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日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第14号
──特集 社会的実践と質的研究


B5判並製212頁

定価:本体2800円+税

発売日 14.3.20

ISBN 978-4-7885-1423-2

cover


◆質的研究は社会にどれほど貢献できるのか?◆
 東日本大震災後、研究が社会における実践にどれほど貢献できるのかという課題がより厳しく問われるようになっています。研究対象者やフィールドの「現実」を深く汲み取れると自負してきた質的研究は、社会的実践にどこまで寄与できているのでしょうか。特集として震災・復興がテーマの論文、既存のカテゴリーにおさまらない豊かな理論的・実践的展開がみられる論文を5本収載。 ほか一般論文5本。書評特集では、学会発足10年を記念して刊行された『質的心理学ハンドブック』(小社刊)について多様な領域の評者が縦横に論じます。

質的心理学研究 第14号 目次

質的心理学研究 第14号 巻頭言

質的心理学研究シリーズ バックナンバー

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質的心理学ハンドブック 目次
巻頭言 伊藤哲司 質的研究の「質」をめぐる悩み

 特集:社会的実践と質的研究  (責任編集委員:田垣正晋・永田素彦)

■宮本 匠
災害復興における“めざす”かかわりと“すごす”かかわり
─東日本大震災の復興曲線インタビューから

■神崎真実・サトウタツヤ
通学型の通信制高校において教員は生徒指導をどのように成り立たせているのか
─重要な場としての職員室に着目して

■李マ(フシン)・宮本 匠・近藤誠司・矢守克也
「羅生門問題」からみた被災地の復興過程
─茨城県大洗町を例に

■赤阪麻由・サトウタツヤ
慢性の病いをもつ研究者が主宰する病者の集いの場で生成される意味
─研究者の在り様を含めた場の厚い記述から

■菊地直樹
方法としてのレジデント型研究

 一般論文

■横山草介
ナラティヴの文化心理学
─ブルーナーの方法

■矢守克也・杉山高志
「Days-Before」の語りに関する理論的考察

■山田哲子
知的障がいのある子どもを緊急に親元から離すプロセスとは
─在宅ケアを望んでいた親の施設利用に焦点を当てて

■田村南海子・塚本尚子
ドナー家族の脳死下臓器提供プロセスにおける体験と心理的軌跡
─“ドナー家族に対する看護ケアの発展に向けて”

■矢守克也
量的データの質的分析
─質問紙調査を事例として

 BOOK REVIEW

■《書評特集》『質的心理学ハンドブック』はどのような意味で「原典」たりうるか?
特集にあたって(松嶋秀明)
 1. 質的心理学は何を問うのか(評:浜田寿美男)
 2. 誰が「質的」心理学を必要とするのか(評:石黒広昭)
 3. 質的心理学の「今」と「これから」を可視化するために(評:高木光太郎)
 4. 「社会」の後に来るもの(評:福島真人)
 5. 『質的心理学ハンドブック』のなかの多様な質(評:佐藤健二)
 6. ネットワーキングとしての質的研究(評:岡部大介)

編集委員会からのお知らせ
『質的心理学研究』規約
投稿に際してのチェックリスト
『質的心理学研究』特集と投稿のお知らせ
英文目次
『質的心理学研究』バックナンバー
表紙デザイン 臼井新太郎


質的心理学研究 第14号 巻頭言


質的研究の「質」をめぐる悩み
 『質的心理学研究』第14号を無事みなさまのお手元に届けられることになった。編集委員長としては2年目の仕事。相変わらず何ともいえないぎこちない動きをしているのだが,編集委員,なかでもとりわけ役員たち(3人の副編集委員長+4人の編集監事)にサポートしていただきながら,どうにかここまでまたたどり着くことができた。まことに貴重な経験をさせていただいている。ただその過程は,順調なことばかりではない。

 編集委員会の中では,年間通してみるとけっこういろいろな問題が立ち上がってくる。そんな中でとりわけ難しい舵取りをしなくてはならないのは,同じ投稿論文に対する査読者の評価が大きく食い違ったときである。多くの場合,2人の査読者の評価は似たようなものになり,両者の査読結果をほぼ並列させれば投稿者に返すことができる。しかし難しいのは,一方がきわめて高い評価をしているのに,もう一方が厳しい評価を出してきたときである。

 いくら評価が割れても,投稿者に返す際には,何とかそれらを擦りあわせ統合しなくてはならない。それがどうにも上手くいかないときは,第三の査読者を立てられることになっている。第三の査読者も独立して査読を行い,かつ取りまとめの中心を担う。しかしそれでも,査読者たちの合意形成は,けっこう難しいものとなる。

 そもそもなぜこんなことが起きるのか。質的研究の「質」の評価が,ひとつのモノサシで決まらないことによるのだろう。どのような質的研究を「質が高い」と言いうるのか。先行研究の中にきちんと位置づけられているとか,調査手続きがガラス張りで明快に書かれているとか,ディテールまでわかる厚い記述がなされているとか,これまでの研究に見られないユニークなものになっているとか,そうした評価基準を査読者となる編集委員たちはゆるやかに共有しているはずなのだが,それでも具体的な判断が一致しないことがある。

 そんなことがあるわけだから,投稿者の方からすれば,納得しがたいコメントが返されることがあるのは想像に難くない。そのようなときは熟慮の上,場合によってはむしろコメントに反論していただきたい。それを受け止められる編集委員会でなくてはいけないと思う。

 編集委員長としては,質的研究の「質」とは何なのか,なかなか答えの出ない問いに悩みながら,編集委員とも必要な議論をしながら,また次号に向けて編集作業をしていくことになるのだろう。

 その過程のなかで私自身,引き続き多くのことを学ばせていただきたいと思っている。

編集委員長  伊藤哲司