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ダレン・ラングドリッジ 著
田中彰吾・渡辺恒夫・植田嘉好子 訳

現象学的心理学への招待
――理論から具体的技法まで


A5判上製280頁

定価:本体3100円+税

発売日 16.7.10

ISBN 978-4-7885-1485-0

cover


◆はじめての現象学的心理学入門テキスト
 さまざまな学問領域で質的研究法が盛んになるにつれて、現象学への関心が高まり、関連著作も次々刊行されています。しかし、現象学は難解であることに加えて、「他者の経験」を理解する方法として活かすには工夫が求められます。本書は、フッサールからリクールにいたる現象学をわかりやすく概説した上で、フッサールに基づくジオルジの心理学、ハイデガーに基づく解釈学的現象学的分析、そしてリクールに基づく批判的ナラティブ分析という主要な3つの現象学的心理学を体系的に紹介し、具体的な技法も懇切に解説しています。現象学的心理学を学ぶのに最適な入門書です。

現象学的心理学への招待 目次

現象学的心理学への招待 日本語版への序文

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現象学的心理学への招待 目次
日本語版への序文
謝辞

1章 文脈の中の現象学的心理学
1.1 心理学における質的方法
1.2 現象学と現象学的心理学
1.3 本書の概観

2章 現象学の基礎
2.1 現象学とは何か
2.2 歴 史
2.3 志向性
2.4 経験されること(ノエマ)とそれが経験されるしかた(ノエシス)
2.5 エポケー(判断停止)
2.6 現象学的還元
2.7 想像的変更
2.8 本 質

3章 実存主義と現象学
3.1 実存主義の基本
3.2 マルティン・ハイデガー
3.3 後期実存主義者たち
  ――サルトル、ボーヴォワール、メルロ=ポンティ
3.4 サルトル、選択することと実存の虚無性
3.5 メルロ=ポンティと身体的主体

4章 解釈学的転回
4.1 ハンス=ゲオルク・ガダマー
4.2 ポール・リクール

5章 現象学的心理学のさまざまな領域を区分けし概観する
5.1 現象学的心理学へのさまざまなアプローチ
5.2 研究の設計
5.3 標本抽出法
5.4 反射性
5.5 倫 理
5.6 データ収集1――インタビュー
5.7 データ収集2――書かれたもの
5.8 データ収集3――他のテクスト源および観察法
5.9 品質――研究への体系的なアプローチをとること
5.10研究結果を書くことと伝達すること
5.11現象学的研究におけるコンピュータの利用

6章 事象そのものへの接近――記述的現象学
6.1 データ収集
6.2 方 法
6.3 研究結果の提示
6.4 記述的現象学的分析――急性感染症の経験
6.5 シェフィールド学派の分析

7章 解釈と意味
 ――IPA、解釈学的現象学、鋳型分析
7.1 データ収集
7.2 方 法
7.3 研究結果の提示
7.4 IPAの実践例――人間関係における不信の経験
7.5 解釈学的現象学
7.6 鋳型分析

8章 生活世界を物語る
 ――批判的ナラティヴ分析
8.1 物語ることへの関心の拡大
8.2 データ収集
8.3 方法
8.4 研究結果の提示
8.5 研究事例
  ――親になることについて若いゲイ男性が抱く期待
8.6 最後に

9章 鍵になる論点、論争、反論
9.1 既存の物の見方への挑戦
9.2 妥当性と現象学的研究
9.3 記述 対 解釈
9.4 ポストモダニズムと言語への転回
9.5 方法の成文化
  ――多様化/統合、創造性、そして方法崇拝
9.6 現象学的心理学にはどんな未来があるか?

『現象学的心理学への招待』訳者解説
参考文献
人名索引
事項索引

装幀=新曜社デザイン室


現象学的心理学への招待 日本語版への序文

  日本には、現象学的心理学における長く誇るべき研究の伝統があることを、私は以前から知っていました。ですが、日本にいる仲間たち――彼らは私と同様、現在もこの分野を支配している伝統的な(総じて認知的な)心理学への代案として、現象学的心理学の可能性を追求しています――と絆を深める機会を得たのはつい最近のことです。私の考えでは、現象学的方法は、好奇心をもって一緒に努力しながら、また絶えざる敬意を払いつつ、他者の世界に接近しそれを理解するうえで、最良の方法を提供してくれるものです。人間科学の大半の研究は、人間の経験を、そしてまた人間存在そのものをも単なる変数に還元してしまいますが、現象学的方法はそれとは根本的に異なる立場をとるものです。本書『現象学的心理学』の日本語版に人々が触発されてさらに読書を続け、自身の研究において現象学的方法を用いることになるよう、私も大いに期待しています。

 フランスの偉大な哲学者ポール・リクールは(私も本書全体を通じて彼に言及していますが)、2006年の著作『翻訳について』で優れた翻訳の重要性について述べています〔訳注:フランス語原著は「Sur la traduction」と題し2004年に出版されているが未邦訳〕。そこで彼は「言語的歓待(linguistic hospitality)」の概念について述べ、それが力のある翻訳の核心にあって、自己と他者の溝を埋める方法になっていると論じています。

 翻訳者の課題を劇的なものにする葛藤に満ちた性質がそこにあるにもかかわらず、彼または彼女は、「言語的歓待」と私が好んで呼ぶものに悦びを見出すのである。その苦境は、完全には当てはまらない対応関係に由来する。……言語的歓待はしたがって、他者の言葉に住み込む行為と並んで、他者の言葉を自らの家、自らの住まいへと迎え入れる行為なのである。

 この点を念頭に置きつつ、「他者」の言葉に「住み込み」それを「迎え入れる」という彼らの素晴らしい努力に関して、私は本書の訳者たち(田中彰吾博士、植田嘉好子博士、渡辺恒夫博士)に心から感謝したいと思います。特に田中彰吾氏は、私が日本を訪れた際、歓待を実践することの意義を私に向かってさらに示してくれました。日本文化の美しさを味わうには短すぎる機会ではありましたが、彼の付き添いで好ましい思い出になりました。最後に、この企画を信頼し、本書の出版に同意いただいたことについて、新曜社に心から感謝します。人間科学における最新の思想を日本語で出版するという野心的企画の一翼を担うことができて、非常に興奮しています。

イギリス、オープン大学教授
ダレン・ラングドリッジ