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ジェームズ・フリン 著
無藤隆・白川佳子・森敏昭 訳

知能と人間の進歩
―― 遺伝子に秘められた人類の可能性


A5判160頁上製

定価:本体2100円+税

発売日 16.6.15

ISBN 978-4-7885-1482-9

cover


◆人間の知能は向上しているか?
 著者のフリンは政治哲学者・道徳哲学者にして心理学者で、人類の知能は産業化・情報化とともに向上しているという「フリン効果」で世界的に著名です。確かに遺伝はその人の基本的知能のあり方を決めますが、結果としての知能、つまり思考の水準は、環境の手助けがあれば伸びていくのです。それが教育であり、また知的な仕事の機会です。時に人は、人種や階層や男女や文化によって知能が本来的に異なるのだと考えがちです。フリンは一つ一つ証拠を吟味し、そういう集団差には根拠がないこと、主として社会の産業化と情報化によって、抽象的仮説的な思考の習慣が求められるようになることで知能が向上することを明らかにしました。

知能と人間の進歩 目次

知能と人間の進歩 訳者あとがき

ためし読み

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知能と人間の進歩 目次

謝 辞

1 章 私たちの遺伝子と私たち自身
 1−1 本書の構成
 1−2 時代に伴う、集団としてのIQ の大幅な上昇
 1−3 ディケンズ/フリンモデル
 1−4 新しい何かを測定する

2 章 遺伝子と認知的進歩
 2−1 ジェンセンの方法
 2−2 ジェンセンの方法の概念的基礎
 2−3 ジェンセンの方法の実際
 2−4 判定のまとめ
付録A(主に専門家向け)

3 章 劣生学と優生学
 3−1 ポル・ポトとカンボジア
 3−2 遺伝子の再生産パターン
 3−3 人種と移民
 3−4 まとめ

4 章 遺伝子と道徳性の進歩
 4−1 人類の遺伝子の相続
 4−2 攻撃的行動の普遍的な減少
 4−3 認知的進歩と道徳的進歩
 4−4 危機に瀕する進歩

5 章 遺伝子と個人差
 5−1 加齢と家庭環境
 5−2 新しい方法
 5−3 新しい方法の適用例
 5−4 家庭環境の影響力の減少
 5−5 幸運を創り出す方法
 5−6 立証されたIQ 上昇
付録B(主に専門家向け)

6 章 凍結された心

訳者あとがき
索 引

装幀=新曜社デザイン室


知能と人間の進歩 訳者あとがき

  本書は、James R. Flynn, Intelligence and Human Progress Elsevier,2013 の全訳である。

 著者のフリンは政治哲学・道徳哲学が専門であるが、知能の問題に関心を持ち、心理学者として「フリン効果」(つまり、人類の知能は産業化・情報化とともに向上していることを知能検査の標準化の際のデータに基づいて実証した)で著名である。1934 年生まれで、ニュージーランドのオタゴ大学政治学の名誉教授。本書にあるように、元々はアメリカ生まれである。

 その背景から、本書のような一般向けの著作でも独自の特徴がある。一つは徹底した実証に基づくということだ。知能検査は20 年に1 回程度、問題が時代に合わせて改訂され、少なくとも数千人のデータで標準化がなされる。その際、時代を追って得点が上がることが通例なので、改めて平均が100 点になるように問題内容を難しくする作業がなされる。フリンはその点に着目し、時代変化を明らかにした。かなりややこしい統計操作が入るので、それは本書では付録で述べられている。

 第二は、幅広い歴史的政治経済的知見が議論の随所に見られることだ。知能得点が上がったとして、フリンはその理由を社会で知的な仕事が増えたからだとしている。それは19 世紀後半から20 世紀全般での幅広い知識を動員して、「社会学的」説明を行っている。確かに遺伝はその人の基本的知能のあり方を決める。だが、結果としてのその人の知能つまりは思考の水準は実は、その知能の傾向(これは遺伝と小さい時期の環境で規定される)に見合った環境をその人が意識せずに選んでしまうからだ。本書の例にあるように、背が高くて運動が得意なら(アメリカでは)バスケットボールをやって、たくさんの経験を積むから、ますますそういう運動が上手になる。しかし、一定の知能の傾向であっても、その環境として多少ともその傾向より高いものが用意され、その環境を生かすように手助けがあれば、どの人であれ、その知能は幼少期から成人期に至る間に伸びていくのである。それがまさに教育であり、また知的な仕事の機会である。

 第三は、その議論の政治的社会的意義を明確にして、強いメッセージを送り出していることだ。知能の専門家の中には、人種や階層や男女や文化によって知能が本来的に異なるのだと議論し、実証したと称する人たちが少なからずいた。それを一つ一つ証拠を吟味し、論駁し、そういう集団差には根拠がないこと、主には社会の産業化と情報化により、抽象的仮説的な思考の習慣が求められるようになることで決まってくるのだと論じている。リベラリズム(自由主義)と民主主義の信念が、人類が平等で豊かになるべきだし、なってきつつあるのだというメッセージとして語られている。(なお、この点は、著者の友人でもあるというピンカーの『暴力の人類史』が何度も言及されている。)

 本訳書はまず無藤と白川が共同で訳を行い、次に森が心理統計の専門家でもあるので、統計処理を含めての総点検を行った。さらに、新曜社の塩浦さんには細かい訳文のチェックをしていただいた。さほど厚くない一般向けの図書であるが、そのメッセージをぜひ多くの人に読んでもらえれば幸いである。