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中村英代 著

社会学ドリル
――この理不尽な世界の片隅で


A5判並製200頁

定価:本体1900円+税

発売日 17.4.10

ISBN 978-4-7885-1516-1




◆軽やかな社会学練習帳!
 初学者向けの清新な社会学テキストをお届けします。本書の目的は、身近な社会現象を学び「社会学的思考力」をマスターすること。特徴は第一に、学生の関心が断然高い「貧困と格差」「恋愛と結婚」「ジェンダー」をしっかりカバーしていること、第二に「生きづらさ」に重点をおき「摂食障害とからだ」「依存症の世界」「医療」「構築主義と心理療法」など臨床社会学の新しい知見を取り入れていること。第三に、半期の講義に対応した13章構成とし、毎回「問題を解く練習帳」を兼ねて各章20個前後の空欄に解答を書き込んで学ぶワークブック形式であること(解答は著者のサイトに掲載)。実践的な「レポートの書き方」も必見、新しい学びの風を呼び込むでしょう。おしゃれな装丁とキリッとしたシンボルマークが魅力的な本書は、社会科学系、看護・福祉系学部の社会学講義のテキストに最適です。

社会学ドリル 目次

社会学ドリル はじめに

ためし読み

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社会学ドリル 目次
はじめに この理不尽な世界の片隅で,解放の瞬間を待つ
   1. 本書の目的/2. なぜドリルなのか/3. 嵐のなかをキリッと進む
   4. ブックガイド/5. 解答

第1章 社会学を学ぶ意義  
1. 講義の目標
     1.1 講義の2つの目的/1.2 講義の目標は何か
2. 社会学はどのような学問か
     2.1 社会学(sociology)の対象/2.2 社会の2つの原理
3. いま,社会学を学ぶ意義
     3.1 年長世代との違い/3.2 現代を生きる私たち
本章のまとめ ブックガイド

第2章 格差と貧困  
1. なぜ格差は問題か
     1.1 格差と階層移動/1.2 格差社会とは何か
     1.3 結果の不平等と機会の不平等
2. 格差は拡大しているか
     2.1 経済格差はどう拡大しているか/2.2 雇用環境の変化
     2.3 現代の非正規雇用の特徴/2.4 現代の非正規雇用の背景と実態
3. 資本主義社会を理解する
     3.1 「実体」と「形態」/3.2 資本主義社会とは何か
     3.3 運動体としての資本/3.4 資本と国家の関係
4. 現代社会の貧困
     4.1 現代の貧困の特徴/4.2 女性の貧困化/4.3 貧困への対応
本章のまとめ ブックガイド

第3章 恋愛と結婚  
1. 恋愛と結婚の関係
     1.1 恋愛と結婚の違い/1.2 恋愛と結婚の対立/1.3 見合い結婚と恋愛結婚
2. 日本の家族の歴史
     2.1 「家」をめぐる制度の変遷/2.2 近代家族モデルの普及と浸透
3. 結婚と家族の現在
     3.1 データに見る現代の結婚と家族/3.2 家族形成をめぐる自由と疎外
本章のまとめ ブックガイド

第4章 ジェンダー  
1. ジェンダーを理解する
     1.1 ジェンダーとは何か/1.2 学習される「男らしさ/女らしさ」
     1.3 セクシュアリティを理解する
2. 女性学と男性学
     2.1 女性学とは何か/2.2 男性学とは何か/2.3 女性学/男性学を超えて
3. グローバル化する性別役割分業
     3.1 先進国と途上国の関係/3.2 途上国の女性たちの出稼ぎ労働
本章のまとめ ブックガイド

第5章 関係性と暴力  
1. DVを理解する
     1.1 親密な関係性と暴力/1.2 DVとは何か/1.3 DVの構造
2. ハラスメントを理解する
     2.1 ハラスメントとは何か/2.2 ハラスメントの構造
3. なぜ暴力に頼るのか
     3.1 DVの背景/3.2 加害者の考え方
4. 暴力に対処する
     4.1 加害者臨床/4.2 暴力への対処/4.3 暴力から逃げるための支援
     4.4 非暴力の関係性
本章のまとめ ブックガイド

第6章 摂食障害とからだ   
1. 摂食障害を理解する
     1.1 摂食障害とは何か/1.2 どのようにして摂食障害になるのか
2. 摂食障害はどのような状態か
     2.1 過食は「病理」ではない/2.2 過食・拒食とからだ
3. ダイエットと摂食障害
     3.1 ダイエットを続けると何が起こるのか/3.2 ダイエットが生む摂食障害
4. 摂食障害をとりまく社会環境
     4.1 痩せることを強いる社会環境/4.2 心理学的知識が生む心の病い
     4.3 拒食・過食・嘔吐の解決法/4.4 業績主義社会を生きる自己
5. 摂食障害からの回復
     5.1 回復経験への着目/5.2 多様な回復のしかた
     5.3 自己否定から自己受容へ
本章のまとめ ブックガイド

第7章 依存症の世界  
1. 依存症を理解する
     1.1 依存症の種類と対象/1.2 生き延びるための依存
2. 依存症へのサポート
     2.1 さまざまな対策/2.2 セルフヘルプ・グループの支え合い
     2.3 AAと12ステップ・プログラム/2.4 欲望をもたない共同体
3. 依存症と社会システム
     3.1 ベイトソンの分裂生成理論/3.2 「いま」を生きるバリの社会
本章のまとめ ブックガイド

第8章 権力   
1. 社会学における権力論
     1.1 ヴェーバー の権力論/1.2 フーコーの権力論
2. 私たちをとりまく権力
     2.1 伝統的権力と近代的権力/2.2 見えない権力
3. 権力作用としての差別
     3.1 関係性のなかの権力
本章のまとめ ブックガイド

第9章 儀礼と自己   
1. 儀礼とは何か
     1.1 伝統社会の儀礼/1.2 儀礼的行為
2. さまざまな儀礼
     2.1 ヘネップの3つの儀礼類型/2.2 デュルケムの宗教生活の儀礼類型
3. 現代の儀礼
     3.1 現代社会における「聖なるもの」/3.2 儀礼としての相互行為
4. 自己をめぐる社会学
     4.1 相互作用が形成する自己/4.2 自己の存在証明
本章のまとめ ブックガイド

第10章 自殺   
1. データで読む現代日本の自殺
     1.1 自殺に対する私たちのイメージ/1.2 自殺の統計
2. 社会学における自殺論
     2.1 社会学の2つの方法論/2.2 デュルケムの自殺論
     2.3 デュルケムが着目した統計データ/2.4 デュルケムによる自殺の3類型
     2.5 自殺論から見た社会と個人の性格
3. 現代の自殺理論
     3.1 自殺の対人関係理論/ 3.2 自殺希少地域の人間関係
本章のまとめ ブックガイド

第11章 医療   
1. 近代医療を理解する
     1.1 近代医療とは何か/1.2 近代医療の5つの仮説
2. 民族医療と代替医療
     2.1 民族医療とは何か/2.2 代替医療とは何か
3. 経験される病い,診断される疾病
     3.1 ヤングの病い・疾病・病気の3分類
4. 医療化する社会
     4.1 医療化とは何か/4.2 医療社会学の3つの課題/4.3 治療者の教育
本章のまとめ ブックガイド

第12章 構築主義と心理療法   
1. 構築主義を理解する
     1.1 知識が生み出す現実/1.2 社会構築(構成)主義の考え方
2. 問題を解消する
     2.1 問題志向とは何か/2.2 解決志向とは何か/2.3 解消志向とは何か
3. ナラティヴ・アプローチの考え方
     3.1 ナラティヴ・アプローチとは何か/3.2 ナラティヴ・セラピーとは何か
     3.3 専門家のあり方を問いなおす
本章のまとめ ブックガイド

第13章 レポートの書き方    
1. レポートを書く準備
     1.1 レポートを書く意義/1.2 理想のレポートをめざす
2. 基本型に沿って書く
     2.1 レポートの3つの要素/2.2 レポートの基本型
3. 禁止事項と評価基準
     3.1 禁止事項を知る /3.2 評価基準を調べる
     3.3 レポートで何を達成したいのか
4. 自分のレポートの傾向を知る
     4.1 レポートの傾向性とは何か/4.2 優等生派とヴォイス派
     4.3 抽象派と具体派/4.4 理想のレポートとは何か
本章のまとめ ブックガイド

まとめ 社会学を学び,人はどうすれば幸せになれるかを考える

おわりに

引用文献

ナカムラ・コラム
 1 マクドナルド的人生,サブウェイ的人生
 2 世界のわからなさ
 3 皆婚時代の不快,婚活時代の不安
 4 香港で出会った女性たち
 5 親の愚痴は聞かなくてもいい
 6 自分に厳しい私たちのために
 7 12ステップのメッセージ~自己を超えた存在への想像力~
 10 希望がなくてもいいじゃないか
 11 私たちは本当に「働きたくない」のか?~フロー体験は仕事のなかに~
 12 体と心が欲するところへ行きなさい・・・
 13 「こういうレポートってあるよね」を超えて~大学でレポートを書く意義~


社会学ドリル はじめに

 この理不尽な世界の片隅で,解放の瞬間を待つ

1.本書の目的
 本書は初学者向けの社会学のテキストです。本書,および本書をテキストに用いて行う講義の目的は,「①私たちの身近にあるさまざまな社会現象を学びつつ,②社会学的な思考力を身につけていく」ことにあります。
 ①は知識と情報を収集する学びです。どこで何が起こり,その背景には何があり,どのような対処がなされ,誰が何を行い,著してきたのか。こうした個別の情報は基礎的な知識となって蓄積され,何かを考えたり判断をしたりする際の基盤となります。
 しかし本書を用いて行う講義の主眼は,社会学的な思考力を身につけることにあります。①を経由しつつ,②をマスターすることに重点をおいています。
 社会も私たちも絶えず変化しており,社会と私たちの関わり方も移ろっていきます。すると,手持ちの知識や情報だけでは対処しきれない現象に直面することも多々あります―むしろそんなことばかりです。つまり私たちは,新しい出来事に直面した時に,それをどう考え,どう対処するのかを生涯を通じて問われ続けるのです。だから,知識や情報をただおぼえるのではなく,それらを疑問に思ったり,新たな視点から組み立て直すことができる思考力を,頭のなかに丸ごとセットしておこう,というわけです。
 それぞれの専門分野にはそれぞれの考え方や世界の見方がありますが,社会学にも得意とする考え方があり,社会学を学ぶことで初めて可能になる世界の見え方があります。では,社会学的に物事をとらえるとはどのようなことを指すのでしょうか。これについてはさまざまなトピックを取り上げながら,徐々にマスターしていきます。
 私の講義では,必ずテストに論述問題を含めますが,これまで何千通も答案を読んできたので,答案を読めば受講生が社会学の考え方をどの程度理解できているかがわかります。そして私の講義では,半期あるいは通年の講義で,多くの受講生がおおむね社会学的思考力を頭のなかに定着させていきます(もちろん個人差はあります)。
 こうして頭のなかにセットされた社会学的思考力は,みなさんにとって一生ものの学びになると私は確信しています。

2.なぜドリルなのか
 大学で初めて90分の講義をしたその日から,私は受講生に穴埋め式のプリントを配布してきました。私が説明を加えながら板書をし,受講生はプリントの空欄を埋めていく,そんなスタイルです。大学の教室とは,そこに来なくては単位が取れないという強制力で学生を集める空間です。そんな教室で,私がずっと話し続けたり,ただ資料を読み上げるだけでは,受講生が退屈するのは明らかです(ものすごく面白い話ができる先生は別で,もちろんそういう方もいらっしゃいますが)。
 そこで,話を聞き,文章を読み,黒板を見てペンを走らせる,という複数の作業を組み合わせることで,講義がなるべく単調にならないように「穴埋め式」のプリントを作成しました。私自身も何の資料もなくフリースタイルで講義はできないので,ある程度組み立てられた資料を必要としていました。
 本書は,そうしたプリント群とほぼ同じ形式を踏襲してまとめたものです。穴埋め式がドリルのようなので,私はそのプリント群を「社会学ドリル」と呼んできました。出版に際して,もう少し硬い書名に変えようかとも思いましたが,長年「社会学ドリル」で馴染んできたので,そのままにしました。
 そもそもドリルとは,問題を解く練習帳を指します。本書は空欄に答えを記入しながら,社会学的思考力をマスターするという意味では,まさに練習帳です。それで,奇をてらった訳ではなく,しごく真面目に,このテキストを「社会学ドリル」と名づけました。
 また,「ドリル」という音は軽やかに響きます。不安や失望,怒りやいらだち,そんな状態にはそぐわない感じがします。「さぁ,今日もドリルを開きましょうか」と呼びかければ,よどんだ空気を一新できそうです。

3.嵐のなかをキリッと進む―シンボルマークの意味
 本書の表紙のロゴは,私が作ったシンボルマークです。「嵐のなか(社会問題)を,キリッと進む女の子(ジェンダー)に,リボン(社会学の知)で祝福を!」という意味が込められています。
 現在の本務校に着任する際に,社会問題論とジェンダー論を担当することになった経緯もありますが,社会問題や,女性だけでなく男性を含むジェンダーをめぐる「生きづらさとそこからの解放」は,私の講義と研究,そして私自身の人生のテーマです。
 ここで紹介したい文章があります。社会学者の馬場靖雄先生の文章ですが,この短い言葉に,私は深くうなずいてしまいます。

 「社会学が教えるのは,『いかに生きるべきか』『社会はどうあるべきか』といったテーマに関して,安心して依拠できるようないかなる『おしえ』もなしにやっていかねばならないということである……と言ってもいいかもしれない」
(馬場靖雄,1997『社会学のおしえ』ナカニシヤ出版: v.)

 時々,ひどい経験をすると,何もかも無意味に思えてしまうことがあります。そのあまりの苦しさに,世界は今なお不公平で,根拠なき悪意や差別や八つ当たりに満ちているじゃないかと思います。逆に自分が悪い心も持たず何気なくふるまうだけで,他者に思いもかけない傷を与えてしまうこともあります。
 社会や他者は,時にやすやすと,そして思いもよらないやり方で,私たちのささやかな生活を侵害してきます。突然の出来事は天災のごとく私たちに降りかかり,そこには節度も論理もありません。
 そんな不公平で理不尽なこの世界を,いかなる「おしえ」もなく私たちは生きていかなければならない。その不安から逃れるために,ある人は社会の評価や権威にすがろうとします。自分は正しいとどこまでも主張する人,思考することをやめ自分の人生を丸ごと他人にゆだねきってしまう人もいます。
 しかし,「安心して依拠できるおしえ」など,本当は,どこにもないのです。
 「おしえ」がない以上,暗闇の中を進むような怖さを感じる時もあります。迷うこともあります。それでも私たちは,目の前で起こる事象にその都度向き合いながら,一歩一歩進んでいくしかありません。他の人々と協力して,誰もが住みよい社会を作り上げていかなければなりません。むずかしい課題です。


 あることに気づかないまま,既存のシステムの枠内で生活することは,場合によっては楽なことです。だから,社会学を学ぶことで,一時的に苦しくなる場合があるかもしれません。社会学に限らず,何かを知ることによって,それを知らなかった頃にはなかった恐怖や悩み,逡巡や疑問,不快や怒りが生じることはよくあります。
 それでも社会学は,今までの認識からの解放や,解放がもたらす喜びや安堵を私たちに与え続けてくれる学問であると,少なくとも私は思っています。教室に入ってきた時と教室から出ていく時,ある物事の見え方がまったく変わることもあります。その結果,それに対する考え方もそこから生じていた感情も変わります。すると,その現象から自由になれます。
 知識を得ることで一時的に,前より苦しくなる時があっても(「知らない時の方が楽だったのに!」),いつかまた次の解放の瞬間はきっとやってきます(「そういうことだったのか!」)。そうして,行きつ戻りつしつつ,世界の理解は確実に深まっていくことでしょう。
 私はいつもみなさんと同じ場所で,この理不尽な世界の片隅で,みなさんと同じように解放の瞬間を待っています。

4.ブックガイド
 ブックガイドでは,基本的に,初学者向けの比較的読みやすい本を紹介しています。入手のしやすさ,新しさなども考慮しましたが,初学者や受講生には近寄りがたくみえる専門書をあげた場合もあります。社会学に限定せずに,その章で取り上げるテーマに関連するさまざまな文献を取り上げているので,各文献の解説も参照しつつ,自己学習や読書のひとつの指針にして下さい。

5.解答-本書をテキストとしてお使いいただく先生方,読者のみなさまへ
 本書は,私の講義をもとにしているので,社会学の一般的な入門書とは少し異なります。そもそも,私が受け持つ講義は,「生きづらさをめぐる臨床社会学」つまり,私たちをとりまくさまざまな「生きづらさ」を取り上げ,そこからの解放を模索する,というテーマを基調としています。したがって,私の専門領域に近い摂食障害や依存症などの章が多くあります。
 特色のあるテキストですが,一部の章を飛ばして進めていただくなどご自由にお読み下さい。また,先生方の講義の補助テキストや資料集として役立てていただければ幸いです。もちろん,本書をそのままテキストにお使いいただければ,嬉しい限りです。
 本書で取り上げたトピックに対する大学生の関心はとても高く,この数年間,どの大学でもほぼ例外なく,シラバスを読み多数の学生が履修を希望する傾向が続いています。
 なお,アルファベットをふった空欄部分の解答を本書内に載せるかは,最後まで悩みました。しかし受講生にとってどのような講義も一生に一度の機会です。教室で講義を聞きながら,自分の手を動かして空欄を埋めていく能動的な緊張感があることは,講義をする側にも受ける側にも集中力を生みます。各受講生は講義を受けながら空欄を埋め,余白にメモや図を書くことで,空白の多いドリルから,「世界に1冊だけの本」として本書を完成させることができます。
 そのため,読者の方には大変申し訳ないのですが,今回は解答をつけずに出版させていただきました。ただし,ある程度答えを考えられるように前後にヒントを補足してあります。どのような反響をいただくかわからない新しい試みですが,どうぞご理解のうえ,まずは自分で考えて空欄を埋める学びにチャレンジ下さい。

 社会学の講義を受け持つ先生方,私の講義の受講生以外の読者の方々が,やはり解答を知りたい,とご希望の際は,「中村英代オフィシャルウェブサイト」に入手方法を載せていますので,そちらへアクセス下さい (http://www.hideyonakamura.com)。