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遠藤野ゆり・大塚類 著

あたりまえを疑え!
――臨床教育学入門


四六判並製200頁

定価:本体1800円+税

発売日 14.4.15

ISBN 978-4-7885-1376-1

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◆常識に挑戦し、自分の視野を広げるために!◆

教育の問題を考えるとき、「どのような問題を見るか」と同時に、その問題を「どのように見るか」が重要です。本書は、家族問題、児童虐待、発達障害、時空間感覚、いじめ、自閉症、カウンセリング、不登校、非行、キャリア教育という10の問題を取り上げ、それらを「どのように見るか」にスポットを当てます。まず、私たちが理解している現実を疑います。次には、他者を理解することについて考えます。そして、自分自身を理解する複雑さと不可能性について考えます。すると、今までの問題への見方がずいぶん偏っていて、問題の一部分しか理解していなかったことが見えてきます。家庭や社会、そして学校における教育の課題を見る目を培う、実践的で挑戦的な教育学への招待です。

あたりまえを疑え! 目次

あたりまえを疑え! まえがき

ためし読み

◆書評
2014年7月19日、図書新聞、金森修氏評

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あたりまえを疑え! 目次

序  文(筒井美紀)
まえがき

序 章 みんなと普通に生きられること
    ─〈枠組み〉としてのあたりまえ
序-1 普通とかみんなとかって何だろう
序-2 責任を免除してくれる世間
序-3 2つの物語

第T部 現実はどう理解されるの?
第1章 家族の形─データから確かめる
1-1 家族をめぐるさまざまな問題の基礎知識
1-1-1 子どもの貧困と学力
1-1-2 離婚件数と離婚率
1-1-3 ひとり親世帯
1-1-4 親になれない親─モンスターペアレント
1-2 曖昧な〈標準〉と統計資料
1-2-1 みんなきっとそう思うはず
1-2-2 標準世帯
1-2-3 少子化とひとりっ子
1-3 多様化する家族と問題の捉えなおし
1-3-1 〈標準〉は何のため?
1-3-2 本当に「モンスター」?

第2章 児童虐待─立場の違いを捉える
2-1 児童虐待についての基礎知識
2-1-1 児童虐待の定義
2-1-2 通告の義務
2-1-3 児童虐待の相談対応件数から読みとれること
2-2 視点によって見えてくる世界の違い
2-2-1 創りだされた世界
2-2-2 児童虐待は本当に増えたのか
2-3 虐待する親はモンスターなのか?
2-3-1 愛していても虐待をしてしまう
2-3-2 虐待の〈世代連鎖〉

第3章 発達障害─多様に知覚し認知する
3-1 発達障害の基礎知識
3-1-1 発達障害の定義
3-2 発達障害における認知の優位性
3-2-1 聴覚優位と視覚優位
3-2-2 その他の優位性─線と色
3-3 知覚に由来する生きづらさ
3-3-1 視覚
3-3-2 聴覚
3-3-3 味覚
3-3-4 触覚
3-3-5 嗅覚
3-3-6 〈正常〉と〈異常〉の境目

第4章 生きられる時空間─世界を信頼して生きる
4-1 時間感覚・空間感覚の基礎知識
4-1-1 方向感覚と空間感覚
4-1-2 時間感覚
4-1-3 時空間の身体感覚からくる生きづらさ
4-2 生きられる時空間
4-2-1 生きられる空間─根をおろして住まう
4-2-2 生きられる時間─意味づけて分節化する
4-3 生きられる時空間と私たちの生
4-3-1 生きられる空間にまつわる不安
4-3-2 生きられる時間にまつわる不安
4-3-3 時空間の安らぐ場所としての〈居場所〉

第U部 他者はどう理解できるの?
第5章 いじめ─雰囲気を共に生きる
5-1 いじめの基礎知識
5-1-1 いじめ防止対策推進法の概要
5-1-2 これまでのいじめ論
5-1-3 新しいいじめ論 ・ スクールカースト
5-1-4 新しいいじめ論 ・ 優しい関係
5-1-5 新しいいじめ論 ・ 群生秩序
5-2 感情と雰囲気に関する現象学の知見
5-2-1 雰囲気としての感情
5-2-2 雰囲気に基づく他者理解
5-3 いじめ再考
5-3-1 被害者原因論
5-3-2 気づかないうちに強要されているいじめ
5-3-3 後づけされる理由
5-3-4 加害者が味わう〈理不尽さ〉

第6章 自閉症スペクトラム障害─相手の気もちを理解する
6-1 自閉症の基礎知識
6-1-1 自閉症をめぐる定義
6-1-2 自閉症スペクトラム障害の特徴
6-2 感情移入論
6-2-1 フッサールによる一方向的な感情移入
6-2-2 浸透的で双方向的な感情移入
6-3 相手の気もちが理解できないつらさ
6-3-1 気もちがわからないからこその衝撃
6-3-2 感じとってもどうにもできない〈ズレ〉

第7章 カウンセリング─内なる声を聴く
7-1 学校におけるケア職についての基礎知識
7-2 カウンセリング
7-2-1 カウンセリングの定義
7-2-2 傾聴
7-3 傾聴のむずかしさと可能性
7-3-1 傾聴は誰にでもできる?
7-3-2 カウンセラーの苦悩

第V部 自己をどう理解するの?
第8章 不登校─語ることで自己をつくる
8-1 不登校の基礎知識
8-1-1 不登校の定義と該当者数の推移
8-1-2 不登校に関する法律的な問題
8-1-3 不登校をどう捉えるか
8-1-4 不登校者の進路とひきこもり
8-2 ナラティヴ・アプローチ
8-2-1 セオリーとナラティヴ
8-2-2 特定の立場からの物語とドミナント・ストーリー
8-2-3 語ることが自己をつくる
8-3 不登校のナラティヴ
8-3-1 不登校者自身の語り
8-3-2 非不登校者は何を語るのか

第9章 非行─自分をふり返り反省する
9-1 非行についての基礎知識
9-1-1 非行の定義
9-1-2 非行件数の推移
9-1-3 非行への対応
9-2 反省とはどのようなことか
9-2-1 思い出すことを可能にするもの
   ─自己についての半透明の意識
9-2-2 反省の無限ループ
9-3 希望につなげる反省は可能か
9-3-1 反省指導において起きること
9-3-2 反省の絶望を超えて

第10章 キャリア教育─存在を肯われて生き方を選ぶ
10-1 キャリア教育の基礎知識
10-1-1 キャリア教育の定義
10-1-2 産業構造の変化
10-1-3 意識や資質をめぐる問題
10-1-4 キャリア教育の問題
10-2 自尊感情
10-2-1 自尊感情の意味とジェームズの定義
10-2-2 ローゼンバーグの自尊感情尺度
10-2-3 基本的自尊感情と社会的自尊感情
10-2-4 基本的自尊感情─存在の肯い
10-2-5 基本的自尊感情と社会的自尊感情のバランス
10-3 自尊感情と自己選択
10-3-1 なりたいもの探しの落とし穴
10-3-2 理不尽な社会における自己選択とキャリア教育

終 章 みんなと普通に生きつづけること
    ─〈基盤〉としてのあたりまえ
終-1 〈基盤〉としてのあたりまえ
終-2 あたりまえだと思えなくなるとき
終-3 あたりまえを疑うことができるのは

あとがき
引用・参考文献
索引


装幀=荒川伸生


あたりまえを疑え! まえがき

 教育にまなざしを向けるとき、そこにはつねに2つの問いがあります。1つは〈どのような問題を見るか〉であり、もう1つは、〈どのように問題を見るか〉です。前者は知識の問題で、後者は観点の問題です。知識がなければ、何かを語ったり考えたりすることはできません。けれど、センスの良い観点がなければ、せっかくの知識も、ほとんど意味がありません。それどころか、へんに知識だけを覚えると、「最近の子育てはなっとらん」とか、「イマドキの若者はコミュニケーション能力がない」とかいった、押しつけがましく説教じみた教育論になりかねないのです。

 本書はそのため、教育問題を〈どのように見るか〉にスポットを当てています。第・部の視点は、私たちが理解している現実の疑わしさです。第・部の視点は、他者を理解するメカニズムとそのむずかしさです。第・部の視点は、自分自身を理解する複雑さと不可能性です。本書が選びだしたこれら3つの視点は、ひととひととが関わり合い豊かになっていくことを目指す教育において、最も基本となるものであり、不可欠のものであり、にもかかわらず、実は自分のものにすることがとてもむずかしいものだと、私たちは考えています。

 これら3つの視点に即しながら、本書では、家族問題、児童虐待、発達障害、時空間感覚、いじめ、自閉症、カウンセリング、不登校、非行、キャリア教育という10のテーマをとりあげています。これらは、家庭や社会、そして学校といった場における、教育の今日的課題のうちのいくつかです。

 本書の各章は、次のように構成されています。第1節は、教育問題の基礎知識です。それらの問題を考えるうえで、最低限知っておくべきことがらがコンパクトに詰まっています。第2節は、その問題を捉える際に必要な観点を提示しています。第3節は、第2節の観点にたって第1節(基礎知識)を捉えなおすものです。そうすると、あたりまえだと思っていた私たちの教育論は、まったく新しい問題として、現われてくることと思います。

 本という形にするために、上で述べた10のテーマは、私たちが用意した3つの視点のうちのいずれかに入れざるをえません。たとえば、「家族問題」は、第・部「現実はどう理解されるの?」に入っています。けれど、家族の問題は、同時に他者理解の問題でもあり、自己理解の問題でもあります。ですから、家族問題は、3つすべての観点から考えていく必要があります。

 また、とりあげた10のテーマだけで、今日の重要な教育問題を網羅できるわけではありません。紙幅の都合で本書では載せられなかった多くのテーマも、これら3つの観点それぞれから、何度も読み解いていけるはずだ、いく必要がある、と私たちは考えています。読者のみなさまの本書を越えた学びが豊かに展開されますことを、心より願っております。