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長谷川啓三・若島孔文 編

大震災からのこころの回復
――リサーチ・シックスとPTG


四六判並製288頁

定価:本体3400円+税

発売日 15.8.8

ISBN 978-4-7885-1440-9




◆震災発生から4年経って見えてきたこと
 未曾有の被害をもたらした東日本大震災の発生直後、被災地ではどんなこころの支援が必要とされ、有効だったのでしょうか。また数年を経る間に、こころの支援のニーズはどのように変化していったのでしょうか。著者たちは全員、自ら震災を経験する中、身体を張り心理支援に携わった東北大学の心理士・研究者で、その活動と被災者たちのこころの回復の軌跡を6つの視点にまとめました。同規模の震災が今後日本各地で起こり得る中、こころの支援に携わるすべての読者にとって、これからの実践や研究のヒントをもたらす必携の書です。

大震災からのこころの回復 目次

大震災からのこころの回復 はじめに

ためし読み

◆書評
2015年11月、J Rescue

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大震災からのこころの回復 目次
リサーチ・シックス―役に立つこころの支援とは?
 1 はじめに
 2 リサーチ・シックス
 3 ポスト・トラウマティック・グロウス
  ●PTGとは ●解決志向的方法とPTG
 4 震災支援とシステム・アプローチ
リサーチ1 支援者の支援

緊急時のこころの支援研究のあり方
 1 調査禍とパラドックス
 2 基本スタンス―悪循環の阻止と良循環の拡大
 3 調査協力者を得る

行政職員への心理支援の必要性
 1 支援者の背景と行政支援へシステム論を適用する必然性
 2 行政職員、そして行政組織への適用
 3 震災直後の問題
 4 震災後概ね1?2年の問題と支援
 5 現状の問題と取り組み
 6 おわりに

行政職員・派遣職員のストレスの特徴とカウンセリング支援
 1 被災地行政職員のストレスのありよう
  ●①震災時の被災体験や親しい人との死別に基づくストレス
  ●②震災以降の過大な業務量によるストレス
 2 被災地派遣職員のストレスのありよう
  ●①新しい生活環境に身を置くことのストレス
  ●②派遣元と被災地における仕事の進め方の違いによるストレス
  ●③派遣職員としての遠慮によるストレス
  ●④派遣期間というタイムリミットによるストレス
 3 行政職員を支援していくためのカウンセリング・システム
 4 これからの復興業務を乗り切っていくために

健康調査の分析および公表
 1 自治体職員のメンタルヘルスについて
 2 石巻市職員を対象とした健康調査の実施
 3 石巻市職員の属性ごとのストレス状態について
 4 石巻市職員の被災体験ごとのストレス状態について
 5 総合考察

包括的ストレス反応尺度の開発
  ●調査協力者 ●包括的ストレス反応尺度(CSI) ●因子分析 ●信頼性・妥当性
  ●CSI完成版とその使用方法
■包括的ストレス反応尺度(CSI)
リサーチ2 震災川柳

震災川柳の心理的効果
 1 はじめに
 2 南三陸町旭ヶ丘地区と震災川柳
 3 川柳の心理的な効果に関する研究
 4 調査1―「震災川柳」参加者へのインタビュー調査
  ●調査1のまとめ
 5 調査2―「震災川柳」による心理的効果に関する質問紙調査
  ●震災川柳がコミュニティに及ぼした影響の認知について
  ●調査2のまとめ
 6 震災川柳の意義とは
  ●川柳というコミュニケーションの拘束
  ●川柳が生成する詠み手と聞き手との相互的な場所
  ●川柳が受け入れる矛盾と笑い
 7 おわりに
リサーチ3 ソリューション・バンク

仮設住宅でのニュースレターの活用
 1 はじめに
 2 仮設住宅での問題と支援上の課題
 3 ニュースレターを活用した支援
  ●ソリューション・トーク ●ソリューション・バンク
 4 ソリューション・バンクの内容
  ●ソリューション・バンクの範囲 ●ソリューション・バンクの内容 ●調査結果の考察
 5 おわりに

被災地コミュニティ支援のあり方とは
 1 はじめに
 2 コミュニティにおける心理支援の基本的視点
 3 コミュニティにおける訪問援助活動とは
  ●訪問援助活動における心理支援の「構造」
  ●被災地コミュニティへの心理支援の実際―活動の視点と工夫
  ●インタビュー結果についての考察
 4 おわりに
リサーチ4 リラクゼーションプログラム「T―RACO」

T―RACO開発の経緯
 1 私たちの被災体験
 2 激甚被災地域での支援活動
 3 「こころのケアお断り」から考える
 4 新たな心理支援技法の開発に向けて
 5 EMDRについて
 6 臨床動作法とTFTについて
 7 既存の心理支援技法の三つのミスマッチ

T―RACOの実践手続きと効果検討
 1 はじめに
 2 T―RACOの実践手続き
  ●導入 ●今の気分の確認 ●準備運動 ●ペア作り ●「ふれあいタッチ」のワーク
  ●「肩ほぐし運動」のワーク ●クールダウンの運動 ●今の気分の確認 ●シェアリング
  ●まとめの言葉
 3 T―RACOの効果検討
  ●方法 ●結果と考察
■T―RACO実施手順
■T―RACO実施マニュアル

T―RACO導入と実践のポイント
 1 はじめに
 2 T―RACOと他の治療法との併用
 3 リラクゼーションとしてのT―RACO
  ●集団で効果的に実施するためのポイント ●集団実施において配慮が必要なポイント
  ●プログラムの改善や適用に関する提案
 4 カウンセリングにおけるT―RACO
 5 T―RACOの今後の展開
リサーチ5 震災婚・震災カップル

震災状況でのカップルについて
 1 はじめに
 2 震災の経験による人生観・結婚観の変化
 3 震災の経験による婚姻動向の変化
 4 震災婚・震災カップルの特徴と課題
  ●方法 ●結果
 5 おわりに

震災後に結婚したカップルのコミュニケーション
 1 本調査の問題と目的
 2 CPQを用いた震災カップルの量的調査
  ●方法 ●結果 ●考察

震災後のカップルを支援するために
 1 震災カップルへの支援
  ●震災によるこころの動きと結婚生活 ●新婚期の夫婦として
 2 非震災婚夫婦への支援
  ●震災による生活環境の変化と夫婦関係の変化 ●夫婦関係の再構築 ●男と女の違い
  ●夫婦として震災を乗り越えるために
 3 震災後の夫婦に対する心理社会的支援とは
  ●システムの自己治癒性に着目する ●良循環をもたらす社会システムとは
リサーチ6 震災スピリチュアリティ

震災スピリチュアリティとPTG
 1 はじめに
 2 震災と宗教性
 3 震災とPTG
 4 調査と分析結果
  ●目的 ●方法 ●結果と考察
 5 総合考察

あとがき
装幀=桂川 潤


大震災からのこころの回復 はじめに―長谷川啓三

 本書は東日本大震災の発生直後から4年を経過する時点までの筆者らの「こころの支援」活動を巡る、まとめの試みである。その中でも本書は「リサーチ・シックス」と名づけた「調査と実験」を中心とした研究活動についてやや詳しく報告し検討を加えるものである。研究活動に伴って、緊急事態の中でどのように協力をいただくための「信頼」を獲得していったのかという点についても筆者らの奮闘ぶりをお伝えし、検討を行っている。

 震災直後から、現地にある大学、それも「基幹大学」と呼ばれる教育と研究の中心機関として期待される大学に生活をする者として、この大きな緊急事態にこそ役立つ「こころの支援活動」と「研究」を遂行することなくして「なんの学問ぞ?」という気持ちでこれまで取り組んできた。

 もともと本書に関わってきた報告者の全員が「役に立つ基礎研究を!」というスタンスで日常の研究活動を行ってきたので、この震災時にも、本書で示す研究テーマについて、これまで以上に特別なものを要求されるものはなかった。こんなことがあった。被災者でもある研究者の一人が避難所での支援活動を終えて疲れている中、これから示す研究テーマを共同で進めていく会議で「やりましょう、対象が違うだけです!」と明確に断言したのには、リードをする位置にある者のひとりとしてとても嬉しく頼もしい気持ちを持ったことを覚えている。

 今回の緊急事態でのこころの支援活動の中で、筆者らの出発点になったものの一つは、国際的な支援組織による支援方法の講習を受けたことであった。そこでは2日間にわたり東北大学を会場に、臨床心理相談室が主催者となって実施したもので、米国、インド、中国、日本からの研究者が現地の支援者と研究者を対象に講習を行ってくれた。そこで学んだことは、まずいわゆるPTSD(ポスト・トラウマティック・ストレス・ディスオーダー)の出現が遅いものであり、出現の頻度も決して多いものではないこと。純粋な形態のそれは、心理的な問題の先ず数パーセントにすぎないこと。多くは予想よりも、もっともっと日常に出会っている心理的問題が多いこと。この指摘はこれから本書に紹介する研究と実践を進めていくうえで、とても重要な出発点になった。

 また極度のストレスの緩和策としての「デブリーフィング」については、阪神・淡路の震災支援の経験から議論があったものであり、筆者らも、その検討の渦中にあった。つまり被災者をグループにしてその体験を話し合ってもらうという集団療法的な方法の是非を巡ってである。それは生々しい体験を巡る話し合いであり、主に米国での支援で使用され、注目も浴びた方法である。今回の大震災でも、その方法を薦め、実践しようとする支援者、研究者が既に存在していた。そんな中での講習だった。

 さて本書では、上記のことも含め、私たちなりの結論を一般的な事態で検証したものを示させていただいた。これは他の研究者のためというよりは、むしろ自分たちの次の10年のために、今回経験したものを、より一般的な形で検討したものである。大学に生活をし、少なくない指導生を持つ研究者として、また教育者として、各地の大学・研究機関で専門家として職を持つ者を既に送り出している。本書は、そんな社会的な責任を持つ研究者として、また支援者として、今後もその一般性を確認した支援の方法をもとに、さらに支援の工夫を進めるために編んだものである。