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子安増生・仲真紀子 編著

こころが育つ環境をつくる
――発達心理学からの提言


四六判上製288頁

定価:本体2300円+税

発売日 14.3.10

ISBN 978-4-7885-1375-4




◆ひとは事故・障害からいかに立ち直れるか?◆

ヴァレラ、マトゥラーナに始まる「オートポイエーシス」の思想を日本で主唱してきた著者による新たな展開をめざした本です。システム(人間の身体など)は、しばしば破損し、停滞し、変調をきたします。しかし、自然の脅威、事故、災害などに遭っても、遅々とした歩みではあれ、いつかは再生しえます。行為のさなかにそのつど新たな行為を生みだしていくオートポイエーシス、自己組織化の思想は、行為・実践の哲学であり、このようなリスクに立ち向かうための最適の思想です。本書は、リハビリ、運動理論、舞踏などの現場と交流しつつ書かれたものですが、著者自身の大病克服の経験を踏まえているため説得力に富み、精神医療、治療論、トレーニング論などの多くの分野の方々にも関心を持たれることでしょう。

こころが育つ環境をつくる 目次

こころが育つ環境をつくる まえがき

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こころが育つ環境をつくる 目次

目 次

まえがき 

1 現代科学技術の負の影響から子ども本来の育ちを守ろう────利島 保 
はじめに

1 養育のあり方が、子どもの脳のストレス脆弱性を左右する

2 子どもの心の脆弱性を防ぐには、良質な保育人材の育成が必要

3 母子の絆形成は、乳児の五感に訴える母親の非言語的情報が基礎になる

4 育児フレックス・タイム制で、子どものコミュニケーション能力を育てる

5 小一プロブレムを防ぐには、家庭で基本的生活習慣の定着を

6 妊婦に関わる現代科学技術の負の影響から胎児の育ちを守ろう

7 母子の絆が育つ妊娠期の心理的支援を重視した母子保健政策を

8 子どもの心の発達に影響を与える放射線被害の解明と対策を

2 子育て力の回復を政策目標に子どもの主体性を大切に関わる──内田伸子 
─ 子どもの学力格差は幼児期から始まるか?
はじめに

1 ことばの習得には経済格差が影響を与えるか

2 子どもの読み書き能力や語彙力は家庭の所得と関連しているか

3 通塾のタイプは関連がない

4 子ども中心の保育のもとで子どもが伸びる

5 しつけスタイルと子どもの語彙力には関連があるか

6 共有型しつけの親は本好き

7 幼児期のリテラシーや語彙力は児童期の学力テストに影響する

8 しつけスタイルの違いは、母子のコミュニケーションにどのように影響するか

9 早期教育 ─ 行き過ぎた私教育熱への警鐘

おわりに

3 「格差・落差・段差」のない学校読書環境の実現を──────秋田喜代美
1 経済格差、学校間格差が大きな国 ─ 日本

2 中学・高校生読書の全国実態調査

3 読書にかかわる学校間差

4 心が育つ環境としての読書環境


4 子どもの“心の回復力”を育てる────────────────仁平義明
1 世界が重視した「心の回復力」(リジリエンシー)

2 “心の強さ”(ハーディネス)重視の時代の終わり

3 心の回復は容易ではない

4 心の回復力を持つ者の特徴

5 もう一つの心の回復物語

6 「心の回復」は人間社会の信念であり希望である

5 集団現象としてのいじめの効果的な予防とケアを────────戸田有一 
1 いじめ問題への社会の基本認識

2 いじめの傍観者を変える実践を

3 いじめへの早期介入と予後のケア

4 ネット問題への総合的対策を

おわりに

6 個性に合わせた発達環境設定を!────────────金沢創・山口真美 
1 発達とは─ 定型と非定型の発達

2 新しい自閉症の捉え方

3 自閉症児・者は見ている世界が違う?

4 弱い中枢性の統合 ─ 神経学的な側面

5 弱い中枢性の統合 ─ 環境の側面

6 自閉症児が得意なこと

7 背側系と腹側系のトレードオフ

7 事件や事故、虐待などが疑われるときの子どもへの面接────仲真紀子 
─ 司法面接と多機関連携
1 子どもから

2 司法面接

3 具体的な面接

4 家庭・教育現場でつちかう子どもの力

8 早期英語教育導入の前に考えなければならないこと──────今井むつみ 
1 外国語習得敏感期神話

2 文法的形態の学習 ─ ネイティヴの子どもと外国語学習者の違い

3 英語を習得するとはどういうことか

4 早期英語教育に関する誤った思い込み

5 結論 ─ 英語力よりことば力

9 ものづくりをもの語る────────────────────やまだようこ
1 もの語る力をはぐくもう

2 ものづくりをもの語る

3 もの語りで文化に根づき世界にひらく

10 「経験」「知恵」「技」「人間力」の世代継承を政策課題に────岡本祐子 
1 「世代継承性の危機」への認識と理解を深めよう

2 二十一世紀の「負の遺産」が心の発達にもたらしたもの

3 世代継承を担う基本的な「人間力」の育成
─ 高度情報化社会の弊害を補完する家庭・学校・社会教育の指針

11 超高齢社会の基盤を強くする教育アプローチ──────────積山 薫
はじめに

1 認知症を防ぐには

2 運動習慣を身につける

3 認知的活動および社会的絆の重要性

4 超高齢社会における男女差

5 幼少期からの認知予備力作り、十代からの知識普及、初老期からの連携

12 幸福感の向上を政策目標に────────────────────子安増生 
1 幸福の青い鳥はどこに

2 日本人の幸福感の阻害要因を取り除く

3 幸福感の世代差に対応したきめ細かな施策を

4 「教育の質」を高めることが幸福感の向上につながる

文献 
<7>

事項索引 
<2>

人名索引 
<1>

装幀=臼井新太郎

装画=ミヤザキコウヘイ


こころが育つ環境をつくる まえがき

発達心理学は、人が生まれ、育てられ育ち、生み育て、看取り看取られていく、その生涯のすべての過程に関わっています。したがって、発達心理学は、学術の高みにではなく、生活の視点に立つものでなければなりません。私たちが生活者として関心のある重要な問題について、発達心理学はどのように取り組んでいるか、研究の成果はどう役立つのかが、問われると言えるでしょう。
 本書は、こころが育つよりよい環境をつくるために、どのような取り組みが家庭、学校、社会、そして政策として求められるかについての、発達心理学からの提案です。多くの重要な問題を取り上げていますが、いずれも生活者としての目線に立ちつつ、思いつきではなく学術的証拠(エビデンス)に基礎を置き、絵空事ではなくどのように実現するかという具体性を伴うものを目指しました。そのために、提言に際して、各執筆者は次の点を意識しながら行いました。

・誰に向けての提言なのか(政策立案・実現に携わる政治家、省庁関係者、教育・司法・福祉・行政に携わる専門家を想定しつつ、広く国民全体に向けて)。
・なぜその提言をするのか。提言の根拠となるエビデンスは何か。
・提言を具体的にどう実行するのか。

 本書は、日本学術会議の心理学・教育学分野別委員会の下に設置された発達心理学分科会の一〇人の委員の議論から生まれたものです。その委員長(子安増生)と副委員長(仲真紀子)が本書の編集にあたっています。日本学術会議は、わが国の人文・社会科学、自然科学全分野の科学者の意見をまとめ、国内外に対して発信する日本の代表的学術機関であり、政府に対する政策提言を重要な活動の柱としています。発達心理学分科会では、各委員からの報告を受け、それを提言にまとめる段階で、単に日本学術会議に報告するだけでなく、広く国民に知っていただくべく、提言書を一般書籍として刊行することを目指すことにしました。その際、一〇人の委員では十分カバーできていない重要なテーマとして、保育の問題を日本
保育学会会長の秋田喜代美教授に、いじめ予防教育の問題をその専門家の戸田有一教授に依頼し、全体を一二章構成としました。また山口真美教授の担当章は、金沢創教授にも協力していただきました。
 本書の刊行にあたっては、新曜社の塩浦暲代表取締役社長に企画から編集のすべての段階で全面的にバックアップをしていただきました。心より厚く御礼申し上げます。

   二〇一四年一月一〇日

子安 増生 
仲 真紀子