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山本武利 監修/永井良和・松田さおり 編

占領期生活世相誌資料Ⅱ 風俗と流行
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A5判上製368頁

定価:本体4500円+税

発売日 15.6.30

ISBN 978-4-7885-1437-9

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◆戦後七〇年、私たちの生活はここから始まった!
 かつて戦争に敗れ、アメリカ軍に占領された時代がありました。軍国主義から民主主義へ、「鬼畜米英」からアメリカン・スタイルへ、従来の価値観が否定され、新たな理想が追求される時代になったのです。しかし生活は苦しく、社会・人心ともに大混乱でした。「パンパン」(街娼)、慰安所、鳩の街などの性風俗、アプレゲール(戦後)や不良少年少女の行動の乱れ、戦勝国アメリカのすべてが肯定的に語られた「生活のアメリカ化」、そのような傾向を相対化する「地方の風俗」などの記事を主にプランゲ文庫収録の資料から採録し、当時の生活世相の実態を生き生きと甦らせます。

風俗と流行 目次

風俗と流行 Ⅱ巻巻頭解説

ためし読み

◆占領期生活世相誌資料シリーズ

Ⅱ巻 敗戦と暮らし

Ⅲ巻 メディア新生活

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風俗と流行 目次


他巻の内容
凡例
Ⅱ巻巻頭解説 松田さおり

第一章 性風俗

章解説 松田さおり

座談会 東京のドン底 上野地下道を取り巻く人々
パン助よ、アリガトウ
うぬま風景 ぱんぱん十句
モダン小唄 東京のパンパン娘
パンパンの噂から離縁された人妻
新作落語 闇の女
闇の女と人権問題
ちまたのもんどう 売笑婦の生態
〝闇の女〟をめぐりて
夜の女の解剖
闇の女
パンパン語源考 サイパン島が発祥地
男娼の街を行く ことしの五月人形は
街頭寸劇 銀座の柳
男娼に関する二、三の精神医学的考察
深夜の大東京(現地写真ニュース)
変態調書 カクサク・ボーイの巻 札の魅力
男娼NO・1
かげまと小便
鳩の街を行く 玉の井はどうなったか?
異色グループ探訪座談会第3回 鳩の街の彼の女たち
再開された娘の身売!! 転落に哭く戦争未亡人 「鳩の街」生態報告書
私の村私の町 熱海素描
東京パレス
檻のない動物園 夜の上野の現状報告
輪タク輪禍
夜の花よりカタギに 〝そつとして欲しい〟 おときさん、心境を語る
浮かばれぬ夜の女 九千円稼いで手取りが千円 近くピンはね取締り
夜の女にも労働十原則 晴れて自由営業? 粋な発表もコワイ業者
〝彼女たちは何処へ行く〟 更正の希望は全員、だが許さぬ?
夜の女更生 忘れじ婦警の純愛 道険しくも看護婦試験に我勝てり
OFF LIMITS オフ・リミッツ

第二章 アプレゲールと不良

章解説 松永寛明・岩本茂樹

アプレゲール
アプレゲールの唄
特集 各界の戦後派(アプレ・ゲール)を分析する
アプレゲールの子供達
アプレゲール(戦后派)女学生の生態
優生法とアプレゲール
アプレゲール美人局
新女性群像
青春と犯罪
世相探訪 不良少女との対談
座談会 盛り場と子供
私はこうして不良になつた或る不良少女の手記
犯罪実話 集団窃盗をする享楽的なわかものたち

第三章 生活のアメリカ化

章解説 加藤敬子

防空服を更生させませう
更生服種々に就て
連盟の主張 軍服への反省
再建日本の服装
衣服雑感
アメリカの流行スタイル紹介 ニユーフアツシヨン展望
日本式なニユールツク
映画スター好み 最新冬の外出着と室内着
女性に三つの型がある アメリカンモードを語る
アメリカンモード
鏡と御相談遊ばしては如何? 日本人御得意の猿真似
アメリカンモードとは
アロハシヤツ的文化
アロハ・シャツ
パーマネントの動向に就て
最新型洋髪(5種)
鹿児島女性とパーマネント
男子パーマネント・ウエーブの流行
これからの洋装
洋裁の誌上講習 子供遊び着とブラウス・スカート
日本的洋装の完成
和服と洋装 風俗時評
随想 洋装氾濫
今や「ナイロン」時代来る
家庭生活の科学化
アメリカ家庭生活の電化
特別寄稿 アメリカ女性の家庭生活
アメリカの生活に学ぶ(家庭生活の巻)
アメリカでは大活動の四Hクラブ
アメリカの家庭生活と日本の家庭生活
アメリカ本場の民主主義 根ざしは其の家庭生活
アメリカ婦人の能率的生活
生活の中心は家庭愛

第四章 地方の風俗

章解説 永井良和

炭坑の横顔
札幌狸小路の屋根の下
人間発狂
連絡船待合室報告記 夜の構図
山都・夜の生態 サンマータイム最後の一夜 秋風ふく甲府の街に漁つた
スパイにされた話
紙上録音 敗戦日本の縮図 岡谷駅の世相をのぞく
おしゃれ早春譜
なんばOSAKA:NAMBA
女の言葉 放尿譚
女性と立小便
論愚スカート
民衆駅
赤い羽根 共同募金運動に参加して
路上小景
店員生活一〇時間 店頭から世相打診
中学生の見た東京は
ぜいたくな〝東京人〟 日本一供米・武内村の御一行 お江戸初上り印象記
農漁村風俗 娘気質
青空デパート 露店街
マンガ探訪 ヤミの生態 裏口からいらっしゃいいらっしゃい
料飲店再開
座談会 女性は盆踊りをどう見る
おこのみ特集 初夏の夜
前橋刑務所訪問記
マンガ 甲斐君と路子さん
人気ダンサー訪問記1 ミス・エーワン 福山菊子
ダンスは下駄をはいて 現在は二十代の女に好れる
横目で見た世相 ハダカは美術品である
日展を始めて見た人々の感想

雑誌・新聞索引
事項索引
人名索引


風俗と流行 Ⅱ巻巻頭解説 松田さおり

 本巻には、占領期の「風俗」と「流行」に関わる資料を収めた。

 ここで「風俗」と「流行」とは何か、その語義について確認しておきたい。というのも、いずれも何らかの暗黙の共通理解を前提に使われているが、あらためてその意味内容について問われると、明快に答えるのが難しいからである。

 辞典には、このように説明されている。風俗は「ある時代の社会集団にみられる生活上の習わしや、しきたり。風習」。流行は「ある一時期、多くの人々の好みに合って広く世の中におこなわれること、はやること。「―のファッション」」あるいは「病気が一時的に広まること」(『明鏡国語辞典』)。それぞれならわしから生活慣行まで、ファッションから病気までと、幅広い内容を含んでいる。

 風俗と流行をまとめて説明しているのが『縮刷版社会学事典』である。「民俗が変わりにくい習俗をいうのに対して、風俗とは変わりゆく習俗をいうのである」、「動きのある風俗は流行であり、固定化した風俗は慣習である」。ここでは流行が風俗に包摂されているのだが、それは風俗が、生活現象や社会的生活慣行全般に用いられてきたことに由来しよう。ちなみに「フーゾク」と聞けば性風俗産業を思い浮かべる人も多いが、それは警察が地域ごとの遊興にかかわる営業の取締りを「風俗警察」、その対象となった諸営業を「風俗営業」としたためである(永井良和『風俗営業取締り』講談社、二〇〇二年)。

 あまり総括的ではないが、本巻で扱う風俗・流行は、変化や動きに注目した、庶民・地域の生活現象、社会的生活慣行としておこう。

 あえて変化・動きという観点を重視するのは、占領期が風俗・流行そのものの性格を探索していくうえで、重要な手がかりになると考えるからである。占領期は七年の短い期間ではあるが、敗戦とそれにともなうアメリカの占領という大変革期であり、さまざまな風俗・流行現象が新しく生み出され、アメリカから「輸入」され、あるいは混乱のなかから、生じた。したがって、占領期の諸現象を精査することは、風俗・流行の本質的な部分を探索することにもつながるのではないだろうか。

 また、本巻に収められた「性風俗」「アプレゲールと不良」「家庭生活のアメリカ化」「地方の風俗」の項目にまとめられた資料群は、庶民の草の根文化を示すものであるが、それらの資料が掲載された元の新聞・雑誌の多くは、高級紙や思想誌・評論誌ではなく、大衆・タブロイド紙、一般週刊誌、カストリ雑誌である。いわば、中央ではなく「周辺」、上からではなく「底」から見た日本の姿である。

 しかし敗戦・復興の記憶や経験をたどる際、おそらく当時の人々にとって、「周辺」や「底」の風俗・流行が、それらの大部分を占めるのではないだろうか。実際に本巻の資料を眺めていると、それぞれが庶民生活に与えたインパクトや、現在の日本にも受け継がれる文脈をうかがい知ることができる。

 とすれば、このような資料群を検討する意義には、まさしく占領期の変化や動きを、庶民という「下々」の意識から再確認することも含まれる。そのことは、占領期という時期から、現在の風俗・流行現象の源流をさぐる、という作業にもつながるだろう。

 ただし注意しなければならないのは、本巻の基礎となった、ゴードン・W・プランゲ文庫所蔵資料は、決して網羅的ではなく、未収録のものが数多く存在するということである(第一章の解説で触れた『アサヒグラフ』記事はその一端である)。したがって、風俗・流行のみならず、占領期の生活世相を探るためには、当然ながらその「まわり」(それは例えば国会図書館であり、大宅壮一文庫であり、古本屋かもしれない)の資料をも関連づけながら調査を進めなければならないことを、改めて記しておきたい。

 最後に、占領期についての回想エピソードを一つ、紹介する。

  「いちばん政府が心配したのは治安のことだったんです。治安といいますか、とにかく女子供、ことに女性ですね。〔中略〕あの当時、閣議でいちばん初めに決めたことは、慰安所っていうんですかね。そういう女性たちのそういうクラブみたいなものを、大森海岸に作ったんだと思いましたけどね」

  「当時大蔵省は塩を管轄してました。塩は専売だったんです。その塩を大蔵省の倉庫に持っていた。それを占領軍に引き渡さなきゃならないと。ところが塩っていうのは大変貴重な財産なんで、何とかして占領軍が来る前にどっかへ移せないかとみんなで苦労した覚えがあります。たしか夜中に持ち出したような記憶がありますね」

 元内閣総理大臣宮澤喜一の、昭和二十年九月二二日当時についての回顧である(NHK「あの日昭和20年の記憶」取材班『あの日昭和20年の記憶下』日本放送出版協会、二〇〇六年)。宮澤は、戦後すぐに発足した東久邇宮内閣の大蔵大臣秘書官であった。

 占領下の政府は、敗戦直後のインフレ対策や財産税導入といった議論より、宮澤の回想にあるように、食(塩の隠匿)、治安(その内実は、占領軍兵士による女性への性暴力)、性(「慰安所」という占領軍兵士向け売春施設の設置)といった、風俗にかかわる事項をなによりも優先していた。それは敗戦と異国の兵士の進駐(占領)にともなう、食糧不足や治安への不安とも、「血の純潔」が汚されることへの恐れだったとも捉えられる(そのことについて、ここでは宮澤は答えていない)。しかしこのエピソードが示しているのは、占領期における風俗の重要性ではないだろうか。

 敗戦と占領という変化・動きの極限状況にあって、風俗(冒頭の定義に従えば、流行も含まれよう)の問題は、「下々」だけでなく、「お上」をも含めたすべての人間の、生きるための関心の対象であった。そのなかで生き延びるために戦っていた人々の、悲惨で、身につまされて、時に笑えて、そして背筋が寒くなるような姿を、本書で少しでも伝えられれば幸いである。