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外山紀子・野村明洋 著

食をつなげる、食でつながる
――八国山保育園の食


四六判並製216頁+カラー口絵8頁

定価:本体2300円+税

発売日 14.3.20

ISBN 978-4-7885-1380-8

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◆グルメでも、栄養だけでもない、食べることの喜び!◆

食育基本法が施行されて以来、食育の取り組みがさかんです。芋掘りや田植えといった体験をはじめ、親子料理教室などのイベントも行われています。料理をしたことのない子が増えている現在、これらの活動は貴重な体験の場です。しかし、特別なイベントとして行われる食育は、食の本質的な部分を見失う危険性をもっています。食は、食物の生産、流通、調理、そして一緒に食べる人、食べる状況など、さまざまなつながりのなかで営まれるからです。本書は、身体・自然・他者と食との「つながり」をキーワードに、八国山保育園での取り組みを、実践と発達心理学の二つの視点で見てゆきます。子どもたちの歓声や感動を行間から受け取りながら、「食べること」について深く考える本です。

食をつなげる、食でつながる 目次

食をつなげる、食でつながる まえがき

ためし読み

外山紀子 著
『発達としての〈共食〉──社会的な食のはじまり』

◆書評
2014年5月、学校給食5月号

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食をつなげる、食でつながる 目次

目  次
まえがき
1章 食をつなげる
■つながりのなかにある食
身体のつながり
自然とのつながり
他者とのつながり
八国山保育園
実践を支えるもの

■八国山保育園の食
知識より経験
気候風土と食
季節と旬
家庭の食の変貌
ヌチグスイ
自分で工夫して考える力

2章 味とにおい
味覚と栄養
味覚は番人
味覚嫌悪学習・味覚嗜好学習
嗅覚――遠受容感覚
嗅覚と味覚
プルースト現象

■実践から
においの大切さ
「くさい」からの発見と学び
梅のにおい
たくあんのにおい
糠のにおい
保育室の炊飯器
米づくり

■実践をふまえて
においのある保育園
においを感じる引き出し
においがつくる「待ち」の時間

3章 食と身体
味覚と身体
朝食の欠食
夜更かし・寝不足
生活習慣の連鎖

■実践から
豊かな心と丈夫な身体
風の庭
【風の庭
「食べたい」から始まる身体の動き
「野性力」
心が動き、身体が動く
園庭の里山化

■実践をふまえて
食べ物を見つける視点
心が身体を動かす
【園庭の歴史】

4章 育てる
未熟な生命認識
生気論的因果
生気論的因果の源泉にある食
動物飼育と生命認識

■実践から
ミニ田んぼ
大人の働く姿
育てることから学ぶこと
大人のかかわり方
思うようにいかないこと
学び合い

■実践をふまえて
植物を“いのちあるもの”と見る
未知の状況にも使える知識

5章 還す
動植物の死に関する理解
腐敗に関する理解
土に関する理解
現代における食物連鎖

■実践から
保育園で動物を飼うこと
エサづくり
エサとり、エサやり
飼うこと・食べること
ブタは食べるのですか?
ブタの食を観察する
食と排泄

■実践をふまえて
生き物のつながり
動物との多様なかかわり
いのちの授業

6章 共につくる
社会認識
食の分業
食べ物の生産・流通に関する幼児の理解
作物栽培と子どもの理解

■実践から
中島さん
【中島さんの畑】
トウモロコシ迷路
給  食
農  薬
地域への広がり
身土不二
三平汁

■実践をふまえて
「なかじまさんみたいな人」
名前のある食べ物

7章 共に食べる
甘いだけでは物足りない
食の社会性
食べ物の分配
孤食・共食

■実践から
買い物
ご飯の準備
「共に食べる」から「共に食べたい」へ
保育参加
「梅干しある?」
そば打ち

■実践をふまえて
食の個人化
共  食
食でつながる

終章 子どもの食と未来
■保育園の食のこれから
森の幼稚園
大人の姿勢
子どもから家庭へ
保育者として
感覚を研ぎ澄ます

■子どもの食とその未来
食をつなげる
生活から食を見る
背景にある社会
「教える」ではなく「育つ」

参照した本

装幀=虎尾 隆


食をつなげる、食でつながる まえがき

平成17年に食育基本法が制定されて以来、食ブームとなっています。多くの自治体で食の勉強会や講演会が企画され、学校、幼稚園、保育園、企業などでは、こぞって栽培体験活動や料理体験活動といったイベントが開催されています。「食育」関連の資格も数多くつくられました。

食育基本法の制定と同じ平成17年、栄養教諭制度も開始されました。食育を推進するためには指導体制の整備が不可欠だからということのようです。さらにその翌年(平成18年)には、「早寝早起き朝ごはん」という「国民運動」も始まりました。子どもの生活リズムの乱れを防止することが、その目的に掲げられています。政府は食育基本法の理念を実行に移すための「推進計画」を定めていますが、第二次食育推進計画には「家族が食卓を囲んで共に食事をとりながらコミュニケーションを図る共食は、食育の原点」だから、「家族との共食」を可能な限り推進しようと書かれています。このように、政府主導で次から次へと「食を健全にする」ための取り組みが進められているわけです。

これらの文書に書かれていること、謳われていることは、どれも至極まっとうなことに映ります。栄養に関する正しい知識を得ること、生活リズムを整えること、家族みんなで食卓を囲むこと、その重要性に異議を唱える人はいないでしょう。しかし、だからこそ奇異に感じられるということはないでしょうか。これらのことを、わざわざ法律をつくってまで宣言しなければならない状況は、社会のいびつさをあらわしています。

食とはどのような営みなのでしょう。そのエッセンスはどこにあるのでしょう。本書が伝えたいことは、食の本質はさまざまなつながりの中にこそあるということです。

現代では、食は決まった時間に行うことになっています。しかし、食はその時間に完結するわけではありません。食を準備する時間、待つ時間、片付ける時間、そして思い出す時間と、食の時間は広がりをもっています。味覚は口腔内の経験ともいえますが、おいしく感じること、食べ物を味わうことは、身体全体、生活全体によって支えられています。食は個人的行為でもありません。他者がいることによって大きく変わるばかりか、人間の食は発達の最初期から他者を必要とし、他者を求める場としてあります。現代では、食材の調達から始まる食の過程すべてをひとりで行うことは困難ですから、他者がいなくては、そもそも食は成立しません。

食にかかわる者、子どもにかかわる者は、食をさまざまなつながりと広がりのある場としてとらえる視点を忘れてはなりません。

本書の著者のひとりである外山は、発達心理学者として食行動の発達を研究しています。何を食べるかということよりも、子どもがどうやって食べるのかに関心をもち、家庭や保育園の食事場面の観察を続けてきました。もうひとりの著者である野村は、東村山市にある八国山保育園園長として、子どもの育ちにかかわってきました。八国山保育園では、保育の中心に「食農」を据え、さまざまな野菜や穀物を栽培・収穫、調理・加工、食する経験を大切にしています。ふたりの共同作業は、外山が八国山保育園での調査観察を許可していただいたところから始まりました。

八国山保育園の実践は、近年の食ブームもあって、雑誌やテレビ番組などで取り上げられることが少なくありません。これらのメディアでは、「どういう栽培活動を行っているのか」「どうやってやるのか」といった実践のノウハウが強調されがちです。しかし、この本で伝えたいことは、「何をやっているか」「どうやっているか」ではありません。どういう意図をもって、どういう考えを土台にして「食農」を実践しているのか、いわば、その哲学です。大人も子どもと対等な立場で食に真剣に取り組む、そして楽しむ。この姿勢が食農の実践を支えていることをお伝えできればと願っています。

保育・教育関係者だけでなく、子どもをもつお父さん・お母さん、子どもと食にかかわるすべての方が本書を手にとってくだされば、これ以上の喜びはありません。

本書の完成までには、多くの方に助けていただきました。相川公代さん(早稲田大学修士課程)は、草稿の段階で丁寧に原稿に目を通し、有益なコメントを寄せてくださいました。及川郁美さん(八国山保育園)は、園庭図のイラスト(口絵)を本書に掲載することを許可してくださいました。保育園の園庭の豊かさとあたたかさが一目でわかる素敵なイラストになっています。本書に何度も登場する中島幸夫さんは、食農の実践を日々支えてくださっています。アイデア豊富で研究熱心、子どもに対するまなざしのあたたかさ、中島さんからは、実に多くのことを学ばせていただいています。主任保育士である金澤啓子さん、現在は東久留米市立上の原さくら保育園園長である持田亘代さんはじめ、園の保育士のみなさん、事務室・給食室職員のみなさん、そして園の子どもたち、保護者のみなさん、この場を借りて、改めて感謝申し上げます。みなさんのご尽力とご協力なくしては、園の実践は成り立ってこなかったでしょう。野村はこの本の完成と共に、同法人他園へ異動となります。新たな場で、新たな人々と共に、額に汗することで、この実践が特別なことではない証としての実りを得られると思っています。

最後に、新曜社の塩浦さんには、本書の企画から完成に至る全ての過程で大変にお世話になりました。私たちの意図がわかりやすく伝わる本になっていたとしたら、それは塩浦さんのお力によるものです。ありがとうございました。

2014年2月 節分の日に
外山紀子
野村明洋