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日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第16号
──特集 質的研究における映像の可能性


B5判並製252頁

定価:本体3000円+税

発売日 17.3.20

ISBN 978-4-7885-1510-9




◆映像は質的研究をどう変えるのか
 調査分析に使われる機材の飛躍的な進歩は質的研究に革新をもたらしました。映像の活用が急速に広がりを見せるなか、映像から質的なるものをどのようにすくいあげ、議論の俎上にのせるのか、その本質的な問いへの挑戦が続いています。本特集では、映像のもつ力を媒介に現実に鋭く切り込んでゆく魅力的な論考が5本そろいました。いずれも質的研究と映像との関わりを深く考えさせられる力作です。書評特集では、ダイナミックに移りゆく映像と質的研究との関係を問い直します。そのほか、読み応えのある一般論文6本を収載しました。

質的心理学研究 第16号 目次

質的心理学研究 第16号 巻頭言

質的心理学研究シリーズ バックナンバー

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質的心理学ハンドブック 目次
巻頭言 永田素彦 あらためて,対話の力

特集:質的研究における映像の可能性(責任編集委員:好井裕明・樫田美雄)

■やまだようこ・木戸彩恵
「かわいい」と感じるのはなぜか?
─ビジュアル・ナラティヴによる異種むすび法

■牧野遼作・阿部廣二・古山宣洋・坊農真弓
会話における"収録される"ことの多様な利用

■劉 礫岩・細馬宏通
スポーツ実況における発話による出来事の指し示し
─「こ」系指示表現と間投詞「ほら」の相互行為上の働き

■堀田裕子
残されるモノの意味
─線条体黒質変性症患者とその介護者の事例より

■平本 毅
サービスエンカウンターにおける店員の「気づき」の会話分析

 一般論文


■塚本尚子・野村明美・舩木由香・平田明美
1970年代の看護師長の語りから知る,よい組織風土の形成と維持のしくみ

■中井好男
滞日中国人のライフストーリーから見る自我アイデンティティの交渉と構築
─なぜ永住権を目指して働き続けるのか

■勝田 聡
保護観察中の性犯罪者の犯罪行動のプロセス

■柴坂寿子・倉持清美
幼稚園クラス集団における自由遊び時間での「乗り物遊び」
─仲間文化の形成と変化

■古市直樹
小集団学習中にジョイント・アテンションはどのように機能しているか
─中学校社会科の授業場面を事例として

■木下寛子
雰囲気が言葉になる時
─小学校の日々から始まる雰囲気の解釈学的現象学


 BOOK REVIEW


■《書評特集》 質的研究と映像との関係を考える
特集にあたって(樫田美雄)

研究と実践における映像データの可能性(評:北村隆憲)
分藤大翼・川瀬慈・村尾静二(編)『フィールド映像術』
「共有」をめざす人類学的映像実践(評:岩谷洋史)
村尾静二・箭内匡・久保正敏(編)『映像人類学─人類学の新たな実践へ』
映像が研究スタイルを変える(評:小池星多)
金井明人・丹波美之(編著)『映像編集の理論と実践』(現代社会研究叢書 1)
映像について根底から考えるために(評:周藤真也)
北野圭介(著)『映像論序説─〈デジタル/アナログ〉を越えて』
映像という現実と映像を見る経験(評:堀田裕子)
長谷正人(著)『映像という神秘と快楽─〈世界〉と触れ合うためのレッスン』
ビデオカメラを用いたエスノメソドロジー研究の展開
─機材の発展と研究法の進展(評:秋谷直矩)
Heath, C., Hindmarsh, J., & Luff, P.
  『Video in qualitative research: Analyzing social interaction in everyday life』
当事者による「ビジュアル・メソッド」の活用と「社会学的想像力」の可能性(評:中塚朋子)
C. ノウルズ・P. スウィートマン(編),後藤範章(監訳)
  『ビジュアル調査法と社会学的想像力─社会風景をありありと描写する』


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表紙デザイン 臼井新太郎


質的心理学研究 第16号 巻頭言


あらためて,対話の力
  『質的心理学研究』第16号が無事刊行の運びとなった。2002年に第1号が創刊されて以来,質的心理学ないし質的研究は着実に裾野を広げている。『質的心理学研究』へ投稿される論文も,投稿数に大きな変化はないが,分野やテーマの幅が拡がっているように感じる。編集委員会の側でも,なるべく多様な専門性をもつ編集委員がそろうよう努力している。

 質的心理学はまだ若い分野であり,新たな視点や方法を模索し創発することを重視している。一般に,新たな視点や方法の創発には,異質な者同士の対話が重要である。心理学(これ自体,広範な多様性を内包する分野だが)に限らず多くの分野や領域を横断する質的心理学は,そのような条件に恵まれているといってよい。実際,日本質的心理学会は設立以来,そのような対話の重要性を強調してきた。

 そのような対話の場として重要なのが,毎年開催される大会であることは言うまでもない。そして同様に,あるいはそれ以上に重要なのが,査読プロセスにおける投稿者と査読者の対話であろう。私自身,これまで多くの投稿論文を査読する機会を得てきた。実際の話,自分の狭い意味での専門にピタリと重なる論文を査読することは多くなく(もちろんまったく門外漢の論文を査読することもないが),多少なりとも異質な分野と関わることになる。コメントを考える際には,既定の正解があるわけでもなく,自分の観点が妥当かどうかを自問し,悩むことも多い。修正稿を読んで,コメントの意がうまく汲まれていると嬉しく思うし,そうでない場合には,もっとよい書きようがあったのではと反省しもする。論文の産みの苦しみはもちろん著者のものだが,私に限らず他の編集委員も,論文の質を少しでも高めるために悩み格闘していることと思う。

 この第16号には,一般論文・特集論文あわせて11本が掲載されている。どれも興味深く読み応えのある論文がそろった。そこには多かれ少なかれ投稿者と査読者の対話の跡が反映されている。

 この号は,2016年4月に伊藤哲司先生から編集委員長の任を引き継いで初めて刊行される号であり,やはり格別の思いがある。編集委員長の任期は3年,第18号刊行まで務める予定だ。その間,『質的心理学研究』をより充実すべく,対話の力を活かせるよう微力を尽くしていきたい。末筆ながら,編集委員一同,会員の皆様からの投稿を心よりお待ちしている。

編集委員長  永田素彦