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神田孝治・遠藤英樹・松本健太郎 編

ポケモンGOからの問い
――拡張される世界のリアリティ


A5判並製256頁

定価:本体2600円+税

発売日 18.1.31

ISBN 978-4-7885-1559-8




◆ポケモンGOは「何」をもたらしたか?

 2016年にリリースされると熱狂的なブームになり、多くの話題を提供してきた「ポケモンGO」。「歩きスマホ」の事故や警告もあり、沈静化したようにも見えますが、根強い人気を保っています。本書は「ポケモンGO」を社会現象に終わらせず、学問的に受け止めて、応答しようとするものです。社会学、ゲーム論、メディア論、観光学、宗教学などの18人の著者たちが、その問いかけに真摯に応えます。「聖地」の形成メカニズム、ゲームを巡る虚構と現実、デジタル地図と身体移動、ゲームを利用した地域振興などが、具体的な実践とフィールドワークを通して語られています。観光地化の問題でも、地元と若者たちの新しい共同性が見え、希望が膨らみます。鈴木謙介氏へのインタビューも収録。

ポケモンGOからの問い 目次

ポケモンGOからの問い はじめに

ためし読み


ポケモンGOからの問い 目次

はじめに  編者一同
巻頭インタヴュー 多孔化からみるポケモンGO
  インタビュイー 鈴木謙介

Ⅰ部 現実と虚構への問い
第1章 ポケモンコンテンツの系譜
――その終着点としてのポケモンGO   [メディアミックス]小池隆太

第2章 ポケモンGOの観光コミュニケーション論
  ――コンテンツ・ツーリズムの視点からの観光観の刷新
   [コンテンツ・ツーリズム]岡本 健

第3章 ポケモンGOのリアリティ
  ――『Ingress』との比較から   [フィクション]河田 学

第4章 穢れなきポケモンと現実の都市
  ――ARによって浮き彫りになる、現実世界への糾弾   [都市]藤田祥平

第5章 いかにして私たちはポケモンGOと接触するのか
  ――二つの指標性から出発して   [コンタクト]谷島貫太

第6章 ポケモンGOでゲーム化する世界
  ――「ゲーミフィケーション」概念を再考する   [ゲーミフィケーション]松本健太郎



Ⅱ部 デジタル技術とメディアへの問い

第7章 新たなるモバイル・ハイブリッド
  ――ポケモンGOがうみだした虚構と現実の集合体   [モバイルメディア]神田孝治

第8章 現実はいかにして拡張されたのか
  ――写真、GPS、ナビゲーション   [拡張現実]増田展大

第9章 デジタル地図を遊ぶレイヤー
  ――グーグルマップからポケモンGOへ   [地図] 松岡慧祐

第10章 ポケモンGOと監視社会
  ――人間の終わりの始まり?   [監視]森 正人

第11章 ゲーム攻略サービスからプレイヤーの〈状況〉を再考する
  ――攻略本・攻略サイト、サービスツールがもたらすもの   [攻略サービス]山﨑裕行

第12章 資源化される宗教感覚、資源化を飼い慣らす宗教感覚
  ――ポケモンGOをめぐるイスラーム的批判からの考察   [宗教意識]安田 慎


Ⅲ部 社会と文化への問い

第13章 文化産業論を移動論的に転回せよ!
  ――〈時間〉と〈空間〉に向けた欲望の生成プロセスの起動装置
   [モビリティ]遠藤英樹

第14章 ポケモンGOという旅
  ――どこからが旅かしら   [観光]高岡文章

第15章 上を下へのポケモンGO
  ――拡張現実が生活世界にもたらすもの   [リアリティ]須藤 廣

第16章 コンテンツに〈容易に〉上書きされるセカイとどう付き合うか
  ――「聖地巡礼」現象との比較から考えられること   [聖地巡礼]谷村 要

第17章 アメリカ人はポケモンGOに何をみたのか
  ――定着するAnime文化   [日本文化]新井克弥

第18章 公共空間におけるマナー教育を再考する
  ――「ポケモンスタンプラリー」とポケモンGOの受容体験を比較しながら
   [マナー]デボラ・オチ

ポケモン年表
作成 藤田祥平
索 引


ポケモンGOからの問い まえがき

 二〇一六年七月、スマートフォン向けの位置情報ゲームとしてPokemon GO(以下、本書では「ポケモンGO」と表記する)の配信が開始された。ナイアンティック社(Niantic, Inc.)と株式会社ポケモンが共同開発した本ゲームは、瞬く間に世界中の人びとを魅了し、まさに社会的現象となっただけでなく、多岐にわたる影響を各所におよぼした。

 こうしたポケモンGO現象をめぐって、そのリリースの翌月には『世界を虜にするポケモンGO――世界中の大人を夢中にさせるゲームの魔力とは』のタイトルで、『ニューズウィーク日本版』の特集号が発行されている。そのなかでも、アレクサンダー・ナザリアンは、「戦争をやめて、ポケモンGO」と題する記事において、「このゲームには、現実を微調整する力がある」と指摘し、フロリダ州での銃乱射事件、バングラデシュでのレストラン襲撃事件、バグダッドでの爆弾テロなど凄惨な事件が多発する昨今の世界情勢にあって、それが「無数の人びとを夢中にさせる」ものであることを前向きに評価している。このように、ポケモンGOの社会的影響としては、人びとを新たに連帯させるその統合作用を肯定的に(場合によっては楽観的に)批評するものも散見された。

 だが、各所の言説において強調されていたのは、むしろそのネガティヴな影響であったともいえる。実際にポケモンGOは、その人気ぶりから一躍脚光を浴びつつも、他方では無数の社会問題を惹起するに至った。こうした問題のなかでとくに顕在化することになったのは、画面に意識を固定されたプレイヤーの行為と、その画面外における社会とのあいだに生じたある種の「軋轢」であった。「歩きスマホの禁止」が社会のいたるところで啓発される現在、たえまなく画面をタップしフリックするプレイヤーが公共空間を闊歩する。しかもそのプレイヤーは、画面内の記号群の挙動に集中しながら、空間の移動に従事するわけである。過去には類例のなかった大勢のプレイヤーによるこうした行為が、その他の人びとに違和感を覚えさせたり、社会的規範と抵触させたり、さらには新たな危険を生じさせたりしたのである。

 周知のように、ポケモンGOによってもたらされた「熱狂」が今日まで継続しているというわけではない。嵐のようなブームが過ぎ去ったあと、本ゲームがマスメディアに取り上げられる機会は極端に減少していった。むろん昨今では、日々、ある特定の作品や事象がマスメディアやソーシャルメディアの回路を通過し、それが人びとの注意をいっとき占拠しては忘れさられる、というサイクルが量産されているが、その意味では、ポケモンGOはまさにその最たる事例となりつつあるようにも思われる。しかし他方で、そのような流行現象はそれが忘却された後も、以前とは異なる何かを私たちの世界に持ち込みつづける、といえるかもしれない。

 ポケモンGOというゲームは、単にこうした現代社会における消費サイクルを超えた「何か」を私たちに突きつけるものとなった。見方によっては、このゲームがもたらした現象は、それまでの社会にはなかった「何か」を生じさせたり、顕在していなかった「何か」を提起したりする重要な契機だったともいえる。しかもポケモンGOというゲームがその内容を更新しつつ継続しているばかりでなく、それを生じさせた科学技術、そして、それをとりまく社会的状況が現在まで継続している状況下において、その「何か」は完全に消失することなく、(少なくとも潜在的には)「今」に引き継がれているのである。

 本書はポケモンGOがもたらした「何か」について、多様な視座から検討をくわえることを企図して構想された。具体的には、ポケモンGO、およびそれに付随して惹起された社会現象を研究の対象として、哲学、観光社会学、地理学、記号論、メディア論、イスラーム研究、コンテンツ・ツーリズム研究、写真研究、ゲーム研究など、多彩な学問的背景をもつ一八名の執筆陣がそれぞれの専門性を活かした議論を展開している。実際にポケモンGOをめぐる諸々のトピック――たとえば本作品をめぐる「聖地」の形成メカニズム、ゲームをめぐる「シミュレーション」の様態、デジタル地図と身体移動の関係、ゲームを利用した地域振興の試みなど――に目を向けてみると、それらの題材そのものが学問的検討に値するさまざまな論点を含んでおり、また現代社会の組成を浮き彫りにするものともいえる。しかもそのリリース以前と以後とを比較してみると、それらの各論点について、従来的な研究上の視角からではうまく把捉することができない事態が生じている場合すらある。本書が掲げる『ポケモンGOからの問い』のタイトルが示唆するように、本ゲームやそれがもたらした各種の現象への問いは、現代社会についての問いや、さらには研究上の視点についての問いへと繋がっているのである。

 本書では、とくに研究上の視点をめぐって、各領域の研究者たちがポケモンGOによってある種の「挑戦状」を突きつけられていると仮定し、執筆者それぞれの専門分野における主要概念、あるいは、それをめぐる議論がどのように変わった/変わる可能性があるのか、また、ポケモンGO以降に私たちは各領域で何を問う必要があるのか、という点についても分析が展開されている。とりわけ本書の副題と関連づけていうなら、ポケモンGOはデジタルテクノロジーによって拡張されたリアリティの複雑さを示す好例ともいえる。本書はこうした現象について、各領域の研究者が今後のアプローチを模索する挑戦的な書籍でもある......

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編者一同