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日本質的心理学会 編

質的心理学研究 第13号
──特集「個性」の質的研究


B5判並製280頁

定価:本体3200円+税

発売日 14.3.20

ISBN 978-4-7885-1379-2

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◆ダイナミックな個性をどうとらえるか◆

心理学における「個性の研究」は、何らかの共通の基準で人と人を比べ、分類し序列化することをその中心としてきました。しかし「個性」は、その人自身の固定した特徴というよりも、その人をとりまく文脈、社会や文化との相互作用の中で生成され、変化していく、まさに質的でダイナミックなものではないでしょうか。今号の特集は、「個性」が質的研究の中でどのようにとらえられ、分析されているかを存分に味わっていただける力作論文ぞろいです。特集論文4本のほかに、一般論文9本を収録。書評特集のテーマは「事例研究再考」。


質的心理学研究 第13号 目次

質的心理学研究 第13号 巻頭言

質的心理学研究シリーズ バックナンバー

ためし読み
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質的心理学研究 第13号 目次
巻頭言  伊藤哲司 動きながら,関わりながら

特集:「個性」の質的研究――個をとらえる,個をくらべる,個とかかわる
(責任編集委員:渡邊芳之・森 直久)

■安藤りか
頻回転職の意味の再検討
― 13回の転職を経たある男性の語りの分析を通して
■藤岡 勲
2つの民族的背景を持つ人々の両背景を統合したアイデンティティ

■豊田 香
専門職大学院ビジネススクール院生視点の授業満足基準が示唆する「開放型学習モデル」生成の試み
― 成人学習理論からの検討
■綾城初穂
「聖域」としての個人
― 日本人キリスト教徒は日本社会の「宗教」ディスコースにどうポジショニングするのか


一般論文

■田中元基
認知症高齢者はどのように同じ話を繰り返すのか
― ループする物語の事例研究
■五十嵐茂
生の経験をどう語るか
― 森有正再考
■北村篤司・能智正博
子どもの「非行」と向き合う親たちの語りの拡がり
― セルフヘルプ・グループにおけるオルタナティヴ・ストーリーの生成に注目して
■一柳智紀
教師のリヴォイシングにおける即興的思考
― 話し合いに対する信念に着目した授業談話とインタビューにおける語りの検討
■柴山真琴・ビアルケ(當山)千咲・池上摩希子・高橋 登
小学校中学年の国際児は現地校・補習校の宿題をどのように遂行しているのか
― 独日国際家族における二言語での読み書き力の協働的形成
■笠田 舞
知的障がい者のきょうだいが体験するライフコース選択のプロセス
― 青年期のきょうだいが辿る多様な径路と,選択における迷いに着目して
■東條弘子
中学校英語科授業における生徒の「つぶやき」の特徴

■竹内一真・やまだようこ
伝統芸能の教授関係から捉える実践を通じた専門的技能の伝承
― 京舞篠塚流における稽古での「こだわり」に焦点を当てて
■水岡隆子・藤波 努
介護家族の意思決定プロセス
― 意思確認困難な高齢者への胃瘻造設


BOOK REVIEW

■《書評特集》事例研究再考
特集にあたって(斎藤清二)

親の経験の底力に触れる(評:西村ユミ)
鷹田佳典(著)『小児がんを生きる―親が子どもの病いを生きる経験の軌跡』


個別の事例から共通の法則を導くために(評:京極 真)
A. ジョージ・A. ベネット(著),泉川泰博(訳)
『社会科学のケース・スタディ―理論形成のための定性的手法』

マンガと事例研究(評:家島明彦)
佐藤秀峰(著)『ブラックジャックによろしく』(1〜13巻)
佐藤秀峰(原作)・神前格(解説)・講談社ホスピタル・クライシス研究チーム(構成)
『ブラックジャックによろしく 公式ガイドブック―ホスピタル・クライシス 衝撃の事実』

「事例研究再考」のための世界観と研究デザイン(評:成田慶一)
J. W. クレスウェル・V. L. プラノクラーク(著),大谷順子(訳)
『人間科学のための混合研究法―質的・量的アプローチをつなぐ研究デザイン』

観察・経験の限界を超えて(評:荘島幸子)
米盛裕二(著)『アブダクション―仮説と発見の論理』

社会的実践としての臨床事例研究(評:吉永崇史)
斎藤清二(著)『事例研究というパラダイム―臨床心理学と医学をむすぶ』

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表紙デザイン 臼井新太郎


質的心理学研究 第13号 巻頭言


動きながら、関わりながら
『質的心理学研究』第13号を無事みなさまのお手元に届けられることになった。昨年(2013年)4月に編集委員長の大役を能智正博先生(現理事長)から引き継いで,どうにか1年,動きながら,関わりながら走ってきたというのが実感である。これまでも編集委員,あるいは副編集委員長としての役割を担わせていただいたことはあったものの,編集委員長となって初めて出るこの号は,やはり格別である。それは,編集委員会のなかで投稿論文やその査読をめぐってさまざまな議論がなされ,そのなかでは,一筋縄ではいかない,ときにちょっと難しい問題が起こることもあり,それなりに大変な思いもしてきたということの裏返しでもある。

ところで,質的研究に取り組んでいる私たちが,その対象にしているのは「人間」である。そしてその「人間」は,けっして虫ピンで留めて見られるような存在ではない。みな,それぞれの思いを抱えながら,歴史的・社会的・文化的な渦の中で動きながら,そして誰かと関わりながら生きている人たちである。そして研究をする私たち自身も,そのような「人間」の一人である。言うまでもなく,けっして神様のような特権的な位置から客観的に物事を俯瞰しているわけではない。私たち自身もまた,動きながら,関わりながら,なんとか「人間」を捉えていくしかない。

その努力の甲斐あって論文という形になり,本誌に投稿されたりするわけだが,自身もまた質的研究に取り組む一人である編集委員たちが,投稿された論文をめぐって,ときに食い違う評価を何とか乗り越えようと,編集委員会のなかで議論を繰りかえす。返したコメントを受けて再投稿されてきた論文に,編集委員たちもまた,動きながら,関わりながら,何かに悩み考え続けている。

そのようなプロセスが複雑に絡みあい,最終的に掲載に至った本誌の論文が,面白くないわけはない。そこには投稿者だけでなく,審査を行った編集委員たちの思いも,どこか行間に込められている。今回もそのような論文を13本もお届けできることになった。そこまでのプロセスに見られる,動きながら,関わりながらの有り様を描いてみたならば,大変興味深いエスノグラフィができるかもしれない。 編集委員長としてはまだ1年生。まだこれから大変な状況が待っているのかもしれないが,自分自身もその渦中に身を置きながら,動きながら,関わりながら,じわりと前進する一人でありたいと思う。

                      編集委員長  伊藤哲司