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P・エーリック & A・エーリック 著/鈴木光太郎 訳

支配的動物
――ヒトの進化と環境


A5判上製416頁

定価:本体4200円+税

発売日 16.1.25

ISBN 978-4-7885-1460-7

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◆人類と地球について考えよう!
 先ごろ地球温暖化対策の国連会議COP21がパリで開催され、発展途上国を含むすべての国が協調して温室効果ガスの削減に取り組む「パリ協定」が採択されました。今やヒトは他の動物を圧倒して繁栄を極め、「支配的動物」となって地球に君臨しています。文化的にも大きく進化しましたが、一方で、膨大な人口の重みによって環境にかかる負荷が極端に大きなものになり、生物種の絶滅、自然資源の枯渇、環境汚染、オゾンホールの拡大、温室効果ガスの排出と地球温暖化など、人類そのものの危機をもたらしています。人類は、この深刻な状況にどう立ち向かい、どう乗り越えることができるのでしょうか? エーリックは世界的ベストセラーとなった『人口爆弾』(河出書房新社)、『絶滅のゆくえ』(小社)など、数々の著作で人口問題・環境問題について警鐘を鳴らしてきましたが、本書はこれまでの研究と思索の集大成ともいえる本です。

支配的動物 目次

支配的動物 プロローグ(一部抜粋)

ためし読み

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支配的動物 目次

プロローグ

1章 ダーウィンの遺産とメンデルのメカニズム
進化する個体群
ダーウィンとウォレスの偉大な考え
島と自然淘汰
現代的総合
人為淘汰
ヒトの進化
遺伝子がすること
環境─遺伝子の進化的パートナー
進化研究の爆発

2章 土手の雑踏
地理的種分化
種はひとつの島のようなものではない─共進化

3章 はるか昔
生命の起源
化石の記録
ヒトへの道
文化の化石記録

4章 遺伝子と文化
文化の進化
ヒトの初期の文化
大いなる飛躍
言語と大いなる飛躍
文化と脳の進化
意識の謎
遺伝子と文化の共進化

5章 文化的進化─お互いをどのように関係づけるか
戦争の起源
農耕開始以降の文化
家族の定義と構造
家族から国家へ
社会規範と文化的進化のメカニズム

6章 知覚、進化、信念
文化による知覚の違い
知覚と環境問題
知覚と信念システム
人種と文化的進化

7章 人口の増減
チョウの個体数の動態
人口動態
家族計画の動き
人口爆発を抑える
人口増加の算術
将来的な人口増減
人口の高齢化

8章 文化的進化の歴史
歴史の始まり
歴史の基準
文化のパラドックス

9章 生(と死)の循環
生活資源
エネルギー
食物連鎖と物質循環
土壌と堆積物
気候との結びつき
ガイアの概念
生物圏の複雑性

10章 ヒトによる地球の支配と生態系
生態系産物、生態系サービス
生態系サービスの状態
環境への影響─3つの要因

11章 消費とそのコスト
消費を計算する
自然資本
消費パターン
私たちのためにほかの人々が払う代価
富める者と貧しい者の健康コスト
消費と農業
移住の影響
人口密度と伝染病

12章 新たな責務
土地利用の変化
農業とその変化
海洋─オープンアクセス資源
自然の均質化
有毒物質
エコロジカル・フットプリント
すべてを総合すると

13章 地球の大気の変化
酸性雨
オゾン層破壊
気候変動
地球高温化の範囲と結果
気候変動に対処する
核の冬
規模、閾値、非線形性、タイムラグ

14章 エネルギー─尽きかけているのか?
エネルギー利用
エネルギーの効率化が資源になる
代替エネルギー資源─再生可能エネルギー
化石燃料のほかの利用法
原子力
未来に向けて

15章 自然資本を救う
なぜ生物の多様性を守らなければならないのか?
生物多様性を守るための戦略
保護区と回廊
保護区と回廊を越えて
生態系の復元
自然資本を守る

16章 統治─予期せざる結果に対処する
グローバル化
統治の問題
企業と富
割引率と未来への重みづけ
展望能力
資源をめぐる争い
環境と国際的管理

エピローグ

あとがき
6年後
謝 辞
訳者あとがき
文献案内

用語解説
事項索引
人名索引

装幀=新曜社デザイン室


支配的動物 プロローグ(一部抜粋)

  ヒトは、たえず変化しつつある世界のなかで生きてきたし、いまも生きている。ところが、この数十年で、世界はこれまでにないほどの速さで変化するようになった。そのおもな原因は、ヒトが自らの住む星を変えつつあることによるものだ。しかも変化は加速しつつある。これらの変化は、少なくとも一時的には、10億人ほどの力と消費パターンを驚異的に高め、20億人ほどの生活を楽にしたが、一方で、残りの数十億人を貧困にし、時には絶望的な状態においている。この変化の加速化は、第二次世界大戦後に人口が急激に増加したことと、科学と科学技術の爆発的開花によって資源や自然を操作する能力が格段に高められたことによっている。

 現代の科学技術によってなしとげられたことは、意図しなかったにせよ、不幸な結果をもたらしている。私たちがお互いを遇するやり方と環境をあつかうやり方には大きな前進があったものの、それらの不幸な結果は、そうした前進ではとても埋め合わせられないほど大きい。その結果、空前の技術的能力と相まって人口の重みは、いまや地球文明となったものを地球が支え切れないところまできている。意図せざるこれらの結果、すなわち文明が自らの持続可能性を脅かしている状況は、「人類の苦境」と呼ばれる。

 どのようにして、ホモ・サピエンスという種がこれほど力をもつようになり、ヒトを含む生命の多くを支える地球環境の力を大きく蝕むまでになったのか。これが本書のメインテーマだ。ヒトが支配的存在になったのは、遺伝的進化と文化的進化の両方の結果である。この2つが科学の進歩をもたらし、きわめて強力な科学技術を生み出した。遺伝的進化と文化的進化は、環境の変化への反応として大規模に起こったが、逆に、その2つは環境の劇的な変化も生じさせてきた。こうした進化と環境の間の相互作用を知ることは、きわめて重要な意味をもつ。というのは、その知識にもとづいて賢明な決定をすることができれば、ヒトという種の長期の成功にも、そしてヒトが全面的に依存する生態系の維持にも影響をおよぼせるからである。

 科学と技術は、地球の表面の大部分を変える手段や、海洋生物を撹乱し大気を大きく変える手段をもたらしただけではない。その一方で、この世界がどうはたらいているかについての理解も大いに深めてくれた。科学者は、コンピュータ、人工衛星、薬品、電子顕微鏡、双眼鏡、捕虫網を用いて、そして理論の助けを借りて、地球とそこに住む無数の生き物―私たち自身も含まれる―がどのように相互作用し、どのように変化してきたのかについて、かなり包括的な理解を得ることができた。これだけのレベルの知識をもつということは、ヒトのこれまでの(10万年以上の)歴史にはなかった。理論的には、私たちはこの知識を用いて、持続可能な文明―ヒトが幸せで生産的な一生を送り、無限の未来が開けている文明―を作り上げることができるだろう。実際問題としてそれが可能かどうかはわからないにしても。

 比較的最近まで、世界についての理解は、いまとはまったく異なっていた。17世紀のイギリスの教養人は、人間も含め、天地は序列をもって創造され、「神の玉座の足元からもっとも卑しい無生物まで」伸びた「存在の大いなる連鎖」をなしていると信じていた[1]。すべてのものは、生きとし生けるものも、それ以外のものも、不変の順序でその位置を

・・・

についても教えてくれる。私たちは、種として成功したのはよいが、たとえば食糧や水を提供し満足のゆく気候を与えてくれるシステムを脅かすことによって、この成功を維持する能力を危険にさらしている。大部分の人が自分たちと自然界―人類の生命を支える生態系―との関係について基本的な知識を欠いていることこそ、人類の苦境を深刻なものにしている大きな要因である。

 本書では、広く見られるこうした認識の欠如に焦点をあて、とくにどうしてヒトの社会が進化における連続的変化の産物なのかを示そうと思う。この連続的変化は、3つの進化―ヒトやほかの生物集団の遺伝的進化、社会内・社会間の文化的進化、そして地球の進化(自然の力とヒトが生み出した力に対する地球の物理的・化学的特性の変化)―が混じり合ったものである。それは、注目すべき進行中のストーリーだ。私たちの進化の過去を知り、いまある私たちを形作ってきた力を理解し始めてこそ、持続可能な未来に向けてよい位置取りが可能になる。