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川島亜紀子 著

夫婦げんかと子どものこころ
――健康な家族とはなにか


四六判並製152頁

定価:本体1500円+税

発売日 14.12.8

ISBN 978-4-7885-1417-1




◆親がけんかをしても子は育つの?
 妊娠出産は夫婦のきずなを強めるという一般的なイメージの反面、子育てが始まると夫婦げんかが急激に増加する、という調査結果も知られています。子どもにとって、両親のけんかはどんな意味があるのでしょうか。本書では大規模なアンケート調査から、夫と妻が衝突したときの行動パターン、互いへの認知や期待、子どもの問題行動との関係などを結婚年数別に詳細に分析、夫婦げんかのメカニズムと、子どものこころにもたらす影響を検証します。夫と妻が産後の試練を乗り越え、ダメージをプラスに変える、子育て夫婦のための処方箋。

夫婦げんかと子どものこころ 目次

夫婦げんかと子どものこころ はじめに

ためし読み
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夫婦げんかと子どものこころ 目次

まえがき

第1章 子どものこころと家族関係――母子関係から夫婦-子ども関係へ
     母子関係重視の時代
     心理学者の功罪

第2章 変化する家族と夫婦関係
 第1節 日本の実態
     長く連れ添うほど夫婦関係は上向きになる?
     「夫婦げんか」を心理学ではどう定義するか

 第2節 夫婦げんかのやり方――うまくいかないとき、どうしていますか?
     夫婦げんかが児童虐待になるとき
     関係性攻撃とは
     ビューラーによる葛藤スタイルの分類
     結婚年数により、夫婦げんかへの対応はどう変わるか

 第3節 夫婦げんか時のやりとり――売り言葉に買い言葉
     夫婦のやりとりパターン、三つのタイプ
     悩み相談場面における夫婦のコミュニケーション実験
     けんかをしても決裂しないベテランカップル

 第4節 こんなとき、あなたは許せますか?――否定的な認知
     パートナーへの厳しい目vs.寛容な目
     「高い期待」から「あきらめ」「許し」へ

第3章 夫婦げんかのタネ
 第1節 家事・育児――自分はこんなにやっているのに……
     「妊娠出産は夫婦のきずなを強める」という思い込み
     ポイントは「性役割観」の組み合わせ
     一筋縄ではいかない「夫婦間サポート」

 第2節 愛情――「夫高妻低」の影響
     タブー視されてきた愛情・性の問題
     夫は妻の変化に気づけない
     右肩下がりになる妻の愛情
     愛情が冷めてもうまくいく人たち
     妻が陥る「愛情低下→否定的評価スパイラル」

 第3節 こんな行動が許せない!――否定的な行動
     意外に多い、パートナーによる否定的な行動
     連鎖する否定的なコミュニケーション
     否定的体験は夫婦げんかの行動パターンにどう影響するか
     悪循環に陥る前にできること

第4章 夫婦関係と子どものこころ
 第1節 夫婦げんかと家庭の居心地――子どもの情緒安定性
     愛着を育む三つの条件
     夫婦の不和は子どものこころに何をもたらすのか
    (1)夫婦間に問題があるほど、子どもへの愛は大きいといえるのだろうか?
     妻とのトラブルは、父の子育てにはマイナスになる?
    (2)子どもが幼いほど、両親の夫婦間の問題による影響は
       大きいといえるのだろうか?
     幼い子どもへの将来的な影響は?

 第2節 夫婦げんかは誰のせい?――子どもによる自己非難 
     両親のけんかは「自分のせい」と思いやすいのは男の子

第3節 家庭における三角関係――親のけんかを「食べる」子どもたち
     けんかのタネを食べる犬
     「よい子」ほど親のけんかに口を出す?
     早くから影響を受ける女の子、あとから影響が出る男の子

第5章 おわりに――家族としての健康を考える
 第1節 第二の枠組みシフト――二者択一から複雑なプロセス検討へ
     現実の複雑さをどう捉えていくか

 第2節 複雑なプロセスをみるための視点
     自分の行動は環境のせい、他者の行動はその人のせい
     夫婦関係は「それなりに」
     家族を「全体」として捉える

 第3節 夫婦としての健康度、家族全体としての健康度とは
     マクロな視点・マイクロな視点

 第4節 よりよい夫婦・家族関係のために――目指す形は人それぞれ
    (1)個人のこころ(心構えとして)
    (2)具体的なコミュニケーションの次元
    (3)家庭の雰囲気
     「出産後の夫婦の危機」を予防するために
     社会の中の夫婦関係

あとがき
付録 調査対象の概要
引用文献

カバーイラスト 秋山 啓


夫婦げんかと子どものこころ はじめに

 いま、子どもが被害者となる痛ましい事件は後を絶ちません。しかし、一方で子どもを大事に思う気持ちは、多くの人が共通にもっていると思います。その証拠に、子どものこころや子育てをめぐる本、雑誌は、これまでたくさん出版されてきました。国立情報学研究所が提供する図書・雑誌の情報検索サイト(Webcat Plus)を用いて、「子ども・心理」と入力して検索すると6376冊、「子ども・発達」では1万105冊、「子育て」では1万6847冊の書籍が見つかります(2014年9月現在)。「子育て」に絞っても、1999年までの約100年間で7500冊程度だったものがこの15年で約9000冊増加し、前世紀の2倍以上になっています。子育てや子どもの育ちに関する情報源は書籍だけではなく、最近ではインターネットも多く利用されています。インターネット検索サイトで「子育て」と検索すると、2千万件を優に超える膨大な検索結果が表示されます。子どもや子育てへの関心がいかに高いか、ということを示すものでしょう。

 おそらく、いつの時代も、子どもの健やかな発達は、その子どもの親だけではなく、多くの大人の願いであったと思います。しかし、本や雑誌、インターネット情報の増加をみると、この20年間で、子どもの健やかな育ち、とくに「こころ」の健康的な発達への関心は、さらに高まっているように思われます。その背景の一つには、子どもと接する機会が少なくなった少子化時代があるかもしれません。ほとんどの人は、大人になる前に自分よりも年下の子ども、とくに乳幼児の面倒をみることがなく、子どもと接する機会が少ないために、子どものことがよくわからないまま大人になり、そして時にそのまま親になってしまいます●1。そのため、子どものこころに寄り添う以前に、子どものこころを理解し、うまく取り扱いたいという思いから、初めての子育てに役立つような情報が、書籍を含めたメディアにたくさん存在しているのではないかと推測されます。本書では、少し視点を変えて、これまであまり注目されてこなかった子育てをする夫婦(父親と母親)の関係に焦点を当てて、子どもへの影響を考えてみたいと思います。

 夫婦の仲がよいと、子どもにもよい影響がある、ということは、多くの人が直観として知っています。大好きなお父さんとお母さんが仲良くしていると、子どもも幸せそうに見えます。逆に、お父さんとお母さんがけんかしていると、子どもは、どのような気持ちになるでしょうか。ある子どもは、悲しい気持ちになってその場から遠ざかろうとするかもしれません。ある子どもは仲裁に入ろうといろいろな努力をするかもしれません。子どもがいる場合には、夫婦げんかや夫婦間の問題は、夫婦二人だけではなく、子どもにとっても重要な影響をもちます。

 私は、臨床心理士として、幼稚園での保育カウンセリングに携わったことがあり、その際幼稚園の先生方が、行動上の問題のある子どもについて、「ご両親の夫婦関係もうまくいっていないようで……」と言うのをたびたび聞きました。それを聞くと、夫婦関係と子どもの問題の関係について、一般的に、「夫婦関係が子どもに影響を及ぼす」、という原因-結果のつながりとして認識されているということに気づきます。インターネット投稿サイト「Yahoo! 知恵袋」においても、夫婦げんかが子どもに否定的な影響を及ぼすのではないかと心配する記載が見られます●2。素朴なレベルで夫婦関係が子どもの発達に関連すると知っていたとしても、まったく夫婦げんかをしない、というのはなかなか難しいことです。それでは、表立ってけんかをしなければいいのか、というとそうでもないでしょう。さらに難しいことに、子どもをもつと夫婦関係に問題が起きやすくなる、ということが調査研究によって明らかになっています●3●4。

 それに加え、現代では結婚や夫婦の形が、大きく変化、多様化しています。どういう「夫婦」、どういう「家族」の形が適切なのか、個人によって選択可能な世の中になっているのです。ですから、ある個人の現在の状況は、他者から見ればその個人が選択した結果である(その個人に責任がある)とみなされます。一方その個人にとっては、選択しなかった「たら・れば」の世界が、大きく広がっているように感じられるのではないでしょうか。「もし、あのとき結婚しなければ、もし、あのとき子どもを産まなければ……」と。けれども、子どもを産んでしまえば、「子育て」という原始的な体験が現実として存在し、個人の、そして夫婦の葛藤を生み出します。

 本書の目的は、子育て中の夫婦関係、とくに夫婦の葛藤の側面に焦点を当てて、日本ではまだ、あまり公表されていない家族の追跡調査データをもとに、夫婦関係と子どものこころの関係について、これまで明らかになってきたことを紹介することです。子育てをすることによって生じる夫婦の問題や、子どもに対する影響などを考えていくときに、何らかの道標となればと思います。

 今回、本書で調査A、調査Bとして紹介する研究結果は、二つの縦断的な研究■1にご参加くださった方々のご協力によって得られました(巻末付録参照)。首都圏都市在住の家族を対象とした「子どもの発達と家族の精神保健に関する発達精神病理学的な縦断研究」と「子どもに良い養育環境プロジェクト」に登録された夫婦1200名分のデータを本書で紹介するデータ解析の対象としました。縦断的な調査ですので、本来であれば、発達的な変化を見ることが大事なのですが、今回は、その一部だけを切り取った結果を紹介する関係上、便宜的に結婚年数10年を一つの区切りとして、結婚年数10年以上の夫婦と10年未満の夫婦に分けて検討します。

 現在、子どもを育てている夫婦だけでなく、これから夫婦になろうとするカップル、親になろうとする夫婦、そして、子どもに関わる仕事をしている方々に読んでもらえたら幸いです。