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マリア・レゲァスティ 著/大藪 泰 訳

乳児の対人感覚の発達
――心の理論を導くもの


A5判並.312製頁

定価:本体3400円+税

発売日 14.5.22

ISBN 978-4-7885-1390-7

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◆赤ちゃんはいつ「人の心」に気づくのか?

「心の存在」を知らずに生まれたはずの赤ちゃんは、やがて他者には心が宿ること、そしてその心の世界は自らの心の世界と同じようでもあり、異なるようでもあることに気がつきます。いつから? そして、どのように? レゲァスティは、乳児の対人理解が他者との情動共有を通してしだいに深まっていくとする立場から、乳児の心への気づきのプロセスを、ユニークな実験的手法で解き明かそうとします。多くの心理学者・哲学者が挑んできた「心の起源」「心の理論」をめぐる数々の疑問に客観的データから迫る、乳児研究者必読の書!

乳児の対人感覚の発達 目次

乳児の対人感覚の発達 はじめに

ためし読み

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乳児の対人感覚の発達 目次

 はじめに

第1章 定義、理論、本書の構成
1節 心の理論の定義
2節 意図の定義
3節 心の理論の前兆としての意図
4節 理論的考察――精神状態への気づきの始まり
5節 乳児は自分を仲間と同一視する生得的能力をもって誕生する
6節 本書の構成

第2章 発達におよぼす内因的影響と外因的影響
1節 内因的要因
2節 外因的要因
3節 内因的要因、外因的要因、その相互作用
4節 乳児研究の方法

第3章 生命体/非生命体の区別
1節 社会的認知と非社会的認知との関係
2節 生命体と非生命体の区別の定義
3節 生命体と非生命体の区別に関する理論的視点
4節 人間と物を区別する乳児の能力――生後6か月間
5節 乳児は人間に意図を知覚し非生命体では知覚しない――10か月児
6節 生命体と非生命体の区別――基盤的な手がかりあるいは領域固有な表象

第4章 自己と意識
1節 哲学的省察
2節 ピアジェと自己
3節 生物―社会的理論と自己の気づき
4節 生態学的理論と自己の気づき
5節 制約的構成主義と自己の気づき
6節 物理的自己の意識
7節 社会―精神的自己の意識
8節 表象的自己の発達
9節 乳児は自分の心や身体に気づく社会的創造物である

第5章 二項的相互作用
1節 二項関係期における精神状態の気づき
2節 精神状態の起源
3節 理論的説明
4節 人間に関する領域固有な知識、制約、学習

第6章 三項的相互作用――5か月児と7か月児の共同的関わり
1節 対象物を含んだ目標の理解
2節 三項的社会スキルの発達
3節 理論の検証
4節 生後5・5から7・5か月の間で、乳児は動作と情動に意味を知覚する

第7章 乳児の対人感覚の発達に対する社会的影響
1節 社会的相互作用論者と情動調律
2節 母子相互作用の歴史的視点
3節 情動調律/情動鏡映と自己の概念
4節 情動調律、効力感と自立性の発達

第8章 情動調律と前言語的コミュニケーション
1節 母親の情動による乳児の社会認知的能力の促進
2節 前言語的コミュニケーションの発達
3節 母親の情動調律が前言語的コミュニケーションに及ぼす効果
4節 共有注意と言語発達との関係
5節 他者と心理的に関わろうとする生得的動機づけの連続性

第9章 社会的相互作用の質が乳児の原初的な欲求推理に影響する
1節 適切な対人的関係の重要性
2節 欲求推理の先行要因
3節 欲求推理に関する研究
4節 総合考察
5節 データの理論的解釈

第10章 社会的認知――情動調律、模倣、随伴性
1節 最終考察
2節 生後1・5か月と3・5か月時点でのCDM、AIMおよびAFSモデルの比較
3節 最終考察の検証
4節 社会的認知と情動共有――データの解釈

 訳者あとがき
 引用文献 (10)
 事項索引 (3)
 人名索引 (1)
装幀 臼井新太郎
カバー写真 スズキアサコ


乳児の対人感覚の発達 はじめに

 数年前、ケンブリッジ大学出版局の主任編集者のサラ・カロ(Sarah Caro)から、乳児の対人理解に関する私の研究についての研究書を書いて欲しいという電話があった。ちょうどその時期は、発表すべきさまざまな研究論文を発表し終え、まだ進行中の論文もいくつかあったときだった。そうした研究をどのように一つの発達の物語としてまとめるかを考えるときだと感じた。サラの親切な申し出を受けることにした。

 私の研究は、(1)乳児には誕生時から共感的な情動によって活性化される生得的な対人感覚があると主張し、(2)乳児は人と物を区別するために随伴性または動作といった身体的パラメーターを使うという考えに疑問を呈し、(3)心理学的な存在になる前の乳児は機械的な存在(訳注:外界からの刺激に対して自動的に決まりきった反応をする存在)だという仮定を否定する、というやや特殊な見解に属している。

 本書は20年間にわたる学問的な進展と家族生活の産物である。多くの人々が、乳児とその発達に関する私の考え方に貢献してくれた。私の最初の(学部時代の)メンターであり、新生児模倣に関する私の卒業論文の手助けをしてくれたジャン・ケプケ(Jean Koepke)は、子どもをもつだけではなく、子どもの精神生活がどのように発達するかを知るなら、もっと実りが大きいと話してくれた。2人目のメンターで友人であり、一緒に代名詞の発達と前言語期の母子相互作用を検討した故ヘルガ・フェイダー(Helga Feider)は、どうすれば非常に幼い乳児であってもその精神生活の理解がコミュニケーションを通して検討できるかを具体的に説明してくれた。

 私は乳児の対人感覚に関する大学院での研究をアンドレ・ポマリュ(Andree Pomerleau)とジェラード・マルクィット(Gerard Malcuit)のスキナー理論研究室で続け、そこで十分な支援を得て、生得主義(生得的な表象)と能動的構成主義(社会的相互作用による表象の再記述)を結びつけながら、発達過程に関する制約的構成主義のスタンスを展開した。私の娘のジョアンナ(Johanna)と赤ちゃんだった息子のトーァ(Tor)は、一部、この確信を生み出すための刺激と事例史になった。それは1985年のことであった。

 以来、多くの同僚の研究によって影響を受けてきた。特に、アラン・フォーゲル(Alan Fogel)、ジェローム・ブルーナー(Jerome Bruner)、エリザベス・スペルキ(Elizabeth Spelke)、アンドリュ・メルツォフ(Andrew Meltzoff)、ティファニ・フィールド(Tiffany Field)、コルウィン・トレヴァーセン(Colwyn Trevarthen)、ダニエル・スターン(Daniel Stern)、エドワード・トロニク(Edward Tronick)、ヘンリ・ウェルマン(Henry Wellman)、そしてジョン・フラヴェル(John Flavell)。彼らは、校閲者、論評者、編集者そして友人として、私の研究を導いてきた。私は彼らの理論を正確に解釈し、またそのアイディアを適切かつ敬意をもって借用したと思っている。

 一番最近影響を受けた同僚は、この本の一部あるいは全部を読み、批判的に校閲してくれた人たちである。それは、その研究が学部時代から私に影響を与えているアラン・フォーゲルであり、そしてコルウィン・トレヴァーセンとクルト・フィッシャー(Kurt Fisher)である。私は彼らの支援と批評に心から感謝しているが、誤りや手抜かりがあればその責任は私にある。


 本書を執筆中には、一部分を「情動、意識、社会的認知の発達」という大学院のゼミナールにおいて学生たちにも読んでもらった。ガブリエラ・マルコーヴァ(Gabriela Markova)、チャン・スー(Chang Su)、ジャン・ヴァーギーズ(Jean Varghese)、タマラ・フィッシャー(Tamara Fisher)、エドウィン・ロメロ(Edwin Romero)、ラルカ・バラック(Raluca Barac)、レイチェル・ホートン(Rachel Horton)、ジェシカ・マリアーノ(Jessica Mariano)、そしてハイジ・マーシュ(Heidi Marsh)の質問やコメントから気づいたことがあった(また編集作業もしてくれた!)。とりわけ、すべての章を読み、私が考えてはいたが語っていなかった内容をより明確にする詳しい記述や例を提供してくれたガブリエラに感謝する。

 第6、7、8、9、10章で紹介した研究は、カナダの社会科学・人文科学研究審議会(Social Sciences and Humanities Research Council)から私の「社会的および認知的コンピテンスに関する母親行動の影響」(410-2001-0971)という研究に提供された助成金のもとで展開された。乳児の動画撮影は、ドイツのライプツィヒにあるマックスプランク進化人類学研究所のジュニア研究者用の乳児実験室で過ごした研究休暇中に行われた。その後、その動画データのすべてを、ヨーク大学の私の研究室で多くの学生、とりわけタマラ・フィッシャーとガブリエラ・マルコーヴァがコード化と分析をした。第9章の研究は例外であり、これはマックスプランク研究所のスタッフによって分析された。

 社会科学・人文科学研究審議会(カナダ)から継続して受けた主要な経済的支援に対して感謝する。社会科学・人文科学研究審議会は、博士課程の学生、博士研究員(ポスドク)、カナダの研究フェロー、またヨーク大学の乳児研究センターのディレクター時代の研究を支えるのに測り知れない貢献をしてくれた。

 本年は2005年である。私の研究は、制約的構成主義のスタンスを支持し深化し続けている。それは、新しくまた独創的な存在と思考する人を作り出す発達経路は生得主義と構成主義に由来するというスタンスである。ジョアンナとトーァはこの立場を支持し続けている。