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高橋 利枝 著

デジタル・ウィズダムの時代へ
――若者とデジタルメディアのエンゲージメント


A5判上製364頁

定価:本体4000円+税

発売日 16.10.7

ISBN 978-4-7885-1495-9




◆デジタル・ネイティブ論を超えて
 デジタルメディアは、政治、経済、医療、教育、文化のあらゆる領域をグローバル化するとともに日常生活全域に溶け込み、新たな機会とリスクをもたらしています。このデジタル時代に生まれたデジタル・ネイティブたちはいかにメディアに関与し、状況を生かしているのでしょうか。日・米・英の三ヵ国における詳細なインタビューと参与観察から、デジタル革命/グローバル時代を生きぬく人間像を再構築します。15年にわたる著者の「若者とメディア」に関する研究をふまえた集大成です。著者は早稲田大学文学学術院教授。

デジタル・ウィズダムの時代へ   目次

デジタル・ウィズダムの時代へ  プロローグ

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デジタル・ウィズダムの時代へ 目次
プロローグ
1 本書の目的
  変動する世界
  デジタルネイティブ―新たな機会とリスク
  21世紀に求められる若者像―グローバル人材]

2 本書の構成

第1章 デジタルネイティブを超えて
1 デジタルネイティブとは?
2 デジタルネイティブの研究動向
 2―1 世界におけるデジタルネイティブ研究
 2―2 日本におけるデジタルネイティブ研究
 2―3 デジタルネイティブの定義
 2―4 デジタル世代vs.非デジタル世代
3 デジタルネイティブに対する批判
4 デジタルネイティブを超えて
 4―1 デジタルネイティブの再構築
 4―2 世代論を超えて

第2章 コミュニケーションの複雑性モデル
    ―若者とメディアを捉えるための理論枠組み
1 「オーディエンス・エンゲージメント」の概念
 1―1 「オーディエンスの能動性」が語られる文脈
 1―2 「オーディエンスの能動性」から「オーディエンス・エンゲージメント」へ
2 日常生活のパラダイム
 2―1 「能動的オーディエンス」のパラダイムから「日常生活」のパラダイムへ
 2―2 自己形成とメディア
3 複雑系のパラダイムとメディア・オーディエンス研究
 3―1 複雑系のパラダイム
 3―2 オーディエンス研究と複雑系のパラダイム
4 コミュニケーションの複雑性モデル

第3章 つながり
    ―なぜ若者は絶え間ないつながりを求めるのか?
1 携帯電話と絶え間ないつながり
 1―1 いつもオン
 1―2 脱―埋め込み
2 ソーシャルメディアとつながり―日本の文脈から
 2―1 ソーシャルメディアとウチ、空気
 2―2 ソーシャルメディアと高コンテクスト文化/低コンテクスト文化
3 モバイル・メディアの機会とリスク
 3―1 存在論的安心
 3―2 トランスナショナルなつながり
 3―3 絶え間ないつながりによる新たな機会とリスク
4 なぜ若者は絶え間ないつながりを求めるのか?

第4章 デジタルリテラシー
    ―新たな機会を最大に享受するためにはどうしたらいいか?
1 なぜ今デジタルリテラシーが必要なのか?
 1―1 メディアリテラシーが語られる社会的文脈
 1―2 デジタルリテラシーの定義
2 アクセス
 2―1 情報検索
 2―2 ウチの強化のための友達情報の探索
 2―3 ニュースのカスタマイズ
 2―4 情報のオーセンティシティ
3 クリティカル(分析・判断・利用・解釈)
 3―1 ソーシャルメディアに対するクリティカルな解釈
 3―2 マスメディアに対するクリティカルな解釈
 3―3 Wikipedia の批判的利用
4 戦術的消費(Tactics)
 4―1 時― 空間の構造化
 4―2 広告に対する戦術
 4―3 インフォーマル/フォーマル・ラーニング
5 協働
 5―1 マルチタスク
 5―2  プレイ、パーフォーマンス、シミュレーション
 5―3 擬似的共視聴
6 共有・参加
 6―1 親密圏の強化
 6―2 公共圏の創造と参加
7 グローバル時代、デジタル時代において、新たな機会を最大に享受するためには
 どうしたらいいか?
 7―1 デジタルリテラシーとオーディエンス・エンゲージメント
 7―2 グローバル人材とデジタルリテラシー

第5章 リスク
     ―リスクを最小限にするにはどうしたらいいのか?
1 リスク社会を生きる若者たち
2 いじめと誹謗中傷
 2―1 ネットいじめのニュース報道
 2―2 いじめと個人情報をさらす
 2―3 保護者の介入
 2―4 いじめの対処法
3 個人情報とプライバシー
 3―1 投稿写真によるトラブル
 3―2 Twitter―教室の遊びの延長
 3―3 プライバシーの問題に関する対処法
4 ストーカーとオンライン上の出会い
 4―1 Facebook ストーキング
 4―2 オンライン上での出会い
5 中毒と依存
 5―1 中毒
 5―2 ソーシャルメディア疲れ
 5―3 支配
6 リスクを最小限にするためにはどうしたらいいのか?

第6章 自己創造
    ―なぜ若者はメディアと関わるのか?
1 自己創造の概念
2 ソーシャルメディアと印象管理
 2―1 リスキーな印象管理
 2―2 リア充に印象管理
 2―3 保守的な印象管理
3 自己表現
 3―1 ソーシャルメディア・マネジメント
 3―2 セルフィによる自己表現
4 自己実現
 4―1 自己創造と日本の社会規範
 4―2 トランスナショナルなテレビ番組と自己創造
 4―3 ソーシャルメディアと自己創造
5 なぜ若者はメディアと関わるのか?

終章 グローバル時代を生きる若者たち
    ―21世紀日本とグローバル化の行方
1 グローバル時代、デジタル時代における若者の複雑性
 1―1 個人の相互作用性と適応性
 1―2 社会集団の複雑性
 1―3 個人の自己創造とターニングポイント
 1―4 文化の複雑性
2 21世紀日本とグローバル化の行方
 2―1 日本におけるコスモポリタニズムの可能性
 2―2 コスモポリタン的文化とトランスナショナルなつながり
 2―3 コスモポリタン的文化とグローバル人材

エピローグ

* * *

補論 能動的オーディエンス研究の系譜
1 アメリカのコミュニケーション研究における「利用と満足」研究
 1―1 初期「利用と満足」研究の再考
 1―2 「利用と満足」研究の理論化と批判
 1―3 「利用と満足」研究とオーディエンスの能動性
2 イギリスのカルチュラル・スタディズとヨーロッパの受容理論における受容研究
 2―1 エンコーディング/ディコーディング・モデル
 2―2 受容研究と「利用と満足」研究
 2―3 受容研究vs.メディア帝国主義
3 日本の情報社会論における情報行動論
 3―1 情報行動論
 3―2 日本における「利用と満足」研究
 3―3 情報行動論と「利用と満足」研究

付録 リサーチデザイン
1 調査概要
2 フィールドワーク
3 インフォーマント
4 データ分析

参考文献
索引

装幀= 新曜社デザイン室


デジタル・ウィズダムの時代へ プロローグ

1 本書の目的

変動する世界
 私たちはこれまで経験したことがないような変動の時代に生きている。人工知能(AI)やビッグデータ、ロボットや「モノのインターネット(IoT)」など、革新的な技術が次々と登場し、第4次産業革命をもたらしている。加速するグローバル化とデジタル化によって、私たちの日常生活は、新たな機会とリスクに満ち溢れているのである。

 デジタルメディアは、ビジネスや政治、医療や教育、スポーツや芸術など至る所に入り込んでいる。携帯電話やインターネットは様々な人や文化を結びつけ、グローバル化を推し進めている。情報はインターネットにより世界中を駆け巡り、一国で起きた経済危機は、あっという間に世界経済をも揺るがしている。

 デジタル技術は、私たちの身の回りにある多様なメディアを融合している。若者たちは、スマートフォンで音楽を聴いたり、映像を観たり、写真や動画を共有したりしている。それはもはや電話の進化系ではなく、手のひらの上にのる小さなコンピューターなのである。彼らは、Netflix やHulu(動画配信サービス)、YouTube(動画共有サイト)などにアクセスし、世界の様々なテレビ番組や動画を視聴している。そして次々と現れる新しい1ソーシャルメディアは、世界中の人びとの日常生活の写真や動画で溢れ、国境を越えてメッセージが飛び交っている。

 今日の若者は、このようなデジタル世界の中で生まれ育っているのである。

デジタルネイティブ―新たな機会とリスク
 現代の若者は、生まれた時からデジタルメディアに囲まれ、日常生活の多くの時間をメディアに費やしていることから、「デジタルネイティブ」や「サイバー・キッズ」、「ミレニアル」と呼ばれてきた。アナログ時代に生まれた大人たちとの違いが強調され、若者のメディアとのエンゲージメント(多様な関わり方)が、政治や経済、社会や文化など、あらゆる局面に置いて世界的に注目されている。

 デジタル時代を生きる若者たちにとって、スマートフォンやソーシャルメディアは、世界規模で重要な役割を果たしている。友達や家族との絶え間ないつながりや、国境を超えたつながり、社会運動など、これまでにない新たな機会を提供している。しかしその一方で、ネットいじめや個人情報の流出、ネット依存など、リスクに出会う機会も多いのである。特に昨今、ソーシャルメディア疲れや、写真の投稿が思わぬ問題を引き起こすという事件が相次いで起きている。

 グローバル化、デジタル化がもたらす新たな機会を最大限に享受し、リスクを最小限にするにはどうしたらいいのだろうか?

 本書は、現代社会におけるメディアの社会的役割を理解するために、「なぜ若者はメディアと関わるのか?」という問いを出発点としている。「関わり(engagement)」という言葉は、例えばテレビのスウィッチを入れるという単純な行為から政治的な関与(political engagement)に至るまで、またマスメディアからインターネット、携帯電話やスマートフォンなどモバイル・メディアに至るまでメディアとの多様な関わりを内包する。これまでメディア研究の分野において、メディアと人びととの関係性は、ある特定のメディアや、「接触(exposure)」や「視聴(viewing)」、「利用(use)」などある特定の関わり方に限定されて論じられてきたが、今日のデジタル環境におけるメディアと人間との複雑な関係を理解する必要性から、「関わり (engagement)」という言葉が用いられるようになった。この言葉は既存のメディア・オーディエンス研究の抱える限界を越え、能動的あるいは受動的な関わりに至るまでメディアと人間の多種多様な関与のレベルを含意可能にするのである。

 本書では、デジタル技術先進国である日本、アメリカ、イギリスの三ヵ国における、若者とメディアの関わりについての詳細なインタビュー調査と参与観察の結果から、今日活発に議論されている「グローバル人材」、「メディア・リテラシー」、「リスク・マネジメント」などにアプローチしていく。デジタル革命、グローバル時代を生きるために必要なリテラシーについて、数多くの事例を交えながら、課題と具体的な方策について考察していきたいと思う。

世紀に求められる若者像―グローバル人材
 世紀に求められる若者像として、「グローバル人材」という言葉が、産業界や、国や地方自治体、高校や大学など産官学において、様々な分野で取り上げられている。その社会的な背景にあるのは、第1に2020年東京オリンピックの開催、第2に人口減少国家としての日本、第3に中国やインドなどのような強大な新興国の台頭による日本のプレゼンスの低下に危機感を抱いていることである。高校や大学などの教育機関では、スーパーグローバル・ハイスクールやスーパーグローバル・大学など、「グローバル人材」育成のための多様な試みがなされている。また、企業も若い社員の海外派遣など積極的にグローバル人材育成を行っている。

 しかし、当事者である若者たちに聞いてみると、「グローバル人材」という言葉に関して一定の認知度はあるものの、単に「英語ができる人」や「海外で働く人」などと答えている。また、自分がグローバル人材になることが求められているという実感がないため、グローバル人材には「なりたくない。日本が好きだから日本で働きたい」や「なりたいとは思うけど、別世界な感じ」などと言い、他人事と捉えていた。

 21世紀、日本の若者が身につけなければならない「グローバル・リテラシー」とは、一体何なのだろうか? そもそも、グローバリゼーションとは何なのだろうか?