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四六判並製200頁

定価:本体1400円+税

発売日 2018年5月5日

ISBN 978-4-7885-1567-3





小熊英二 著

決定版 日本という国
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 いまの日本は、福沢諭吉の「鼻毛抜き」から始まった? 私たちはどのようにして「日本人」になったのか。また、その背後にはどのような仕組みがあったのか。そしてこれからの日本は? この国に生きるすべての人必読、各方面で絶賛された、誰にでもわかりやすい画期的な近/現代史。私たちがふだんあたりまえのものとして了解しているさまざまな概念について、膨大な文献にあたりながら緻密な検証と独自の問い直しを試み、多くの領域に強い影響を与え続ける社会学者によるロングセラーを著者自らが改訂し、「決定版」として刊行!

決定版 日本という国 目次

決定版 日本という国 あとがき

ためし読み



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決定版 日本という国 目次

まえがき

第一部 明治の日本のはじまり

第一章 なんで学校に行かなくちゃいけないの
    なぜ「学問のすすめ」?
    国を強くするために勉強させる

第二章 「侵略される国」から「侵略する国」へ
    「東洋」と「西洋」
    「東洋」を脱して「西洋の国」の仲間入り

第三章 学歴社会ができるまで
    江戸時代の教育
    親が学校を焼打ちにする
    学歴社会の成立
    国に「尽くさせる」ための教育

第二部 戦後日本の道のりと現代

第四章 戦争がもたらした惨禍
    日本が戦争で受けた傷
    アジア諸国の被害

第五章 占領改革と憲法
    アメリカの占領政策
    憲法は「押し付け」だったか
    「国の誇り」だった第九条

第六章 アメリカの家来になった日本
    アメリカの方針転換
    サンフランシスコ講和条約
    「独立国」になったけれど…
    複雑なアメリカの感情
    戦後賠償のあり方

第七章 これからの日本は
    冷戦の終わりと戦後補償要求
    靖国神社の問題
    アメリカの自衛隊海外派遣要求の高まり
    おかしい日本の「ナショナリズム」
    今後の「日本という国」

あとがき


決定版 日本という国 あとがき

  この本が最初に出版されたのは、二〇〇六年でした。編集の方からの依頼は、「日本という国」の成り立ちを、一〇代にわかってもらえる本を書いてほしいということでした。

 その二〇〇六年から、一二年がたちました。その間に日本社会も、日本をとりまく世界も、大きく変わりました。

 日本社会についていえば、「格差社会」という言葉が流行語大賞にあがったのが、ちょうど二〇〇六年でした。それから世界金融危機がおこり、政権交代があり、震災と原発事故がおきました。二〇〇六年には、スマートフォンも発売されておらず、YouTubeもできたばかりでした。

 また日本の国際的位置も、変わりました。たとえばドルで換算した中国のGDPは、二〇〇〇年には日本の約四分の一でした。それが二〇一〇年には日本を抜き、二〇一七年には日本の三倍近くになりました。そのほかにも、この一〇年の世界の変化には、講演や国際会議などで他国に行くたびに目をみはります。

 しかし、日本の社会や国際的位置は大きく変わったけれど、変わっていないことがあります。それはこの本であつかった、明治からの近代化のあり方と、戦後からのアメリカとの関係です。

 明治からの近代化のあり方は、いまでも日本に影響をのこしています。西洋に追いつき、追いこせ。植民地にされないために、強く豊かにならなくてはいけない。一言でいえば、これが日本の近代化の動機だったといってよいでしょう。

 この近代化のあり方は、植民地化を逃れ、周辺地域を勢力圏に収めたあと、戦争に負けることでいったん挫折しました。しかしその後、復興と経済成長によって、一九八〇年代には経済大国とよばれるに至りました。

 しかし、経済大国になったあと、日本は目標を失ってしまったようでした。それまで、西洋に負けないようにしよう、強く豊かな国になろうと努力してきた。けれど、強く豊かになったあと、どうするのかまでは考えていなかった。そんなふうに、他国からは見られていたようです。

 考えてみれば、軍事的な強さも、経済的な力も、それじたいは目標にはなりえません。軍事力や経済力を使って、何をするかのほうが問題なのです。それを考える余裕がなかったのが、明治以降の日本だったといえるかもしれません。

 二一世紀に入ると、日本社会のなかに格差が広がり、経済大国という言葉にもかげりが出てきてしまいました。しかしそれでも、「もういちど強く豊かになろう」という以外の目標をたて、それとはちがうあり方の国をめざせるようにはなっていないようです。つまり日本という国は、明治いらいの近代化のあり方に、今でもしばられているといえるでしょう。

 アメリカとの関係はどうでしょうか。戦後の日本という国は、いろいろな意味で、アメリカとの関係のなかで形づくられてきました。

 象徴的なのが、日本国憲法と日米安保条約です。この二つは、アメリカの存在と大きく関係しています。そして、この二つが奇妙にからみあったかたちで、日本のあり方を決めています。

 敗戦直後の状態から、高度成長やバブル経済などを経て、日本社会が変化していっても、この二つは変わりませんでした。冷戦が終わり、他のアジア諸国が経済的に成長して、世界が大きく様変わりしても、この二つは変わりませんでした。

 私としては、この本の最後に書いたように、アジア諸国と新しい関係をつくり、そしてアメリカとも新しい関係をつくれば、この二つの今のあり方は変えられると思っています。しかし現実には、日本経済にかげりが出て、中国が台頭すると、ますますアメリカとの関係をかつての形に保とうと望んでいる人も多いようにさえ見えます。

 それはまた、「もういちど強く豊かになろう」という、かつての目標にこだわり続けていることとも重なっているようです。つまり、明治からの近代化のあり方と、戦後からのアメリカとの関係は、いまでも日本に大きく影響しているといえるでしょう。

 そういうわけで、この本があつかっている二つのテーマは、いまでも「日本という国」を理解するうえで、欠かせないものであると思います。今後も当分のあいだは、欠かせないものであり続けるかもしれません。今回、新装版を出そうという編集者からのすすめに、私が同意したのはそういう理由からでした。今回の発刊にあたっては、新しい事実関係やデータは、どうしても必要と思われる最低限のものに絞りました。細かい最近の事実を加えても、五年もたてば古くなってしまうかもしれない。またこの本があつかった二つの問題の骨格は、基本的に変わっていないと考えたからです。ですから、むしろ、「決定版」とするにふさわしいよう、今後も長く読まれうる内容とすることに努めました。

 二〇〇六年のときも、また今回も、編集をしてくださったのは清水檀さんです。多くの読者に、こうした本を届けられる機会を作ってくださったことを、感謝します。

二〇一八年三月 小熊英二