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川島大輔・近藤 恵 編

はじめての死生心理学
――現代社会において,死とともに生きる


A5判並製312頁

定価:本体2700円+税

発売日 16.10.3

ISBN 978-4-7885-1492-8

cover


◆死を考える科学を学ぶ
 誰も死を避けられません。これまで哲学,宗教学,医学,歴史学,社会学,看護学,そして心理学など,実に様々な学問分野が死について研究してきましたが、ホスピス運動や教育現場での「いのち教育」等のニーズから,近年死生学が注目されています。死生学は「死と生を扱う学問分野」ですが、その中核に位置するのは、死に臨む人や死別の悲しみに直面している人へのケアです。本書は、そうした、死の心理社会的側面にアプローチする死生心理学を紹介し、学び、今後の展開について考える、日本ではじめての入門書です。

はじめての死生心理学   目次

はじめての死生心理学   終章

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公開資料
http://www.shin-yo-sha.co.jp/link/open_doc.pdf

ワーク
http://www.shin-yo-sha.co.jp/link/work.pdf


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はじめての死生心理学 目次
目  次

序 章
1.はじめに─死生学という学問領域と死生心理学
(1)死への多様なアプローチと死生学
(2)死生心理学とは
2.本書の位置づけと各章の紹介
(1)本書の位置づけ
(2)各章の紹介

第1部 死を見つめる─死生心理学の主要な研究領域を概観する

第1章 死への態度
1.はじめに
2.死への態度に関する心理学的研究には
  どのような歴史的背景があるのか?
(1)欧米での研究
(2)日本での研究
3.死に関する尺度にはどのようなものがあるのか?
(1)死の不安尺度
(2)死(生)観尺度
(3)死への態度尺度
4.死への態度に影響する要因にはどのようなものがあるのか?
(1)年 齢
(2)宗教的要因
(3)社会・文化的要因
5.死への態度研究は現代社会にどのような視座を提供するのか?
(1)医療現場への視座
(2)デス・エデュケーションの視座
6.おわりに

第2章 死に逝く過程
1.はじめに
2.死に逝く過程に関する心理学的研究には
どのような歴史的背景があるのか?
(1)欧米の死に逝く過程に関する古典的研究
(2)死の受容5段階モデルに対する批判とは?
(3)国内における「死生観」に関する先駆的研究や著書には
  どのようなものがあるか?
3.緩和ケアとは何か?
(1)緩和ケアの定義
(2)緩和ケアとホスピスの違いとは?
4.がん患者とその家族に対するケアとは?
(1)成人のがん患者とその家族に対するケア
(2)終末期の子どもたちとその家族に対するケア
5.エンド・オブ・ライフケアとは何か?
(1)エンド・オブ・ライフという時間について
(2)予期悲嘆の問題について
6.良い死とは何か?
(1)日本人にとって望ましい Quality of Death and Dying とは?
(2)緩和ケアにおけるコミュニケーション─悪い知らせを
  伝える際の,よりよいコミュニケーションとは?
7.おわりに─いのちがリレーされていくこと

第3章 死 別
1.はじめに
2.悲嘆(グリーフ)とは何か? 人はどのような
悲嘆過程をたどるのか?
3.人は悲嘆からどのように回復するのか
(1)悲嘆からの回復と適応
(2)悲嘆(グリーフ)の具体的な対処方法
4.悲嘆の回復を阻害する要因
(1)複雑性悲嘆
(2)回復を困難にする文化的・社会的要因
5.グリーフケアとは?─悲嘆の回復を支える支援
6.おわりに─悲しみとともに生きるとは

第4章 自 殺
1.はじめに
2.日本の自殺にはどのような特徴があるのだろうか?
(1)日本の文化的背景と自殺
(2)自殺の現状
3.自殺の基本認識にはどのようなものがあるのだろうか?
(1)自殺の基本認識
4.自殺者の心理社会的特徴にはどのようなものがあるのだろうか?
(1)心理学的剖検
(2)心理学的剖検による自殺予防
(3)日本の心理学的剖検からみた自殺者の世代別特徴
5.自殺を予防するにはどうすればいいのだろうか?
(1)自殺予防の3段階
(2)メディカルモデルとコミュニティモデル
(3)身近な自殺予防
6.おわりに

第2部 死と向き合う─人生を通じた死生との向き合い方を考える

第5章 周産期・乳児期における死
1.はじめに─いのちの誕生の分水嶺で,
  社会的に見えにくくなっている死
2.生と死をまたぐいのちの経験はいかようか?
  ─母として,父として,夫婦として
(1)つながらないいのち─流産,死産,そして新生児死
(2)絶たれるいのち,芽生えないいのち
  ─中絶すること,着床しないこと
(3)亡くなる赤ちゃん─乳幼児突然死症候群
3.子どもとの愛着を築き直すプロセスでのケアとは?
  ─医療現場で,地域社会で
(1)医療現場でしっかりと悲嘆に向き合うということ
(2)地域社会で子どもの死を共有するということ
4.おわりに─いのちの神秘と生の奇跡,今ここにある存在を
  尊ぶということ

第6章 幼児期・児童期における死
1.はじめに─「死んだらどうなるの?」という質問に
  どう答えるか
2.「死を理解している」とはどういうことか
  ─死の概念を構成する要素
3.死の理解はどのように発達するのか
(1)死の概念理解の発達における認知発達理論の枠組み
(2)死の概念を獲得する年齢
(3)日本の研究,諸外国との相違
(4)死の概念の獲得に関連する要因
(5)要素に分解される死の理解への批判
4.死を身近にした子どもとどうかかわるか
(1)死に逝く子どもたちの実態
(2)死に逝く子どもたちの症状と心理
(3)死に逝く子どもの死の理解
(4)死に逝く子どもたちへのかかわり
5.遺された子どもをどう理解し,ケアできるのか
(1)死別による子どもの悲嘆反応
(2)死別による影響
(3)故人との関係による特徴
(4)子どもの悲嘆へのケア
6.いのちの教育とはどのようなものか
(1)死を扱う教育
(2)死を扱う教育の課題
7.おわりに─死を身近にした子どもとかかわること

第7章 青年期における死
1. はじめに
2. 青年にとっての死はどのように語られてきたか
3. 青年にとっての死とは?
(1)青年は死をどのように捉えているのか?
(2)青年期に見られる死への恐怖や不安の特徴とは?
(3)自身の死に直面した青年はどんな体験をするのか?
(4)青年は重要な他者の死をどのように経験するのか?
4.青年期の自殺の実態と有効な予防対策とは?
(1)日本における青年期の自殺の実態
(2)青年期の自殺の特徴とは?
(3)青年期における自殺の危険因子
(4)青年期の自殺を防ぐためには?
(5)学校における自殺予防教育とは?
(6)自殺関連情報への接触(三人称の死)が青年に及ぼす影響
5.おわりに

第8章 成人期における死
1.はじめに
2.成人が死を意識するときとは?
(1) 次の世代を育むことと死を意識すること
(2)前の世代を見送ること
3.成人は死とどのように向き合うのか?
4.成人期において,死に逝く者とその家族は何を思うのか?
5.働く世代における死別経験は,遺された家族に
  どのような影響を及ぼすのか?
(1)配偶者との死別後の適応とケア
(2)子どもとの死別後の適応とケア
6.おわりに
(1)成人期において死生を語ることの意義と困難
(2)現代社会において死とともに生きるために

第9章 中年期における死
1.はじめに─中年期とはどのような時期なのか?
2.中年期にとって一人称の死とは?
3.大切な人を亡くす悲しく辛い経験にどう向き合うのか?
(1)親の死
(2)配偶者・パートナーの死
(3)子どもの死
(4)友人の死
(5)ペットの死
4.大切な人を亡くす経験は,ただ悲しいだけの経験なのか?
5.おわりに─現代社会において,死とともに生きるには?
(1)「死を考えることは生を考えること」
(2)死別経験後のポジティブな変化は必要なのだろうか?

第10章 老年期における死
1.はじめに─老年期とはどんな時期なのか?
2.高齢者は自らの死をどう捉えているのか?
(1)歳をとると死が怖くなくなるのか?
(2)高齢者はあの世を信じているのか?
3.高齢者はどのようないに臨むのか?
(1)終活ブームとその実態とは?
(2)高齢者はどこでどのような最期を迎えたいのか?
(3)高齢者の身終いに周囲の人はどのように
  かかわればよいのか?
4.年をとれば身近な人との別れに慣れるのか?
5.何が高齢者を自殺に追い込むのか?
(1)高齢者の自殺の実態とは?
(2)高齢者の自殺を予防するために必要なことは何だろうか?
6.おわりに─現代社会において,老いと死とともに生きるとは

第3部 死を探求する─研究方法について学ぶ

第11章 研究倫理
1.はじめに─研究と倫理の関係
2.死生を研究するとはどういうことなのか?
3.死生心理学研究に必要な倫理とは何か
(1)研究計画を立てる
(2)研究を行う
(3)研究をまとめて公表する
4.それぞれの死生心理学研究で考えるべき倫理とは
(1)死への態度研究
(2)死に逝く過程の研究
(3)死別研究
(4)自殺予防研究
4.おわりに

第12章 質的研究法
1.はじめに
2.死生心理学において質的研究はどのように
  位置づけられているのか?
3.死生心理学において質的研究にはどんな意義があるのか?
4.死生心理学においてどのように質的研究の調査を行えば
  よいのか?
5.インタビュー法
(1)インタビュー法の前提
(2)インタビュー法の手順
(3)インタビュー法の限界
6.死生心理学においてどのように質的研究の分析を
  行えばよいのか?
(1)質的研究の分析法にはどのようなものがあるか
(2)テキストマイニング法の概要と限界
7.おわりに─現代社会において,死とともに生きるには

第13章 量的研究法
1.はじめに
2.心理尺度を用いた研究
3.死に対する価値観
4.自 殺
5.悲 嘆
6.その他の量的研究
(1)恐怖管理理論
(2)その他の方法
7.量的研究における課題
8.おわりに

終 章

Appendix
引用文献
人名索引 
事項索引


ウェブ公開資料集

本書のワーク、および本書に収録されていない関連図表を、下記ウェブサイトで閲覧、ダウンロードできます。

公開資料 http://www.shin-yo-sha.co.jp/link/open_doc.pdf
ワーク http://www.shin-yo-sha.co.jp/link/work.pdf

装幀=新曜社デザイン室

コラム一覧

1章 なぜ日本では自宅での看取りが少ないのか?
    ─最期の場所に関する希望と現実の乖離24
2章 死期に近づいた人々が大切な人に手紙を書くということ
    ─ディグニティセラピーの紹介42
3章 外傷後成長61
4章 災害と自殺79
5章 新型出生前診断が問いかけたもの100
6章 子どもが自殺関連行動にさらされることの問題117
7章 インターネットを使って青年の自殺を防ぐことは可能か?135
8章 家族システムという観点からみた成人期における死の経験について153
9章 中年期危機と死171
10章 アメリカにおける終活の現状と課題188
11章 死者の表象207
12章 論文としてまとめ,発表する224
13章 死の不安や死後の世界の心理学の今243

ワーク一覧

ワーク0  こころの準備運動6
ワーク1  もし,死がなかったら26
ワーク2  尊厳のある死をめぐって44
ワーク3  グリーフマップを描こう63
ワーク4  自殺予防クイズ80
ワーク5  もし死後の世界があるとしたら─「あの世」のイメージ101
ワーク6  子どもに死を説明する118
ワーク7  自殺の危機対応場面について考える137
ワーク8  遺されたもの155
ワーク9  喪失のスケッチ172
ワーク10 エンディングノート190
ワーク11 研究倫理チェックリスト208
ワーク12 事例を提示する226
ワーク13 死に対する態度を測定する244


はじめての死生心理学 終章

 心理学は本来,人が生まれ,生き,死に逝くすべての過程においてさまざまな角度から光を当てる学問である。現在では,心理学の分野は基礎から応用に至るまで幅広く細分化され,人という存在の不思議に迫ろうとしている。その中でも「死生心理学」は,人の存在について,誰もが避けることのできない「死」から考えてきた。人の人生をたどってみれば,この世に生を受け,さまざまな人とかかわり,次世代へと有形・無形なものを継承しつつ,死を迎える。生から死へという順序であるが,死の側から生を見るという側面の強さが,「生」と「死」を逆転させた「死生学」あるいは,「死生心理学」という言葉に表れているように思われる。

 本書では,これまでに行われてきた,死にまつわる心理学研究について概観してきた。本書を読み終わった読者の皆さんはどのような感想をもたれたであろうか。学問の視点からこの本を読んだ人は,諸々の研究結果が実践の場でどのように活用されるのか,あるいは他の学問領域とどのように関連しているのかということに,さらなる興味や疑問をもたれたかもしれない。また,実践の場で常に人の死生と対峙している人や,自身の体験と照らし合わせて読んだ人は,その体験を理論や学問的知見と重ね合わせたかもしれない。そして,自分の体験はそういうことだったのかと理解するヒントを得られた人もいれば,あるいはその反対に,体験と理論の間に差を感じたりしたかもしれない。

 死生にまつわる問題を考える際,万人が納得いく答えを出すことは難しい。しかし死生心理学というこの学問分野は歴史こそまだ浅いが,それでも人間は有史以来,「死とは何か」,「生きるとは何か」という問いに対する答えを絶えず探求してきたのも事実である。それゆえ,こうした問いに対して,私たちはいくつかの共通点や一定の理解を分かち合うことができる了解可能性に開かれてもいる。それでは今後,どのような視点から「死生の問題」について考えれば,私たちは死生の問題に対する何らかの了解を得ることができるのだろうか。そのためのひとつの方策は,「死生を問う」ことの重要性を私たちが共に認識することだろう。そしてそれは身近な他者との対話のみならず,本書に描かれた先人や先行研究との対話を通じて可能になるのではないかと思う。

 ところで先に,この本をどのような視点から手にとるかによって,読後の感じ方が違うであろうことを述べたが,読者の方々と著者たちの間を埋めるのはおそらく「関係性」という言葉であろう。以下,この「関係性」という言葉をもとに,今後の課題について記していきたい。

 序章で述べたように,「死生心理学」では,死への態度,死に逝く過程,死別による悲嘆を中心に研究が進められてきた。なかでも死に逝く過程は,臨床現場のニーズや人々の関心の高さも手伝い数多くの研究が蓄積されてきている。とはいえ,生涯発達の視点からは中年期や老年期の研究に比べ,幼児期や青年期,成人期に関しては十分な研究がなされているとはいえない。なかでも,発達の視点からも捉えにくいとされる青年期から成人前期のいわゆるAYA(Adolescent and Young Adult)世代は,他の年代と比べ,内面を語りにくいこともあり,そのケアが困難である。この分野においては,今後,研究が手薄な年代への研究蓄積が望まれる。

 また,本書の第1部第1章「死への態度」に代表されるような認知の面から死を捉えた研究については,おおよそすべての年代が網羅されているが,個を中心とした質問紙構成となっており,関係性から捉えるという視点が欠けている。このことが,第8章でも論じたとおり,成人期の研究が手薄になっている一因であると考えられる。本書第2部では,ライフステージ別に各発達段階特有のライフイベントや認知面での発達をベースに研究を概観した。そこからもわかるように,発達は個のものとして捉えられがちではあるが,そこには家族をはじめとしたさまざまな人々との関係がある。生きること,死に逝くことは単に個に閉じたものではなく,関係性の上に成り立つものである。さらにそれは家族などの身近な他者との関係性にのみあてはまるものでもない。所属集団や地域社会との関係性,信仰や戦争体験といった文化歴史的文脈との関係性もまた,人の死生について大きな影響を与えるのである。こうした観点は,今後の死生心理学研究においてますます重要になってくるだろう。  さらには,これまでの死生心理学における各領域の関係性も重要である。たとえば死に逝く過程における,患者や家族,医療従事者の死に対する恐怖や予期悲嘆の問題に迫るためには,死に逝く過程,死への態度,死別といった諸領域の観点が必要になるだろう。また自殺の問題はどの領域とも密接にかかわる大きな課題である。たとえばエンド・オブ・ライフにおける積極的安楽死や医師による自殺幇助の問題や,複雑性悲嘆と自殺のリスクの問題など,これまで以上に死生学と自殺予防学との連携を深めていく必要がある。また,急速に発展を遂げている生殖医療においては,この世に生を受ける前の受胎あるいは受胎に至るまでの死生の問題や死生の選択についても,生命倫理学や遺伝学の視点を取り入れた研究も今度ますます重要になるであろう。

 本書では,学術研究を中心に紹介してきたため,臨床・実践現場における具体的な支援方策については十分扱うことはできなかった。今後は理論と実践を架橋する現場研究の蓄積がさらに求められるようになるだろう。そしてそれは,研究と実践が連携している「死に逝く過程」や「死別」,「自殺予防」といった,差し迫った死と対峙する人々にかかわる分野にとどまらない。たとえばエンド・オブ・ライフケアの発展を念頭に,人がその生涯を通じて経験する複数の死別体験をどのように自らの人生に組み込みながら生きるのかという問題や,がんサバイバーがその後の人生においてどのように死を意識し,向き合いながら生きていくのかといった問題について検討していくことが今後さらに必要になってくるだろう。その際には,これまでの主たるフィールドであった医療現場から,人々の日常生活に根差した現場へとそのフィールドを拡張させていくことも欠かせない。そしてそれは死から生を見ることと同時に生から死をみること,もっといえば生死心理学の構築へとつながるものだろう。

 編者二人が,晩秋の本郷で,いつか人の死生を正面から捉えた心理学の本を出したいと計画を始めて4年がたち,多くの人々に助けられ,巨人の肩の上に立ち,本書を発刊することができた。なお本書に収蔵された各章はいずれも力作揃いであり,大変読み応えのある内容であるが,最終的な編集責任は編者が負うものである。本書についての忌憚のないご意見やご批判を,読者諸兄姉からいただきたい。また末筆になるが,本書の出版においては,新曜社の塩浦?さんにご尽力いただいた。ここに感謝申し上げたい。加えて本書を刊行するにあたり, JSPS科研費16K13477およびJSPS科研費15K04579からの助成を受けた。

 死生の問題は,いつ,どこから,どのように見るのかによって,たとえるなら光の当て方によって,浮かび上がる像が異なる。本書が,さまざまな「死生」像を照らし出すひとつの灯りになれば,この上ない喜びである。