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三浦倫平 著

「共生」の都市社会学
――下北沢再開発問題のなかで考える


A5判上製464頁

定価:本体5200円+税

発売日 16.3.31

ISBN 978-4-7885-1470-6

cover


◆「知らないうちに道路ができちゃった」と後悔しないために
 現代の都市は、様々な人々が共に生きる=「共生」の側面が強くなっています。にもかかわらず、社会学はこの問題をあまり重視してきませんでした。本書は、この「共生」の問題をルフェーブルの「都市への権利」などの考えに遡って問い直し、そこにある問題とは何か、どのように解決できるのかなどを、根源から問い直します。その際、具体的な考察の対象となるのが、下北沢という街の再開発をめぐって起きた紛争です。七〇年代以降、独自の発展をしてきたこの街を愛する人々が、行政や企業のやり方に対して、やむにやまれず立ち上がった運動ですが、この町に住む人、地主、商売する人、遊びに来る人など、様々な形で運動に関わる人々へのインタビューを通して、多様な考え方・運動のあることが浮かび上がり、解決への道筋が暗示されます。まだ解決に至っていませんが、理論としてだけでなく、運動の記録としても貴重な、力作です。

「共生」の都市社会学 目次

「共生」の都市社会学 あとがき(一部抜粋)

ためし読み

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「共生」の都市社会学 目次
序章 「共生」をどのように捉えるべきか?

第一章 都市空間の危機的状況/都市社会学の危機的状況
 1 都市空間の危機的状況
  @ 都市空間における「排除」
  A 都市空間の「均質化」
  B 都市空間の「荒廃化」
 2 都市社会学の危機的状況
  @ 岐路に立つ都市社会学
  A 新都市社会学の問題提起とは何だったのか?
 3 なぜ、新都市社会学は隘路に直面したのか?
  @ newest urban sociologyの自己矛盾――「共生」という理論的対象の設定

第二章 都市社会学の方法史的検討
 1 初期シカゴ学派における「意味世界
 2 日本の都市社会学の方法史的検討
  @ 開発研究における意味世界
  A 住民運動論における意味世界
 3 アクティヴ・インタビューの意義と課題
  本書における「意味世界」の視角

第三章 「共生」をめぐる「迷宮の盛り場―下北沢」の紛争
 1 下北沢地域と都市計画の概要――紛争の社会的背景
  @ 下北沢地域の概要
  A 都市計画事業の概要
  B 反対運動の成立とその展開
 2 どのような「共生」の構想が分立し、展開しているのか
  @ 「公共性」をめぐる争いから「共生」の構想へ

第四章 「共生」の構想の社会的世界
 1 「歩いて楽しめる空間」という意味世界の背景
 2 計画推進側の意味世界の背景
  @ 高層化という経済的合理性の追求の諸要因
  A 「協働」の形骸化と正統化

第五章 「共生」を実現するための構想・運動の可能性と課題
 1 三つの政治的な構想
 2 対抗型の構想の前史――小田急高架訴訟の意義と課題
 3 対抗型、連帯型、イベント型の構想・運動の誕生と展開
  @ 政治的構想の生成と混在
  A 対抗型の運動の成果と課題
  B 連帯型の運動の成果と課題
  C イベント型の運動の成果と課題
  D 対抗型・イベント型の構想とその変化――第一局面の総括
 4 対抗型と連帯型の運動の分岐と対立
  @ 裁判闘争という運動の意義
  A 跡地利用をめぐる運動の対立
  B シンポジウムに表われる構想の分化
  C 連帯型の構想の台頭と対立型の構想との分裂――第二局面の総括
 5 「ラウンドテーブル」をめぐる構想の対立
  @ 保坂区長誕生という政治機会構造の変化
  A 運動が直面したラウンドテーブル構想の課題
  B 各々の構想・運動の意義と課題――第三局面までの総括

第六章 研究対象者の視点から見た分析の課題

第七章 結論――本書の意義と課題
 1 本書の方法論的意義
 2 本書の分析的意義
 3 本書の課題と展望


あとがき
参考文献
資料
事項索引
人名索引


「共生」の都市社会学 あとがき(一部抜粋)

 未曾有の大震災が起きてから、早五年が経過しようとしている。東京大学被災地支援ネットワークの一員として被災地沿岸部に訪れた際に見た風景の数々が、今でも脳裏に強く残っている。倒された家屋の数々。道端に転がる日用品。カーナビに記された施設やお店が全く見当たらないことに衝撃を受けたのを今でも覚えている。

 あの風景を思い出すたびに、あの地で生き残った人たちは今どのような生活をしているのかということを考えてしまう。今、被災地は「復興」に向かっているのだろうか。日本社会は「復興」をどのように考えているのだろうか。

 災害という全く違う角度から話をしたのは、今被災地が直面している「復興」という課題が、本書の視点からすれば「共生」の課題であるということを言いたいからだ。

 「復興」は、インフラなどが単に「復旧」することを意味しているのではなく、「多様な人々が共に生きていくことができるような社会の形成過程」、すなわち「共生」という意味で捉えていくべきだ。なぜならば、インフラをきれいに作り直しても、被災者の生活に対する支援が十分に行なわれず、多くの社会的弱者がその土地に住み続けることができなくなってしまっては、望ましいあり方とは到底言えないからだ。これは理論的な想定ではない。阪神淡路大震災の後に起きた現実を言っているのだ。その意味では、東日本大震災の「復興」は必ずしも順調とは言えない。まだ多くの被災者が被災地に戻って生活できているわけではないからだ。

 そして、東日本大震災の「復興(=共生)」をめぐる状況を見ると、今後の日本社会が直面するであろう様々な課題が浮き彫りになっていることがわかる。社会的弱者を支えきれない制度、高齢化問題、人口減少、地域経済の疲弊……。人口減少時代に突入し、かつてのようには無限の「成長」が期待できなくなってきたなかで、いかにして有限な資源を多様な人々と共有することができるのか。そのためには、どのような社会構想や社会関係、制度が重要になってくるのか。「有限性の時代」における「共生」というテーマは、被災地の復興という局面だけにとどまる話では当然ない。日本社会が今後これまで以上に重要な課題として取り組んでいかなければならない課題である。

 本書が取り扱った「都市」という研究対象は、異質な人々が集まる空間であるが故に、近代から「共生」がテーマになってきた。そこに、「資源の有限性」という条件が加わることで、実践的にも、研究的にも、これまでのパースペクティヴの再構成が必要となる。

 都市社会運動は、社会にとって「街」がどのような価値を持つものなのかということを改めて構想しなければならないだろう。そして、「街」に対する発言権は誰にあるのか、どのような人の利益が包摂されるべきなのか、ということの再検討も必要になってくるだろう。右肩上がりの成長が期待できないという条件下で、多くの人が納得するような社会を、都市社会運動がいかに構想していくことができるのか、そしてそれをいかに実現していくことができるのかが問われている。

 そして、都市社会学は、この「都市における共生」という重要な研究課題、実践課題に取り組むうえで、従来の方法や認識を再検討することが求められる。「共生」をテーマ化する都市社会運動をどのように捉えていくのか。これまでの研究者の価値中立的な立場について今後どう考えていくのか。ただ規範的な主張を展開するのでもなく、経験的な記述に埋没するのでもなく、理論的かつ実践的に意味のある研究をするにはどうすればいいのか。様々な課題が浮上している。

 そこで本書は、過去の都市社会学の遺産や経験的な調査をもとにして、「共生」という捉え難いものを、どのようにしたら社会学的に捉えることができるのか、探求することを試みた。さまざまな角度からの検討を行なったために、ややまとまりに欠けてしまっており、その点は本書の大きな課題である。だが、都市における共生を社会学的に考えるためには、多元的な検討が不可避という部分もあった。その点、ご容赦いただけたら幸いである。