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熊谷高幸 著

天才を生んだ孤独な少年期
――ダ・ヴィンチからジョブズまで


四六判上製240頁

定価:本体1900円+税

発売日 15.3.16

ISBN 978-4-7885-1424-9

cover


◆時代をつくった天才たちの人生
 人の発達には導き手としての大人が必要です。しかし大人の助力を十分得られなかった子どもは、独力で世界の捉え方を学び、独自の世界観を編み出していくことになる――少年期の孤独が育んだこの「心の癖」が創造性につながった、という仮説のもと、ダ・ヴィンチ、ニュートン、エジソン、漱石、アインシュタイン、ジョブズという6人の人生を生育歴から晩年まで詳細にたどっていきます。そこから浮かび上がる天才の共通構造とは? 脳科学から発達心理学に至る最新の知見と、自閉症研究者ならではの着想から生まれた出色の天才論!

天才を生んだ孤独な少年期 目次

天才を生んだ孤独な少年期 はじめに

ためし読み

◆書評
2015年5月、毎日フォーラム
2015年6月、Book Club Kai
2015年6月14日、静岡新聞

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天才を生んだ孤独な少年期 目次
はじめに

1章 天才と孤独
天才のライフステージ
共有と非共有のあいだ
孤独な境遇と非共有世界の拡大
自閉症と共同注意の障害
アスペルガー症候群とADHD
常識・ルールを生む「心の理論」
天才の位置
天才と男性脳
感覚過敏と初期の脳
感覚遮断が創造性を高める
デフォルト・モード・ネットワーク
同化と調節による心の発達 
天才の中にいる「もう一人の自分」
天才の共通特性

2章 レオナルド・ダ・ヴィンチ
母との別れ
自然を友とする日々
ヴェロッキオ工房へ
師匠との共同制作
未完の作の数々
手稿の中に残されたメッセージ

3章 アイザック・ニュートン
父を亡くして母を奪われる
物思いにふける内気な少年
日時計でいっぱいの部屋 
「大学に行くしか能のないやつ」
ケンブリッジの孤独な免費生
デカルトとの対決
故郷の村で着想した三つの発見
内部世界の支配から外部世界の支配へ
晩年のニュートン

4章 トーマス・アルヴァ・エジソン
不注意な子ども
三か月で小学校を退学
母が開いてくれた独学への道
車内売り子から新聞発行人へ
電信士のかたわら発明を始める
一パーセントのひらめきと九十九パーセントの汗
二十世紀を発明した男 

5章 夏目漱石
生まれてすぐに里子に
仮の親と実の親
「何をしに世の中に生まれてきたのだ」
友との出会いと文学への道
親ゆずりの無鉄砲
不本意だった英国留学
『文学論』と大学講師の日々
漱石の天才論
一挙に花開いた小説世界
妄想癖と創作活動
わずか十年の作家生活

6章 アルベルト・アインシュタイン
なかなかことばを発さない子ども
方位磁石のとりこになる
居場所がなかった軍隊式の中学
イタリアを経てスイスへ
スイス特許局に七年間勤める
奇跡の年
再びドイツに
二つの看板を背負った晩年

7章 スティーブ・ジョブズ
生後すぐに養子に
集団活動が苦手な少年
エレクトロニクスとの出会い
中退した大学に通い続ける
菜食主義と禅の思想
アップル社の創業へ
パソコン業界のパイオニア
失意の日々
アップル社への復帰
市場調査は必要ない
足早に、この世を去る

8章 天才と現代
天才の基本構造
孤独が生み出すもの
創造力と妄想力
学校への不適応と支援者の出現
外側からの視点
天才のその後
三種類の天才
天才と現代の教育
天才とわれわれ

あとがき
 
引用・参考文献3

索引

装幀 臼井新太郎
装画 ヤギワタル


天才を生んだ孤独な少年期 はじめに

 この十年あまり、天才と呼ばれる人々の人生をたどってみて発見したのは、そこに共通して、少年期に驚くべき孤独が存在したということだった。

 ここでいう天才とは、世の中の文化を変えるような仕事をした人々である。能力が飛び抜けた人全体を指すわけではない。そして、新しい世界を生み出すための苦悩を経験した人々である。

 天才とは、このように、すでにある世界と対決した人々だから、そこに孤独があるのは容易に想像できる。では、彼らは天才となる中で孤独になったのだろうか? 実はそうではなくて、少年時代から孤独であり、それが天才を生みだした、とするのが本書の内容である。

 この本で取り上げるのは、ダ・ヴィンチ、ニュートン、エジソン、夏目漱石、アインシュタイン、ジョブズである。この人たちは、天才というとまず頭に浮かぶような人物ばかりである。だから、私の考えに都合のいい人たちだけを特に選び出したわけではない。これらの人たちの人生には、天才に不可欠なものが典型的な形で含まれているのである(なお、六人の天才の中に漱石を入れたのは、そこに日本人も含めておきたかったという理由もあるが、もうひとつ、漱石自身、優れた天才論を示しているから、という理由もある)。

 彼らの少年期は、特異な生育環境や特異な認知の性質によって、そして多くの場合はその両方によって非常に孤独なものとなった。そのいきさつをたどり、それが彼らの天才にどのようにつながっているのかを明らかにしていくのがこの本の内容である。しかし、通常では手に入りにくい資料を発掘し、新事実にもとづいて叙述しているわけではない。本書で用いた資料は日本国内で簡単に手に入るものばかりである。しかし、そうして集めた人生を並べてみると、多くの共通点が見つかり、天才の共通構造のようなものが見えてくる。それをここで明らかにしておきたいと思ったのである。

 ところで、なぜ私は天才の人生を探るようになったのか? それは、次のような二つの理由による。

 その第一は、天才とは凡人には窺い知ることのできない高みにいる人々であるというよくある考えを撤回してほしかったからである。天才が偉業を達成できたのは結局、天才だったから、と見なされてしまうことが多い。しかし、天才も私たちと同じ人間である。その同じ人間が、ある条件のもとで成長すると天才になると考えたからである。そして、この条件について、ある程度説明できるようになったと思ったからである。また、天才をこのように捉えることによって、私たちは、その人生を共感をもって見つめ、そこから多くを学びとることができる。

 そして、第二の理由は、私がこの四十年ほどのあいだ、自閉症の研究をしてきたことに関係している。自閉症の人は、人間の認知の様々な有りようを見せてくれる。彼らの中には、複雑な計算の解を一瞬にして出したり、何十年も前の日付を聞いただけでその曜日を当てたりすることができる、サヴァン症候群と呼ばれる人々がいる。また、これと関連して、才能ある人々の周辺に自閉症の親族が存在したり、さらには、天才とされる本人が幼児期に自閉症を疑わせる症状を示していた場合があったりする(アインシュタインがこれに相当する)。また、視点を広げて、発達障害という観点から見ると、天才の中にはADHD(注意欠陥多動性障害)だったと考えられる者がおり、エジソンはその代表例である。  以上の事柄は、発達障害の人やその家族を勇気づける事実なので、近年よく書物で取り上げられるようになっている。しかし、なぜ、発達障害が天才に関係しているのか、という理由はほとんど書かれていない。また、発達障害であれば天才になることができるのかというと、決してそのようなことはない。しかし、そこにある認知の特性が天才の発生に関係しているのである。

 私は自閉症についてだけでなく、発達心理学についての研究者でもある。だから、人の心はどのように発達するのか、というテーマの延長に、天才はどのように生じるのか、という疑問をもっている。その私が天才という問題を取り上げることにしたのは、そこに少年期の孤独と発達障害に関連する認知の特性が絡んでくると考えたからである。だから、この本は天才の発達心理学を目指すものであり、ダ・ヴィンチから始まる六人の天才についての叙述はそのケーススタディである、と考えることもできる。

 天才についての議論よりは、天才たちの人生をまずのぞいてみたいという読者は、1章を飛ばして2章に進んだ方がいいかもしれない。しかし、六つの人生には多くの共通点がひそんでいる。それを捉える視点として、1章と最終章である8章を参考にしていただければ幸いである。