戻る

秋田 巌 編

日本の心理療法 思想篇
――


A5判上製304頁

定価:本体3200円+税

発売日 14.8.28

ISBN 978-4-7885-1405-8




◆初、日本生まれの心理療法の懇切な解説!
 複雑化する社会に呼応して、日本でも心理療法(心理カウンセリング)の重要性がますます認識されるようになりました。しかし、心理療法はその理論や方法の多くを海外から輸入して始まったため、いまだほんとうに日本人に適したものとはなっていないきらいがあります。ですが日本には仏教をはじめ、現代の心理療法に通じるすぐれた心のケアの伝統があります。ここに刊行を開始する「日本の心理療法シリーズ」は、日本生まれの心理療法に焦点を合わせ、その実践理論を紹介するとともに、それらの成立へと至らしめた日本独特の文化的背景について多角的な考察を試みます。日本人の心性にそった心理療法の発展に資するための画期的な著作群です。

 第1回配本の「思想篇」は、日本生まれの三大心理療法である森田療法、内観療法、生活臨床をとりあげ、それぞれの療法を代表する理論家/実践家が、基本的な考え方を、技法の創始者たちによる事例や創始者の人柄の分析など興味深い話題を交えつつ深く解説します。巻末には、日本の心理療法が西洋のそれと比べてどう異なり、そこに日本人の心性がどうかかわっているのかをめぐるディスカッションを収録しました。

日本の心理療法 思想篇  目次

日本の心理療法 思想篇  はじめに

ためし読み
『日本の心理療法』シリーズ

日本の心理療法 自我篇

日本の心理療法 身体篇

日本の心理療法 国際比較篇

◆書評
2015年、精神神経学雑誌117巻5号

Loading

日本の心理療法 思想篇 目次

はじめに(各篇共通)


思想篇――日本生まれの三大心理療法

第一章 サイコセラピーとしての内観  真栄城輝明
はじめに
精神療法と心理療法とサイコセラピー
内観との出合い
吉本伊信の世界
 ●吉本伊信の生涯 ●ロールシャッハ反応にみる吉本伊信の世界
病院臨床への内観療法の導入8
内観の紹介
 ●内観とは ●内観という呼び名 ●内観療法の定義と再定義 ●内観の治療構造
サイコセラピーの四つのモデルからみた「内観」
サイコセラピーとしての内観
 ●子どもに対する内観療法の工夫 ●摂食障害に対する内観療法の工夫
内観療法の国際的展望
 ●内観療法の国際化 ●各国の内観(療法)の実情 ●国際化における課題と展望
おわりに

第二章 解説 生活臨床  井上新平
はじめに
生活臨床とは何か
 ●生活臨床の基本的概念 ●再発が予測される場合の対応
 ●再発予防のための具体的な働きかけ
生活臨床の誕生
 ●発想と初期の取り組み ●江熊要一と生活臨床の誕生
生活臨床の戦略
 ●生活類型診断 ●生活特徴と働きかけ ●生活臨床面接
 ●家族史からみた生活臨床
生活臨床の時代
おわりに

第三章 森田療法――日本の思想との関連から  北西憲二
はじめに
森田とフロイト――その時代が求めたもの
 ●変化の時代と成功した精神療法家
 ●生い立ちとそれぞれの精神療法理論――母親の愛の独占者と父との葛藤をめぐって
 ●それぞれの神経症体験と精神療法理論
 ●森田とフロイトの人間理解と精神療法の特徴について ●比較精神療法
森田療法と自然論――森田療法のメタサイコロジーをめぐって
 ●はじめに――人間認識の方法論をめぐって ●東洋/日本における自然論
 ●森田療法における自然論 ●心身の現象――自然の経験とは
 ●森田療法のメタサイコロジー @自己論
 ●森田療法のメタサイコロジー A欲望論と認識論
 ●森田療法のメタサイコロジー B行為論
森田の時代の入院森田療法――森田の事例について
 ●不問をめぐって
現代における森田療法の実践――外来森田療法について
 ●治療の基本――とらわれとあるがまま ●自己の構造と介入方法
 ●治療プロセス ●治ること――森田の理解
おわりに

思想篇――ディスカッション

おわりに
事項索引
人名索引
■装幀 虎尾 隆


日本の心理療法 思想篇  はじめに

 私の魂は、今、よろこびに打ち震えている。シリーズ『日本の心理療法』を上梓できる運びとなったからである。

 私は一九八五年に精神科医となり、スイスのユング研究所留学を挟んで、九七年より京都文教大学で臨床心理学の教育に携わるようになった。そして、ふと気がついてみると「講義科目」に並んでいるものは西洋、あるいはユダヤ・キリスト教圏で生まれ育った心理学・心理療法ばかりなのである。日本で生まれ育った心理療法がないのであれば仕方がない。

 ところが、である。日本には、森田療法・内観療法・生活臨床をはじめとして日本で生まれ育った心理療法(精神療法)が少なからず存在する。それがまったく教えられていない。臨床心理学教育に比べて精神医学領域においては、事態はもう少しマシで、きわめて不十分ながらも教育されている。が、臨床心理学教育、たとえば私の勤務する京都文教大学――臨床心理学に携わる者なら概ね誰でもが知っている、その道の「有名校」である。日本の心理臨床学の礎を築いたと言える亡き河合隼雄先生が中心となって創立された大学でもある。質量ともに誇るべき陣容と教育内容を備えている――をしてこの状況。つまり、「日本の心理療法」がほとんど教えられていない。そして、この「異常事態」は全国的なものである。

 しかも、摩訶不思議なことに、この異常事態を指摘・問題視する者がこれまでいなかった。そこで、二〇〇七年より、私は日本の心理療法とその背景にある日本的精神性の勉強を始めた。学問の特質上、本を読んでの理解では限界があるゆえ、それぞれの分野の専門家をお招きし、教えを乞うことを始めた。と、同時にそれを公開し、招聘した先生方にご講演をいただいたあと私とディスカッションをするという試みを始め、それをもって学生への教育としている。大学の理解と強力なバックアップを得て、かなり精力的に事にあたることができており、現段階で約六〇回の公演(講演)開催が実現しており、現在進行中でもある。

 その延長線上で、人形浄瑠璃・文楽の桐竹勘十郎氏、歌舞伎の中村獅童氏、劇作家・演出家の平田オリザ氏を客員教授としてお迎えし、心理療法の背景をより多彩な角度から考察することも始めている。日本の心理療法、そしてその背景研究をさらに深めていくべく努力している。

 研究に終わりはない。だが、このあたりで一旦の成果をまとめ、『日本の心理療法』シリーズを刊行することの意義はきわめて大きいと考える。日本の心理臨床教育場面において無視され続けてきた「日本生まれの心理療法」の存在と意義と教育の必要性を世に問うことができるこの試みはきわめて画期的なものだと自負している。

     秋田 巌