識からの行為

第10章 実時間、発達的時間、知るということ
     ――A-not-Bエラーの説明
  A-not-Bエラー
  文脈効果
  システムによる説明
  発達――実時間と発達的時間を統合する
  成熟か発達か
  知るとはどのようなことか

第11章 困難な問題――ダイナミックな認知に向かって
  動機づけ――それはどこから来るのか
  身体化された認知の起源
  知識の社会的身体性へ向けて
  話すことと知覚すること――相互作用的認知
  ダイナミックな認知における象徴的思考
  パラダイムシフト

エピローグ

訳者あとがき
文献
人名索引
事項索引

                          装幀=新曜社デザイン室


発達へのダイナミックシステム・アプローチ 日本語版出版に寄せて

 エスター・テーレンと私が、自己組織的なダイナミック・システムとしての発達のプロセスがどのようなものかを著作にまとめようと決意してから25年の時が経ちました。その当時、発達心理学は単一の原因や生得的な起源、そして知識表象に多大な関心を寄せていました。これらの構成概念は、乳児期そして幼児期を特色づけるドラマティックな行動上の変化についてはもとより、人間の知性を特徴づけている非常に適応的で創意に富んだ多様な行動についても容易には受け容れられない説明を提起していたように思われました。私たちは、エスターの専門分野である運動スキルの領域からより優れた説明の枠組みに関する最初のインスピレーションを得ました。たとえば(少なくとも1994年の時点で)世界最高のバスケットボール選手であったマイケル・ジョーダンは、完全に同じ動作を繰り返していたわけではないという点で、まさしく熟達していたといえます。これをさらに正確にいえば、彼の偉大なる洗練された特性とは、特定の瞬間的な文脈に適合するように無限に変化することであったといえるでしょう。ほんの数秒で実現される、文脈に応じたこのような適応的でスマートな適合が、時間のなかで連続的に変化した相互に影響しあう多数の要素をもったシステムという用語によって、その内的なダイナミクス、システム自体の履歴、および外界からの即時的な入力から生じる結果として説明され得ることを、私たちは運動行動についてのダイナミック・システムズ・アプローチによって確信したのです。こうして人間の認知とその発達を同じ理論的用語で理解しようとすることが、私たちの重要なアイディアになりました。

 発達的な変化とは、多要因が関係したものであり、さまざまな時間スケールにわたって作用し、いくつもの分析水準(遺伝子にはじまり、親の行動や言語環境、そして社会集団に至るまで)を交差して相互作用する多数の入れ子になったプロセスが集合した結果である、という議論を私たちは展開しました。この多要因性ゆえに、表面的には関連がない複数のシステムが、他のシステムの発達における原因となる、または変調や許容的な役割を果たすという非自明的な因果的関係の広がりが存在することになります。この複雑性こそが、相互に関連した数々の原因の絡み合いを生み出すのです。これら全てのことが、発達科学への新しいアプローチが必要であることを物語っていると私たちは指摘しました。

 発達のプロセスにおける行動の役割を理解するには、多数の時間スケールを横断する変化のメカニズムを理解する必要があります。行動(たとえば歩行、読書、自己制御)とは、神経の興奮にかかるミリ秒、目的的な行為にかかる2~3秒ないしほんの数秒、課題遂行にかかる数秒ないし数分、そして技能学習にかかる数時間、数日、さらには数年といった数多くの時間スケールのもとで生じる、さまざまな変化が集合した結果なのです。

 生後の発達における行動の役割を理解することは、多様な分析水準における変化のメカニズムを理解するということも意味しています。たとえば歩行の発達や言語獲得、あるいは怒りに関する行動の制御や情動状態といった行動発達は、遺伝子、神経系、生体力学、心理学、そして環境要因を含む、数多くの異なる分析水準でのプロセスに依拠しているのです。

 最後に、私たちは発達研究における還元主義者のアプローチとは対立するシステム間の協同現象を主張しました。この提案は、現象の本質を単純化し、あらゆる要素をバラバラに解剖してしまうことを目的とする、科学において支配的であった方法論とは相容れないものです。近代科学における還元主義者の方法論が収めた目覚ましい成功は、確かに否定できるものではありません。たとえばその方法論は、生命システムの分子成分に関する全く新しい知識をもたらしたといえるでしょう。しかし一方で、それら分子成分の膨大な集合(すなわち生きて活動している総体としての子ども)が複数のシステムとしてどのように作用しているのかを矛盾なく理解することには至っていないのです。

 私たちがこの著作を執筆してからの数年の間に、発達科学のあらゆる分析水準において多くの進歩がありました。特定の現象について私たちが提案した説明のいくつかは、その詳細において正確であったのかが明らかになっていないものもあります。しかし、神経および行動の水準における変化の科学は、複雑系の方向に向かっているのであり、私たちの著作が今もなお有用であるという立場で進んでいるのです。

    2018年1月2日

        リンダ・スミス
        (インディアナ大学ブルーミントン校 心理・脳科学部 特別教授)