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鹿嶋 敬 著

男女平等は進化したか
――男女共同参画基本計画の策定、施策の監視から


四六判上製368頁

定価:本体3600円+税

発売日 17.7.15

ISBN 978-4-7885-1528-4




◆ゴールは男女共同参画社会
 政府の男女共同参画会議議員、専門調査会会長を長年務め、第一人者である著者のライフワークの書。安倍政権の目玉「女性活躍推進」は手段にすぎず、「男女共同参画社会がゴール」を持論に、「男女共同参画」基本計画の策定から監視までの流れを追い、男女平等の進化の過程を見通します。男性中心型労働慣行の変革(男性正社員の長時間労働からワークライフバランスへ)、固定的な性別役割分担意識の解消(男は仕事・女は家庭から共働き・イクメンへ)がなぜ鍵かを説き、次世代への諸課題を明らかにします。報告書・議事録から要所を抜粋し、歴代の総理発言を網羅するなど、資料的価値を備えた本書は、女性学研究の基本文献となるでしょう。著者は日経新聞家庭部長等を経て、女性労働協会会長、『男女共同参画の時代』(岩波新書)など著書多数。

男女平等は進化したか 目次

男女平等は進化したか はじめに

ためし読み

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男女平等は進化したか 目次
はじめに  

第1章 男女共同参画社会 形成に向けての歩み

第1節 答申から閣議決定まで
1 二段階の諮問と答申 
2 男女共同参画か、男女平等か
3 選択的夫婦別氏制をめぐって
4 固定的性別役割分担をめぐって

第2節 なぜ男性中心型労働慣行の変革が必要か
1 一九九〇年代前半の試行錯誤
2 「個人」や「私」重視の機運――九〇年代の高まり
3 「生活大国5か年計画」の限界
4 ジェンダーの視点が盛り込まれた「男女共同参画型社会と企業」
5 固定的性別役割分担意識の変遷――世論調査結果から
6 男性中心型労働慣行は本当に変革できるのか

第3節 主流化した「女性活躍」
1 女性活躍推進のルーツ
2 ポジティブ・アクションの実現方法
3 女性活躍推進政策の主流化
4 北欧諸国に見るジェンダー主流化の戦略
5 女性活躍推進はプロセス、ゴールは男女共同参画社会の形成
6 男女共同参画と女性活躍 親子の関係

第2章 男女平等 進化の過程――男女共同参画基本計画から読み解く

第1節 男女共同参画社会基本法の制定(一九九九年)以前
1 男女共同参画ビジョン、2000年プラン以前の状況
2 男女共同参画ビジョン――北京会議の影響力
3 男女共同参画2000年プラン
  
第2節 第一次男女共同参画基本計画(二〇〇一〜〇五年度)の策定
1 企業中心型社会をめぐる議論
2 リプロダクティブ・ヘルス/ライツへの関心
3 広義の男女共同参画の重要性

第3節 第二次男女共同参画基本計画(二〇〇六〜一〇年度)の策定  
1 ジェンダーをめぐる議論
2 第二次基本計画の策定スタート――ジェンダーの扱いをめぐる攻防
3 第二次基本計画答申後のジェンダー論議
  
第4節 第三次男女共同参画基本計画(二〇一一〜一五年度)の策定
1 第三次基本計画の模索
2 男女共同参画はセカンドステージに
3 固定的性別役割分担を前提とした制度・慣行の見直し
4 男性片働きを誘導する税制・社会保障制度の見直し
5 同一賃金・ジェンダー予算・ジェンダー統計
6 男性にとっての男女共同参画

第5節 第四次男女共同参画基本計画(二〇一六〜二〇年度)の模索
    ――男性中心型労働慣行等の変革と「自らの意思」の強調 
1 男女共同参画の遊離感 解消へ
2 202030の目標――二〇二〇年指導的地位の女性を
3 リプロダクティブ・ヘルス/ライツの重要性
4 男性中心型労働慣行等の変革
5 男女共同参画が目指すべき社

第3章 男女共同参画施策の監視と男女共同参画会議が果たす役割

第1節 男女共同参画行政の「監視」とは何か
1 「監視」は男女共同参画社会基本法に基づく機能
2 監視にかかわる専門調査会

第2節 監視専門調査会は男女共同参画行政をどう「監視」してきたか
1 苦情処理・監視専門調査会時代の監視報告書
2 監視・影響調査専門調査会時代の監視報告書
3 監視専門調査会時代の意見等

第3節 監視専門調査会の閉幕
1 廃止になった監視専門調査会
2 報告書で繰り返し語られる重要キーワード

第4章 男女共同参画会議で総理はどう発言してきたか

第1節 総理が語る男女共同参画

第2節 総理発言に見る総理の印象記                 
1 小泉総理から福田総理まで 
2 麻生総理から安倍総理まで
 
第5章 この国に男女共同参画は根づくのか                  

第1節 固定的性別役割分担との闘い
1 性別役割分担意識をめぐっ
2 家事分担・夫の家事時間 
3 働く女性支える「保育所」と「親」

第2節 脱セカンド・シフトの時代
1 仕事と家庭の両立をめぐって
2 第一のステージ、固定的性別役割分担「定着と揺らぎの時代」
3 第二のステージ、「きしみの時代」
4 第三のステージ、「脱セカンド・シフトの時代」
5 米国は子ども中心社会での男女平等を模索

第3節 「ワーク・ライフ・バランス」「同一価値労働同一賃金」「性的マイノリティ」を
    手がかりに考える

1 ワーク・ライフ・バランスの推進と固定的性別役割分担の解消
2 同一価値労働同一賃金と同一労働同一賃金
3 性的マイノリティの位置づけ
4 ダイバーシティ(多様性)の必要性

終章 ゴールは男女共同参画社会の形成
1 制度が変わらなければ、女性の活躍推進もかけ声倒れ
2 男女共同参画社会の形成に向けて

おわりに
索引

装幀 鈴木敬子(pagnigh‐magnigh)
組版 武 秀樹/図版制作 谷崎文子 


男女平等は進化したか はじめに

 本書は、国の男女共同参画基本計画の策定や監視専門調査会での活動など、私の個人的な体験をベースに男女平等の進化論を展開したものである。五年ごとに見直しを行う男女共同参画基本計画は、国の男女共同参画行政の指針である。その策定には、男女共同参画社会基本法の制定年一九九九年に、当時の小渕恵三総理から諮問を受けた第一次計画から、安倍晋三総理から諮問を受け二〇一五年末に答申を行った第四次計画まで、すべてにかかわった。

 同様に、閣僚12人、有識者議員12人で構成し、議長は内閣官房長官が務める男女共同参画会議議員(有識者議員の任期は1期2年)に二〇〇五年九月八日付で任命され、以後、二〇一七年三月末まで再任されてきた。通算で、6期12年務めたことになる。

 このような機会を与えてくれた内閣府、政府には感謝をしなければならない。同時にここまで長期間、継続して国の男女共同参画基本計画の策定や男女参画行政の監視など、国の男女共同参画行政にかかわった者として、それらの体験を通して垣間見た日本の男女平等の進捗状況を報告しておく義務があるのではないか、というのが本書執筆の動機である。

 長期間、国の男女共同参画行政にかかわるなかで、特に専門調査会には会長という立場でのかかわり方が長かったなかで、いつもわが身に言い聞かせ、戒めの糧とする持論があった。

 「政権がどう変わろうと、男女共同参画は生き延びなければならない」

 男女共同参画に強い関心を見せる政権、必ずしもそうではない(と私には映る)政権…。時の流れの中で政権がどう変わろうと、「男女共同参画社会の実現を二十一世紀の我が国社会を決定する最重要課題と位置付け、…施策の推進を図っていくことが重要である」(男女共同参画社会基本法前文)ことを認識してもらう必要がある。一専門委員であれば自己主張に徹することができても、専門調査会の会長になるとそうはいかない場面もあった。専門委員と事務局や政府筋との調整役を果たすことも大きな役目の一つである以上、妥協、いや調整も男女共同参画が生き延びる上での知恵だった。

 本書を読み進める上での御参考までに、男女共同参画基本計画の策定や専門調査会にどんな肩書でどのくらいの期間、かかわってきたかを「はじめに」の末尾にまとめておく。監視専門調査会、基本問題専門調査会の呼称は時代とともに多少変化しているが、大まかに前者は国の男女共同参画行政の監視、後者は男女共同参画の基本的な課題、施策の検討を中心に議論を行ってきた会である。

 通算すれば、男女共同参画社会基本法が制定施行になってから、一八年の年月が経過した(二〇一七年時点)。施行後最初の一〇年間は、当たり障りのない表現をすれば周知の時期だった。別の表現をすれば、「男女共同参画・受難の時期」だった。男女共同参画が危険視され、イデオロギーの問題と結びつけられたりして、男女共同参画は生物学的な性差を認めないとか家族を構成することを否定しているとか、無責任な誹謗中傷も一部に飛び交ったりした。

 男女共同参画をもっと身近なもの、役に立つものにすべきではないか。そんな議論のもと、策定を行ったのが、男女共同参画社会基本法の制定から一〇年近くの年月が経った、第三次男女共同参画基本計画である。二〇一〇年七月の答申では「基本法施行後一〇年間の反省」という項目を設け、固定的性別役割分担意識が根強く、解消に向けた取り組みも不十分だった、男女共同参画社会を実現しようという強い意思、推進力が不足していた、などを理由として挙げた。「目指すべき社会」の冒頭に「固定的性別役割分担意識をなくした男女平等の社会」を掲げたのも、そのような理由からである。

 では、思惑通り、男女平等社会は到来したのか。やはり、「不十分」というのが第四次計画策定時の結論だった。どこが足りなかったのか。そんな議論の末にたどり着いたのが、「目指すべき社会」に盛り込んだ「男性中心型労働慣行の変革」と、施策の中で強調した「固定的性別役割分担意識の解消」に基づく取り組みの推進である。

 第一次から第四次に至るまで、すべての男女共同参画基本計画は「男女共同参画の視点」に基づく女性の地位向上に力点がおかれてきた。第四次計画ではさらに、男性を中心とした長時間労働などの労働慣行と同時に、固定的性別役割分担意識や「性差に関する偏見」を解消しない限り女性の活躍もありえないということを、計画全体を貫く視点として強く前面に押し出した。これらの視点を強調し、他の関連施策と併せて実施して「男性中心型労働の変革を総合的に進める」としたのは、第四次計画が初めてである。

 第四次計画は、二〇一六年度から二〇年度までの、国の男女共同参画行政のアクションプランである。東京オリンピックの開催年でもある二〇二〇年頃には、この国には意図通り、実質的な男女平等社会が到来しているのかどうか。長くこの問題にかかわってきた身としては、ぜひそうなってほしいという思いと同時に、国が掲げる男女共同参画という構想に道筋をつけてきた一人として、責任も感じている。

 そのような思いもあって、これまでのかかわりを改めて検証し、男女共同参画社会の形成がいま、どのあたりに来ているのか、過去にどのような試練を経てきたのか、その理念は若い世代にも伝わり、理解、関心を持ってもらっているのか。男女共同参画社会の形成に向け私たちは今後、どう行動すればいいのか―。

 ざっとこのような問題意識のもと、「固定的性別役割分担意識の解消」という古くて新しい難問への取り組みを各章のベースにおきながら、男女平等は進化したのかどうかという課題に私なりの結論を与えたいと思う。

 そしてもう一点、二〇〇八年五月、旅先のボリビアでの車の衝突・爆発炎上事故で30歳という若い命を散らした最愛の娘、恵里子に、男女共同参画社会基本法施行後の父親の足跡を報告したいという強い思いがある。

 娘は大手製造業の駐在員として海外に赴任し、任期を終えて二〇〇八年三月に帰国、同年一一月に結婚の予定だった。「チチ(私の呼称)の書いた本は読んだことがない」などと一見無関心を装いながらも、実は大いに男女平等に関心を持っていたことは、彼女の婚約者や友人の話からもわかる。

 最愛の娘が突然目の前から消えた時、社会との一切のかかわりを放棄したいと考え、何をする気力もなくなったが、男女共同参画をやり通すことが娘さんの意にも添うことになるのではないか、と多くの人たちから励まされ、今がある。それだけに、男女共同参画の現状とこれからを娘に報告しなければならないという思いが心の中で大きくなっている。

 男女共同参画にあまり関心を示さない人も、本書にぜひ、目を通していただきたい。戦後七〇余年を生きてきた私にとってこの本は、男女共同参画を真っ正面から論じるものとしては、年齢的にも最後のメッセージになるだろう。男女共同参画の世界も、世代交代が必要である。そういう意味も込めて、本書を世の中に送り出したい。

   二〇一七年初夏                                鹿嶋 敬