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渡辺 靖 編/庄司 香・柳生智子・和泉真澄・舌津智之・倉科一希 著

ワードマップ 現代アメリカ
――日米比較のなかで読む


四六判276頁並製

定価:本体2400円+税

発売日 14.10.10

ISBN 978-4-7885-1403-4




◆日本の「盟友」アメリカとはどんな国なのか?
 集団的自衛権の閣議決定により、いよいよアメリカのための戦争に参加せざるをえないことにもなりそうです。しかし、私たちはアメリカという国について、どれくらい知っているでしょうか。たとえば、大統領は絶大な権力を握っているように見えますが、現実には議会や裁判所に手足をしばられています。さらに共和制、連邦制を基本に州の力が強く、国立の大学はほとんどありません。法律も、国と州で食い違うことがしばしばです。このようにアメリカは独裁を許さないという建国の理想を強烈に保持していますが、「世界の警察」という現実も生きています。アメリカン・ドリーム、ディズニーランド、企業家精神、銃・ドラッグ、ロウ対ウェイド、LGBT、日米安保などのキイワードで、日米の比較に留意しつつ、政治・経済から、文化まで多面的に「アメリカのいま」を捉えます。

現代アメリカ 目次

現代アメリカ はじめに

ためし読み
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現代アメリカ 目次
はじめに
アメリカ合衆国の州地図
アメリカ合衆国年表
歴代アメリカ大統領一覧

Ⅰ部 政治
1 「リベラル」と「保守」ニューディールからティーパーティまで
2 勝者独占/投票権法/独立支出アメリカの選挙制度
3 チェック・アンド・バランス大統領・議会関係
4 猟官制から回転扉へ行政機構と政治的統制
5 ロウ対ウェイド/上院儀礼/メリット・プランアメリカ司法府の政治性
6 民主主義の実験室連邦制のなかの州政治
コラム 合衆国憲法と州法が矛盾したら

Ⅱ部 経済
1 植民地から世界の工業国へアメリカ経済の歴史
2 「大きな政府」から「小さな政府」へアメリカの財政
3 起業家精神と経営世界を牽引するアメリカ企業の特徴とは?
4 労働者と労働組合昨今の雇用状況は?
5 産業構造と貿易アメリカの産業は衰退したか?
6 金融危機から格差拡大へ格差の負のサイクルから抜け出せるのか?
コラム アメリカの独占禁止法、破産法

Ⅲ部 社会
1 アメリカ的生活個人・自由・消費
2 アイデンティティ・ポリティクスマイノリティ・女性・多文化主義
3 「移民の国」アメリカその歩みと葛藤
4 アメリカン・ファミリー家族・結婚・生殖
5 見える宗教・見えざる宗教アメリカ人の精神世界
6 銃・ドラッグ・DVアメリカ社会と暴力
コラム LGBTとは?

Ⅳ部 文学・文化
1 アメリカン・ドリームアメリカを定義づける価値観とは?
2 プラグマティズム衣食住の特徴は?
3 ソフト・パワー大学/キャンパス文化とは?
4 マスメディア/ソーシャルメディアメディア文化の広がりは?
5 ピューリタニズム/ロマンティシズム/リアリズム近代文学の流れとその背景は?
6 モダニズム/マッカーシズム/マルティカルチュラリズム現代文学の流れとその背景は?
コラム ディズニーランド

Ⅴ部 外交・安保
1 理念アメリカ外交の根底
2 孤立主義「小国」アメリカの外交
3 同盟大国アメリカの外交
4 アジア政策太平洋国家としてのアメリカ
5 アメリカと戦争アメリカは好戦的な国なのか?
6 安全保障体制政府機関と軍
コラム 日米安保条約

日米関係年表
さらに学びたい人のためのブックガイド
事項索引
人名索引

   装幀―加藤光太郎


現代アメリカ はじめに

 中央政府は必要か
 アメリカ合衆国はしばしば「実験国家」と称される。
 一体どういう意味だろうか。
 この問いに答えるには建国期まで遡らなければならない。

 アメリカ独立戦争(一七七五―一七八三年)によってイギリスの支配から自由になった一三の植民地は大きな決断を迫られた。すなわち各植民地(州)が自己統治を行なうか、それとも合衆国の中央政府に統治を委ねるかである。前者の場合、通商や軍事の面でイギリスやフランスなどヨーロッパ列強との交渉は著しく不利になる。かたや後者の場合、中央政府がいつの間にか強大化し、イギリスの専制君主のように自分たちを弾圧・搾取し始めるかも知れない。それでは一体何のために独立したのか分からない。独立宣言作成や合衆国憲法作成に深く関与した「建国の父」たちが導き出した解決策は、中央政府を作ることで国家としてのスケール・メリットを活かしつつも、その権力を厳しく制限することだった。

 権力の腐敗や暴走を防ぐためのポイントは主として三点あった。

 一点目は、中央政府を三つの府、すなわち行政府(大統領)、立法府(議会)、司法府(最高裁判所)に分け、相互のチェック機能を設けることである。いわゆる三権分立の考え方だ。例えば、日本では「アメリカ大統領」と聞くと「超大国のトップ」として絶大な権力を想像しがちだが、合衆国憲法を読むと、実際は議会や裁判所にかなり手足を縛られていることが分かる。

 二点目は、州政府に大きな権限を与えることで、中央政府の権力を相対的に弱くすることである。各州が独自の憲法や軍隊を有している点は、近年、日本で議論されている道州制とは比較にならないほど地方分権化が進んでいることを示している。銃の保有から同性婚、死刑、学校教育、消費税、自動車の運転免許に至るまで、ルールを決めるのは州である。日本では「国立大学」が存在するが、アメリカでは陸軍士官学校(ウェスト・ポイント)や海軍兵学校(アナポリス)など一部の特殊な大学を除き、「国立」の学校は存在しない。こうした高度の独立性を有する諸州が緩やかに連なった連邦制国家がアメリカである。

 三点目は、上記二点と関連するが、アメリカを君主のいない共和制国家とし、自律したデモス(民)を主体とした民主制国家とすることである。今日でこそ至極当然に聞こえるが、まだフランス革命以前の話である。もちろん、古代ローマやヴェネツィア共和国など、かつて民主制を実施した国家はあるが、それらはあくまで「都市国家」という小さな単位においてであった。独立直後の一三州の領土は東海岸を占める程度に過ぎなかったが、それでも日本以上の大きさである。それほど大きな国家を治めるには、強大な権力を有する「君主」の存在が当然視されていた。権力が分散した連邦共和制、しかも「民主」で統治するなど暴挙に近いと見なされた。アメリカが人類史における壮大な「実験国家」と称される所以である。

 もっとも、その実験は決してスムーズなものではなかった。
 一七八九年に合衆国憲法に基づく初の大統領選挙が行なわれ、初代大統領にジョージ・ワシントンが選出されたが、当時の首都ニューヨークのウォール街で行なわれた就任式にロード・アイランド州とノース・カロライナ州の代表者の姿はなかった。両州はまだ憲法を批准していなかったからである。つまり、本当に連邦に参加していいのか議論がまとまっていなかったのだ。それほど中央政府への警戒心は強かった。

 南北戦争(一八六一―一八六五年)についても、その深因は連邦強化を求める北部諸州と州の自治を重視する南部諸州の対立にあった。南部諸州はアメリカ合衆国(USA)から離脱し、アメリカ連合国(CSA)の独立を宣言、独自の憲法を制定し、ジェファーソン・デーヴィス大統領を選出した。一般に「国内(市民)戦争」と称される南北戦争だが、実質上の「国際紛争」だったという見方も存在する。奴隷問題にさほど関心のなかったエイブラハム・リンカーン大統領が奴隷解放宣言(一八六三年)を発した一因には、道義的な大義をアピールすることで、綿花貿易を通して南部と関係の深かったイギリスの支持を勝ち取る狙いがあったとされる。

 このように、建国期から南北戦争期までのアメリカ史は「中央政府が必要か否か」をめぐる争いが基調にあった。北軍(北部)の勝利によってとりあえずこの問題は解決し、アメリカは近代的な統一国家として急速な発展を遂げた。アメリカ以外にも、日本やイタリア、ドイツなどで近代的な統一国家の誕生が相次ぎ、国際関係における有力アクターになっていった。、、、(「はじめに」より抜粋)

二〇一四年夏
編者 渡辺靖