
A5判336頁
定価:本体4600円+税
発売日 06.10.25
ISBN 4-7885-1018-9



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◆勝ち/負けを規定するもの◆
どんな市場にも伸びる会社、衰退する会社があり、どんな会社にも出世する人、
しない人がいます。何が違う? これまでは、資本力、製品力/知性、魅力、
努力など、組織や人に属する要因が注目されてきました。しかしどんな大会社
でも、資質に恵まれた有能な人でも、ときに一敗地にまみれるのが社会という
ものです。では真の勝利の要因とは何でしょうか。それは、組織・人のもつネ
ットーワークと、その中での位置なのです。「構造的空隙(=ネットワーク関
係における穴)」という概念を提出してそのことを立証し、社会的競合の解明
に大きな役割を果たした原著待望の邦訳です。訳者は、ネットワーク分析研究
の第一人者で、東京大学特任助教授。
◆本文紹介(「訳者あとがき」より)◆
本書の最も重要な貢献は、関係の存在ではなく、関係の「不在」がもたらす利益と不利益を、
マクロからミクロまでの多様なレベルの事例とともに実証したことである。
関係は、基本的に不可視である。関係の不在に注目する構造的空隙の理論は、ないモノの効
果を論じるという、禅問答的な議論である、ない関係を探す、存在しない関係のもつ力を特定
するのだから、これは具体的に実在する何らかの物や人の影響力を特定するよりも、よほど巧
みな理論展開が要求される。
ネットワーク分析では、誰と誰、何と何のあいだに関係があるのかばかりを考えているよう
だが、実際はまさにその逆で、関係がない場所こそが注目の対象である。その証拠に、ネット
ワーク分析者にとって一番恐ろしいのは、研究対象すべてがすべて繋がり合っている状態であ
る。いわゆる完全グラフだ。関係にバリエーションがない状態では、構成要素のもつ位置特性
を特定できなくなる。関係の不在は、構成要素に個性をもたらす。だからこそ、どこに関係が
欠落しているのか、関係の不在を探すことが重要なのである。さらに言えば、日常生活では不
可視な何かのもつ影響力を特定することに研究の醍醐味がある。
(中略)
本書における著者の主張は、構造的空隙が、関係を構成する個々の要素にいかに競争状態を
生じせしめ、勝者と敗者を作り出すかに他ならない。ネットワークにおける空隙は競争構造を
つくりだし、ある者には利益を、ある者には不利益をもたらす。そして空隙は勝者と敗者を規
定する。市場における部門間競争、企業の管理職の昇進競争、役割とパーソナリティの葛藤。
マクロからミクロな現象まで、様相のまったく異なる状況の背後に共通して潜み、その場のプ
レイヤーたちを翻弄する空隙の力を描くことに、著者の最大の情熱が注がれている。
本書のもう一つの重要な貢献は、構造的空隙の理論が、一つの社会的資本の議論、いわゆる
ソーシャルキャピタル論となっていることである。社会的資本の議論は、パトナムを筆頭とす
るコミュニティの住民の帰属関係や信頼関係の重要性を論じる立場と、主体間の関係が生成す
る諸々の特性のうち、関係形成者に何らかの報酬をもたらす関係のあり方に注目する立場とが
ある。構造的空隙の理論は、ある特定の関係の型―とその内部の関係の不在―がもたらす優位
性を社会的資本としてとらえている。人々の間に何であれ関係さえあれば、何か豊かな見返り
がもたらされると言う単純な見解とはまったく異なる理解である。この点、ネットワーク内の
相対的優位と相対的不利を論じる、構造的空隙の理論は、ウィンウィン関係に懐疑的でもあり、
この概念のもつ諸刃の剣の側面には戦慄もはしる。(略)
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