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桜井 厚・石川良子 編

ライフストーリー研究に何ができるか
――対話的構築主義の批判的継承


四六判上製266頁

定価:本体2200円+税

発売日 15.4.9

ISBN 978-4-7885-1398-3

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◆ライフストーリー研究の再定位のために
 多人数に向けた質問紙調査と異なり、個人が語る豊饒な物語を捉えようとするライフストーリー研究は、社会学・心理学・歴史学等へと広く浸透し、成果を生み出しています。なかでも社会学者・桜井厚の唱えた、語りを語り手と聞き手の相互行為の産物として捉える「対話的構築主義」の方法論は影響を広げ、議論を呼びました。どの研究対象にも使えるのか、会話形式の引用の意義は、調査者の自己言及的記述の目的は何か──。これら疑問の声に応え、研究法の可能性を探るため、桜井厚と若手研究者たちが多年の調査経験をもとにした論考をまとめました。ライフストーリー研究に挑む学生の教科書として、すべての社会調査者に向けた問題提起として、研究の最前線からの渾身の一冊です。

ライフストーリー研究に何ができるか 目次

ライフストーリー研究に何ができるか あとがき

ためし読み

◆書評
2015年5月15日、週刊読書人、好井裕明氏評

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ライフストーリー研究に何ができるか 目次

序 章 ライフストーリー研究に何ができるか  石川良子・西倉実季
1 「ライフヒストリー」から「ライフストーリー」への転回
2 ライフストーリー研究の基本的枠組み
3 ライフストーリー研究はどう受け止められたか
4 本書の構成

第1章 モノローグからポリフォニーへ
  ─なにが私を苛立たせ、困惑させるのか  桜井 厚
1 インタビュー過程の虚と実
2 語りのポリフォニー
3 訝る物語
4 まとめ─モノローグからポリフォニーへ

第2章 なぜ「語り方」を記述するのか
  ─読者層とライフストーリー研究を発表する意義に注目して  西倉実季
1 「語り方」の前景化と「語られたこと」の後退?
2 聞き手の問いの保存─ライフヒストリー研究における記述との違い
3 社会の縮図としての社会調査─ライフストーリー研究者の役割
4 聴取の位置の問題化─ライフストーリー研究を発表する意義

第3章 インタビューという会話の構造を動的に分析する  青山陽子
1 問題の所在
2 集合表象としてのモデル・ストーリー
3 ゴフマンの多元的リアリティとモデル・ストーリーの布置
4 結論

第4章 メディアのストーリーはいかに生成・展開されるのか
  ─在日南米人の犯罪をめぐる言説を題材に  酒井アルベルト
1 社会的行為としてのメディア
2 在日南米人と「外国人犯罪」
3 エスニックな亀裂
4 エスニック・メディアとコミュニティの声
5 犯罪撲滅キャンペーン
6 まとめ─語りの社会的空間

第5章 ライフストーリーにおける異文化と異言語  張 嵐
1 はじめに─異文化理解と他者理解
2 異文化体験を聞くこと/書くこと
3 インタビュー場面における自己呈示とカテゴリー化
4 おわりに

第6章 ライフストーリー研究としての語り継ぐこと
  ─「被爆体験の継承」をめぐって  八木良広
1 語り継ぐ活動に取り組む姿勢の問題
2 証言活動と語り継ぐ活動の社会的状況
3 語り継ぐ活動における二つの文脈化とその問題
4 語り継ぐとはいかなることか

第7章 戦略としての語りがたさ
  ─アルビノ当事者の優生手術経験をめぐって  矢吹康
1 自分が聞かれて嫌な質問はしない
2 「面白い話」の回避
3 面白くない「ごく普通」のライフストーリーへ

第8章 語りにおける一貫性の生成/非生成  倉石一郎
1 議論の枠組み─「一貫性」の彼岸へ
2 事例とその背景
3 事例と分析1 西さんの「長欠児」当事者経験の語り
  ─「呼び出し」をキーワードに
4 事例と分析2 上昇移動のストーリー?
  ─「わたくしごとで恐縮じゃけれども」
5 むすび─不条理の社会学としてのライフストーリー

第9章 〈対話〉への挑戦
  ─ライフストーリー研究の個性  石川良子
1 はじめに─「対話的構築主義」ではなく「対話的構築主義」
2 インタビューを〈対話〉に高める
3 〈対話〉に再挑戦する(1)
4 〈対話〉に再挑戦する(2)
5 おわりに

あとがき
索引


装幀─虎尾隆


ライフストーリー研究に何ができるか あとがきに

 本書の企画意図や経緯について、個人的な思いも交えながら簡単に記しておきたい。本書は桜井厚さんの定年退職の記念として企画された。桜井さんが立教大学を退職したのは二〇一三年三月、それから二年が経過してしまったが、ともあれ出発点はそこである。桜井さんには二〇一〇年秋口に、記念になるような論集を作りたい、そのために研究会を立ち上げたいと伝えた。締切りまでに各自で原稿を仕上げるのではなく、皆でテーマ・内容を検討しながら完成させていくようにしたかったからである。そして二〇一一年一月、ライフストーリー研究会の若手の常連メンバーを中心に呼びかけて第一回目の会合を持ち、ここで「対話的構築主義研究会」という名称が決まった。その後は数ヵ月おきに集まり、適宜メールでもやりとりを行った。また、八ヶ岳の麓にある桜井さんのご自宅で合宿したこともある。

 本書を企画するにあたり、調査研究の実践に基づいて方法論を論じること、執筆陣は若手に絞ること、この二点は最初から明確にイメージしていた。とくに前者に関しては桜井さんも強いこだわりがあるようで、研究会でも次のように繰り返していた。方法論といってもいたずらに理論的検討に走ることなく、また単なる調査手順の解説に陥ることなく、常にフィールドに立ち返り、自分が何をやってきたのか論じることが重要である、と。執筆作業に行き詰ったときは、桜井さんのこの言葉を思い出すようにしていた。

 執筆者を若手に限定したのは、自分なりの方法論をまだ確立していない、あるいは今まさに確立しつつある者同士で切磋琢磨する機会を作りたかったからである。序章で触れたとおり、これまでライフストーリー研究への疑問や批判に対する応答は不十分なまま留まっていたが、こと若手に関しては方法論に取り組めるだけの調査研究の蓄積がないことが大きかったと思う。しかしながら、私自身の反省を込めて言えば、桜井さんに頼りきりで自分で応える努力をしてこなかった部分もあるのではないか。そして、それゆえに『インタビューの社会学』以降、ライフストーリー研究をきちんと発展させることができなかったのではないか。そこで、桜井さんに影響を受けながら研究してきた若手同士で集まり、それぞれが実践してきたライフストーリー研究を相互検討する機会を持ちたいと思った。

 比較的早くから準備を始めたにもかかわらず、ここまで出版が遅れてしまったのは、何より取りまとめ役である私の怠慢と能力不足による。しかし、言い訳に過ぎないとのご批判とご叱責を承知のうえで言えば、この数年のうちに私自身を含む複数の執筆メンバーが、博士論文の執筆や書籍化、就職、異動などを経験したことも無関係ではない。桜井さんが定年退職するタイミングと、研究者人生の初期に桜井さんと出会った若手研究者が節目を迎えるタイミングが重なったことには、単なる巡り合わせ以上の意味があると思う。

 本書を作り上げるために「対話的構築主義研究会」を立ち上げたと述べたが、この名称に込めたのは「対話的構築主義をそのまま受け継ぐための研究会」ではなく、「対話的構築主義を批判的に捉え直すための研究会」というニュアンスである。個人的には、桜井さんの研究を「学び捨てる」ぐらいのつもりで取り組んできた。だからと言って桜井さんには回顧録のようなものでお茶を濁してほしくなかったし、生意気ながら現時点における最前線を書いてほしいとお願いもした。
 なお、本書の見本として『ライフヒストリーの社会学』(中野卓・桜井厚編、弘文堂、一九九五年)を念頭に置いていたことを付け加えておきたい。故中野卓さんの定年退職を記念して、桜井さんが中心になって企画した論文集である。生活史研究会のメンバーが共同で作りあげ、現在ではライフヒストリー研究における必読文献にもなっている。本書もまた桜井さんの退職を記念しつつ、ライフストーリー研究のみならず社会調査方法論に一石を投じ、やがてはスタンダードに加えられるような水準を目指した。

 最後になったが、新曜社の髙橋直樹さんには大変お世話になった。退職記念論集としてありがちな寄せ集めではなく、質的調査の次の一手を指し示すような論文集を作りたいという趣旨に賛同し、編集を引き受けてくださったことに心から感謝したい。また、髙橋さんをご紹介くださった小宮友根さんにも、この場を借りてお礼申し上げたい。本書がライフストーリー研究を専門としない人たちにも幅広く読んでもらえるような仕上がりになっているとしたら、それは髙橋さんが本書に関する相談とも愚痴ともつかないような長話に幾度となく付き合ってくださり、また各章に対して的確で丁寧なコメントを出してくださったおかげである。

 ライフストーリー研究に何ができるか。本書が投げかけたこの問いをめぐって、複数の場で対話が生まれることを切に願う。

   石川良子