戻る

仲真紀子・久保(川合)南海子 編

女性研究者とワークライフバランス
――キャリアを積むこと、家族を持つこと


A5判並製144頁

定価:本体1600円+税

発売日 14.9.17

ISBN 978-4-7885-1406-5




◆結婚、妊娠、出産、就職──どう乗り越える?
 晩婚化や高学歴化、不景気等、社会的状況の変化に伴い、家庭を持つ女性・男性がともに働き、仕事を通じた自己実現をめざすワークライフ・バランスが近年注目されています。しかし出産適齢期がキャリアを積む重要な時期とちょうど重なる女性研究者たちは、どうやって対処しているのでしょうか。そのような困難に直面し、乗り越えた研究者の方々に、現実的な解決策、活用した制度とその実際、夫婦間の役割分担、つらい時の心の持ちよう等、実体験から語っていただきました。働く女性の支援体制をどうつくりあげていったらよいのかについても、大きな示唆に富む本です。

女性研究者とワークライフバランス 目次

女性研究者とワークライフバランス まえがき

ためし読み

◆書評
2014年10月19日、京都新聞

Loading

女性研究者とワークライフバランス 目次

まえがき

第1章 ある女性研究者のワークとライフ
─産むまでの悩みどころ
久保(川合) 南海子

1. [ワーク]国立大学の研究所ポスドク/[ライフ]就職or妊娠?
1.1 結婚するなら「思い立ったが吉日」
1.2 悩ましきもの、妊娠・出産
1.3 就職と妊娠・出産の優先順位
1.4 ふと気がつけば、もう後がない!
1.5 同時にやってきた就職と妊娠
1.6 「案ずるより産むが易し」と思えるまでが問題でした

2.[ワーク]国立大学の研究センター助教/[ライフ]一人目の妊娠・出産
2.1 職場と家族に支えられた妊婦生活
2.2 仏作っても魂入らず?
2.3 研究費あれこれ

3.[ワーク]私立大学の学部教員/[ライフ]二人目の妊娠・出産
3.1 二人目でも悩ましい
3.2 仕事の見通し、少し楽になった子育てと父のリタイア
3.3 「気持ち」を後押ししてくれた周りの女性研究者
3.4 意識を変えるのは難しいからこそ

4.ワークライフバランスを楽しもう!
●コラム─配偶者より

第2章 遠距離結婚生活の中での育児と研究生活
内田 由紀子
1.はじめに

2.結婚から妊娠するまで
2.1 遠距離結婚生活のはじまり
2.2 子どもを産む決断を後押ししたもの
2.3 妊娠前に話し合ったこと

3.産休から復職までの道のり
3.1 妊娠中
3.2 出産後と夫の苦労
3.3 夫の育休

4.ふたたび遠距離結婚生活へ
4.1 待機児童の憂き目
4.2 保育園への通園開始
4.3 五つの教訓

5.考 察
5.1 男性の育児について
5.2 研究のキャリアについて
5.3 遠距離結婚生活について

6.おわりに
●コラム─配偶者より

第3章 主夫に支えられて
─わが家の家事・育児分担の変遷
和田 由美子
1.はじめに

2.結婚から出産まで
2.1 就職─つくばから横浜へ
2.2 「なんとかなる」と思えるまで
2.3 出産直後の生活

3.「どうにもならない」時期
3.1 研究所の移転─横浜からつくばへ
3.2 仕事が進まない
3.3 研究員としての限界
3.4 転職─つくばから河口湖へ

4.主夫の誕生
4.1 夫の退職
4.2 メンタル・レイバーからの解放
4.3 性差はそれほど大きくない?
4.4 家計責任と家事・育児

5.現在、そしてこれから
5.1 現在の生活─河口湖から熊本へ
5.2 家族の最適解をめざして
●コラム─配偶者より

第4章 男性(夫)が育休を取った場合の
経済的デメリット
郷式 徹
1.育休を取る理由・取らない理由

2.育休の経済的デメリット
2.1 経済的デメリットはどの程度リカバリーできるか?
2.2 育児休業給付金の問題

3.研究者の育休
3.1 育休を取るための事前調整─校務と授業
3.2 研究はあきらめよう─出力系(原稿執筆など)の作業は絶対無理!
3.3 入力系(論文を読む)も難しい
3.4 赤ちゃんがいてもできること
3.5 それでも時間を作らねばならないこともある

4.おわりに
●コラム─子連れで在外研究

第5章 病児保育といろいろな働き方
久保(川合) 南海子
1.初めての出産と入院生活のはじまり
1.1 NICCUを知っていますか?
1.2 付き添い入院の「寝食問題」

2.退院後に直面したいろいろな壁
2.1 復職への道
2.2 「例外」への脆さ
2.3 慢性疾患は病気なの? 病気じゃないの?
2.4 必要なのは「一緒に考える」ことができる制度

3.復職後の日常─子どもに合わせて変化する保育のかたち
3.1 復職のための復職
3.2 酸素ボンベとともに
3.3 学内保育室へ
3.4 今度は緊急入院、そして5度目の手術

4.一連の治療が落ち着いて
4.1 それでも子どもは病気になる
4.2 大学の保育室から地元の保育園へ

5.私のワークライフバランス
5.1 いろいろな働き方を選べたら
5.2 ふつうでないことは、特別ではない
5.3 信頼できるつながりを育てよう
●コラム─配偶者より

第6章 今になって思う研究者のワークとライフ
仲 真紀子
1.はじめに
1.1 研究者のワークとライフ
1.2 一次的コントロールと二次的コントロール

2.結婚、妊娠、出産、就職─すべてが重なる20.30代
2.1 就職するまで
2.2 結婚と妊娠・出産
2.3 最初の2年─問題!問題!問題!
2.4 それでも毎日は進んでいく

3.職業と生活
3.1 就職
3.2 子どもが3.5歳の頃
3.3 人の手を借りる!
3.4 在外研究・国外での研究

4.学童期の子育て
4.1 学童保育
4.2 預けること、預かること

5.二次的コントロール
5.1 ものの見方を変える
5.2 「反射」で片づける
5.3 プライオリティを決める
6.おわりに

あとがき
付録 本書に関するQ&A
■イラスト=霜田りえこ
■装  幀=銀山宏子


女性研究者とワークライフバランス まえがき

  生きるために、自分の可能性を実現するために、私たちは仕事をする。しかし、仕事ばかりが人生ではない。家族や友人と過ごし、趣味に没頭し、地域に貢献し、仕事以外の豊かな時間をもつことも人生である。仕事と生活の調和を目指す「ワークライフバランス」は、高度に組織化され、多様性がなくなりつつある現代社会の人生を考える上でも、内閣府が主導する様々な制度づくりにおいても、重要な課題となっている。

 ワークとライフのバランスをいかにとるかは、研究職を目指す人においても重要である。特に研究者を目指す女性においては、大学院を修了し、研究を積み重ねてキャリアを築く時期と、結婚、出産、育児の時期が重なるなど、限られたタイムゾーンのなかでワークとライフの目的が対立するようなときがある。このような時期をどう乗り越えていけばよいのだろうか。

 本書は、そういった人生の局面をどうにか乗り越え、工夫してきた5人の心理学者たちが、現実的な問題解決、活用した制度やその効果、パートナーや周囲の人たちとの協力体制、つらい時期の心の持ちようなどを、包み隠さずありのままに描いた本である。

   第1章は、本書を企画し、編者でもある久保(川合)南海子さん。テーマは「就職と妊娠」。大学院で研究しながら就職を目指した日々。結婚や子どもをもつタイミングは、いつか。仕事をしながらの子育てはどうするのか。そして二人目の子どもは……。「一輪車では転んでしまうかもしれないけれど、二輪のママチャリならデコボコ道でもなんとか走れますから」(1章より)

 第2章は、ポスドク研究員としてアメリカで研究生活をスタートした内田由紀子さん。テーマは「遠距離結婚生活」。渡航直前に結婚したが、夫君は東京での勤務。遠距離での結婚、出産、子育てに、二人でどう取り組んだのか。インターネットも味方につけ、「ウェブカメラを使ってスカイプするなど、できる限り『空気感』を共有できる工夫をしました」(2章より)

 第3章は、研究所勤務を経て、今は大学で研究、教育に専念する和田由美子さん。テーマは「主夫の支援」。結婚・出産の後に勤務していた研究所の移転や、大学への転職を経験した。遠距離通勤を余儀なくされていた夫君は在宅勤務ができる職を選び、主夫として家事、育児をメインで引き受けることに。「娘が産まれてからの10年間、夫が『家族一緒に暮らす』ことを何よりも重視して柔軟な選択を重ねてくれたおかげで、私たち家族は、これまで一度も別居せずに暮らしてくることができました」(3章より)

 第4章は、大学で研究・教育に携わる郷式徹さん。テーマは「男性の育休による経済的デメリット」。8ヵ月間の育児休暇のイクメン経験から、「育児休暇をとっても経済的にやっていけるのか」という問題を、活用できるさまざまな制度の例を挙げて分析・考察した。「『自分にしかできない仕事がある。だから、育休なんて取れない』というのは、精神衛生上は必要かもしれませんが、単なる妄想です」(4章より)

 第5章は、再び久保(川合)南海子さん。テーマは「病児保育」。第一子に心疾患があった体験を、集中治療室(NICCU)、母親の24時間「付き添い入院」、復職、在宅療養、手術、学内保育室といった過程に沿って綴る。保育室、保育園、保育サポーターさん、ドクターたちとのネットワークの大切さ、ドーンと構える心意気の重要性を伝える。「それでも前を向いて日々の仕事と生活をこなしていけるのは、子どもの母親は自分しかいないという、迷いのないあたりまえの覚悟があってこそなのだと思います」(5章より)

 第6章は、少しだけ(?)年齢の高い筆者(仲真紀子)が、書かせていただいた。四半世紀前の話で恐縮だが、今日にもつながるかもしれない失敗や悩み、考え方の工夫や問題解決などを書いている。「どんなことがあっても二つの世界を持ち続けることは生活を豊かにしてくれるものだと思います。まずはできるところで環境を改善し、できないところは認知的に柔軟に対応し、逆境は問題解決の場だと考えることができれば、と思います」(6章より)

 以上のような各著者の思いや行動が、今大変な時期にある、あるいはこれからどうしようかと考えている読者や、周囲にそのような人がいる読者への励ましやヒントになればと願う。子育ての形態には「これが正しい」はあり得ない。独自の状況でバランスをとろうと努める著者たちの体験を再体験することで、「こういうこともできる」「ああいう方法もとれる」という示唆と勇気が伝われば幸いである。そしてさらに言えば、本書が社会における研究者の育成・支援や、少子化の改善、希望のもてるワークライフバランスの構築に少しでもつながるものとなれば、編者の一人としてこれ以上の喜びはない。コラムや付録のQ&Aなども、ぜひ参考にしていただきたい。

 最後になるが、二児の出産、国外出張、家庭と職場の様々な問題のなかですばらしい原稿を書いてくださった著者の皆様、ワークショップで応援し、共感してくださった院生や研究者の方々、たえずサポートしてくださった新曜社の森光佑有さんに、深くお礼を申し上げる。安心して、勇気をもって、ともにワークとライフを堪能していきましょう。

2014年8月
仲 真紀子