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D.A.ノーマン 著
岡本明・安村通晃・伊賀聡一郎・野島久雄 訳

誰のためのデザイン? 増補・改訂版
――認知科学者のデザイン原論


四六判上製512頁

定価:本体3300円+税

発売日 15.4.20

ISBN 978-4-7885-1434-8

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◆機械音痴は誰のせい?
MITの博士でさえ戸惑う悪しきデザインの例、例、例・・・。日常の道具から巨大装置まで,使いにくく,ミスを生みやすいデザインが満ちあふれているのはなぜか。それをどう改善すべきか。第一級の認知心理学者がユーモアたっぷりに論じた痛快な本。

なぜ増補・改訂版?
最初の版から25年の間に、たくさんのことを学んだからである。テクノロジーも大きく変化した。最良の製品が常に成功するわけではない。どんな新しいテクノロジーが出現するかを予測できる人もいない。だが確実に予測できるのは、本書に述べるデザインの原則は変わらずに残るということである。(本書まえがきより)

誰のためのデザイン? 増補・改訂版
目次

誰のためのデザイン? 増補・改訂版
日本語版への序文

ためし読み

◆他、D.A.ノーマン著作
『テクノロジー・ウォッチング』
『人を賢くする道具』
『パソコンを隠せ、アナログ発想で行こう!』
『エモーショナル・デザイン』
『未来のモノのデザイン』
『複雑さと共に暮らす』

◆書評
1997年12月、izumi、古瀬敏氏評
2002年10月号、NEXT ENGINEER vol.04
2008年12月号、日経WOMAN、小山氏評
2012年6月17日、朝日新聞、吉田ひろし氏評
2015年2月24日、WEB+DBPRESS、渡邊恵太氏評

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誰のためのデザイン? 増補・改訂版 目次
目 次
日本語版への序文
改訂版へのまえがき

第1章
毎日使う道具の精神病理学
今日の機器の複雑さ
人間中心デザイン
インタラクションの基本原則
システムイメージ
テクノロジーの逆説
デザインの挑戦

第2章
日常場面における行為の心理学
人はものごとをどのように行なうか?―実行と評価におけるへだたり
行為の七段階理論
人間の思考―ほとんどは潜在意識的
人間の認知と情動
行為の七段階と三つの処理レベル
語り手としての人間
間違ったもののせいにする
自分を責めてしまうという誤り
行為の七段階理論―七つの基本的なデザイン原則

第3章
頭の中の知識と外界にある知識
不正確な知識にもとづく正確な行動
記憶は頭の中の知識である
記憶の構造
近似モデル―実世界における記憶
頭の中の知識
外界にある知識と頭の中の知識のトレードオフ
複数の人、複数の機器の中の記憶
自然な対応づけ
文化とデザイン―自然な対応づけは文化によって変わる

第4章
何をするかを知る―制約、発見可能性、フィードバック
四種類の制約―物理的、文化的、意味的、論理的
アフォーダンス、シグニファイア、制約を日常のモノに適用する
望ましい振舞いを強制する制約
慣習、制約、アフォーダンス
蛇口―デザインのケースヒストリー
音をシグニファイアとして使う

第5章
ヒューマンエラー?いや、デザインが悪い
なぜエラーが起こるのかを理解する
意図的な違反
二種類のエラー―スリップとミステーク
スリップの分類
ミステークの分類
社会的、制度的圧力
エラーを報告する
エラーを検出する
エラーに備えてデザインする
良いデザインでは充分でないとき
レジリエンス・エンジニアリング
自動化のパラドックス
エラーに対処するためのデザイン原則

第6章
デザイン思考
正しい問題を解決する
デザインのダブルダイヤモンドモデル
人間中心デザインプロセス
私がたった今述べたこと? 実際にはそうはいかない
デザインの挑戦
複雑さは良いことだ。悪いのは混乱だ
標準化とテクノロジー
わざと難しくする
デザイン―人々のためのテクノロジーを開発する

第7章
ビジネス世界におけるデザイン
競争圧力
新しいテクノロジーが変化を強いる
新製品を導入するまでにはどのくらいの時間がかかるか?
イノベーションの二つの形態―漸進的と急進的
日常のモノのデザイン(誰のためのデザイン?)―1?9?8?8年?2?0?3?8年
本の未来
デザインの道徳的義務
デザイン思考とデザインについての思考

謝辞
参考図書と注
訳者あとがき
文献
事項索引
人名索引
装幀=臼井 新太郎


誰のためのデザイン? 日本語版への序文


  私は40年以上にわたって何度も日本を訪れているが、来るたびに深く印象づけられる。そのエネルギー、創造性、優秀さにはいつも感銘を受ける。お気に入りの日本の料理はオコノミヤキだ。

 日本の技術者とデザイナーは、アイデアを斬新に組み合わせて製品を作り上げることで有名である。これは、いろいろなおかずが入っているベントーや、天カスやさまざまな具材で作るオコノミヤキにも似通ったところがある。

 私の好みの、ある日本製品はこの組合せ能力を示している。日本のそろばんとデジタル計算機という、二つの世界の最良のものを組み合わせているのだ。次ページの写真はシャープのそろばん電卓で、1990年代に買ったものだが、1970年代終わりごろから1980年代初期にいくつかのモデルが生産された。なぜこの組合せなのか。足し算や引き算は、そろばんのほうが電卓や紙と鉛筆よりも簡単で速くできる。だが、掛け算、割り算になると電卓のほうが簡単で速い。そこでこの二つを組み合わせない手はない。まさにシャープはそれをやったのだ(図1)。 うまくできている?イエス。使いやすい?考えてみてほしい。

 この本の初版は1988年に出版された。それから25年が経ち、テクノロジーの世界は大きく変わった。だがデザインの原則は変わらない。この増補改訂版では、例として挙げるものは変えたが、原則についてはほんの少ししか変えていない。変えた部分も、より理解しやすいようにするためである。新しい知見である情動についても加えることができた。そして最後の二つの章は、今回新しく書いたものである。そこでは慌ただしく、急速に進む製品の世界にデザイン原則を適用することの難しさについて議論する。

 しかし、いくつかの変更は、日本ではとくに興味をひくだろう。この本の初版では、日本のある友人が、オートバイの方向指示器を操作するのにスイッチをどちらの方向に動かせばよいかを覚えるためにメンタルモデルをいかに構築したか、という話を取り上げた(そのとき私はその友人のプライバシーに配慮して名前は明かさず、田中さんとしてあった)。だが数年後、日本の研究者の苫小牧工業高等専門学校の沖本正憲教授が、それは佐伯胖教授(現在は東京大学を退職)であることを見抜いたのである。そう、彼の正体がばれてしまったのだ。私は佐伯教授に、今回の版では本名を出してよいかと尋ねたところ、即座に「イエス」と言ってくれたので、そうすることにした。また、沖本教授とは友人になっただけではなく、彼は私のいくつかのエッセイを取り上げて、日本人のための英語の学習書をまとめたのである(『英文読解ストラテジーで学ぶ科学と人間のための英語読本』沖本正憲、ドナルド・A・ノーマン(著)、開拓社、2010)。

 本書の日本の翻訳者たちは他の国の翻訳者とは違っている。まず、一人ではなく、この分野の専門家である岡本明教授、安村通晃(マイク)教授、伊賀聡一郎博士のグループなのである。次に、彼らは他の国の翻訳者よりもずっと楽しんでいるようだ。この日本のチームはいつも、私がまだ原稿を書いている途中の段階で翻訳を始める。そこで、私が書き直すたびに彼らも翻訳をやり直さなければならない。彼らはほぼ毎週ミーティングをもって議論し、私にメールで長い質問を送ってくる。私の本にはよく誤りがあるが、それを発見するのは日本の翻訳者たちだけである。そして最後に、このチームの人たちとは個人的にも友人なので、これまで本を書くたびに私と妻は日本を訪ね、数日間を温泉やリゾート地で過ごす。郊外を散策し、一緒に風呂に入り、本の内容について、また私の独特な英語の言い回しなどの訳し方について、各章の細部にわたって議論するのである。

 この本のために日本を訪問していたとき、私たちは群馬県安中市の碓氷第三橋梁(めがね橋)に行った。そこで私はすばらしい、誤解させるアフォーダンスを見つけた。一見そこを通れないよう見える(したがって「反アフォーダンス」である)が、実は通れるというものだ。私がこの種のものをアメリカで見つけたのは、25年前この本の初版を書いていたときだったが、その写真は撮っていなかった。第二版を書いたときにも写真を見つけることができなかった。だが、日本の翻訳者チームの人たちが私と妻、友人を碓氷第三橋梁に連れて行ってくれたとき、長い間探していた誤解させるアフォーダンスを見つけたのである。今回はカメラを持っていたので写真を撮ったが、改訂版の英語原著に入れるには遅すぎた。しかしこの日本語版への序文には充分間に合った。もっと早く見つけていれば、本文中に入れたかった写真である。日本の読者は日本語版にしかない、錯覚させる反アフォーダンスの写真を見ることができるのだ(図2)。

 その場所へ連れて行ってくれた翻訳チームと、写真を使うことを許可してくれた三宅なほみ教授に感謝する。彼女はいかにも頑丈そうで通行を妨げていると見えるポールが簡単に曲げられることを、実際に見せてくれている。そのポールは、一般の運転者には通れないように見えるが、それが偽物だと知っている作業用の車両は乗り越えて通れるのである(三宅教授とご主人の三宅芳雄教授は、私たちが一泊した軽井沢の温泉リゾートと周辺地帯の散策に付き合ってくれた)。

 この錯覚は役に立つ。公園に遊びに来た人は、ポールが本物だと思って、その道を運転していこうとはしない。しかし公園の職員はそれが偽物だと知っているので、作業車で入っていく。もちろん、公園に来た人が作業車がポールの上を通っていくのを見たら、偽物だということがすぐに分かってしまうが、それで一般の運転者が入らないようにする効果が妨げられるわけではない(写真は私が安中の碓氷第三橋梁のそばで撮影)。

 『誰のためのデザイン?』の新しい増補・改訂版の日本語訳を目にすることができて光栄である。そして、英語の原著にはない、新しい写真と感謝の気持ちを含めることができて嬉しく思っている。

皆さん、ありがとう。

2015年 カリフォルニア州シリコンバレーにて
ドン・ノーマン

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