戻る

山田昌弘・小林盾 編

ライフスタイルとライフコース
――データで読む現代社会


四六判並製232頁

定価:本体2500円+税

発売日 15.6.15

ISBN 978-4-7885-1384-6




◆エビデンスにもとづく問題発見
 ここ20年日本人に起こったことを要約すれば、生活のリスク化と格差拡大といえる。「中流」生活がむずかしくなり、生活レベルが上と下に分断されつつある。では実際にライフスタイルにどのような格差が生じ、ライフコースはどのような変容を来しているのか? 本書は「格差社会」「婚活」の言葉をヒットさせた編者とデータ分析に長けた若手社会学者が、食事、人間関係、美容、音楽、恋愛と結婚、仕事、退職後…など日常生活を彩るさまざまなトピックをデータから解き明かします。一見椅子とりゲームにみえる日本社会にどんな未来が拓けるか?

ライフスタイルとライフコース 目次

ライフスタイルとライフコース はじめに

ためし読み
Loading

ライフスタイルとライフコース 目次
はじめに(山田昌弘・小林 盾)

Ⅰ ライフスタイル編
1 食事 階層格差は海藻格差か
小林 盾

2 人間関係 都市と農村にどのような格差があるのか
辻 竜 平

3 美容 美容整形・美容医療に格差はあるのか
谷本 奈穂

4 音楽 「みんな」が好きな曲はあるのか
秋吉 美都

5 幸福 下流でも幸せになれるのか
見田 朱子

研究トピック
1 温泉 非日常の空間演出とは(金井雅之)
2 テレビ 社会階層・ライフコースは視聴に影響を与えるか
(朝倉真粧美)
3 雑誌 社会階層との見えないつながりとは(今田絵里香)

Ⅱ ライフコース編
6 恋愛と結婚 国際結婚に見る未婚化社会のジレンマとは
開内 文乃

7 家族 家族形成にはどのような格差があるのか
筒井 淳也

8 教育 子どもを私立に通わせる家庭のライフスタイルとは
相澤 真一

9 仕事 なぜ非正規雇用が増えたのか
香川 めい

10 退職後 プレ団塊世代にとってサークル活動のジレンマとは
渡邉 大輔

研究トピック
4 婚活 なぜ結婚難は続くのか(山田昌弘)
5 トラブル 紛争に格差は生じているか(常松 淳)
6 法律知識 法への道は平等に開かれているか(飯田 高)
7 塾 豊かな社会における格差問題とは(森いづみ)
8 孤立感 なぜ不安を抱くのか(カローラ・ホメリヒ)

付録 調査票と単純集計
   (二〇〇九年社会階層とライフスタイルについての西東京市民調査)

人名索引・事項索引
装幀 鈴木敬子(pagnigh-magnigh)


ライフスタイルとライフコース はじめに

山田 昌弘
小林 盾

 生活のリスク化と格差社会化

ここ二〇年、日本人の生活に起こった変化を要約すれば、リスク化と格差拡大ということができる。リスク化とは、今まで当たり前であった中流生活が、実現できなくなる確率が高まったことをいう。格差拡大とは、生活のリスク化の結果、今まで「普通」と思われてきた生活ができる人と、できない人への分断が始まったことを意味する。

トルストイの小説『アンナ・カレーニナ』の中に、「幸せな家族はみな同じようなものだが、不幸な家族はそれぞれである」という名言がある。現実に幸福を感じるとは限らないが、人々が理想とするライフスタイル、ライフコースは、戦後から現在まで大きく変わっていない。それは、「夫はおもに仕事、妻はおもに家事、子どもを二、三人育て、豊かな家族生活を築く」というものである。

それは、大学卒業と同時に正社員として就職、30歳頃までに、職場などで異性と自然に出会って恋愛結婚し、夫は仕事中心、妻は主婦となる。夕食には妻が作った手料理を毎日食べる。若い頃はアパート住まいでも、子どもが学校に上がれば、子どもの個室があるマンションあるいは一戸建てを購入する。夫はときどき会社の友達と飲むこともある。妻は子どもが幼い間は子育てに専念する。ママ友とよくおしゃべりをする。子どもが大きくなると、パート勤務に出たり、趣味やボランティアなど、興味をもった活動を通して生活の幅を広げる。自由時間は家族一緒にテレビを見て過ごし、休日には外食や遊園地に出かけるなど家族レジャーを楽しむ。年に数回、家族旅行をする。子どもは親の期待に応えるべく、時に遊びながらも勉強中心の生活を送り、大学や専門学校に入学すれば自立も近い。夫の退職後は夫婦で年金生活に入り、二人で趣味や旅行など余生を楽しむ。夫は妻に看取られ、妻はその数年後に、再同居した子ども夫婦に看取られて、人生を全うする。

これが、戦後から現在に至る、日本人が思い描く典型的な「幸福な生活」であろう。そして、戦後から高度成長期に成人した人々(おおむね一九三〇?五〇年生まれ)の多くは、実際にこのようなライフスタイルとライフコースが可能であった。なぜなら、男性の大多数は学校を卒業後、正社員として就職し、終身雇用制のもとで失業の心配もなく、家族を扶養し、マイホームを買う程度の収入を得ることができたからである。女性も未婚率や離婚率は低く、収入の安定した男性と結婚することは容易であった。この世代は、妻が専業主婦の比率が高く、住まいは持ち家が一般的で、現在のところ十分な年金を受け取っている高齢者が多い(二〇一五年時点でおおむね65?85歳)。

戦後から一九八〇年頃までは「一億総中流化」と言われたように、こうしたライフコースをたどることが「標準的」とされた。国民生活は政策やマスメディアなどさまざまな方法で、そのようなライフスタイルへ誘導されていったのである。就職は新卒時が最も有利であり、職場では女性差別があり、年金・税などの制度は「標準的ライフコース」が最も優遇されるように構成されてきた。また、戦後普及したテレビでは、幸せなマイホームのイメージが繰り返し放送された。その結果として、標準的ライフコースから外れることは、幸福ではないと見なされる弊害が生じた。定職に就けない男性、未婚、離婚、共働きの人々などは、「変わり者」か「かわいそう」と思われてもしかたがなかった。

 標準的ライフコースが難しくなった時代

一九九〇年代から、日本社会を変化の波が襲った。グローバル化、ニューエコノミーと呼ばれる経済変動が、人々の生活に変化を及ぼした。これは、社会学者のウルリッヒ・ベックやアンソニー・ギデンズによれば「近代社会の構造転換」の一環と捉えることができる。その結果、今までは当たり前であった、人生の出来事(ライフイベント)を実現しにくくなった。これを、ウルリッヒ・ベックの言葉を借りて言えば「生活のリスク化」と呼ぶことができるだろう。

「就職氷河期」という言葉に象徴されたように、大卒でさえ正社員として定職に就けない人々が増えてきた。リストラという言葉が流行したように、正社員でも職を失うリスクが高まった。学校卒業さえすれば安心、就職して正社員になれば安心、という時代ではない。未婚率が高まり、結婚していない人は30代前半の男性では約2人に1人、女性では3人に1人となった。そして、離婚率が高まり、ほぼ3組に1組が離婚する。「結婚し離婚しない」という「標準的ライフコース」の若者は、2人に1人もいない。つまり、生活にはリスクが伴うということである。 そして、「近代社会の構造転換」によって生じた「生活のリスク化」は、格差を拡大するという視点が重要である。もちろん若者の中にも、正社員として就職し、安定した収入を得て結婚し、妻の手料理を毎日食べ、家族レジャーを楽しむなど、従来の標準的ライフコースをたどる人もまだまだ多い。一方、標準的ライフコースからこぼれて、低収入で不安定な仕事に就くフリーター、配偶者と離別したひとり親家庭も増えている。また、あえて標準的ライフコースから外れて、新しい形の幸福を探る人々も出現している。

いずれにせよ現代社会においては、とりわけ若者が「標準的ライフコース」をたどることができない現実に直面していることは間違いない。では、その現実とはどのようなものなのだろうか。

 本書の構成【ライフスタイル編とライフコース編】

そこで本書では「現代の日本社会において、ライフスタイルとライフコースが多様化したゆえに、格差も拡大したのではないか」という視点から、社会学調査による分析と考察をおこなった。ライフスタイルとして、前半5つの章で「食事」「人間関係」「美容」「音楽」「幸福」をとりあげた。ライフコースとして、後半5つの章で「恋愛と結婚」「家族」「教育」「仕事」「退職後」に着目し、多くの人が経験する(と期待されている)ライフイベントを検討した。研究トピックでは、関連研究のフロンティアを紹介している。

ただし、社会的格差を分析すると、ともすれば「個人の努力では超えることのできない格差が存在する」ことの再確認になりかねない。そこで本書では、格差の存在を実証したうえで、それでも「どのような未来形があるのか」「どうすれば格差を相対化できるのか」を提示するよう心がけた。「こんな選択肢があったんだ!」と人生の幅をひろげるヒントになることを願っている。

 本書の特色【エビデンスから解く】

すべての章と研究トピックで、なんらかの経験的なデータをエビデンス(証拠)として使用しているのが、本書の大きな特色といえる。官庁統計、自分たちで実施したアンケート調査、インタビュー調査、歴史史料など、できるだけ多様なエビデンスを用意した。

さらに、各章は共通したステップで議論をすすめている。「1 問題」「2 データと方法(インタビュー調査では対象と方法)」「3 分析結果」「4 まとめ」とした。章のサブタイトルは「食事:階層格差は海藻格差か」のように各章で解くべき問いとなっている。謎解きのように読み進めていただくのがよいだろう。大学生の読者には、卒業論文のアイディアの源となるかもしれない。全体に読みやすさを優先させ、重回帰分析など複雑な分析結果や詳細な研究文献はあえて掲載していないが、学術的水準を保ち、理論と実証データのバランスをとれるように配慮した。

本書は成蹊大学アジア太平洋研究センター叢書の一冊である。センターから助成をうけ、共同プロジェクト「アジア太平洋地域における社会的不平等の調査研究」(二〇〇八~一〇年度、研究代表 小林盾)としてスタートした。プロジェクトの一環として、「二〇〇九年社会階層とライフスタイルについての西東京市民調査」を実施し、本書でもデータとして使用している。参考のために調査票と集計結果を巻末に掲載した。 なお、本書の続編として【恋愛と結婚】が企画されている。合せて読み進めてほしいと願う。