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中村桂子 編/JT生命誌研究館発行

変わる
――生命誌年刊号 Vol・73ー76


A5判変型並製273頁

定価:本体1905円+税

発売日 14.1.15

ISBN 978-4-7885-1364-8




◆生きものである人間がつくる社会は変われるはず◆

科学は本来変わらないものを求め、普遍的な法則を探ります。生きものにもそれを求め、成果を生んできました。しかし生命は同一性を保ちながら、同時に成長し、姿を変えていきます。「変わらない」と「変わる」が入れ子になっているのが生命です。今号では、分野を越えた人々の対話と第一線の研究から、さまざまな現象に変と不変の微妙な組み合わせを見出し、「生きる」を考えます。建築を生きものと考える隈研吾氏、気鋭の脳科学者、池谷裕二氏の研究、発生に関わる分子の発見者、浅島誠氏の研究人生など、これまでの常識を問い直す知的刺激に満ちた内容をお楽しみ下さい。

変わる 目次

変わる あとがき

◆書評
2014年3月、日経サイエンス

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変わる 目次

はじめに

Talk 語り合いを通して
◆偶然を必然に変える場所 隈 研吾×中村桂子
◆芸術と科学の蜜月を再び 石原あえか×中村桂子
◆植物の知恵に学ぶ 長谷部光泰×中村桂子
◆細胞という知能を理解したいと 冨田 勝×中村桂子

Research 研究を通して
小さな世界のすがたが変わる
◆不規則な収納が生む自由 -DNA収納の基本を問い直す 前島一博
◆柔軟に変わる海馬の回路 -不足を補う、違いの分かる海馬 池谷裕二
◆形を生み出す相互作用 -植物の体を支える細胞壁 小田祥久
1つの分子が個体を変える
◆女王を育むロイヤラクチン -ローヤルゼリーの中の鍵物質 鎌倉昌樹
◆年を刻む冬眠物質 -低体温の世界 近藤宣昭
進化にひそむ変わるしくみ
◆多様な戦略の柔軟性から -安定と変化が混在する花 石井 博
◆化学合成生態系の進化を追う -深海底は生きものだらけ?  ロバート・ジェンキンズ
◆発現調節配列の変化を探る -多様性をつくる鍵はゲノムのどこにある?  越智陽城

Scientist library 人を通して
◆魚と歩んだ生殖生物学 長濱嘉孝
◆化学で生命現象をつなぎ、人をつなぐ  磯貝 彰
◆Anxiety(不安感)を楽しみに変え、免疫を紐解く  谷口維紹
◆変わらない熱情で、中胚葉へと変わる過程を見る  浅島 誠

あとがき
生命誌ジャーナル掲載号一覧


変わる はじめに

「変わる」。昨年が「遊ぶ」と少々変化球でしたので、今年は思い切って直球で行こうと「変わる」にしました。

 日常生活で接する生きものは、みごとな変化で存在感を示します。通勤路の桜並木がいっせいに花を開くと街の様子が変わり、通り過ぎる人々もいつもより晴れやかな顔になります。可愛かった男の子がいつの間にかたくましい青年になっていて驚くこともよくあります。これほどの変化でなくとも、人間も動物も植物も日々変わっていくところに面白さがあると言えるでしょう。

 ところで、科学は本来変わらないものを求め、普遍的な法則を探るものですから、生きものにもそれを求めました。難しい作業でしたが、細胞とその中にあるDNAの発見が、地球上のすべての生きものは基本的には同じはたらき方をしており、祖先を同じくしていると考えてよいことを明らかにしました。そこで科学は、モデル生物を用いて生命現象を支える普遍的メカニズムを研究してきたのです。楽しい作業です。

 しかしその中で、それだけでは生きものはわからないということが見えてきました。変わらないところがありながら変わるというところを知りたい。それには、さまざまな生きものを見つめていく必要がある。そこから生命誌が始まったのです。

 近年、多様な生きものを見よう、これまでの常識を問い直してみようという動きが盛んになってきたように思います。本書で紹介する研究では、ミツバチ、シマリスというなじみの生きもので社会性や冬眠などを調べた結果、思いがけないことが見えてきました。深海は生きものだらけと言われるとドキリとします。脳でも植物でも、科学が日常の問いに近いこと(実はこれが難しい)を問い始めている現状がわかります。

 そこには自然に学び、歴史に学ぶ気持があります。建築やゲーテ研究の話が、ピタリと私たちの気持に重なるのは、すべての分野で同じ動きが起きているということではないでしょうか。「変わらない」と「変わる」が入れ子になって新しいものを生み出していくのだと思います。