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大澤真幸・塩原良和・橋本 努・和田伸一郎 著

ナショナリズムとグローバリズム
――越境と愛国のパラドックス


四六判並製336頁

定価:本体2500円+税

発売日 14.8.8

ISBN 978-4-7885-1400-3




◆その熱狂のなかでクールに考えるために
 国境を越えて人や資本が軽々と移動するグローバル化の時代に、なぜ国民・国家にこだわるナショナリズムが、生き続けるどころか、ますます盛んになっているのでしょうか。たしかに竹島・尖閣諸島などの領土問題は重要ですが、そのために憲法「解釈」を変え、集団的自衛権を使って、「戦争のできる国」にする必要などあるのでしょうか。この狂気ともいえるナショナリズムの熱狂のなかで、冷静にその意味と危険性を考えるために、本書は最適だと思います。ゲルナー、アンダーソンなどの著名な理論から始まって「日本のナショナリズム」「戦争・軍隊」「マクドナルド化」「移民」「核」「グローバルシティ」「ソーシャルメディア」などの魅力的なキーワードで、グローバル化のなかで変質するナショナリズムの「現在」を、四人の著者が多面的に解読します。

ナショナリズムとグローバリズム 目次

ナショナリズムとグローバリズム はじめに

ためし読み
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ナショナリズムとグローバリズム 目次

まえがき

Ⅰ部 歴史としてのナショナリズム
ネイション/ナショナリズム定義不可能なるもの
民族/エトニーネイションの起源?
主権権力の起源?
■コラム ネイションとステイト
想像の共同体/無名戦士の墓/出版資本主義ネイションは想像された共同体
資本主義その国家との関係
国語ネイションはなぜ言語に執着するのか
小説・新聞小説・新聞がネイションをつくった?
エスノ・ナショナリズム民族とナショナリズム
ファシズム民主主義のなかから生まれた
テロリズム理解不能な他者か
学校とネイション学校教育がもたらしたもの
■コラム 地図・博物館
ゲルナーと近代主義者たちネイションはどのように想像されるか
日本のナショナリズム日本人はいつ「国民」になったのか
■コラム 遠隔地ナショナリズム

Ⅱ部 政治思想としてのナショナリズム
民主主義運動としての民主主義
社会主義なぜ不可能なのか
マルクス主義(コミュニズム)マルクスがめざしたもの
左翼/右翼サヨク/ウヨクって何?
革命民衆による小文字の革命
戦争・軍隊「新しい戦争」とは
ヘゲモニー(覇権)主導権をいかに確保するか
コミュニタリアニズム共同体を愛する思想
シヴィック・ナショナリズム市民とナショナリズム
新自由主義/新保守主義「大きな政府」から「小さな政府」へ

Ⅲ部 グローバリズム
近代世界システムグローバリゼーションの始まり?
グローバリゼーショングローバル化の行く末
植民地植民地化がもたらしたもの
帝国主義帝国主義とは何か
帝国皇帝のいない帝国
■コラム EU(欧州連合)の礎としての「ヨーロッパ合衆国」
シティズンシップ「市民」とは何か
マルチカルチュラリズム(多文化主義)他者との対話と協働の論理へ
■コラム マクドナルド化
エスニシティと白人性エスニック・マイノリティとは?
移住者と出入国管理国境を越えるとは?
マイノリティとポジショナリティアイデンティティ・ポリティクス
反グローバリズム/NGOもう一つの世界は可能だ!
核/平和運動核のない世界は夢か
コスモポリタニズム世界市民主義は空想か
■コラム 国連・国際機関とグローバルな市民社会
グローバル・シティグローバル化を超えて
ソーシャルメディアマスメディアからソーシャルメディアへ

あとがき - ナショナリズムの現在

さらに学ぶ人のためのブックガイド
事項索引
人名索引
装幀 - 加藤光太郎


ナショナリズムとグローバリズム はじめに

 二十世紀の末期以降、われわれは、たいへん奇妙な世界を生きている。ナショナリズムとグローバリズムとが、すなわちネーション(国民・民族)のアイデンティティへの愛着と経済・政治・文化の総体的なグローバル化が、ともに深まり、伸展しているのだ。

 ナショナリズムとグローバル化は、ほんらいは背反するはずだと考えられていた。つまり、経済と政治と文化のすべての領域で国境を横断するグローバルなコミュニケーションがさかんになり、国民-国家の主権も相対化されてくれば、必然的にナショナリズムは衰えるはずだ、と予測されていたのだ。ところが、グローバル化の水準がかつてないほど高まっているのに、ナショナリズムに基づく感情や行動はさして衰えることなく持続し、それどころか、地域によってはかつて以上にナショナリズムは強化されているようにすら見える。これはどうしたことだろうか。
 ベネディクト・アンダーソンは、一九八〇年代の前半に出した著作のなかで、第二次世界大戦後にアジア・アフリカの植民地が次々と独立する過程をさして「ナショナリズムの最後の嵐」と呼んでいた。この語を引き継ぐならば、二十世紀末期以降、とりわけ冷戦の終結以降にわれわれが目のあたりにしているのは、「ナショナリズムの季節外れの嵐」であり、乾期に降る大雨である。

 この、一見矛盾した現象をどのようにしたら統一的に理解することができるだろうか。この不可解さは、社会科学の概念をもってきたとき、どのように説明することができるのか。

 こうした問いの下、ナショナリズムとグローバル化を同時に理解する上で重要な用語を集めた「読む事典」として、本書を世に送り出す。 本書の全体は三部に分けられている。第一部は、歴史現象としてナショナリズムを捉えるときに必要な術語を、第二部は、ナショナリズムを政治思想の文脈で理解するときに関連してくる術語を、そして、第三部は、現在のグローバル化を理解し、分析する上で有用な術語を、それぞれ集めている。

 本書は、二種類の読み方が可能である。本書は一種の事典ではあるが、ゆるやかな体系性をもつように編まれているので、普通の本のように、前から順に読むことも可能である。そして、もちろん、一般の事典のように、興味があったり、関心があったり、理解できなかったりする術語の項目のみを読むことも可能だ。

 各項目は、四人の執筆者によって分担して書かれている。四人とは、塩原良和(S)、橋本努(H)、和田伸一郎(W)、大澤真幸(O)である。誰が執筆したかは、項目の末尾に、アルファベットのイニシャルで示されている。各項目には、学界での通説と、各執筆者のオリジナルなアイデアとがともに反映されている。

 また本書の末尾には、さらなる研究のための読書案内として、重要著作をかんたんな紹介文とともにリストアップした。 本書が、現代社会で生じていることの真実を本気で理解したいと欲しているすべての人、とりわけ若い読者の手に届くことを執筆者としては心より願っている。

  二〇一四年五月三〇日
  執筆者を代表して
  大澤真幸