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私市保彦・今井美恵 著

「赤ずきん」のフォークロア
――誕生とイニシエーションをめぐる謎


四六判上製256頁

定価:本体3200円+税

発売日 12.12.20

978-4-7885-1362-4

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◆「赤ずきん」がますますおもしろくなる◆

「赤ずきん」のお話は、とても短いのに、「シンデレラ」と並んで人気があります。しかしこのお話には多くの謎があります。ペローとグリムでは結末が全く違います。一方は狼に食べられてそれっきり、他方は狼が腹をさかれて生き返る。女の子が狼と同衾したり、殺されたおばあさんの血を食べるところなど、童話とは思えない残酷な場面もあります。そもそも女の子の名前「赤ずきん」というのはペローの創案ですが、どこから来たのでしょうか。

本書は、それがフランス各地に伝わる「胞衣に包まれて生まれた子ども」伝承(「禍々しい」被りものに包まれて生まれた子どもだが超能力がある)に由来することを、レヴィ=ストロースの弟子ニコール・ベルモンの説に拠りながら明らかにします。さらに、この話を少女が大人の世界に生まれ変わる通過儀礼の物語とする著者の説と併せて、「赤ずきん」の謎をフォークロアの世界にさぐります。


「赤ずきん」のフォークロア 目次

「赤ずきん」のフォークロア あとがき

ためし読み

◆書評
2014年3月21日、週刊読書人、野上暁氏評
2014年4月26日、図書新聞、金山愛子氏評
2014年7月19日、図書新聞、野上暁氏評

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「赤ずきん」のフォークロア─目次
序 章 「赤ずきん」の謎

第一部 ペロー童話と伝承のはざま

 第一章 ペロー童話と「赤ずきん」伝承
 第二章 さまざまな「赤ずきん」解釈
 第三章 イニシエーションの習俗と「赤ずきん」

第二部 赤ずきんと胞衣

 第四章 赤ずきんちゃんは、なぜ〈赤ずきん〉を被っているのか
 第五章 神話の卵は割れて
 第六章 ニコル・ベルモン『誕生のシーニュ』を読む
 終 章 「赤ずきん」の謎は解けたか?

付録 「赤ずきん」の物語
ペロー童話の「赤ずきん」
グリム童話の「赤ずきん」
フランス各地の「赤ずきん」伝承
あとがき─「赤ずきん」論に新たな地平を
主な参考文献
索引

装幀─加藤光太郎





「赤ずきん」のフォークロア あとがき

―「赤ずきん」論に新たな地平を

 「赤ずきん」はペロー童話のなかでいちばん短いのに、「サンドリオン(シンデレラ)」と並んでいちばんよく知られている話である。しかも、「赤ずきん」にまつわる話題はつきない。例えば神話学や精神分析学の立場からの解釈でにぎわうと、かつてはロバート・ダーントン、近年はザイプスなどから厳しい批判が相次いだ。その後、フランスでは、フォークロアの分野での「赤ずきん」の背景の研究も進んでいる。日本でも、さまざまな形で「赤ずきん」が論じられている。わたし自身、何度か講演で「赤ずきん」を取り上げたことがあるが、そのたびに聴衆が大きく反応する手応えを感じてきた。短い物語なので、どうしてここまで読者の関心を集めるのか?

 そんなとき、〈胞衣につつまれて生まれた子ども〉と「赤ずきん」の物語をむすびつけて構造主義的な分析をこころみた今井美恵の論考を読む機会を得た。フランスの文化人類学者レヴィ=ストロースの弟子のニコル・ベルモンから示唆を受けたこの解釈は、「赤ずきん」論に新しい地平を開き、また「赤ずきん」の見方を一気に深めるものであった。むろん日本では知られていない論点である。

 一方わたしは、「赤ずきん」を少女が大人の世界に生まれ変わるイニシエーションの象徴につらぬかれている物語と解釈していて、それを講演などで紹介していたので、このふたつの光で「赤ずきん」を照射することができれば、日本での「赤ずきん」解釈に一石を投ずることができると思ったのが、この著書の誕生のきっかけになった。

 第一部では、ペロー童話の特徴を説明しながら、いかにペローの「赤ずきん」が伝承を書き換えていったかを詳述して、そもそも〈赤ずきん〉という被りものがペローの創作であるという民話研究からの推論を紹介した上で、フランスでの民俗学からのアプローチを取り入れながら、伝承とペロー童話のはざまに踏みこんだ。一方、第二部では、ペローが創作した〈赤ずきん〉という被りものを前提としているので、第一部とのずれを感じる人もいるかもしれないが、第一部の結末でのべたように、いまや、一般読者にとっては、「赤ずきん」の物語は〈赤ずきん〉という被りものなしには、成り立たない話になっている。そこで第二部では、それが胞衣にまつわる民間伝承と重ねられ、論が展開される。そして、第一部も第二部もイニシエーションという暗喩を物語が秘めていることを追求する結果となった。その意味で、第一部と第二部を通して、まとまった「赤ずきん」論が浮かびあがってくるはずである。

 なお第二部のさいごに、ニコル・ベルモンの『誕生のシーニュ』の主要部分の論旨を紹介する章をもうけた。同書は一般読者には近づきにく内容であるが、第二部の分析を導いた大事な著書なので、今井ができるだけ砕いて紹介するようつとめた。これによって、欧米の各地で胞衣がいかに被りものに転化し、あるいは吉兆として尊ばれ、あるいは禍々しいものとして忌避されてきたかが、分かるであろう。この研究と、「赤ずきん」と結びつける論旨がユニークなのだ。

 なお、第一部は私市、第二部は今井が執筆し、序章と終章は私市が担当した。
 最後に、こうした著書の刊行を引き受けてくださった新曜社と、とりわけ企画から完成まで様々な面で助言と編集の実務にあたってくださった渦岡謙一氏には心底から感謝を述べるものである。

私市保彦