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秋庭 裕 著

アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉の55年
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四六判並製272頁

定価:本体1800円+税

発売日 17.11.5

ISBN 978-4-7885-1543-7




◆どのようにして受け入れられていったのか
 創価学会は圧倒的に巨大な宗教組織であり、世界各国に約220万人の会員を擁しています。世界への第一歩は1960年、アメリカから踏み出されましたが、学会の教えが、日本とは大きく文化背景の異なる風土にどのように届けられ、根付いていったのでしょうか。なぜ、いかに人々がメンバーとなり、信仰を継続していったのでしょうか。本書は、アメリカ創価学会の創立時からの歩みの綿密な調査研究にもとづく報告です。学会員にも実際にはよく知られていないその姿を、一般読者にも理解できるように描き出しました。そしてそれは、戦後日本人が何を求め生きてきたかを理解するための、格好のテクストともなっています。宗教や宗教団体は科学的な研究がもっとも扱いにくい領域の一つですが、信仰者のリアリティを疎外せずに、非信仰者の客観的な観察と理解と両立させることを目指した、宗教社会学の成果です。本書の続編『アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉における異体同心』も、制作が進んでいます。

アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉の55年 目次

アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉の55年 はじめに

ためし読み

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アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉の55年 目次
はじめに

第1章 ハワイから西海岸へ
 1 ハワイ─SGIの黎明
 2 最初の一人
 3 戦争花嫁たち
 4 アメリカで生きる
 5 二世と出会う
 6 60年代の発展─日本とアメリカ
 7 公民権運動とベトナム戦争

第2章 成熟から停滞へ
 1 ヒッピーからハッピーへ
 2 イーサン・ゲルバウム
 3 試練の兆し
 4 成熟から変化へ
 5 SGI設立
 6 ブルー・ハワイ・コンベンション
 7 広布第二章からフェイズ2へ
 8 燎原の火のように
 9 ジョージ・M・ウィリアムス

第3章 波濤を越えて─アメリカと日本
 1 大停滞
 2 五十二年路線問題
 3 シカゴとカプチャー・ザ・スピリット
 4 カプチャー・ザ・スピリットから世界青年平和文化祭へ
 5 第一回SGI総会開催
 6 気高く、王者のごとく
 7 北半球一周と「立正安世界」
 8 「魂の独立」

第4章 広布千年の基礎
 1 1990年2月─ロサンゼルスの十七日間、その一
 2 1990年2月─ロサンゼルスの十七日間、その二
 3 SGI-USA
 4 「SGIブディズム」へ
 5 広布五十五周年

おわりに アメリカ社会と日蓮仏法─その親和性
 1 唱題行のポテンシャル
 2 一生成仏という救い

あとがき

参考文献一覧

装幀=新曜社デザイン室


アメリカ創価学会〈SGI‐USA〉の55年 はじめに

 グローバリゼーションとナショナリズムが同時進行する現代の世界で、私たちは日々未曾有の時代を経験せざるをえない。二十一世紀の行方は、混迷の度合いをさらに深めていくばかりにも思われる。人類は、希望をもって未来を展望することができるのだろうか。

 そういうなかで、一つだけ明らかなことは、どんなに国家や民族、そして宗教をめぐる緊張や対立が生じ、ときに深まろうとも、日に日に相互依存を深めていく地球社会の未来は、平和や友好や共生をキイワードにしてしか切り拓かれないという、シンプルな事実であるだろう。

 そして、それらを実現しようとする試みを、半世紀以上前から創価学会=SGIが継続してきたことは、じつはあまり広く知られていないかもしれない。「もはや戦後ではない」というフレーズが人口に膾炙していた時代、早くも創価学会は世界への第一歩を北米・南米から踏み出したのであった。

 その日から半世紀以上を経て、創価学会インタナショナル(Soka Gakkai International:SGI)は、現在、世界192ヵ国・地域にわたり会員を擁するまでになり、およそ220万人に達している(創価学会広報室 2017:26)。ちなみに、世界に冠たるトヨタ自動車の海外販売拠点網は172と発表されている。また国連加盟国数が193ヵ国であることからも、SGIの広がりが、ほとんど全世界におよぶことが分かるだろう。

 創価学会は、日本国内では827万世帯の会員数を公表している(創価学会広報室 2017:21)。世帯単位の計数なので他の宗教教団や組織団体と比較するのが難しいところもあるが、創価学会が抜きん出て規模の大きな組織であることは明らかである。

 宗教団体では、神社本庁が9650万人を超える数字を掲げているが、このような数になるのは、神社の所在する地域の住民が半ば自動的に氏子に数え上げられるからである。伝統仏教教団では、東西本願寺派がそれぞれ約800万の信者数を数え、浄土宗(約600万)、高野山真言宗(約400万)、新宗教教団では立正佼成会が約300万を超えている。これらの数字と比較してみても、827万世帯がいかに巨大な規模の組織であるのかが理解できるはずだ。

 しかし、創価学会の特質は、たんに巨大教団だということだけではない。戦前に初代会長の牧口常三郎によって「創価教育学会」として設立された当初から、教育に強い関心を寄せていた。現在では幼稚園から大学まで設立し運営している。また近年では、アメリカ合衆国において設立されたリベラルアーツ系大学、アメリカ創価大学(Soka University of America:SUA)も順調に卒業生を送り出している。

 教育、文化、そして芸術への注力は、歴史の長い「民主音楽協会(民音)」、「東京富士美術館(富士美)」、「東洋哲学研究所(東哲研)」などの関連団体の、狭い意味での宗教の枠にとらわれない活動にも現れている。さらに、発行部数550万部の日刊紙である聖教新聞をはじめ、第三文明社、潮出版社、鳳書院などの出版社は、創価学会本体とは別法人であるが、宗教活動と文化、芸術、教育をつなぐ重要な役割を果たしている。

 さらに、いっそう顕著な特徴は、1964年に設立された公明党の存在である。公明党は、創価学会を最大の支持母体とする政治政党であり、1993年の連立政権参加以来、下野した時期もあるが、今日も政権与党の一翼を担い政局の重要な位置にある。

 公明党と創価学会は、とくに1970年以降は、まったくの別組織となっており、公明党を「宗教政党」と捉えることは難しい。しかしながら、憲法によって定められた政教分離の原則が人びとに正しく理解されていないため、一般にはどこか両者の関係を疑わせる視線を醸成しがちなのかもしれない。

 要は、創価学会がきわめて大きいこと、そして、宗教教団であるのに政治に「近接」しているということで、外部からどこかうかがい知れない存在であると思われがちなのであろう。

 巨大でありながら、実際にはよく知られていないという、創価学会を取り巻く状況は、学術研究的な観点からも当てはまる。創価学会について週刊誌などのジャーナリズムが扱う記事など少なくないが、客観的なデータを提供するものはそう多くない。またアカデミズム的な視点からの調査研究も限られている。

 とくに1970年代以降、創価学会研究は非常に少なくなっていった。その理由はさまざまであり、ここで詳しく取り上げることはできないが、重要な点は、創価学会が日本社会において抜きん出た大組織となり、無視できない一大勢力となったそのときに、学術研究がほとんどなくなってしまったということである。

 戸田城聖第二代会長が死去した1958年に100万世帯であった会員数は、1970年には750万世帯に達した。このとき、戸田が主導した折伏大行進という激しい宣教から、民主化と近代化を目指す「広布第二章」路線への転換がはかられ、創価学会が「完成期」に入ったことが内外に示された。この完成期のシンボルとして、壮大な「正本堂」の落慶、公明党との組織分離、創価大学の設立など、今に至る創価学会の基本型が整い、日本社会の一大勢力となったまさにそのとき、創価学会の客観的で等身大の姿を知ることが難しくなってしまったのであった。

 本書の意図は、そのような創価学会研究の空隙を一気に埋めようとするものではない。それは、もとより不可能である。本書で試みたことは、創価学会の活動のなかでも、世界192ヵ国・地域にも広がりながら、一般の人びとにはもちろん、じつは多くの創価学会員にもそのリアルな姿が知られることの少ない、海外会員の信仰生活を描き出そうとするものである。

 本書では、海外への広布(広宣流布=宣教)の歴史のもっとも古い、Soka Gakkai International USA(SGI-USA) を取り上げて行った調査に拠りながら、アメリカ合衆国の人びとがなぜ・いかにSGI-USAのメンバーとなり、何を願って信仰を継続しているのか、創価学会もSGI-USAも知らない一般読者にも理解できるように明らかにしようとするものである。

 アメリカ合衆国における創価学会の先行研究は、いくつかまとまった成果が刊行されているが、近年ではハモンドとマハチェクによる『アメリカの創価学会』が日本語にも翻訳されている(ハモンド・マハチェク 2000)。調査票によるサーベイを行った包括的な社会学的研究であり、アメリカ合衆国におけるSGIメンバーの社会的属性やプロフィールを鳥瞰できるように結果が提示されているが、日本人の目から見て物足りないところがある。

 もっとも食い足りないのは、日蓮や法華経から淵源するその教えや、さらに戦後の創価学会を強力にリードしてきた池田大作第三代会長の事績などが、アメリカ合衆国に生きる人びとにどのように届けられ、日本とは大きくコンテクストの異なる風土にいかに根付いてきたか、その経緯や必然性などが十分に解明されていないと思われる点である。

 『アメリカの創価学会』に無い物ねだりするよりも、それらの疑問を自力で明らかにしたいと思い、本書の構想を練ることとした。そして、当初は、「アメリカ合衆国の創価学会」に焦点化して研究するということでスタートを切ったのだが、すぐに日本の創価学会が分からなければ、アメリカやまた世界のSGIは理解できないという、ごく当たり前のことに気がついた。

 それで、結局、一から創価学会について学び始めたが、すると芋づる式にいろいろ興味ふかいことに気がついた。創価学会の歩みを知ることは、まさに戦後日本の歩みを丸ごと知ることに直結することである。一宗教団体にすぎない創価学会であるが、その戦後日本に占める位置は、日本社会を理解するためにきわめて魅力的なパースペクティブとなり、またその存在が大きく重いことである。つまり、経済・政治・社会の諸分野において、戦後日本人が何を求め生きてきたかを理解するための、格好のテクストとなりうるということを見出したのである。

 先に述べたような事情で、とくに1970年以降の創価学会研究がほとんど蓄積されていないという事情はあったが、1960年に開始されたアメリカ広布の歴史をたどることは、戦後再発足した創価学会自体の歴史の大部分をたどり直すことにほとんど直結し、そこで、第一次資料を渉猟し、資料を欠くものについては、事情を知る関係者をたどるなどして、太平洋を挟む創価学会とSGI-USAの半世紀の再構成を試みた。

 それらの成果についての評価は読者の皆様に委ねるしかないが、本書の試みは、創価学会の海外展開の嚆矢となったSGI-USAの歩みを明らかにするとともに、日本・創価学会と池田第三代会長の足跡をたどることにおいて、従来あまり知られていなかった事実と、事実と事実をつなぐ連関を明らかにすることにおいて、宗教社会学的な研究に一定程度以上の貢献ができたとすれば、望外の喜びとするところである。  第1章から第4章まで、SGI-USAの歴史を振り返りながら、アメリカ広布がどのように進められたのか画期ごとに描き出した。その際、この一見したところ自明とも思われる課題にどのような姿勢と方法論で臨んだのか付言しておこう。

 宗教、あるいは宗教団体は、科学的な研究の営みがもっとも扱いにくい領域の一つである。信仰者と非信仰者の間には、深くて長い淵がある。合理的・客観的・公平な取り扱いは、それらを標榜しても、双方の側から支持されないこともしばしばであろう。これは、宗教的核心を構成する「聖」に対して、科学がまっすぐに切り込むことができないことから生じる。

 そこで、論述に「工夫」を凝らした。あまり目立たないことかもしれないが、信仰者のリアリティを疎外せずに、非信仰者の客観的な観察と理解と両立するような地平を目指したのである。それは、「内在的理解」と「濃密」で「開かれた」記述にもとづく分析ということである。

 おわりに、では、1章から4章までで論じ切れなかった、日蓮仏法─試論的に、「SGIブディズム」(SGI Buddhism)の名称を提唱した─が、SGI-USAメンバーを魅了する、その教学的な根拠と救済論について考察している。

 SGI-USAの、そして創価学会の、さらにまたワールドワイドに展開するSGIの大きさを考えると、本書の射程はごく短いかもしれない。しかしながら、僭越であるが、まさに「驥尾に附し」た「蒼蝿」さながら、うっすらと垣間見たものの「少量為りと雖も忝くも」正鵠を得ていることを願うものである(御書:26)。

 本書に参照する文献、資料のうち、以下は略記する。

 御書:堀日亨編 1952『日蓮大聖人御書全集』創価学会(第241刷、2005年)
 WND 1999:Soka Gakkai, 1999, The Writing of Nichiren Daishonin I. Tokyo:Soka Gakkai.
 WND 2006:Soka Gakkai, 2006, The Writing of Nichiren Daishonin II. Tokyo:Soka Gakkai.
 WT:『ワールド・トリビューン』(World Tribune)
 ST:『聖教タイムス』(Seikyo Times)
 LB:『リビング・ブディズム』(Living Buddhism)
 年譜 2003:三代会長年譜編纂委員会編 2003『創価学会三代会長年譜 上巻』創価学会
 年譜 2005:三代会長年譜編纂委員会編 2005『創価学会三代会長年譜 中巻』創価学会
 年譜 2011:三代会長年譜編纂委員会編 2011『創価学会三代会長年譜 下巻(一)』創価学会

 なお、本書に登場する創価学会とSGI-USA会員のうち、これまで創価学会やSGIの出版物において、多くの場合、実名で紹介されている方々については実名とした。他の方々は、仮名としている。

 本書では、SGI-USAの歴史と概略を通覧しているが、メンバーの入信過程や態度変容、さらには、複雑で入り組んだ組織の変遷、布教の変化、あるいはその媒体や経典類の英語への翻訳と展開などについては、個別に分析した続編が、川端亮と稲場圭信によって近刊の予定である。本書と併せてご高覧いただければ、いっそう包括的にSGI-USAの全体像を捉えることができるはずである。