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山本武利 監修/土屋礼子 編

占領期生活世相誌資料Ⅲ メディア新生活
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A5判上製356頁

定価:本体4500円+税

発売日 16.02.05

ISBN 978-4-7885-1461-4

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◆デモクラシーの希望にもえた「あの時代」を伝える!
 敗戦後の米軍による占領期、膨大な雑誌記事が占領軍の検閲によりボツにされました。ただ幸運なことに、アメリカに送られたおかげでプランゲ文庫として無傷で保存され、最近、それが公開されました。そこには当時を彷彿とさせる多くの貴重な資料が眠っています。『占領期生活世相誌資料』シリーズは、そのなかから生活と世相に関わるものを選び収録したものです。I巻は「敗戦と暮らし」II巻は「風俗と流行」、そして、このIII巻は「メディア新世紀」として、街頭録音、壁新聞、米軍放送、『リーダーズ・ダイジェスト』、「異国の丘」などの流行歌、貸本屋、読書会、紙芝居、広告塔やポスター、そしてテレビ、博覧会などの題材を取り上げます。いまでは消えてしまったものもありますが、そのどこにも、「民主主義」という新しい時代の希望に燃えた息吹が感じられます。

メディア新生活 目次

メディア新生活 Ⅲ巻巻頭解説

ためし読み

◆占領期生活世相誌資料シリーズ

敗戦と暮らし

風俗と流行

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メディア新生活 目次


『占領期生活世相誌資料』全三巻の刊行を終えて 山本武利
他巻の内容
凡例
Ⅲ巻巻頭解説 土屋礼子

第一章 メディアの民主化
章解説 土屋礼子
街頭録音と女性
漫画社会探訪 NHKの街頭録音随行記
漫画街頭録音
大衆に生きる〝街頭録音〟
マイク街をゆく
街頭録音思い出話 街のマイクの表裏
街頭録音こぼれ話し
街頭録音 農村から都会へ、都会から農村へ 何を望むか
銀座街頭録音放送見学記
放送時刻表
座談会 細胞新聞を語る
新定型詩と壁新聞詩
新聞による教育
壁新聞の作り方と報道文の研究
子供壁新聞
壁新聞を作ろう
村新聞の作り方
学校新聞の編集と発行
壁新聞の作り方

第二章 英語メディアと流行歌の奔流
章解説 吉田則昭
      土屋礼子
       市川孝一
東京のアメリカ軍放送 WVTRのぞ記
WVTR 第三放送を聴くには
WVTR五分間誌上見学
WVTRスクラップ
WVTR放送雑話
私と英語
リーダース・ダイジェストについて
日本出版界に大問題を与えた雑誌 リーダーズ・ダイジェスト
〝星の流れに〟のメモ
ヒットソング漫談
リンゴの唄楽屋話
「異国の丘」を偲びて
歌は世につれ世は歌につれ
アッハッハ流行歌(賛歌)
替歌
御好みトッポケソング集
音楽と民主々義の話
新しいアメリカ流行歌
呂律のおもしろさ

第三章 活字と娯楽に飢えて
章解説 鈴木常勝
      土屋礼子
小資本でもやれる商売
月遅れ雑誌販売
小資本でやれる商売の色々
貸本屋開業の記
山形文化聯盟 読書相談所から
望ましいブツククラブの発達
村の公民館 加世田町柿本部落訪問記
読書会の運営
私の村の読書会
農村読書会の現状を視る
青年団における読書会の運営
文化運動と読書会
読書会を提唱する
子供読書会
楽しい読書会
新聞記者が紙芝居屋になれなかつた話
紙芝居と戦犯
この一年
子供・紙芝居・先生
街頭紙芝居をよくする運動
こどもの文化展望 紙芝居
コドモの眼はオソロシイ
紙芝居やさん
紙芝居のおつさん

第四章 広告新時代
章解説 竹内幸絵
ポスターをはる人
街頭広告は喚びかける!
広告媒体雑感
看板・ポスターの恐ろしさ 親しさ
街の美学
通俗美学 街を歩いて 広告談義
ノンコさん ポスターの巻
広告塔(『電波科学』表紙)
時代の脚光を浴びる女性職業 広告塔 ?アナウンサー
街の広告塔 広告塔
広告塔論
広告界展望
広告塔(詩)
広告塔(詩)
商売に効く広告の実際
飛ぶように売れる新商品の仕入れ方法
宣伝は解放されたり
宣伝人と自主的精神
素人に簡単に出来る看板・店頭装飾 ?ポスターの作り方
テレヴイジヨンと広告革命
商業人の見た東京人と大阪人
ニツサン石鹸・ニツサンマーガリン 広告写真懸賞募集中
商業写真はむづかしいか
広告と陳列の泉 おしやれのみせ
今日のアメリカ広告の行き方
編集者が個人資金で復刊した広告業界誌
英文広告a・la・carte
ポスターと人生
宣伝覚書 雜誌と都市に就て
早くも広告にあらはれたアメリカ商品
近代の宣伝と広告 抜け目ないアメリカ?の広告
アメリカ商売教室

第五章 博覧会と近未来
章解説 井川充雄
講座 テレビジョン
テレビジョン科学の進歩
博覧会はどうあるべきか
『博覧会ニュース』編集後記
日本貿易博覧会夢モノ語り
博覧会とその文化性
日本貿易博覧会の意義と使命
日本貿易博会場 そぞろある記
日本貿易博覧会てんやわんや
貿易博覧会見て歩る記
日本貿易博覧会見学記
貿易博覧会の見学
貿易博覧会見学
不幸な母と子等の為に 博覧会余録から
平和博覧会に就て 長野市民に望む
昔の共進会と今度の平和博覧会
博覧会勤務の一日
博覧会狂燥曲物語
ステートフェア 学童綴方教室
日本ステートフエア見物
雑誌・新聞索引
事項索引
人名索引
装幀―難波園子


メディア新生活 Ⅲ巻巻頭解説 土屋礼子

  この『占領期生活世相誌資料』の最後となる第Ⅲ巻を編集している現在は西暦では二〇一五年、和暦では平成二七年だが、昭和の元号を延長して考えれば昭和九〇年という計算になる。昭和一〇〇年まであと一〇年という年はまた戦後七〇年でもあり、六四年まで続いた昭和のなかで、戦争に続く占領期の足かけ八年という期間は短い。しかし、占領期は特殊で希有な時代だった。テロと戦争に塗りつぶされていった昭和初期の二〇年間を経た後、帝国としての植民地をすべて失い、日本史上初めて外国の軍隊に支配され、明日の衣食にも事欠くような物資不足に苦しみながらも、明治維新以来の国家と社会のしくみ、そして価値観を変革した約七年間は、短いが昭和の前期と後期をはっきり分ける大転換の時代であった。その転換の延長上に、戦後日本は築かれているものの、この時代の全体像を理解するのは容易ではない。ポツダム宣言受諾、財閥解体、農地改革、公職追放、極東軍事裁判、日本国憲法公布、教育基本法、朝鮮戦争、レッド・パージといった歴史教科書で語られている事項を把握するだけでも大変だが、占領期を生きた人々を父母や祖父母に持つ世代であっても、その経験を理解し感得するのは難しい。戦前戦中期の教育による価値観が全面的に覆された衝撃が占領期には亀裂となって走っており、それ以後の価値観をあたりまえにして育ってきた者には理解しがたいほど深く大きいと思われるからだ。

 本書に所収されたプランゲ文庫所蔵の新聞雑誌記事は、そうした占領期の複雑な世相を知る手がかりを与えてくれる。占領軍は軍国主義、封建主義を日本人の頭からぬぐい去り、平和と民主主義を根づかせるべく、さまざまに言論活動を縛っていた規制を廃した一方で、日本人の反応や考え方を探り、指導し、占領統治を成功させるため検閲を行なった。そのために集められた膨大な出版物の一部を保管したプランゲ文庫には、国立国会図書館にも収められていない占領期の新聞雑誌がガリ版刷りの同人誌に至るまで数多く含まれており、そこには知識人だけでなく多くの庶民の声が含まれている。本巻にはそのなかから、占領期のメディアについて、当時の庶民の生活や目線に添って語られていると思われる記事を集めた。

 本巻の標題を「メディア新生活」としたのは、「メディアの変化によって新しくなった生活」という意味と、「メディアによって、あるいはメディアの中に、夢見られた新しい生活」という意味の二つを込めている。すなわち、敗戦後、時代の刷新を告げ、いち早く内容を変化させたのは新聞やラジオといったメディアであった。天気予報が復活し、進駐軍の上陸を伝え、平和国家を唱え、復員を報ずるニュースによって、あるいはラジオから流れるジャズや英語の響きによって、人々はもんぺや軍服といった姿や食糧の乏しい暮らしぶりがたいして変わらないままでも、新しい時代の到来を知った。そしておずおずと、戦時中には読めなかったような本や雑誌を手に取り、ラジオの新しい番組に耳を傾けた。また、メディアのなかでは、敗戦した日本の惨めな現在の姿を慰める言葉だけでなく、解放された言論の自由を喜び、明るい未来を探り、新しい日本を建設しようとする希望がさまざまに語られ、人々は熱心にそれらをむさぼり読み、かつ聞いた。そうした占領期のメディアの変貌の一面を、庶民の生活に身近なところから切り取ってみたのが、本巻の各章のテーマである。

 第一章では、「メディアの民主化」と題して、人気を博した日本で最初のラジオ公開録音番組「街頭録音」と、職場から小学校まであらゆる場所で当時つくられた壁新聞に関する記事を取り上げた。この二つは、誰もが自由に発言し、思ったこと考えたことを身近な場所から発信していくという、言論の民主化を代表する現象だった。確かにそれは一面では占領軍により〝配給された民主主義〟であったかもしれないが、それでも民主主義とは私たち自身の生活のなかにあるべきなのだと受け止め、解放されたメディアに対して希望と好奇心を抱き、貧しいながらも活気に満ちた人々のひたむきさが感じられる記事には、まぶしささえ覚える。

 第二章では、「英語メディアと流行歌の奔流」と題して、米軍放送、『リーダーズ・ダイジェスト』、および流行歌に関する記事を取り上げた。米軍が持ち込んだ英語メディアは、映画、放送、音楽、漫画、雑誌、図書などあらゆる面で大きな影響を与えたが、日本のメディア史ではエピソード的にしか語られない部分である。本巻には、当時の人々が米軍放送や『リーダーズ・ダイジェスト』に代表される英語雑誌にどのように関心を寄せ接していたのかが直截に述べられている。

 一方、流行歌は当時は、主に映画とラジオを媒介にして、レコードで販売され、ヒット曲は何十万枚と売れた。そのなかの有名な「リンゴの唄」や「星の流れに」といった曲は、時代を象徴するものとなっているが、本巻に掲載したのは、そうした流行歌の裏にある証言や、あるいは流行歌をもとにした替え歌の記事である。流行歌は背後の物語をもって広がり、また歌詞を作り替えることによってさらに庶民自身の文化となっていったのである。

 第三章では、「活字と娯楽に飢えて」と題して、貸本屋と読書会、紙芝居に関する記事を取り上げた。占領期は紙不足で用紙統制下にあったにもかかわらず、戦時中に縛られていた知識欲が解放され、かつてないほどの読書熱が人々に広がっていた。学生や知識人層だけでなく、労働者や農民などあらゆる階層で、活字を読むことが、単なる娯楽としてではなく、新しい時代に遅れず、新日本の担い手に必要な教養や思想を手に入れる手段だと考えられ、肯定された。まだ図書館が充分に整備されていなかった当時、特に地方の農村地域では、発行量が少なくて高価な書籍を、貸本屋や読書会で手に入れ、回して読んだ若い庶民たちの息吹が感じられる。

 一方、占領期の娯楽といえば映画が王者であったが、映画館に行く余裕のない人々、特に貧しい子供たちにとっては、町角の紙芝居が最大の娯楽であった。紙芝居自体は戦前から続いてきたものだが、占領期にはあふれた失業者が多く紙芝居屋となり、その隆盛ぶりに占領軍も注目し、紙芝居を対象にした検閲も行なわれたほどであった。本巻に収録した記事にはその生き生きとした様子が描かれている。

 第四章は、「広告新時代」と題し、焼け跡から急速に成長した占領期の広告に関する記事を集めた。当時の街やバラックを雑多に彩った看板、ポスター、広告塔に関する描写、また米軍の持ち込んだアメリカ製の商品やその広告のデザイン、広告と宣伝のあり方に関する議論など、戦時の国策に協力した過去を持ちつつ消費社会と広告宣伝の時代の到来を予感した当時の広告人たちの複雑さが垣間見える。

 第五章では、「博覧会と近未来」と題し、当時まだ日本では実験段階であったテレビに関する記事と、テレビをはじめとする新時代の技術と商品を展示してみせた博覧会に関する記事を集めた。明治以降、多様な博覧会が開催されてきたが、占領期には戦後復興や地域振興を名目に数多く開催され、ブームとなった。本巻には、占領期のさまざまな博覧会の紹介記事や見学した感想などが収められているが、近未来のイメージを庶民に与えたという博覧会の内実や、人々が博覧会という一種のメディアのなかで何を夢見たのかが伺える。

 以上の詳細な説明は各章の解説にゆずるが、本巻では取り上げられなかった占領期のメディアも多い。映画やカストリ雑誌、演劇、音楽、写真、新興のスポーツ紙や夕刊紙、あるいは「真相箱」「話の泉」「二十の扉」「のど自慢」「紅白歌合戦」「とんち教室」「日曜娯楽版」「尋ね人」といったラジオ番組など、興味尽きない占領期のメディアについての記事は、プランゲ文庫所蔵の新聞雑誌の記事を検索できるようにした、「20世紀メディア情報データベース」(http://20thdb.jp/)で、ぜひさらに探索していただけたらと思う。そこには占領軍による検閲の痕跡が見られると同時に、それをかいくぐった人々のことばが聞こえるような、新たな占領期の断面に出会えることでしょう。