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中村桂子 編/JT生命誌研究館発行

ゆらぐ
――生命誌年刊号 vol.88-91


A5判変型並製256頁

定価:本体1600円+税

発売日 17.10.15

ISBN 978-4-7885-1540-6




◆一つ一つ異なる生命のゆらぎ

 生命は細胞レベルで常にゆらいでいて、それゆえに続いてきました。今号では生命のゆらぎに眼を向け、自然の本質を考える知=サイエンスを見つめます。対談では、震災後に小さな《ひと》像を発表したアーティストの内藤礼氏や、東北民話を採訪する小野和子氏、生態学の湯本貴和氏、数学研究の森重文氏らと生命・自然を科学の枠を超えて語ります。また、細胞を対象とした多様なリポートのほか、一線で活躍する科学者たちが、たゆまぬ探究から成果を見出してきた研究人生を振り返るコーナーも読みごたえ充分です。

ゆらぐ 目次

ゆらぐ はじめに



生命誌 年刊号バックナンバー

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ゆらぐ 目次

はじめに

Talk 語り合いを通して
 ◎生態学から地球に生きる知恵を――湯本貴和 X 中村桂子

 ◎地上の光と生きものと――内藤 礼 X 中村桂子

 ◎物語を生きる民話と生命誌――小野和子 X 中村桂子

 ◎見えない世界に自由を描く――森 重文 X 中村桂子

Research 研究を通して
 ◎細胞が生まれる・続く
  分子が関わり合う人工細胞から生命を考える――栗原顕輔
  腸の活発な新陳代謝を支える幹細胞とそのニッチ――佐藤俊朗

 ◎細胞がはたらく 前編
  からだの中を動き回る免疫細胞――片貝智哉
  トマトの実を育む細胞壁の変化――岩井宏暁

 ◎細胞がはたらく 後編
  高度な触覚センサとして活躍する小さな細胞――仲谷正史
  睡眠の進化を語る細胞の発見――林 悠

 ◎細胞が老いる・死ぬ
  生涯はたらくニューロンを支える脳の免疫担当細胞――石井さなえ
  ウイルス感染細胞がたどる生死の分かれ道――岡崎朋彦

 細胞のお散歩――生命誌アーカイブより

Scientist library 人を通して
 ◎反復配列から進化を追う、いつもエキサイトを求めて――岡田典弘

 ◎ゆらぐ自己と非自己――制御性T細胞の発見――坂口志文

 ◎花の性から広がる多様性の世界――矢原徹一

 ◎分子と分子が出会う、減数分裂を追いかけて――山本正幸

あとがき

生命誌ジャーナル掲載号一覧


ゆらぐ はじめに

 今年の動詞は“ゆらぐ”です。風に吹かれる木の枝や水面のかすかな動きなど不規則に少し動く感じを表わす一方、物事の基盤がぐらつくという意味もあります。

 まず、「基盤がぐらつく」に眼を向けます。生きものを機械のように見て進歩を求め、人間による自然の支配を考える現代社会の根っこはぐらついていないでしょうか。生命誌は、人間は自然の一部としますので、科学や技術もその中で生きる工夫として考えます。多様化しながらさまざまな新しい生き方を創り出してきた生きものの進化に学び、社会を基盤から考え直そうと思っています。

 それにはもう一つの“ゆらぐ”が大事です。機械は均一です。一方、生きものは一つ一つ異なる。人間はすべて共通のヒトゲノムの情報ででき上り、はたらいていますが、一人一人少しずつ違います。まさにゆらぎの中にいると言えます。それゆえに、しなやかにしたたかに続いて来たのです。

 季刊生命誌をまとめた年刊号は、トーク(対談)、リサーチ(研究紹介)、サイエンティスト・ライブラリー(研究者紹介)の三つの軸から成っています。研究と研究者紹介は科学、対談は科学に限らず生きものを見つめる眼を持ち、生命誌に広がりを与えて下さる方にお願いしています。

 内藤礼さんは、直島での<このことを>の発表の時、思いがけずお招きいただいたのが初めての出会いでした。「今ここにあること」への思いを、これほど繊細に表現できるものだろうかと思わせる作品に導かれます。東日本大震災(まさに大地が揺らぎました)後の小さな白い<ひと>という表現にハッとしました。小野和子さんは初めてですが、やはり東日本大震災後、「形あるものは流されたけれど命綱としての民話があった」という古老の言葉に動かされ、その日を語る場をつくられたことに共感しました。このような広がりは、生命誌を豊かにしてくれます。

 そして生態学の湯本さんと数学の森先生。専門分化してしまった科学でなく本来の自然を考える知(サイエンス)をつくりあげたいという願いには、知への挑戦者の知恵を借りるしかありません。生態学は即戦の知として学びました。一方数学は正直苦手。けれど思い切って最も難解なお仕事をしていらっしゃる森先生の頭の中を説明していただいたら思いがけぬ刺激を受けるかもしれないと考えたのです。ていねいなお話が魅力的でとてもよい時間でした。いつかきっとこれを生かそう。心に誓いました。

 他の二つの軸も合わせて生命誌がどのような広がりを持てたか、「生命誌アーカイブ」としてまとめながら新しい知を創るの努力をしています。支えて下さる多くの方に感謝しながら今年も年刊号をまとめました。

 お楽しみ下さい。