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山岸 明子 著

つらさを乗り越えて生きる
――伝記・文学作品から人生を読む


四六判上製208頁

定価:本体2200円+税

発売日 17.6.10

ISBN 978-4-7885-1527-7




◆人生はつらいことの連続だ!
 『心理学で文学を読む──困難を乗り越える力を育む』で文学作品を取り上げ、心理学の言葉と理論で困難な人生に向き合う主人公を分析し、心理学の新しい魅力を開いた著者の第二弾です。今回は文学作品だけでなく、実在の人物の伝記やエッセイも取り上げ、罪悪感に苛まれたり、母親とうまくいかなかったり、精神的な病に陥るというように、人生の途上で遭遇して、その後の人生に大きな影響を与えることになった問題に、どのように対処したかを分析しています。誰しもが人生のどこかでつまずき、つらさを乗り越える困難に向き合います。そんなとき、何が生きる力となるのでしょうか。つらさを乗り越える条件とは何でしょうか。じっくり考える機会となる一冊です。

つらさを乗り越えて生きる 目次

つらさを乗り越えて生きる まえがき

ためし読み

◆他著作
発達をうながす教育心理学
こころの旅
心理学で文学を読む

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つらさを乗り越えて生きる 目次
まえがき

1章 子どもにとって「想像上の仲間」がもつ意味は何か
   ─六つの文学作品をめぐって
T はじめに
U 移行対象の機能と意義
V 想像上の仲間
W 物語や小説に登場する「想像上の仲間」
(1)『アンネの日記』のキティ、『赤毛のアン』の二人の女の子、
『悪童日記』のクラウス
(2)『いけちゃんとぼく』のいけちゃん
(3)『思い出のマーニー』のマーニー
(4)『海辺のカフカ』のカラスと呼ばれる少年
X 六つのケースの比較
Y おわりに

2章 罪悪感は何に対してもたれ、償うために何がなされるのか
   ─イアン・マキューアン『贖罪』と中島京子『小さいおうち』
T はじめに
U 望ましくない行動をした後の行動
V 望ましくない行動をした時にもたれる罪悪感
W 『贖罪』
X 『小さいおうち』
Y 二つの小説における罪悪感とその後の行動
Z おわりに

3章 人は何を行動の基準にし、何に救いを求めるのか
   ─遠藤周作の信仰をめぐる六つの小説の変遷
T はじめに
U 『黄色い人』─「なぜ悪いことをしないのか」
「悪いこととは何か」の問い
V 『黄色い人』『海と毒薬』─正しいとされていることへの疑問と
「正しさはあるのか」の問い
W 『沈黙』─西欧とは異なった道徳観
X 『死海のほとり』『イエスの生涯』─弱き人の信仰
Y 『侍』─同伴者としてのイエス
Z おわりに

4章 幼少期に母親との関係が悪かった娘は、その後どうなるのか
   ─マリア・カラスと佐野洋子の場合
T はじめに
U マリア・カラスの場合
V 佐野洋子の場合
W マリア・カラスと佐野洋子の共通点と相違点
X おわりに

5章 なぜ高村智恵子は精神的に破綻したのか
   ─立ち直った二事例と比較して
T はじめに
U 智恵子の生涯
V 智恵子の精神的破綻をもたらした要因
W ナッシュと加賀谷に回復をもたらした要因
X 智恵子・ナッシュ・加賀谷の比較
Y おわりに

あとがき

装幀=新曜社デザイン室
カバー写真 : 橋健太郎(kentaro-takahashi.com


つらさを乗り越えて生きる まえがき

  本書は、2015年に上梓した心理学と文芸評論の中間のような著書(『心理学で文学を読む─困難を乗り越える力を育む』新曜社)の第二弾とでもいうべき本である。前著は、心理学のテーマと関連する「文学作品」を取り上げて、心理学の用語や理論を使って読み解いてみようと試みたもので、特につらい状況と向き合う主人公の言動を発達心理学の観点から分析し、何が人を立ち直らせるのか、人間のもつ精神的回復力の可能性について論じた。今回も引き続き、心理学の方法で収集したデータではなく、公刊されている作品を用いて心理学的な分析を行ったものである。ただし今回は小説だけではなく、伝記やエッセイもあり、実在していた人も分析対象であること、また前著は人生のある時期を描く小説が多かったが、本書は一人の人の生涯全体を扱っているものが多いという違いもある。

 取り上げた作品は学生時代に読んだものから、ごく最近読んだものまであり、思いつくまま書いたものなのだが、こうしてまとめてみると、今回も「人がつらさを乗り越えること」と関連していることに気づく。
 1章の三作品は前著でも取り上げた物語だが、今回は「苦境からの立ち直り」の方略として子どもがつらさを支えるために自ら作りあげた「想像上の仲間」について、さらに三作品をつけ加えた上で論じたものである。2章と3章は前著で取り上げた罪悪感をさらに詳しく論じたもので、どちらも日本の文化の問題の考察が含まれている。2章で取り上げたのは親しい他者の幸福を阻んでしまったことで罪悪感に苛まれる主人公の生涯を描く日英の二つの小説だが、主人公がもつ罪悪感はどのようなものかの分析と共に、罪悪感を抱えた状況にどう対処し立ち直ろうとするのかを論じた。3章は遠藤周作の文学作品の分析で、道徳性の問題やイエス・キリストへの信仰を扱う六作品を取り上げ、主人公たちの言動を分析し、彼らが自分の罪や弱さ、つらさにどう立ち向かうかを論じた。4章では、母親とうまくいかない娘の葛藤や苦闘がどうなっていくのか、生育過程で関係が悪かった娘の成人後の母娘関係、その結末が異なる二つのケース(マリア・カラスと佐野洋子)の比較を行った。5章は才能ある女性(高村智恵子)が自分の道を邁進する中で精神的に破綻してしまう過程を検討し、闘病後回復したケース(数学者ナッシュら)との比較を通して、何が精神的破綻と回復に関与しているのか、精神的健康を規定するものは何かの考察を行った。

 本書が扱う問題は、罪悪感に苛まれる、母親とうまくいかない、精神的な病に陥るというように、人生の途上で遭遇しその後の人生に大きな影響を与える問題である。その長期性、複雑性ゆえにアカデミックな心理学ではなかなか扱えないし、本文でも述べたが、実証的な調査研究の対象にしたり、ケース・スタディとして取り上げて分析することは倫理的にも問題が生じやすい。本書は、それを文学作品やドキュメンタリーを使用して行う試みである(2、4、5章では、二つの異なった事例を比較するという方法をとってみた)。もちろん簡単に一般化・理論化することはできないが、「人がつらさを乗り越えること」について心理学的な洞察を得ることは可能と思われる。

 本書を通して、人がつらい状況にいかに対処して生きていくのかをあらためて考え、また発達心理学の魅力を感じていただければ幸いである。

 なお本書では、本の題名は『 』で表記する。引用は「 」を使用し、引用ページは、一部言い換えたりまとめた場合、および短い引用の場合は記載せず、比較的長くかつ作品の記述をそのまま引用する時に限り記載することとした。