戻る

ウヴェ・フリック 著/上淵 寿 訳

質的研究の「質」管理
――SAGE質的研究キット8


A5判並製224頁

定価:本体2400円+税

発売日 17.1.20

ISBN 978-4-7885-1508-6




◆高い質を確保するため、どう研究を管理するか
 昨今、研究の資金獲得やポストの確保のために、研究業績の評価が重要となっています。そのための評価基準が求められますが、質的研究は、従来の科学的研究で主流を占める量的研究とは全く異なるため、量的研究の考え方を適用することができません。質的研究の特質を活かし、質を確保するためには、何に留意し、いかに研究を管理すればよいのか。そしてその研究をどのように評価すればよいのか。本書はそれらの問題と解決について丁寧に解説します。どのような質的研究にせよ、参照すべき枠組みを提供する。質的研究者待望の一冊です。

質的研究の「質」管理 目次

質的研究の「質」管理 本書について(ウヴェ・フリック)

ためし読み

◆「SAGE質的研究キット」シリーズ

Loading

質的研究の「質」管理 目次
編者から(ウヴェ・フリック)
 「SAGE質的研究キット」の紹介
 質的研究とは何か
 質的研究をどのように行うか
 「SAGE質的研究キット」が扱う範囲
本書について(ウヴェ・フリック)

1章 研究の質にどう取り組むか
 なぜ質的研究の質が問題となるのか
 内的必要と外的挑戦
 質の問題を問う4つのレベル
 問題─質的研究の質を評価する方法
 質的研究の倫理と質
 本書の構成

2章 基準・規準・チェックリスト・ガイドライン
 はじめに
 質的研究とは何であり、何を指しているのか?
 標準化されていない研究の「標準」
 質的研究の問いに答える伝統的な規準か、あるいは新しい規準か?
 伝統的な規準の再定式化
 新しい、方法に適した規準
 ガイドライン、チェックリスト、規準のカテゴリー
 規準を定式化する第三の選択肢としての方略

3章 多様性を管理する方略
 はじめに
 理論的サンプリング
 分析的帰納法
 メンバーや聴衆の合意
 結 論

4章 トライアンギュレーションの概念
 質的研究の歴史におけるトライアンギュレーション
 何がトライアンギュレーションで何がそうでないのか?
 多元的トライアンギュレーション
 議論の流れ
 洗練された厳密性としてのトライアンギュレーション
  ─デンジンの批判への応答
 視点の体系的トライアンギュレーション
 統合的トライアンギュレーション
 問題の構築、知識の生産、結果の保証の間の
  トライアンギュレーション

5章 質的研究における方法論的トライアンギュレーション
 方法内トライアンギュレーション
  ─エピソードインタビューのケース
 方法内トライアンギュレーションを用いた例
 異なる質的研究方法のトライアンギュレーション
 方法間トライアンギュレーションの例
 質の促進の文脈での、質的研究における
  トライアンギュレーション法

6章 エスノグラフィーにおけるトライアンギュレーション
 参与観察からエスノグラフィーへ
 エスノグラフィーにおける暗黙的トライアンギュレーション
  ─ハイブリッドな方法論
 エスノグラフィーにおける明示的トライアンギュレーション
  ─トライアンギュレーションの指針
 エスノグラフィーにおけるトライアンギュレーションの一例
 質的研究の質を管理する文脈での、
  エスノグラフィーにおけるトライアンギュレーション

7章 質的研究と量的研究のトライアンギュレーション
 質的研究と量的研究を結びつけることの意義
 質的デザインと量的デザイン
 質的方法と量的方法を結びつける
 質的データと量的データを結びつける
 質的結果と量的結果を結びつける
 量的研究における質の評価の文脈での、質的研究と量的研究の
  トライアンギュレーション
 質的研究と量的研究のトライアンギュレーションの例
 質的研究の質を管理する文脈における、質的研究と量的研究の
  トライアンギュレーション

8章 質を管理するためにトライアンギュレーションをどう使うか
   ─実践的問題
 アクセスの特別な問題
 デザインとサンプリング
 データの収集と解釈
 質的研究と量的研究を結びつけるレベル
 トライアンギュレーションを使う研究におけるコンピュータ
 トライアンギュレーションを用いた研究のプレゼンテーション
 研究プロセスにおけるトライアンギュレーションの位置
 トライアンギュレーションを用いた研究への質的基準
 結 論

9章 質、創造性、倫理─異なる問いの立て方
 介入としての研究
 倫理的健全性の前提としての研究の適切性
 倫理的適切性の前提としての研究の質
 質的研究における倫理的原則
 質的研究の倫理的ジレンマ
 質と妥当性の議論における倫理的次元

10章 質的研究の質を管理する─プロセスと透明性への注目
 方法とデザインの適用
 質的研究の品質管理
 意思決定過程の結果としての質的研究の質
 透明性、文書化、執筆

訳者あとがき
用語解説
文 献
人名索引
事項索引

装幀=新曜社デザイン室


質的研究の「質」管理 本書について(ウヴェ・フリック)

  質的研究の質の問題をどう扱うかは、「SAGE質的研究キット」の他の巻でもいろいろな箇所で取り上げている。しかし、これは、質的研究一般にとって答えを見つけて、解決する必要のある重要な問いである。他の巻の著者たちは、本書よりも、この問題をより一般的にと同時により具体的に検討している。つまり、それぞれの巻で取り上げている具体的なアプローチや方法について、その質や妥当[訳注]性*の問題に携わっている。クヴァール(Kvale, 2007)は、インタビュー研究の妥当性や客観性*について有益な省察を行っている。アングロシーノ(Angrosino, 2007)は、観察とエスノグラフィーについて同様のことを行っている。バーバー(Barbour, 2007)は、フォーカスグループを取り上げている。これが、他の巻が本書よりもより具体的な理由である。

 他方で本書は、「SAGE質的研究キット」の他の巻よりも具体的である。というのは、質的研究の質の問題を管理する具体的な方略*を概観しようと試みているからである。この観点から、本書では問題全体を、研究プロセスにおける1つの具体的な方法や、1つの段階の(正しいあるいは熟慮した)使用に関わる問題に限定しないよう努めている。むしろこの本の着目点の1つは、質的研究の質の問題に取り組む出発点として、研究プロセス全体を取り上げていることである。そこで本書は、質の問題に取り組む方法の1つとして、質の管理*と研究プロセスの透明性*を取り上げる。2番目の着目点は、通常の研究プロセスの考え方を拡大することである。本書ではそのために、いくつかの提案を行う。多様性を管理する方略は、研究知見や期待されることに直接合致しない事例にまで研究を拡張することを目指している。トライアンギュレーション*の方略は、いくつかの点で研究を拡張する。すなわち、複数の理論的、あるいは個人的な視点を統合したり、複数の方法論的アプローチを使用することによって、研究を拡張するのである。

 本書は、全般にわたって、複数の方法で質の問題に答えようとする。質の基準を使用する、あるいは(再)定式化することによって、そして質を促進し管理する方略を開発し適用*することによって。この意味で、本書は、SAGE質的研究キットのなかで2つの機能をもっている。本書単独としては、質的研究の質を管理する場面における問題とその解決について、統合的に説明することである。キットの他の巻との関係においては、方法論のレベルで、他巻にとって1つのまとまりある枠組を提供することである。