戻る

船越明子 著

ひきこもり
――親の歩みと子どもの変化


四六判192頁並製

定価:本体1800円+税

発売日 15.1.25

ISBN 978-4-7885-1418-8




◆親が変われば子どもも変わるってホント?
 子どもが「ひきこもり」になった時の気持ちを、「暗闇」と表現する親は少なくありません。「親が変われば子どもも変わる」とはよく聞くことばですが、親はこの「暗闇」からどのように抜け出して、どこに向かっていくのでしょうか? どのように親が変化すれば、子どもがどのように変わってくれるのでしょうか? また、支援をする側は、どのように家族をサポートすれば、変化を生み出すことができるのでしょうか? 苦しいのはひきこもりをしている本人だけではありません。この本は、ひきこもりの子どもを抱える親に焦点を合わせ、家族や支援者の実際の体験を通して、このような問いに答えます。著者は、三重県立看護大学准教授、子どものこころのケアに対する看護師の実践能力の向上を目的とするサイトを運営。

ひきこもり 目次

ひきこもり はじめに

ためし読み
Loading

ひきこもり 目次
はじめに

第1章 語り手たち─本書の登場人物

第2章 ひきこもりとは
 ■ひきこもりの定義
 ■ひきこもりと精神障害
 ■ひきこもりはどれくらいいるのか
 ■関連する概念
 ■日本神話とひきこもり

第3章 親が変わるということ
 ■親が歩む《5つのステップ》

第4章 何がなんだかわからない段階
 ■年相応に社会参加してほしい
 ■子どもがひきこもっていることが恥ずかしい
 ■子どもをなんとかしなければと焦る
 ■子どもがひきこもったのは親のせいだと思う
 ■子どもの状態が理解できない
 ■子どもとの関わり方がわからない
 ■子どもに命令する
 ■親の価値観を押し付ける
 ■精神的に不安定になる

第5章 子どもの状態を知る
 ■ひきこもりの現実にショックを受ける
 ■自分だけではないんだと安心する
 ■子どもを恥じるのはやめよう

第6章 子どものつらさを理解する
 ■子どもの気持ちを考える
 ■子どもの現実を受け入れる
 ■子どものペースで社会参加してくれればいい
 ■親が変わる必要性に気づく
 ■子どもにプレッシャーをかけない
 ■子どもの不安を取り除く
 ■子どもの自己否定感を緩和させる

第7章 ありのままの子どもを受け入れる
 ■子どもを多面的に見る
 ■正規のルートから外れた人生でもかまわない
 ■子どもなりの人生を受け入れる
 ■子どもを見守る
 ■子どもの苦しみに寄り添う

第8章 人生に新しい価値を見出す
 ■ひきこもりについて自分なりに整理がつく
 ■子どもの人生に意味を見出す
 ■ひきこもりの子どもをもつ他の親の役に立ちたい
 ■親自身が新しい人生を歩む

第9章 子どもはどのように変わるのか?─親の歩みと子どもの歩み
 ■悪循環の状態
 ■見守る状態
 ■社会的支援の必要性

第10章 親の変化を助けるもの
 ■ひきこもり支援における家族の微妙な立ち位置
 ■家族支援と親の歩み
 ■情報と知識
 ■精神医学
 ■自助グループ
 ■共感的・支持的アプローチ
 ■問題解決型アプローチ
 ■認知療法的アプローチ
 ■夫婦カウンセリング

第11章 親のメンタルヘルスを維持するためのもうひとつの道
 ■変化をあきらめる
 ■子どもと距離をおく
 ■わかってくれる人とだけ接する

おわりに
謝辞
文献(7)
全国のひきこもり地域支援センター(1)

装幀=佐々木崇典


ひきこもり はじめに

  「どうしたらいいんだろう」って、本当に闇の真っ暗闇の中で、悪戦苦闘していました。その時点ではまだ何もわかっていなくて、特にうちの子の場合は自殺未遂の経験もあって。本当に親も真っ暗闇で、「本当にどうして」っていう感じで。(母)

 子どもが暗闇の中に入っちゃう。母親は一緒にその暗闇の中に入っちゃって何も見えなくなる。父親は(暗闇の)外から「あがって来いっ!!」て叫んでいる状態。「早くあがって来いよっ!!」って叫んでいる状態じゃなかったかな。(父)

 子どもが《ひきこもり》という状態になったときの気持ちを、《暗闇》と表現する親は少なくありません。「親が変われば子どもも変わる」とはよく聞く言葉ですが、この《暗闇》からどのように抜け出して、どこに向かっていくのでしょうか?また、支援をする側は、どのように家族をサポートすれば、変化を生み出すことができるのでしょうか?さらに、どのように親が変化すれば、子どもがどのように変わってくれるのでしょうか?この本では、ひきこもり青年を抱える家族を取り巻くこうした問いについて、実際の家族の体験談を通してお答えしていきます。

 さて、私は、大学を卒業後、児童・思春期精神科の専門病院に看護師として勤務し、さまざまな精神的な問題を抱えたお子さんとご家族を見ました。看護師として関わる中で、一番難しかったのは、家族とどう向き合うか、どうすれば家族の心の支えになれるか、ということでした。当時、《ひきこもり》という言葉が注目され始めた頃でしたが、児童・思春期精神科を訪れる子どもたちは、ひきこもりや不登校の経験を少なからずもっていました。大学院に進学し、児童期から青年期のメンタルヘルスについて学びを深める中で、ひきこもりは、精神疾患の有無、年齢などにかかわらず、誰にでも起こりうる身近な問題であると知り、わが子のひきこもりを経験しておられる親御さんは、どのようなことを求めて来院されるのだろうか、家族支援として何ができるのだろうか、と考えるようになりました。

 そして、私は、ご家族の生の声を反映した研究を行い、博士論文を書こうと決意しました。大学院生活5年目の平成18年10月12日、私はインターネットを通じて情報を得て、あるひきこもりの親の会の会長さん宅に電話をしました。その方とは、何の面識もありませんでした。そして、ひきこもりをテーマとした研究がしたいので、親の会のご家族にインタビューをさせてほしいと頼みました。どんなことをどんなふうに言ったのか、どんなやりとりだったのか、まったく記憶にないほど緊張していました。後日、会長さんから「あなたがこの研究に取り組まれる動機を聞いて感動しました。あなたの研究のお手伝いをさせていただきます」というお返事をメールでいただきました。そして、私は、ひきこもりという問題にライフワークとして取り組むことを、その会長さんと約束しました。

 当時私はまだ二十代で、若かったので、きっと極めてストレートに自分の研究への熱意を話したのでしょう。ただ、この会長さんとの出会いが、私にとって生涯忘れ得ないものとなったことは確かです。私は、平成21年に大学の教員として就職し、その翌年博士号を取得しましたが、ひきこもり支援について自分ができることがあれば、率先して行動しようと努力してきました。研修会の講師として人前で話をしたり、事例検討に参加したり、家族会の集まりに出向いたり、といったことをしてきました。本書の執筆も、その延長線上にあります。

 博士論文のインタビュー調査では、ひきこもり状態にある子どもの親が、どのように変化していくのか、そのプロセスを分析しました。多くの親と支援者からご協力をいただきました。そこで、私はこの研究成果を、実際に子どものひきこもりに悩んでいる親御さんや、試行錯誤しながらひきこもりの支援にあたっておられる支援者の方々に、役立てていただけるものにしたいと考え、本書の執筆に至りました。本書の読者としては、ひきこもり青年の親御さんとその支援に関わる方々を想定しています。しかし、主役は、あくまでひきこもり青年の親御さんたちです。ですから、インタビューで語られた親御さんの生の声を、できるだけたくさん含めるようにしました。わが子のひきこもりという事態に、暗中模索している親御さんたちが、どんな道を歩むのか、実際の親御さんの言葉で、その歩みを紡ぎたいと考えました。まず第1章で、本書に登場する方々をご紹介します。第2章でひきこもりの概要を説明し、第3章から第8章では、親の歩みを説明しました。そして、第9章では、親の歩みと子どもの変化の関係について、第10章では親の変化を助けるものについて書きました。最後に第11章では、親が精神的な健康を保つための、もうひとつの道を探ります。

 ひきこもっている子どもをもつ親の歩みはさまざまです。ある方は、本書を読むことで、自分のたどってきた道を振り返ることができるかもしれません。ある方は、自分の先にこんな道があるなんて、まったく信じられない気持ちになるかもしれません。また、支援者にとっては、親の気持ちを理解し、支援のあり方を振り返る一助になるかもしれません。本書が、愛するわが子のひきこもりに悩む親の《暗闇》を照らす、小さくても確かな道しるべとなることを、心から願っています。