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キャスリン・アズベリー & ロバート・プローミン 著
土屋廣幸 訳

遺伝子を生かす教育
――行動遺伝学がもたらす教育の革新


A5判並製192頁

定価:本体2300円+税

発売日 16.11.10

ISBN 978-4-7885-1502-4

cover


◆教育に行動遺伝学の成果を!
 「遺伝子」と聞くと、環境や努力ではどうにもならない天与のものだと考える人が多いようです。しかし最近の行動遺伝学の進歩は、まったく異なる遺伝子の姿を明らかにしつつあります。遺伝子は環境との相互作用の中で働くのです。

教育ではこれまで、「遺伝子」についてほとんど論じられてきませんでした。しかし、教育は環境による働きかけであり、遺伝子の可能性を最大限に引き出すような取り組みをすることができます。そうすれば、私たち一人ひとりにとっても、社会にとっても、計り知れない恩恵となるはずです。行動遺伝学の成果をとりいれることによって、教育にどんな変革がもたらされるでしょうか。それはどのようにして可能となるでしょうか。

これからの教育を考える上で見逃せない一書です。

遺伝子を生かす教育 目次

遺伝子を生かす教育 日本の読者の皆様へ

ためし読み

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遺伝子を生かす教育 目次
日本の読者の皆様へ
謝 辞

第1部 理論的に考える
1章 遺伝学、学校、学習
 教育の目的と仮定
 個人の能力を引き出す多様な機会
 教室の中のDNA
 まとめると

2章 我々は現在の知識をどのようにして得たか
 双子という自然の実験
 DNA塩基配列決定

3章 読む、書く
 DNAからABCへ
 読字能力への環境の影響
 読字に苦労する子どもたち
 書く能力の遺伝

4章 算 数
 なぜ一部の人々が他の人々よりも数学ができるのか?
 養育は数学的能力にどう影響するのか?

5章 体育─誰が、何を、なぜ、どこで、どのように?
 遺伝子、スポーツ、喫煙
 肥満、遺伝子、環境
 健康の遺伝性
 体育授業のヒーロー
 まとめると

6章 科学(理科)─違う思考法?
 科学の性差
 まとめると

7章 IQと意欲はどうやったらうまく一致するか?
 IQ+遺伝学=論争(そして中傷)
 自信と意欲
 クラスで自信と認知を改善する

8章 特別な教育の必要性─着想とインスピレーション
 特別教育の必要性の拡大
 現在実施中の学習の個別化
 まとめると

9章 教室の中の「クローン」
 積極性と成績
 教室の中のクローン

10章 ギャップに注意─社会的地位と学校の質
 低い社会経済的地位─それはどのようなものなのか?
 社会経済的地位が次世代に引き継がれるとはどういうことか?
 学校の質

11章 遺伝学と学習─重要な7つのアイデア
 アイデア1:成績と能力は、一部は遺伝的な理由のため多様である
 アイデア2:異常は正常である
 アイデア3:連続は遺伝により、変化は環境による
 アイデア4:遺伝子は万能選手で環境は専門家である
 アイデア5:環境は遺伝子の影響を受ける
 アイデア6:一番重要な環境は個人で異なる
 アイデア7:機会均等のためには機会の多様性が必要である

第2部 実地に応用する
12章 個別化の実際
 それでは、教育と学習をより個別化するにはどうしたらよいのか?
 学習するのに適切な「思考態度」
 学習を個別化するための他の方法
 まとめると

13章 11項目の教育政策のアイデア
 1. コア・カリキュラムを最小限に絞って、基礎的技能をテストしよう
 2. 選択肢を増やそう
 3. レッテル貼りをやめよう
 4. クラスはもちろん、一人一人の子どもを教育しよう
 5. どうやったら成功するかを子どもに教える
 6. 将来の社会的流動性に向けて早期から機会均等化を推進しよう
 7. 学校におけるカリキュラム外の機会を均等化しよう
 8. 2段階の体育プログラムを作ろう
 9. 目的地を変えよう
 10. 新人教師に遺伝学の研修を行い、実地に持ち込む技術を提供しよう
 11. 大きいことは美しい

14章 一日教育大臣

訳者あとがき
文 献
索 引

装幀=新曜社デザイン室


遺伝子を生かす教育 日本の読者の皆様へ

 我々の『遺伝子を生かす教育』(原題:G is for Genes)が日本の読者の皆様のために翻訳されたことは光栄である。土屋博士には本書を訳出されたことに加えて、このまえがきを書く機会を与えていただいたことに謝意を表したい。読者の皆様には、遺伝学的研究が教育にもたらす成果に関心を持っていただいていることに感謝したい。

 このまえがきを書いているまさにこの週、科学専門雑誌『ネイチャー』に、個人がどのくらいの期間学校教育を受けるかに関連する74の遺伝子領域を見出したという論文が発表された(Okbay, A. et al., doi: 10.1038/nature17671)。遺伝子は教育の成果に重要な影響を及ぼすけれども、我々は最近まで「失われた遺伝性」の問題を解決できないでいた〔訳注:失われた遺伝性とは、ヒトのある特性が遺伝の影響を受けているにもかかわらず、その遺伝子を決めることができない状況を指す〕。教育に遺伝子が関わっていることはわかっていても、どの遺伝子が関わっているかは明らかにできなかったのである。この『ネイチャー』の最新の論文は、一人一人の個別的教育のためにDNAを予測因子の一つとして用いることが可能となる未来の到来を告げるものである。そこに至るまではまだ長い道のりではあるが、我々が2013年後半にこの本の初版を出版して以来、この領域は目覚ましい進歩を遂げた。今週の、この、将来性のある報告は失われた遺伝性に対する答えの端緒をなすものであるが、同時に、教育者と政策決定者が考慮すべき、多くの新しい疑問を提示するものでもある。

 たとえば、多くの遺伝子が関わったリスク予測因子は、教師や親や生徒にとって本当に実際的な意味があるのだろうか? 赤ちゃんが生まれたとき、もし、遺伝子型を検査して、その結果によって赤ちゃんが将来、勉強に困難のある可能性があるとか、逆に著しく優秀な子どもに育つのではないかと評価するようなことは、実は何を意味するのだろうか? 子どもたちの意欲、注意力、回復力、不安が強かったり、弱かったりするかもしれないと予測できたとしたらどうだろう? 遺伝情報を正しく用いて、有害なものにしないと保証できるだろうか? 今こそこれらの疑問を真剣に考慮して、この、わくわくする科学を、個人と社会の利益になるように用いるための戦略を策定すべきときである。

 この本は遺伝的研究に焦点を当ててはいるが、より広く、教育を、医学の場合と同じように、科学的根拠に基づいたものとする必要があることを論じている。我々がこれまでに得た証拠によれば、現在の基準に従うよりも、個人の違いを考慮に入れた、より良いやり方をする必要がある。一つの学級の子どもたちを皆同じに扱うならば、個人の欲求や才能を育てることに失敗するだろう。我々がもし、この本で論じたように、個人の生まれつきの天分を育むことができるならば、それが花開き、天分が発揮されるならば、おそらく画一化されたモデルにあてはめられるよりもはるかに幸福で、健康で、社会に貢献できる市民になるのではないだろうか。

 読者の皆様にこの本を楽しんでいただければと願っている。

  2016年5月11日
キャスリン・アズベリー
ロバート・プローミン