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日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第15号
──特集 子どもをめぐる質的研究


B5判並製252頁

定価:本体3000円+税

発売日 16.3.20

ISBN 978-4-7885-1464-5

cover


◆「子ども」を捉える質的研究
 発達研究においては、ともすれば身近で個別的な子どもと向きあい、その子の理解に役立つ情報を探ることが見失われがちです。本特集では、質的方法の特性を自覚的に利用して、子どもたちの「いま」をとらえ、周囲の人の関わりの理解をめざす論文が4本そろいました。人間観や認識論といった、ものの見方の変革に深く関わる質的研究ならではの力作ばかりです。ほかに一般論文を7本収載。書評特集では「質的心理学研究の足下を見直すため、あらためて古典を読む」と題し、質的研究の理念や息吹を感じさせる古典との対峙を促します。

質的心理学研究 第15号 目次

質的心理学研究 第15号 巻頭言

質的心理学研究シリーズ バックナンバー

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質的心理学ハンドブック 目次
巻頭言 伊藤哲司 アクションリサーチとしての編集活動

特集:子どもをめぐる質的研究(責任編集委員:斉藤こずゑ・菅野幸恵)

■香川七海
青少年女子によるインターネットを媒介とした他者との〈出会い〉
─「ネットいじめ」言説の興隆期に着目して

■菅野幸恵・米山 晶
子どものとなりで育ちを見守る
─ある保育者の語りから見る自主保育という育ちの場

■三浦麻依子・川島大輔・竹本克己
聾学校乳幼児教育相談における母子コミュニケーション支援に関する一考察
─意味ある他者との関わりを足場として

■岸野麻衣
小学校における「問題」とされがちな子どもの学習を支える授業の構造
─協同での学習過程における認知的道具の使用をめぐる事例分析

 一般論文

■村田観弥
関係に着目した「発達障害」概念の様相

■坂井志織
慢性硬膜下血腫“疾患前”の患者経験
─生活に馴染んでいく“症状”

■広津侑実子・能智正博
ろう者と聴者の出会いの場におけるコミュニケーションの方法
─手話を用いたインタビューの会話分析から

■沼田あや子
発達障害児の母親の語りのなかに見る家族をつなぐ実践
─「葛藤の物語」から「しなやかな実践の物語」へ

■向 晃佑
複線径路・等至性モデル(TEM)による送球イップス経験者の心理プロセスの検討

■野口聡一・丸山 慎・湯淺麻紀子・岩本圭介
「宇宙にいた私」との対話
─宇宙空間での “つぶやき” に私の変化を見る

■一柳智紀
ワークシートの配布方法の相違が小グループでの問題解決過程に及ぼす影響

 BOOK REVIEW

■《書評特集》質的心理学研究の足下を見直すため,あらためて古典を読む
特集にあたって(森 直久)
ピアジェ『子どもにおける知能の誕生』を再読する
─いかなる「個別」の現象も「普遍」の一つの現れである(評:浜田寿美男)
世界の境界・裂け目から構想する方法論
『暴走族のエスノグラフィー』と『大衆演劇への旅』の方法論的読解(評:天田城介)
科学としての質的研究の立脚点は二つ(評:葛西俊治)
 共同的な実践としての「アイヒマン実験」(評:矢守克也)
「なんとくだらないことだろう!」
─L. S. ヴィゴツキー「心理学の危機の歴史的意味」再読(評:高木光太郎)

編集委員会からのお知らせ
『質的心理学研究』規約
投稿に際してのチェックリスト
『質的心理学研究』特集と投稿のお知らせ
英文目次
『質的心理学研究』バックナンバー
表紙デザイン 臼井新太郎


質的心理学研究 第15号 巻頭言 アクションリサーチとしての編集活動


質的研究の「質」をめぐる悩み
 『質的心理学研究』第15号を無事みなさまのお手元に届けられることになった。編集委員長として3年間務めさせていただいた私にとっては,任期満了を迎える「集大成」の巻でもある。今回も,興味深く質の高い論文をいくつもお届けできるのは,もちろん第一義的には投稿者の方々の研究者としての力量ゆえである。初回投稿時には正直まだまだという論文が,その後の過程のなかで質の高い論文に変貌していくさまは,知的にスリリングですらある。

 そしてそのように論文が仕上がっていくサポートをするのが,査読を担当している編集委員たちである。表に直接出るわけでもない黒子的存在であるが,それぞれ質的研究者でもある編集委員たちの丁寧な査読なしには,このような論文がいくつも載った学術雑誌はできあがらない。その舵取り役を担わせていただく編集委員長として,幾度も貴重な場面に立ち会わせていただいた。

 もちろん現実には,そのような「よいこと」ばかりではない。投稿されてくる論文の中には,単純ミスや誤字脱字がやたらと目立つものもある。そのような投稿論文の,ごく基本的と思われる部分をことごとく指摘していくのは,なかなか骨の折れる作業である。そんなことを書くと上から目線のようで嫌なのだが,まずはまわりの信頼できる研究者に投稿前にチェックしてもらってはどうかと,そう勧めたくなるケースがわりとあって,編集委員会のなかでもこのことは幾度か話題に上った。

 その編集委員たちも,それぞれの本務の仕事や個人的な事情から,査読の期限を大幅に過ぎてしまうこともある。そこで副編集委員長や編集監事とも協力して,各投稿論文の査読状況を把握し,査読担当の編集委員に幾度も督促をするということも実際に行ってきた。そうしている私自身も,督促することを編集監事や事務局に督促されてしまうというような場面もあったと,正直に告白せねばならない。投稿論文の審査結果がなかなか返ってこないと不満を抱かれた方々には,この場をお借りして率直にお詫びをしたい。

 そんなさまざまな人の想いが交錯しせめぎあう編集の現場で責任ある立場にたたせていただいた者として,さらに質の高い質的論文が生まれてくるシステムをいくらかでも更新したいという想いを抱いてきた。この3年間でそのことが十分達成できたとは言えないと思うが,編集委員会の内外で多くの方と出会い,そしてその渦中であがき揉まれたこと自体が,私にとっては一種のアクションリサーチでもあった。もちろんそれが投稿論文になることはない。しかし,この貴重な体験を,自分も質的研究者の一人として,時間をかけ熟成させていきたいと思っている。

編集委員長  伊藤哲司